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令和4年度政府経済見通しについて

内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(経済見通し担当)付 瀧口 暉己

2022年1月17日に「令和4年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(以下「政府経済見通し」という。)が閣議決定された。政府経済見通しは、翌年度の経済財政運営に当たって政府がどのような基本的態度をとるのか、及び、それを踏まえて経済はどのような姿になるのかを示した政府文書であり、内閣府が作成の上、財務省の税収見積もり、延いては予算の前提として用いられたのち、予算の国会提出と同時期に閣議決定されることで最終的に政府見解となる。
今回の政府経済見通しでは、2021年度(令和3年度)のGDP成長率は、実質で2.6%程度、名目で1.7%程度となり、GDPは年度中にコロナ前の水準を回復することが見込まれる。
2022年度(令和4年度)は、経済対策を迅速かつ着実に実施すること等により、GDP成長率は実質で3.2%程度、名目で3.6%程度となり、GDPは過去最高となることが見込まれる。公的支出による経済下支えの下、消費の回復や堅調な設備投資に牽引される形で、民需主導の自律的な成長と「成長と分配の好循環」の実現に向けて着実に前進する見込み。
本稿では、令和4年度政府経済見通しの具体的な内容について紹介する。GDPの内訳項目等の詳細な見通しについては、文末の表を参照されたい。

1.政府経済見通しの位置づけ
政府経済見通しは、政府による公式な経済予測であるのみでなく、今後政策的に実現を目指していく経済の姿を示しているということができる。これは、政府経済見通しが、足もとの経済情勢を適切に踏まえて翌年度の経済を予測するのはもちろんのこと、我が国政府が経済財政運営の基本的態度に基づき実行する各種の施策による効果を織込んでいるためである。すなわち、政府経済見通しは、(1)翌年度の経済財政運営に当たって、政府がどのような基本的な態度をとるのか、(2)そのような基本的態度に基づいて経済財政運営を行うことによって、経済はどのような姿になるのか、という2点について、政府の公式見解を閣議決定により表明する。

2.2021年度の日本経済(実績見込み)
本年の政府経済見通しによれば、我が国経済は、長引く新型コロナウイルス感染症の影響の下にあるが、2021年9月末の緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の解除以降は、厳しい状況は徐々に緩和されており、このところ持ち直しの動きがみられる。
ただし、2021年度中のリスク要因として、オミクロン株を含めた新型コロナウイルス感染症による内外経済への影響、供給面での制約や原材料価格の動向による下振れリスクに十分注意するとともに、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要があるといったことが挙げられている。
こうした中、政府経済見通しの認識によれば、政府は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止、「ウィズコロナ」下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え、未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動、防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保を柱とする「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(以下「経済対策」という。)を策定し、令和3年度補正予算を編成した。
さらに、新型コロナウイルス感染症に対しては、最近の感染拡大を含め、最悪の事態を想定した上で各種の対応に万全を期すとともに、「経済対策」を迅速かつ着実に実行することを通じて、足元の経済の下支えを図り、景気下振れリスクに対応し、感染拡大に際しても国民の暮らし、雇用や事業を守り抜き、経済の底割れを防ぐ、と述べられている。また、「新しい資本主義」を起動し、「成長と分配の好循環」を実現して、経済を自律的な成長軌道に乗せるとの方針が掲げられている。
こうした下で、2021年度の実質国内総生産(実質GDP)成長率は2.6%程度、名目国内総生産(名目GDP)成長率は1.7%程度となり、GDPは2021度中に感染拡大前の水準を回復することが見込まれている。また、消費者物価(総合)変化率は▲0.1%程度と見込まれている。

3.2022年度の経済財政運営の基本的態度
続いて、政府経済見通しは、翌年の経済財政政策の基本的な態度を次のように掲げる。
すなわち、経済財政運営に当たっては、ウィズコロナの下で、社会経済活動の再開・継続を図りつつ、安全・安心を確保していくとともに、「経済対策」を迅速かつ着実に実施し、公的支出による下支えを図りつつ、消費や設備投資といった民需の回復を後押しし、経済を民需主導の持続的な成長軌道に乗せていく。
最大の目標であるデフレからの脱却を成し遂げる。危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期する。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。
経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組んでいく。
その上で、岸田内閣が目指すのは、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとする新しい資本主義の実現である。
成長を目指すことは極めて重要であり、その実現に全力で取り組む。しかし、分配なくして次の成長なし。成長の果実をしっかりと分配することで、初めて次の成長が実現する。
具体的には、「科学技術立国の実現」、地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」を3つの柱とした大胆な投資とともに、デジタル臨時行政調査会における規制・制度改革等を通じ、ポストコロナ社会を見据えた成長戦略を国主導で推進し、経済成長を図る。また、賃上げの促進等による働く人への分配機能の強化、看護・介護・保育等に係る公的価格の在り方の抜本的な見直し、少子化対策等を含む全ての世代が支え合う持続可能な全世代型社会保障制度の構築を柱とした分配戦略を推進する。
加えて、東日本大震災からの復興・創生、高付加価値化と輸出力強化を含む農林水産業の振興、老朽化対策を含む防災・減災、国土強靱化や交通、物流インフラの整備等の推進、観光や文化・芸術への支援など、地方活性化に向けた基盤づくりに積極的に投資する。年代・目的に応じた、デジタル時代にふさわしい効果的な人材育成、質の高い教育の実現を図る。2050年カーボンニュートラルを目指し、グリーン社会の実現に取り組む。
これまでにない速度で厳しさを増す国際情勢の中で、国民を守り抜き、地球規模の課題解決に向けて国際社会を主導するため、外交力や防衛力を強化する等、安全保障の強化に取り組む。
これまでの政府・与党の決定を踏まえた取組を着実に進めるとともに、財政の単年度主義の弊害を是正し、科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家課題に計画的に取り組む。
日本銀行には、感染症の経済への影響を注視し、適切な金融政策運営を行い、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を実現することを期待する。
4.2022年度の日本経済(見通し)
最後に、以上のような政策態度を掲げたのちに見込まれる2022年度の日本経済の姿が描かれる。すなわち、2022年度については、「経済財政運営の基本的態度」に基づき、「経済対策」を迅速かつ着実に実施すること等により、実質GDP成長率は3.2%程度、名目GDP成長率は3.6%程度と見込まれる。GDPは過去最高となることが見込まれ、公的支出による経済下支えの下、消費の回復や堅調な設備投資に牽引される形で、民需主導の自律的な成長と「成長と分配の好循環」の実現に向けて着実に前進していく。また、消費者物価(総合)変化率は、0.9%程度と見込まれる。
ただし、引き続き、感染症による内外経済への影響、供給面での制約や原材料価格の動向による下振れリスクに十分注意するとともに、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある。
具体的な項目別の計数は以下の通りである。
(1)各項目の見通し
(ア)実質国内総生産(実質GDP)
(i)民間最終消費支出
感染拡大防止と社会経済活動の両立が図られる中で、社会経済活動が正常化に向かい、また、雇用・所得環境の改善が進むことにより、増加する(対前年度比4.0%程度の増)。
(ii)民間住宅投資
緩和的な金融環境の下、おおむね横ばいで推移する(対前年度比0.9%程度の増)。
(iii)民間企業設備投資
「経済対策」の効果もあって、デジタル化・グリーン化の促進等に伴い、増加する(対前年度比5.1%程度の増)。
(iv)政府支出
過去の経済対策等の実施が進んだ一方で、「経済対策」に伴う政府支出や、社会保障関係費の増加等により、おおむね横ばいとなる(対前年度比0.1%程度の増)。
(v)外需(財貨・サービスの純輸出)
海外経済の回復に伴い、増加する(実質GDP成長率に対する外需の寄与度0.2%程度)。
(イ)実質国民総所得(実質GNI)
実質GDP成長率と同程度の伸びとなる(対前年度比3.1%程度の増)。
(ウ)労働・雇用
社会経済活動が正常化に向かう中で、雇用者数は増加し(対前年度比0.4%程度の増)、完全失業率は低下する(2.4%程度)。
(エ)鉱工業生産
内外経済の回復に伴い、増加する(対前年度比5.0%程度の増)。
(オ)物価
消費者物価(総合)は、経済の回復や前年度における携帯電話通信料の影響が剥落する下で、上昇する(対前年度比0.9%程度の上昇)。こうした中でGDPデフレーターは上昇する(対前年度比0.4%程度の上昇)。
(カ)国際収支
所得収支の黒字が続く中、経常収支の黒字はおおむね横ばいで推移する(経常収支対名目GDP比2.8%程度)。

図表.表1 主要経済指標
図表.(参考) 主な経済指標