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「論語と算盤」~渋沢栄一と持続可能な国家社会の実現~

財務副大臣 岡本 三成

財務副大臣に就任して4カ月が経ちました。職員の皆さんの献身的な仕事ぶりを間近で拝見し、国民の代表として、心から感謝の言葉を贈ります。
財務省は、最も重要な役割を担う省庁の一つと言われてきたかと思いますが、皆さんと共に働いて、その理由が自分なりにわかってきました。それは、職員一人ひとりが、勤勉であることに加えて、チームワークを重視して仕事に取り組んでいるからこそであると感じています。
私は、衆議院の議席をお預かりするまでの約20年間、米国の金融機関で働いていました。ウォール街で働いていたと聞いて抱くイメージは様々かもしれませんが、私が実際に経験したのは、「良い結果を得るためにはチームワークこそが大切である」というものでした。
今も忘れられないミーティングがあります。
ある若手社員が「私は、先週10億ドルの取引を成功させました」と報告をすると、その上司がこう言ったのです。「あなたは1人でそれを成功させたのですか? サポートしてくれた仲間はいなかったのですか? 我が社の仕事の報告に、〈I(私)〉という人称は適切ではありません。常に〈We(私たち)〉であるべきです。チームメンバーの名前と役割を報告しなさい」と。
チームワークを大事にすることが、組織として、バランスを取りながら正しい方向を目指し、継続的・持続的に成果を上げるために必要不可欠であるということは、古今東西を問いません。
岸田政権が目指す「新しい資本主義」は、「日本資本主義の父」として日本最古の銀行を創設した渋沢栄一の思想と相通ずるものがあると考えています。そして、新しい資本主義の目的は、全ての方が持続的に豊かになることだと理解しています。渋沢は、後進の企業経営者を育成するために「論語と算盤」という著書を残しました。「論語」は孔子による人生哲学、「算盤」は利益を追求する経済活動を意味しているわけですが、その両者のバランスが極めて重要だと説きました。「論語」か「算盤」という二者択一ではなく、「論語」と「算盤」という「と」の力が、持続可能な経済活動を進めるには重要なのです。
天保の時代に生を受け、その哲学と行動力で日本の資本主義を切り開いた渋沢は、令和の時代に発行される新たな一万円紙幣に描かれることとなりました。もし渋沢が生きていたら、きっとこう仰るでしょう。「私は、暗い所が嫌いだ!」と。日本の明るい未来に向け、経済の循環を力強いものにしていくことこそが、渋沢から我々に期待されているのではないでしょうか。
時代を創った渋沢が持っていた力の中でも、最も有効だったのは、「未来を信じる力」であったと考えています。私もある意味、楽観主義者となって、「日本の、そして日本人の未来を信じる力」をさらに磨いていきたいと考えています。
そのためにも、渋沢と同様、私自身も常に学び続けていく決意です。70歳を過ぎても毎朝の面会に努めていた渋沢はこう説いています。「凡(すべ)て人は老年と青年となく、勉強の心を失つて終(しま)へば、其人(そのひと)は到底進(しん)歩(ぽ)發(はっ)達(たつ)するものではない、同時に夫(それ)等(ら)の不勉強なる國(こく)民(みん)によつて営(いとな)まるゝ國(こく)家(か)は、到底繁榮發(はんえいはっ)達(たつ)するものではない」
こうした渋沢の国家観も改めて振り返りながら、国家の基盤を支える財務省・税関・財務局・国税庁の職員総勢7万人からなるチームの一員たる財務副大臣として、責任ある立場から実践し、ともに日本を前に進めてまいります。