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令和4年度税制改正(国税)について

主税局総務課税制企画室長/石井 隆太郎

令和4年度税制改正については、令和3年12月10日に与党において「令和4年度与党税制改正大綱」が決定され、同年12月24日に「令和4年度税制改正の大綱」が閣議決定された。
本稿においては、「令和4年度税制改正の大綱」を中心に説明したい。なお、文中意見等にわたる部分は、筆者の個人的見解である。

1.令和4年度税制改正の基本的考え方
昨年10月に岸田内閣が発足し、総理の所信表明演説の中で、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに、新しい資本主義の実現に向けて取り組んでいくことが表明された。この方針の実現にあたっては、企業が研究開発や人的資本などへの投資を強化し、中長期的に稼ぐ力を高めるとともに、その収益を更なる未来への投資や、株主だけでなく従業員や下請企業を含む多様なステークホルダーへの還元へと循環させていくことを通じ、企業として持続的な成長を達成するという本来の使命をより一層果たしていくことが必要不可欠となっている。
こうした観点を踏まえ、令和4年度税制改正においては、積極的な賃上げを行うとともに、多様なステークホルダーに配慮した経営に取り組む企業に対し、賃上げに係る税制措置を抜本的に強化するとともに、スタートアップと既存企業の協働によるオープンイノベーションを更に促進するための措置を講ずることとしている。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた観点等を踏まえ、住宅ローン控除の見直し等を行うこととしている。
具体的な改正内容等は以下のとおりである。

2.成長と分配の好循環の実現

(1)積極的な賃上げ等を促すための措置
(「賃上げ促進税制」)
「成長と分配の好循環」の実現に向けて、積極的な賃上げを促すとともに、株主だけでなく従業員、取引先などの多様なステークホルダーへの還元を後押しする観点から、一定規模以上の企業については、マルチステークホルダーに配慮した経営に宣言することを要件としつつ、賃上げに係る税制措置を抜本的に強化することとしている。
なお、上記の賃上げ促進税制とあわせて、政府としては、赤字で減税の恩恵を受けられない企業に対して、賃上げを行う場合の補助金の補助率を引き上げる特別枠の設定を行うことや人への投資を積極化させるための施策パッケージの創設、下請け取引の適正化、中小企業の転嫁対策の実施などに取り組むこととしており、これらの施策により民間の賃上げを促していくこととしている。
また、本税制の議論が行われた与党の税制調査会がとりまとめた「令和4年度税制改正大綱(令和3年12月10日)」においては、第一章で、「未来への投資等に向けた経済界への期待」と題し、今回講じられる賃上げ促進税制の抜本的強化等の施策の趣旨を踏まえ、『経済界に対しては、「成長と分配の好循環」の実現と、ひいては「コロナ後の新しい社会の開拓」に向けて、より積極的に役割を果たすよう求めたい』との記述も盛り込まれている。

(ア)大企業向け
継続雇用者の給与総額を3%増加させた場合の15%の税額控除に加え、以下の場合に控除率を上乗せすることとしている。(最大30%)(資料1)
・継続雇用者の給与総額を対前年度4%以上増加させた場合には、税額控除率に10%を加算
・教育訓練費を対前年度2割以上増加させた場合には、税額控除率に5%を加算

(イ)中小企業向け
中小企業について、全雇用者の給与総額を1.5%増加させた場合の15%の税額控除に加え、以下の場合に控除率を上乗せすることとしている。(最大40%)(資料2)
・全雇用者の給与総額を対前年度2.5%以上増加させた場合には、税額控除率に15%を加算
・教育訓練費を対前年度1割以上増加させた場合には、税額控除率に10%を加算

(2)オープンイノベーション促進税制の拡充
スタートアップを徹底支援するとともに、既存企業の事業革新を促すことにより、企業が生み出す付加価値の向上につなげることも、「成長と分配の好循環」の実現に向けて必要不可欠である。このため、スタートアップと既存企業の協働によるオープンイノベーションを更に促進する観点から、対象に設立10年以上15年未満の研究開発型スタートアップを追加する等の拡充を行った上で、適用期限を2年間延長する。(資料3)

(3)5G促進税制の見直し
昨年10月の総理所信表明演説においては、地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていく「デジタル田園都市国家構想」を進めることが盛り込まれた。このデジタル田園都市国家構想実現に向けては、5G全国ネットワークについて、高度なインフラを都市・地方で一体的に整備しつつ、特に条件不利地域における整備を加速することが重要である。また、企業等の多様な主体が自らシステムを構築するローカル5Gについても、社会課題解決や事業革新等に向け、導入を後押しすることが求められている。こうした観点から、対象設備の要件や税額控除率等の見直しを行った上で、適用期限を3年間延長する。(資料4)

(4)住宅ローン控除等の見直し
本格的な人口減少・少子高齢化社会が到来する中、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた対策が急務となっている。こういった社会環境の変化等に対応した豊かな住生活を実現するためには、住宅の省エネ性能の向上及び長期優良住宅の取得の促進とともに、既存の住宅ストックの有効活用及び優良化を図ることが重要である。こうした考え方に基づいて、具体的には以下の所要の見直しを行う。
・住宅ローン控除は4年間延長する。
・カーボンニュートラル実現の観点から、省エネ性能等の高い認定住宅等につき、新築住宅等・既存住宅ともに、借入限度額の上乗せを行う(消費税率引き上げに伴う反動減対策としての借入限度額の上乗せ措置は終了)。令和6年以降に建築確認を受けた新築住宅については省エネ基準への適合を要件化するなどの措置を講じる。
・新築住宅等について控除期間を13年とするほか、一定の場合(注)に40m2以上の住宅を控除対象とする。
(注)令和5年以前に建築確認を受けた新築住宅、合計所得金額1,000万円以下の者
・会計検査院の指摘に対応する観点から、控除率を0.7%とする。また所得要件を2,000万円以下とする。(資料5)
・住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置は、格差の固定化防止等の観点から、非課税限度額を見直した上で、適用期限を2年間延長する。(資料6)

3.円滑・適正な納税のための環境整備

(1)税理士制度の見直し
税理士を取り巻く状況の変化に的確に対応するとともに、多様な人材の確保や、国民・納税者の税理士に対する信頼と納税者利便の向上を図る観点から、税理士制度を見直すこととしている。具体的には、
・税理士は、業務のICT化等を通じて納税義務者の利便の向上等を図るよう努めるものとする旨の規定を創設する
・若年層の税理士試験の受験を容易にし、多様な人材確保を図るため、受験資格の緩和を実施する
等の措置を講ずる。(資料7)

(2)記帳義務を適正に履行しない納税者等への対応
適正な記帳や帳簿保存が行われていない納税者については、真実の所得把握に係る税務当局の執行コストが多大であり、行政制裁等を適用する際の立証に困難を伴う場合も存在する。記帳義務の不履行や税務調査時の簿外経費の主張等に対する不利益がない中では、悪質な納税者を利するような事例も生じているところである。
これらを踏まえ、記帳義務及び申告義務を適正に履行する納税者との公平性の観点に鑑み、帳簿の不保存・不提示や記帳不備に対し、過小申告加算税等の加重措置(+5%又は+10%)を講ずるとともに、証拠書類のない簿外経費についての必要経費・損金不算入措置を創設することとする。

(3)財産債務調書制度の見直し
財産債務調書制度について、提出期限を後倒しするなど提出義務者の事務負担の軽減を図るとともに、適正な課税を確保する観点から、現行の提出義務者に加えて、特に高額な資産保有者については所得基準によらずに本調書の提出義務者とする措置を講ずる。

(4)税務手続のデジタル化・キャッシュレス化による利便性の向上
デジタル技術を活用し、納税者が簡単に手続きを行うことができる環境の整備を行うことが重要であるとの観点から、登録免許税や自動車重量税におけるキャッシュレス納付制度の創設等を行う。(資料8)