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IMF・世界銀行グループ年次総会およびG20財務大臣・中央銀行総裁会議等の概要(2021年10月11~17日、於:アメリカ・ワシントンD.C.)

国際局国際機構課長 飯塚  正明/国際局国際機構課 明石  悠誠 国際局開発機関課長 田部  真史/国際局開発機関課 三浦  駿人

2021年10月11日から10月17日にかけて、国際通貨基金(IMF)・世界銀行グループの年次総会がアメリカ・ワシントンDCにて、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催された。これに併せてG20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)等の国際会議も同期間に開催された。
以下本稿では、これら一連の会議における議論の概要を紹介したい。

1.G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2021年10月13日)
今回のG20はイタリア議長下における4回目の大臣級の会議であり、2021年7月9日、10日にベネチアにて開催されて以来、2回目となるハイブリッド形式での開催となった。
会議においては、世界経済、パンデミックへの対応、国際課税、低所得国・脆弱国支援、気候変動対応、金融セクターといった幅広い課題について議論が行われ、これらを踏まえて声明が発出された。以下G20における成果について紹介したい。
まず世界経済について、ワクチンの普及等により強固なペースで回復が継続しているものの、各国間・各国内での回復の進展に大きな差異があり、変異株の拡大などの下方リスクが存在しているとされた。特に女性、若者などの最も影響を受けた人々や不平等に対処するため、必要とされる間は全ての利用可能な政策手段を用いるとの決意が再確認された。
パンデミックへの対応について、将来のパンデミックへの予防、備え及び対応を強化するため、財務省・保健省間の連携体制の発展を含めて議論することが合意された。G20に引き続いて、10月29日には3回目となるG20財務大臣・保健大臣合同会議が開催され、「G20財務・保健合同タスクフォース」の設立が合意された。この合同会議は、財務・保健の両当局間の連携強化を推進するため、2019年の日本議長下にて初めて開催されたものであり、今回の合意は日本による継続的な取組の成果であると言える。
日本が継続的に国際的な議論を主導してきた分野として、もう一つ欠かすことのできないのは、国際課税である。国際課税については、「BEPS包摂的枠組み」において議論が進められ、10月8日に2つの柱による解決策からなる「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する国際合意」がなされたところ、今回の会議においてG20としてこの最終的な合意を支持することとなった。この歴史的合意への支持が表明されたことで、2023年の新たな課税ルールの発効に向けたモメンタムが確認されたことは大きな成果である。
低所得国・脆弱国支援に関しては、大きく分けてIMFを通じた脆弱国支援と、低所得国の債務問題の2点について議論がなされた。
前者については、昨年8月に新規配分された6500億ドル分の特別引出権(SDR)(注)について議論が行われた。新たに配分されたSDRは、IMFの全加盟国に対して、IMFへの出資割合に応じて分配されるため、低所得国に配分されるのは全体の約3%に留まっている。これを受け、先進国等に配分されたSDRの一部を、支援の必要な低所得国等に自発的に融通する枠組みについて議論が行われた。こうした融通の一環として、低所得国向け支援の既存の枠組みである「貧困削減・成長トラスト(PRGT)」の融資能力拡充について合意されたほか、IMFに対して保健・気候変動などの長期的課題に対応するための新たな基金として、「強靭性・持続可能性トラスト(RST)」の設立が要請された。
(注)国際的な流動性を創出するため、IMFが創出し、加盟国に配分する合成通貨。配分されたSDRは、SDR金利を支払うことで米ドル等の自由利用可能通貨に交換可能。
低所得国の債務問題については、2020年11月に合意された債務救済に関する「共通枠組」について、適時に実施するための取組を強化して債務国に一層の確実性を与えるとともに、IMFなどの資金支援の迅速な提供を促進することに合意した。また低所得国の債務状況の透明性を高める観点から、債務データの質・整合性の強化に向けた取組を行っていくことが確認された。
気候変動に関しては、グリーンで持続可能な経済社会を金融面から支えていくため、サステナブル・ファイナンスに関するロードマップが承認された。本ロードマップは、2021年4月に作業部会に格上げされたサステナブル・ファイナンス作業部会(SFWG)において作成されたものであり、続いて開催されたG20サミットでも承認された。また、日本からは世界銀行等の国際開発金融機関(MDBs)のエネルギー支援について、新規の石炭火力支援を停止するとの方針を支持するとともに、天然ガス支援を含む、温室効果ガスの排出削減のための現実的な支援を行う必要性を強調した(MDBsのエネルギー支援に係る日本の考え方の詳細については、後述の世界銀行・IMF合同開発委員会の項を参照)。
最後に、金融セクターについては、マネー・マーケット・ファンド(投資ファンド等のノンバンクが提供する金融商品の一種)の強靭性強化のための政策オプションや金融技術革新について議論が行われ、これらに関する金融安定理事会(FSB)の報告書が承認された。

2.G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2021年10月13日)
G7については、議長国イギリスの下で、昨年6月にロンドンにて開催されて以来、2回目となる対面形式での会議を行った。
今回のG7においては、気候変動、グローバルサプライチェーン、デジタル・ペイメントや中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する議論が行われた。
気候変動については、10月末から開催されるCOP26を前にして、経済に対する影響や政策対応について議論された。日本からは、全ての主要排出国がネットゼロ目標に向け効果的な対策をとる必要があることを述べた上で、目標の実現に向けた政策手段は国ごとに異なることを指摘し、政策強度の比較可能性を向上させる必要があることを述べた。
新型コロナウイルス感染症の影響で顕在化した、グローバルサプライチェーンの課題についても意見交換が行われ、日本からは経済安全保障の観点も踏まえ、サプライチェーンの強靭化の必要性を指摘しつつ、保護主義化が進むことのないよう留意するべき旨指摘した。
また今回のG7では、中央銀行デジタル通貨とデジタル・ペイメントに関する声明が発出されるとともに、「リテール中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する公共政策上の原則」について合意された。この「原則」は、昨年6月のG7声明にて公表に向けた作業が合意されていたものである。
CBDCについては、2020年10月より通貨・金融システムの安定や、金融包摂、法の支配などといった論点について議論が重ねられてきた。今回の「原則」では、これらの重要性を改めて確認しつつ、中央銀行の権限にとどまらない幅広い公共政策上の課題について、中央銀行と財務省が協働し、G7内外の各国が検討を行う上での指針を示すものとなっている。主な項目としては、金融システムの安定、ガバナンス枠組、データプライバシー、サイバーセキュリティー等の重要性が掲げられている。またG7の声明においては、いかなるグローバル・ステーブルコインも、法律・規制・監督上の要件に十分に対処するまではサービスを開始するべきでないとの従来の合意についても再確認された。
通貨のデジタル化という国際通貨・金融秩序に関わる重要分野において、中央銀行と財務省が協働して議論を重ねながら、こうした原則の合意に至ったことは大きな成果であり、G7の内外において指針となるこの原則が、途上国等にも参照されるように、IMFなどの国際機関とも連携していくことが重要であると考える。

3.国際通貨金融委員会(IMFC)(2021年10月14日)
国際通貨金融委員会(注)においては、世界経済の動向や新型コロナウイルス等に関してIMFに期待する政策対応について議論が行われた。特に世界経済については、声明において、ワクチンへのアクセスと政策支援の相違を背景に、経済間のばらつきが根強く残っているとの認識が示されたほか、変異株の発生により不確実性が高まり、回復の下方リスクが増大していることが指摘された。
(注)国際通貨・金融システムに関する問題についてIMFに助言及び報告することを目的として1999年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第44回目。
日本から発出したステートメントにおいては、ワクチンの普及により世界経済は危機脱却に向けて確実に進んでいるものの、蓄積した政府債務などの様々なリスクや不確実性が大きく残っていること、日本経済は持ち直しの動きが続いており、新政権の下で成長と分配の好循環を実現し、ポストコロナの新しい社会を開拓することを述べた。
また途上国支援の強化について、先述のSDR新規配分について、SDRの使用における透明性・説明責任向上のための手当が導入されたことを歓迎した。新規配分されたSDRの活用については、日本からPRGTに対して、融資原資に昨年4月に将来行うと位置付けていた26億ドルを含めて約40億米ドル、利子補給金に8,000万米ドルの追加貢献を表明し、引き続きトップドナーとして責任を果たす旨述べたほか、大災害抑制・救済基金(CCRT)に対しても、2020年の1億米ドルの貢献に加え、新たに5,000万米ドルの追加貢献を行った旨述べた。RSTについては、中長期の構造的課題に対応するものであり、新設にむけたIMFの検討を歓迎した。

4.世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)(2021年10月15日)
世界銀行・IMF合同開発委員会(注)においては、将来の危機に対する予防・備え・対応や環境に配慮した強靭で包摂的な開発に向けた世界銀行グループの支援等について議論が行われた。
(注)開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第104回目。
日本国ステートメントにおいては、一刻も早い危機からの脱却と次の保健危機への備えの強化を図るとともに、人的資本への投資、気候変動問題への対応、サイバーセキュリティに配慮したデジタル開発の促進、債務の透明性・持続可能性の確保を通じて、包摂的で持続可能な復興を達成することの重要性を強調した。
現下の危機からの脱却と次なる保健危機への備えの強化に関しては、保健と財務の双方の知見を有する世界銀行グループの役割を強調するとともに、「保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金(HEPRTF)」のスケールアップを通じた途上国政府の能力強化や医療設備・機材の整備等の支援、国際金融公社(IFC)のGlobal Health Platform(GHP)を通じた途上国向け医療物資の製造・供給能力強化等への支援を行っていく考えを表明した。
人的資本の強化の観点からは、乳幼児の発育不全や免疫低下のリスク低減、非感染症疾患のリスク低減を含め、栄養の側面も考慮したUniversal Health Coverageの推進の重要性を指摘し、12月に日本が主催する栄養サミットに向け、栄養分野において世界銀行グループと連携して途上国支援に貢献していく旨を表明した。
気候変動問題への対応については、「国際開発金融機関(MDBs)のエネルギー支援に係る日本の提案」(概要下記)を、世界銀行・IMF合同開発委員会にあわせて公表し、日本としての考え方を述べた。
加えて、世界銀行の信託基金への拠出等を通じて再生可能エネルギー等の気候変動への支援を行う旨を表明するとともに、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿って金融機関が自主的な気候関連の情報開示を進められるよう技術支援を行うため、IFCに設置した日本信託基金を通じた支援を行う旨、表明した。
「MDBsのエネルギー支援に係る日本の提案」概要
○国際社会全体として1.5℃目標を達成するためには、途上国、とりわけ主要排出国において温室効果ガスの最大限の排出削減を推進する必要。
○この観点から、MDBsに対し、以下を要請。
(1)各途上国においてパリ協定に沿ったエネルギー計画等の策定を支援すること。その際、所得水順の高い国にはより高い目標の設定を求めるとともに、エネルギー計画等と整合的でない事業の実施を抑制するよう各国に求めること。
(2)個別プロジェクトについては、当該国の実情を踏まえ、温室効果ガスの排出抑制に最も寄与する方策で、当該国のエネルギー計画等と整合的であるものを支援すること。
※天然ガスであることを理由に支援を行わないことは、却って温室効果ガスの排出を増加させかねない。
※新規の石炭火力プロジェクトを支援しないとのMDBsの判断を支持。
デジタル開発については、新型コロナウイルスの影響によりデジタル開発の重要性が一層顕在化している中、サイバーセキュリティー・データプライバシーの確保の重要性を強調した。
また、途上国の持続的な成長のためには、債務の透明性・持続可能性の確保が不可欠と指摘した上で、既に「共通枠組」を要請した3か国に債務措置を早急に実施するとともに、債務脆弱性を抱えた国への幅広い支援に「共通枠組」が有効に機能することへの期待を表明した。加えて、世界銀行・IMFによる債務透明性に係る分析や債務分野の技術支援の一層の強化を期待するとともに、世界銀行・IMFによる債務データ突合の進展を求めた。
最後に、低所得国が一刻も早く危機から脱却し、環境に配慮した強靭で包摂的な復興を達成する上で、世界銀行グループによる継続的な支援が極めて重要となる中で、12月に日本が主催する国際開発協会(IDA)第20次増資の最終会合に向け、国際社会が連携して取り組むことの重要性を改めて強調した。