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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 4

フィナンシャル・レビュー「国の債務と債務管理に関する分析」の見所責任編集者 小枝淳子准教授に聞く

財務総合政策研究所総務研究部財政経済計量分析室研究官 内藤 勇耶

財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)では、年4回程度、「フィナンシャル・レビュー」(以下、「FR」)という学術論文誌を編集・発行しています。今月のPRI Open Campusでは、昨年の6月に刊行された、国の債務と債務管理をテーマとしたFRについて、責任編集者を務めていただいた小枝淳子早稲田大学准教授(前財務総研総括主任研究官)にインタビューを行い、どのような問題意識に基づく特集なのか、それぞれの論文についてどのような学術的貢献があるのかなどを、「ファイナンス」の読者の皆様に、わかりやすく紹介していきます。

[プロフィール]
小枝 淳子 早稲田大学准教授(写真左)
マクロ経済学・金融を専門としております。東大経済学部を卒業後、UCLAにて経済学博士号取得しました。その後、IMFのエコノミスト、大学教員(東大、早大)、昨年3月まで2年間財務総研の総括主任研究官を務めた後、現職に就いています。

[聞き手]
内藤 勇耶 財務総合政策研究所研究官(写真右)
平成29(2017)年に財務省に入省し、「国の産業投資の在り方」の策定を担当したのち、高松国税局管内で勤務しました。令和2(2020)年7月から財務総研で、研究官として「パネルデータと地図からアプローチする第二子出生にかかる要因分析と提言」を執筆するなどの活動を行っています。

1.はじめに
内藤:平成31(2019)年4月から令和3(2021)年3月までの2年間、小枝先生は総括主任研究官として財務総研に勤務されていらっしゃいました。本日は、その間に責任編集者として刊行された、国の債務と債務管理をテーマとしたFRについてお話を伺いたいと思います。
まず初めに、今回の特集号を企画された際に小枝先生がお持ちだった問題意識をお聞かせください。

小枝淳子准教授(以下、小枝):私の問題意識はFRの序文に記載したものそのものです。我が国の債務水準は、平成以降慢性的な財政赤字が続いた結果、純債務(ネット)*1でみても総債務(グロス)でみても非常に大きく、他国と比較しても外れ値(outlier)となっています。日本のこのような状況については、長く続く中で取り立てて議論をされる機会が少なくなってきていますが、これは、次世代のことを考えても放っておくことのできない大事な問題だと考えています。リーマンショックや自然災害、さらには現下のコロナショックなど、危機対応の重要性が近年増している中で、対応に必要な資金調達は、国債増発に頼らざるを得ない状況にある一方で、低金利・低インフレ環境が続いていることもあって、債務を増加し放題になっているのが現状です。日本国債は日本人が持っているから大丈夫なのだと巷では言われていますが、例えば直近の国庫短期証券の保有者の半分は海外であるように、近年日本国債の海外保有者割合は増加傾向にありますので、投資家の動向は無視できません。令和に入り、国の債務や債務管理に関する現在と将来の課題を明らかにするのは急務だと考えて、本特集号に取り掛かるに至ったという次第です。

内藤:今回の特集号で特に意識された観点はどのようなものですか?

小枝:フィナンシャル・レビューというのは、学術誌ですので、日ごろ政策当局者や政治家の方が必ずしも取り上げているわけではないような切り口から議論を行うことを心掛けるようにしました。
また、経済学の世界では英語で論文を投稿するのが一般的なため、日本語で最先端の議論を正確に把握するのがとても難しくなっています。日本で紹介されている議論の中には、様々なものを都合よくかいつまんでいった結果、「えっ!?」と驚くほど理論的な整合性を欠いたものがあります。そのような中で、フィナンシャル・レビューというのは、日本語で出される学術誌です。私は、そのような場はとても大事だと思っており、そこで、日本語でもしっかりと国際的に通用力のある議論を紹介しないといけないなという意識をもっていました。

2.日ごろ目にしない切り口とは

内藤:先ほど小枝先生のお話の中で「日ごろ政策当局者や政治家の方が必ずしも取り上げているわけではないような切り口」という言葉がありましたが、具体的にはどのような切り口から今回は取り上げられたのでしょうか。

小枝:例えば、債務の持続性について、持続可能か否かという点にとどまらず、その規模を議論するという文脈がその一つです。政策当局者や政治家の方は、国の債務水準というときに、その債務を持続させることができるかという切り口で議論をすることが多いと思います。しかしながら、債務の水準というのは、国の規模に照らして最適な(optimal)水準かどうかという切り口での議論も存在します。つまり、持続可能かもしれないけれども、国債が積み上がり過ぎてしまっているという状態かどうかを議論するということが考えられるわけです。
今回は、どのような理論枠組みの下で、最適なレベルというものを整合的に考えることができるのかを紹介するとともに、どういう要因によってこの最適な水準が変動するのかといったことを議論してもらいたいと考えて、髙橋修平先生*2や猪野明生先生・小林慶一郎先生*3にそのようなテーマを取り扱っていただきました。
髙橋論文では、最適な債務水準は、貯蓄インセンティブがどの程度あるかによって変わるのだと述べられていることが特徴的で、例えば、将来に向けた不確実性が大きく、人々が不安を抱いているという経済では貯蓄インセンティブが大きいので、それだけ国債の需要が大きくなるという話です。また、猪野・小林論文では、将来世代を考慮するかどうかにより結論が変わるかどうかを取り上げています。

3.エビデンスに基づいた議論

内藤:日ごろ目にしない切り口という話とは異なりますが、昨今EBPM(Evidence-based policy making:証拠に基づく政策立案)が叫ばれている中にあって、エビデンスに基づく議論を心がけているようにも感じました。阿曽沼・ジュ・笹原論文*4は、様々な国の対外債務の再編成について、その手法や戦略によってどのような違いが生じるのかを、実際のケースに基づいて分析するということで、EBPMの発想に基づく研究に該当するかと思いますが、その論文についてご説明いただけますか。

小枝:例えば、日本はIMFのような国際機関を通じて、債務救済やコンセッショナルローン*5などで途上国を支援してきたわけです。日本の国際的貢献度は極めて高いのですが、そのことはあまり知られていないかもしれません。実際に、途上国、特に低所得国が直面する債務脆弱性への対応として債務救済や再編成等が必要とされる場合には、日本は主体的に議論に関わる立場にあります。その際には、日本が世界をリードしていくことを目指して、エビデンスに基づいて、質の高い議論をすることが大事だと思います。そのような観点から、債務再編成の実証分析に詳しい国際通貨基金エコノミストである阿曽沼多聞先生他に執筆いただきました。
同論文では、IMFのスタッフが一般的に主張するように、債務不履行(default)に陥る前に債務再編成をしたほうが良いという結論が示されているのですが、私が面白いなと思うのは、この論文のエビデンスの提示の仕方で、様々なエビデンスを根拠に理論を補強していくというスタイルがとても参考になるし面白いなと思いました。

4.日本語での学術的新規性追求の難しさ

内藤:先ほど小枝先生は、経済学では英語で論文を投稿するのが一般的なため、日本語で最先端の議論を正確に把握するのがとても難しいとおっしゃっていましたが、今回の論文の中で議論されている、注目すべき最先端の内容の一端をご紹介いただけますか。

小枝:経済学者というのは、新しいものはみな英語で投稿したがるので、日本語で最新のものを投稿してくださる方は通常は探すのが大変なんです。にもかかわらず、関根篤史先生*6は快く引き受けてくださいました。
ここからはかなりテクニカルな説明になってしまって恐縮ですが、Nelson-Siegelモデルという、国債金利の期間構造をいくつかのパラメータで記述するための理論モデルがあります。例えば、藤井眞理子先生と高岡慎先生が、かつてそれを日本の金利データに当てはめるために、「状態空間モデル」という推計モデルを用いてパラメータの推計を行われました*7。このモデルは、よく使われるモデルなのですが、「減衰ファクター」と呼ばれるパラメータを固定して考えることとされており、長短金利がほぼゼロとなる環境の下では、当てはまりが悪くなる恐れがあります。今回の論文では、減衰ファクターを固定せずに毎期推計するという方法が採用されています。これにより、イールドカーブをより高い精度で推計しています。このような取り組みを続けていくことは、金利動向への理解を深めるうえでも有意義なことです。

5.国債流通市場の分析

内藤:今回は、国債の流通市場にまつわる分析が多く掲載されている印象があります。先ほどの関根論文もそうでしたが、宇野・戸辺論文*8と小枝論文*9も市場分析だと思います。この2つについて教えてください。

小枝:まず、国債の流通市場をなぜ取り上げたかですが、日本の国債の毎年の借換えの規模は100兆円を超える状態が続いています。そのため、毎年の借換えを安定的に行う観点から、流通市場の動きを分析することは重要だと考えています。そこで、今回の特集では流通市場に関する分析を含めました。
具体的には、先ほど紹介した関根論文が扱ったイールドカーブ分析のほかに、宇野淳先生と戸辺玲子先生が扱った流動性についての論文と、私が扱った国債の満期構成についての論文があります。
宇野・戸辺論文では、国債市場のマイクロストラクチャー*10について、例えば市場の流動性をどのように計測するか等、最近の研究の潮流について紹介していただきました。その中では、欧州のケースについて、国債についての信用リスクが高まることによって流動性が枯渇する、つまり、国債の増加によって債務の持続可能性に懸念が生じることの結果として、金融市場が機能しなくなるという事態が生じたことを示した点が、とても興味深いところだと思います。日本においても、そういったことが生じるリスクを考える必要があると思います。

内藤:小枝先生は、理財局の主催する「国の債務管理の在り方に関する懇談会」*11のメンバーを務めておられたこともありました。今回、小枝先生は、債務管理政策の重要な要素である、国債の満期構成について執筆されています。

小枝:ご承知のとおり、国債管理政策では、予算編成によってこれだけの財政赤字になりそうだというのが分かると、では、どの(満期)年限の国債をどのぐらい発行するかというのを12月に予算と一緒に細かく公表します。この年限の構成比を決めていくのが国債管理政策の重要な要素です。
これまで、国債の年限構成を細かく考えることには、経済学的な観点からは意味がないのではないかという、実務家の目からすると的外れな議論が、アカデミックの世界では蔓延していました。一方で、実務家の方にとっては、需給関係はとても大事だから、満期年限の構成が重要であるのは当然だとされていました。
この問題について、真正面から答えるモデルを構築した論文*12が海外の研究者によって書かれ、昨年、経済学のトップジャーナルに掲載されました。それによって、国債の年限構成が金利に影響を与えるという、これまで実務家が言ってきたことが、整合的なモデルとして示されました。私としては、そのモデルに大きな納得感があり、今回の私の論文では、このモデルを活用して、日本の国債の金利について、銘柄ベースの情報を丁寧に積み上げたデータベースを使用して、金利の期間構造(短期から長期までのそれぞれの金利の水準)について推計を行ったのが新しいところです。
国債の年限構成は、政治的な関心をひくテーマではないでしょうけれども、大事な話だと考えています。これまで、財務省の皆さん、特に理財局の方が汗をかくことによって、財政赤字に対して、では何年のものをどれだけ発行するかということを実務のレベルで精緻に決められてきたわけです。これまで、経済学では、年限なんてものは重要ではないと無視してきたわけですが、この考えが変わりましたというのが一番言いたかったことです。年限構成次第で、かなり金利も変わってくるということも考えられるわけですから、今後も注目していく必要があると考えています。

内藤:小枝先生が執筆された部分というのは、まさに実務とモデルというか理論がうまくつなぎ合うようになったという好事例なわけですね。

小枝:そうだと思います。非常に実務的な視点を踏まえたモデルですが、よくできている。だからアカデミックの世界でも、とてもいいモデルだという評価で見られています。
満期構成を踏まえて、日本政府と日銀が積極的に国債を管理してきたことで、これだけ長期金利が安定的に推移していると私は思います。しかし、今回、コロナショックに対応するための財政支出拡大を受けて、大量に短期債が増えました。年限構成に影響を与える大きな変化が生じれば、今の低金利環境がいつまでも続くということではないという感じを持っています。国債管理政策プラス金融政策によって、これだけ金利を下げるのだという強い意志の下で管理してきた中で、現在のような満期構成が結果として形成されているということですね。満期構成を工夫することで、長期金利が急激に上がらないようにしているように見えますから、かなりギリギリのバランスの下で、今の金利の期間構造ができあがっているように見えます。今後、これ以上に金利がマイナスになっていくようなショックは考えにくいと思いますので、プラスになってしまうショックが生じるときにどのようなことが起こるのか、危機感を持って見ています。

6.分野横断的な研究と課題

内藤:今回の特集号ですが、私が読んでいて思った特徴として、財政にとどまらず、金融、ファイナンスや法学といった様々な分野の方々が、分野横断的な視点から論文を書かれていると思いました。これは小枝先生が意図的に意識されたことなのでしょうか。

小枝:そうですね。特に藤谷武史先生*13が書かれた論文は特筆すべきだと思います。藤谷先生は、国の債務管理政策というのはマクロ経済・財政政策の下で与えられた国の債務ストックを前提条件としたうえで、その構成を戦略的に決定し、それを実行に移す(そのための様々な環境整備を行う)政策領域だととらえられており、国の債務管理政策を下支えする法制度の設計を巡る論点について検討をしていただきました。私自身は、法律は素人なのですが、藤谷先生に引き受けていただき、国の債務管理政策について、どういうことが法的な意味では論点になっているのかを書いていただいて、私も勉強になりました。
今回、藤谷先生以外は経済学者が執筆を担当したわけですが、経済学者の中でも、研究分野の細分化が進んでいる印象を受けています。例えば日本の債務がこんなに膨れ上がって大丈夫か、という議論はアカデミックな世界で頑張っている人たちがもっとするべきです。分野の細分化が昔よりも進んでいるからこそ、学者同士で学際的に議論をする機会がなければならないなという危機感がありました。分野の橋渡し役ができるFRのような場はとても大事なものだと思います。

内藤:例えば、小枝先生の研究分野である国債の金利に関して、研究者の間で議論が行われるようなプラットフォームはないのですか?

小枝:お互いの学術研究を報告しあうセミナーは活発ですが、学術書としてまとめ、しかも日本語で、となるとなかなかありません。やはり、日本語でも、最先端の議論も無視しないで様々な議論を紹介しつつ、かつ、政策面の内容も含めて議論をする場というのは、なかなか難しいので、財務総研のFRというのは、貴重な存在であり、今後も続けるべきだと私は思います。

7.さいごに

内藤:今回の特集号を通じて明らかになった今後取り組むべき課題はありますでしょうか。

小枝:私は、今後も、国債の金利の問題に、幅広い観点から多くの研究者が取り組むことの重要性が明らかになったと思っています。
今まで財政の人は財政に特化して、金融の人は金融に特化してというような状況があり、さらに、用いられている理論モデルや実証のためのモデルも異なっているといったこともあって、財政政策と金融政策は独立して論じられてきたことが多かったと思います。しかし、近年はそういった議論だけでは足りない状況になってきたと思います。
特にコロナによるショックが重要なきっかけになっていると思いますが、日本だけではなく先進国で財政支出が大幅に増えていて、それが国債の発行によって賄われているわけです。この債務の増加については世界的にも様々な議論が起こっています。
マクロ政策というと、中長期的な観点からの構造政策も重要ですが、やはり財政金融政策が大きな柱です。これまでは、それぞれの政策のインタラクションをあまり気にしなくてよかったのですが、国債の発行と市場の金利は密接に結びついているものですので、最近は相互作用を気にしないといけなくなっています。
例えば、国債管理政策を考えるときにも、低金利下では変動利付債を出しにくいといった様々な制約が発生してくるため、プロダクト(金融商品)の多様化という意味では、非常に難しい局面に立たされます。
また、財政が健全化しないで、国債の発行量も発行残高も非常に大きいという状況の下では、金利が上がると財政赤字がさらに拡大し、貨幣量や国債発行額がさらに増加するという悪循環が生じる世界になってしまうわけです。そうすると、いざ大きな物価上昇や、変動相場制の下での行き過ぎた通貨安という状況が生じた際に、機動的に金融政策をとることが制約されるという可能性があるので、私はとても心配しています。
実際に、大きなインフレが生じたときにどうするか。税を上げればいいじゃないかということを指摘する人もいるわけですが、そうしたことは機動的にできないわけです。だからこそ金融政策という機動的なツールで対処をすることができるようにしておく必要があるわけですが、そういう機動的な政策ツールが制約された状態になると、これは次世代にとって選択肢の幅を狭めることになります。将来、金利を上げなければならない状況というのは、いろいろと考えられますけれど、国債の残高が非常に大きい状況の下では、簡単には上げられないことも起こりえます。長期的に持続可能な財政運営が保てないと、金融政策による機動的な対応が難しいという制約が生じる可能性があり、将来世代に迷惑がかかるということを無視してはならないと思っています。

内藤:フィナンシャル・レビューの特集をまとめたご経験から、何か伝えたいこと等があれば教えてください。

小枝:やはり、せっかくまとめられたものですので、より多くの人に読んでいただきたいと思いますが、アウトリーチには苦労しています。
今回の特集号は、例えば政治的な意思決定に影響を与えるような方々に直接読んでもらうことは難しいだろうと思います。特集号でとりあげたテーマや議論について、より幅広く知ってもらうことが重要だと思っています。たとえば、MMT(Modern Monetary Theory)のように、インフレーションが生じるまでは国債発行額を増やしても大丈夫だといった議論が、日本では大きな話題になりましたが、極端な議論がされているという印象を受けています。今回のFRでは、政府の債務残高や、国債の流通市場における金利の決まり方についての議論をとりあげるなど、地道な努力はしているのですが、なかなかアウトリーチは難しいと感じているところです。引き続き、財務総研には、様々な議論の場を提供していただけることを期待したいと思っています。

コラム フィナンシャル・レビューとは
フィナンシャル・レビューは、財政・経済の諸問題について、第一線の研究者、専門家の参加の下に、分析・研究した論文をとりまとめたものです。昭和61(1986)年から刊行を続けています。

コラム 小枝准教授の今後の研究の関心
やはり、こんなに債務があって日本は大丈夫なのだろうかということが心配です。将来世代の立場も考慮した長期的な我が国の債務持続可能性について関心があります。2年間、財務総研で勤めたわけですが、職場のパソコンを開くと「希望ある社会を次世代に引き継ぐ」とポップアップが出てくるわけです。これに感化されたのかもしれませんが、やはり政治に声が届かない将来世代のことは誰かが頑張って意識して議論していかなければならないと思います。
財政の持続性は、金融政策を機動的に行う前提条件にもなります。財政赤字によって発行された国債を日銀が購入しなければ金利が安定しないことが常態化すると、いわゆる財政赤字によって貨幣量が決まる状態(debt monetization)になってしまい、長期的な視野で見ると様々な経済的代償が生じることが懸念されます。また、短期国債の発行割合が増えている点にも注意を払っています。例えば、海外ではインフレ懸念が強まっていますが、アメリカの利上げは各国経済へ波及するので、為替や株価等の変動を通じた日本経済へのマクロ的な影響についても関心があります。こういった将来の様々なリスクを考えれば、日本でも機動的に金利を引き上げるという対応が必要になる可能性は排除できないと思いますので、そういった対応が制約されないように、政策面でとり得る様々な選択肢を、将来に残しておくことは、現役世代の責務だと思います。

コラム 2年間勤務する中で見えた
財務省・財務総研、財務総研に期待することとは?
当たり前なのかもしれませんが、財務省は「調整」をする組織だというのがとても新鮮でした。そのためには、独自の分析を積極的に提示するというより、実務の最前線でのいろいろな考えや見方を把握し理解することがとても重視されていると感じました。一方、大学では、アカデミックの世界というのは最先端で常に動いていますので、今までの学術研究の成果を理解したうえで独自の研究を提示することに重きが置かれます。この違いは大事なことだと思いますし、そのような違いを踏まえて、アカデミアである私にどういう働きができるのかを考えました。その中で必要な役割というのは、これは財務総研が組織として引き続き活躍してほしいところでもありますが、実務家と学術研究者の世界を歩み寄らせるということだと思いました。
財務総研の役割の一つとして、世の中の議論に対して、整合性のある学術的観点をわかりやすく提供することがあると思いますし、その一つの方法として今回のFRの企画はその一例だと思います。また、財政経済理論研修のように、経済学についての理論と実証についての研修を実施することも、学術研究者が行う研究とはどのようなものなのかということを知る方法として良いものだと感じています。本来的には、若い人だけではなく、より年次の高い方にも受けてもらいたいものです。
アカデミックの方は、日ごろ、自分の研究で精一杯になってしまっています。しかし、自分の研究の話であれば喜んで話されるので、ぜひどんな人がどんな研究を行っているのか、レーダーを張っていただいて、話をする機会を確保してもらいたいと思います。