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コラム 海外経済の潮流 138

米国の雇用関連指標について

大臣官房総合政策課 海外経済調査係 野上 優

米国の中央銀行であるFRB*1(連邦準備制度理事会、通称Fed)は、そのデュアル・マンデート(2大責務)として「雇用の最大化」と「物価の安定」を掲げている。
そのうち「雇用の最大化」についてはFedから明確な定義は示されておらず、金融政策の先行きを占う上で議論の対象となることが多い。
そこで本稿では米国の雇用関連指標について解説しつつ、その足元の動向やFedの金融政策との関わりについて考察することとしたい。

1.米国の雇用関連指標の概説
ここでは米国の雇用に関連する指標のうち、主なものについて解説する。

(1) 雇用統計
BLS*2(労働省労働統計局)が月次で公表している雇用統計(以下「BLS雇用統計」)は、マーケットの関心も高く、世界で最も注目される経済指標の1つである。
その中身を大別すると、NFP(Nonfarm Payrolls:非農業部門雇用者数)を算出する事業所調査と、失業率を算出する家計調査とに分かれる。

図表.【図表1】雇用者数

NFP増減数は足元2021年11月に前月比で21.0万人増加したが、その総数ではコロナ禍前2020年2月の15,252万人に比べ未だ390万人ビハインドしており、約4分の1が戻ってないという状況である。
また失業率については一般的なU-3失業率(2021年11月:4.2%)に加え、就労意思がありながら働いていない人、経済的理由によるパートタイム労働者を含むU-6失業率(2021年11月:7.8%)があり、Fedはこちらも重視しているとみられる。

図表.【図表2】失業率

また労働参加率*3は、コロナ禍前の63%台から落ち込み、足元61.8%で推移している。

図表.【図表3】労働参加率

なお、後述するADP雇用統計とBLS雇用統計とは別個のものであり、その区別に留意が必要である。

(2)ADP雇用統計
ADP雇用統計は、米国の民間調査会社であるADP(Automatic Data Processing)社が、民間部門の雇用者数の変化を推計したものである。
前述したBLS雇用統計の公表前のタイミングで公表されることから市場の注目を集めがちであるが、集計方法が異なり両者は異なる指標である。

(3)新規失業保険申請件数・失業保険継続受給者数
ETA*4(労働省雇用訓練局)が週次で公表している指標であり、先週分の新規の失業保険の申請件数や先々週時点での継続して受給した人の数を公表している。

図表.【図表4】新規失業保険申請件数・継続受給者数

コロナ禍により異例の件数を記録したが、足元では減少傾向にある。
また毎月12日を含む週の当該申請件数はBLS雇用統計の算出の対象期間となるため、注目度は高い。

(4)JOLTS
BLS雇用統計が労働者側から見た統計であるのに対し、採用側から見た指標がJOLTS*5である。
求人数のほか、求人率、採用数、採用率、離職者数、離職率も公表している。
求人数はコロナ禍からの米国経済の持ち直しを受けて上昇し、2021年7月には統計開始以来の最多件数を記録した。

図表.【図表5】求人数

(5)アトランタ連銀WGT
(Wage Growth Tracker)
Fedに属する12地区連銀のうちの1つであるアトランタ連銀が月次で公表している、前年比での賃金の上昇率に関する指標である。

図表.【図表6】賃金上昇率
前述したBLS雇用統計でも賃金の上昇率は公表されているが、アトランタ連銀WGTの方が労働者の構成の変化の影響を受けず、Fedも重視しているとみられる。

2.Fedの金融政策における雇用の認識
ここまで米国の主な雇用関連指標について解説してきたが、次にFedの足元の雇用についての認識について考察することとしたい。
Fedが2021年12月14日から15日にかけて開催した米国の金融政策を決定する会合であるFOMC*6(連邦公開市場委員会)において、足元の雇用の増加が堅調に推移し、失業率も顕著に低下するなど、労働市場が改善したとの認識を示した。
またコロナ禍を背景に2020年6月より行っている資産買入*7について、それまで毎月150億ドル*8ずつのペースで縮小していたが、このペースを2022年1月に倍速し、同年3月に買入を終了させる方向性を示した。
さらに、事実上のゼロ金利政策解除のフォワードガイダンスのうち、足元の高インフレを踏まえ物価の条件を省き、雇用の最大化のみに絞る旨の修正を行った。
パウエルFRB議長は記者会見で、雇用の最大化は幅広い範囲の指標をみるものとした上で、失業率、労働参加率、JOLTS(求人数や離職率)、賃金等を列挙している。また労働参加率がコロナ禍前の水準に戻るにはより長い時間がかかるとの認識を示し、オミクロン株などの変異株は先行きのリスク要因であるとの見解を示している。

3.終わりに
これまで米国の雇用関連指標について解説しつつ、その足元の動向やFedの金融政策との関わりについて考察を加えてきた。
全世界のGDPの約4分の1を占め、世界一の経済大国である米国の雇用環境や金融政策が日本経済のみならず世界経済に与える影響は大きいものがある。
今後とも緊張感をもって注視してまいりたい。
(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。
(出典・参考文献等)*9

*1)Federal Reserve Boardの略。
*2)Bureau of Labor Statisticsの略。
*3)(労働力人口:就業者人口と失業者人口の合計)÷(16歳以上人口)×100(%)で算出される。
*4)Employment and Training Administrationの略。
*5)Job Openings and Labor Turnover Surveyの略。
*6)Federal Open Market Committeeの略。
*7)毎月米国債を800億ドル、エージェンシーMBSを400億ドルずつ増額させることを内容とするものであった。
*8)米国債を100億ドル、エージェンシーMBSを50億ドルずつ縮小するもの。
*9)(出典・参考文献等) Fed、アトランタ連銀、米国労働省、各種報道、レポート等