このページの本文へ移動

各地の話題/「ファイナンス」令和3年12月号

豊田市
ソーシャルインパクトボンドを活用した介護予防事業
豊田市未来都市推進課 担当長 丹羽  広和

1.はじめに
豊田市は、合同会社Next Riseソーシャルインパクト推進機構(以下、「NRS推進機構」という。)とともに、新しい官民連携の仕組みであるソーシャルインパクトボンド(以下、「SIB」という。)を活用した介護予防の取組として「ずっと元気!プロジェクト」に取り組んでいます。
本プロジェクトは、介護保険給付費の10億円の削減を目指し、5年間で最大5億円をかけ、年間5,000人の参加を図る、全国でも最大規模のSIB事業として実施します。
これにより、新型コロナウイルスの影響により外出機会が減少した高齢者の方のフレイル予防を推進します。
写真1:〈「ずっと元気!プロジェクト」〉

2.取組の概要
SIBとは、行政が民間資金を活用して行う成果連動型の事業で、社会課題を解決する新たな官民連携の手法です。このSIBを活用し、民間の資金や創意工夫により、高齢者の介護リスクを低減させる事業を行い、行政はその成果に応じて成果報酬を支払うことで、社会課題の解決に結びつけることを狙いとしています。
写真2:〈SIB事業のスキーム〉

3.取組のきっかけ
豊田市は、NRS推進機構を設立した(株)ドリームインキュベータと、SIBの活用に向けた調査・研究に関する覚書を締結(2020年2月)し、SDGsを含む社会課題解決のための構想を描き、その実現のために様々な分野でSIBを活用していくための検討を進めてきました。
豊田市においては、団塊の世代の後期高齢化、いわゆる「2025年問題」に対し、これまでも重点施策として取り組んでいましたが、新型コロナウイルスの影響により、高齢者の外出機会が減少し、コロナフレイルとも呼ばれる、自宅に閉じこもりがちになることで心身が衰え、介護リスクが上昇するという状況に対し、予防に早急に取り組む必要があることから、介護予防分野において、SIBを活用することとしました。
また、行政サイドにおいては、新型コロナウイルス対策に人的リソースが必要となったことで、要介護リスクの増加への対応という課題に対し、職員を割ける状況にはないことから、民間事業者様と協力しながら大規模な介護予防事業を展開することで介護予防の取組を止めないこととしました。

4.プロジェクトのポイント
高齢者の方に提供するプログラムについては、オンラインや三密回避によるオフライン事業の提供についてノウハウを有する民間サービス事業者の創意工夫を活用し、感染対策の徹底と継続的な社会参加を促進するサービスを提供していくこととしています。
なお、本プロジェクトにおいては、従来の介護予防のイメージとして思い浮かぶ、運動といった分野だけでなく、趣味や就労、エンターテイメントなど、コミュニケーションを創出する多様な種類のプログラムを提供し、高齢者の継続的な社会参加を促してまいります。
また、これにより、介護リスクの低減のみならず、高齢者の方に“生きがい”や“楽しみ”を獲得していただき、QOL(Quality of Life)の向上を図ってまいります。
写真3:〈事業で提供されるプログラム〉

5.今後の展開
本事業は、2021年7月から5年間の実施としており、長期間かつ事業費も億単位と大規模となっております。
豊田市は、今回、事業財源として企業版ふるさと納税を活用することで長期かつ大規模な事業の実施を実現することができました。
御寄附いただいた企業様の御期待にも応えるべく、引き続き、社会参加を促進するプログラムを提供していただける様々な民間サービス事業者と協力し、全国で展開できるようなモデル事例に成長させることで、社会的にインパクトのある取組にしていきたいと考えています。
また、他の社会課題においてもSIBを適用できないか可能性を検討し、サステナブルな社会づくりを目指していきたいと考えています。
写真4:〈プロジェクト体験会の様子〉

SIB活用事業で元気をみんなに!
地方創生コンシェルジュ 東海財務局総務部総務課長 山口  恒
サステナブルな社会の実現を目指し、SIB活用事業の可能性を模索する豊田市。「ずっと元気!プロジェクト」は、高齢者のみならず、事業者創出といった副次的効果で地域も元気に。目指す成果が実現すると市の財政が元気に、加えて国や県の負担減少にもつながり、全ての関係者が元気になります。
豊田市の挑戦が、全国のモデル事例となり、多くの自治体の模範となることを期待しています。


丸亀市
まちづくり等への貢献~国・市施設の移転~、~丸亀城石垣修復~
四国財務局 国有財産調整官
国有財産総括専門官 菅  伸也、国有財産管理官 阿部  万理

1.はじめに
香川県丸亀市は、香川県中西部に位置し、高松市に次ぐ第二の都市であり、市の中心部には現存天守十二城の一つである丸亀城があります。
その丸亀城の北方には、国の庁舎や市の公共施設が建ち並ぶ大手町地区がありますが、丸亀市は、大手町地区にある市民会館等の跡地に市の新庁舎が移転することを契機に、既存の公共施設(機能)の再編による新たな魅力の創出に向けた「大手町地区4街区再編整備構想」を策定し、大手町地区4街区の再編に取り組んでいます。
今回は、当局が丸亀市や関係先と連携を図りながら、まちづくりを進めてきた事例と丸亀城石垣崩落復旧整備事業に国有財産の有効活用に取り組んでいる事例をご紹介したいと思います。
写真:大手町地区4街区再編整備構想の対象範囲図(提供:丸亀市)

2.「大手町地区4街区再編整備構想」を踏まえたまちづくりへの貢献
平成29年5月に、丸亀市より、市庁舎周辺地の大手町地区4街区再編整備(以下、「再編整備」という。)に伴い、4街区内にある丸亀税務署敷地を活用して新市民会館を建設したい旨の要請があり、丸亀市、高松国税局、四国財務局で協議を開始しました。
丸亀税務署移転に向けた協議を進めていく中で、丸亀税務署の4街区内での移転先確保が困難であるなどの諸課題が判明しましたが、当局が中心となって、関係先と何度も協議を重ねた結果、諸課題を解決することができ、平成30年4月に丸亀税務署移転に係る基本合意が成立するに至りました。
基本合意の成立により、平成30年11月に「大手町地区4街区再編整備構想」が策定され、丸亀税務署は、移転先を4街区内の新丸亀市庁舎隣に確保し、利便性の良い立地条件を維持することができるようになり、丸亀市は、「大手町地区4街区再編整備構想」を踏まえたまちづくりを進めることができる効果を発現することができるようになりました。
写真:大手町地区4街区の全体構想イメージ(提供:丸亀市)

3.再編整備の状況
新丸亀市庁舎は、令和3年1月に市民会館跡地等の一画に、新丸亀税務署は、令和2年10月に丸亀市新庁舎の一画に整備されました。
また、新丸亀市民会館の建設予定地は、児童館等の機能の追加に伴い、旧丸亀税務署や生涯学習センター等がある一画から旧市庁舎跡地へと変更することが令和3年7月に決定し、旧丸亀税務署跡地等については、丸亀市の公用施設として利用する計画となっています。
写真:市民交流活動センター(左)、新丸亀税務署(右)(提供:丸亀市)

4.丸亀城石垣修復の状況
史跡丸亀城跡は、中心市街地に位置する亀山に築かれた平山城です。
城は、本丸、二の丸、三の丸、帯曲輪(おびぐるわ)の石垣と山麓部の平坦地からなっています。なかでも石垣は、日本一の高さや扇の勾配と呼ばれる曲線美を有しています。
その石垣のうち南側に位置する帯曲輪が、平成30年7月7日、西日本豪雨の影響、次に西側帯曲輪が同年10月8日に台風や長時間の降雨の影響を受け崩落しました。
さらに、その上段に位置し支えを失った三の丸坤櫓(ひつじさるやぐら)跡石垣が、同年10月9日に続けて崩落しました。
3度の崩落による被災の規模は、高さが帯曲輪石垣約16mと三の丸石垣約17mの合計約33m、幅が約70m、復旧する石材数が約6,000個と大規模なものとなり、丸亀市は平成31年3月末から、丸亀城石垣崩落復旧整備事業として、本格的に災害復旧工事に着手しました。
当局は、石垣復旧工事に伴い、解体した石材の仮置き場、その石材の記録、計測等をするための作業ヤードとして無償貸付している広場を利用するための協力を行っております。
令和3年9月現在の事業規模は、事業期間として平成31年3月25日から令和7年3月31日までの6年間、総事業費として、31億5千万円から35億5千万円を見込んでおります。
写真:平成30年10月崩落後(提供:丸亀市)
写真:令和3年9月復旧工事の現況(提供:丸亀市)

5.おわりに
当局がまちづくりに参加した再編整備により、大手町地区が将来に渡る丸亀市の拠点地域として、様々な市民が集い、躍動する、「市民の舞台」となることを楽しみにしています。また、花見や散歩などの市民の憩いの場として、心和ませてくれる丸亀城石垣の早期復旧を心より祈っております。


南城市
ハートフルなまちづくり~合併後の課題解決~
南城市総務部財政課 主任主事 村山  千寿

1.はじめに
南城市は平成18年1月1日に旧玉城村、旧大里村、旧佐敷町、旧知念村の1町3村が合併し誕生した、人口約4万5千人、面積49.94km2の市です。地形がハートの形になったことから、「ハートのまち」として全国へ発信しています。
合併により様々な課題がある中で、課題解決に向けた取り組みを2つご紹介します。
写真:ハート形の地形

2.旧庁舎の活用
合併後、分庁方式にて市民サービスを提供してきましたが、市民が各種手続きを行う際に庁舎間の移動が発生するなど市民サービスに支障をきたしていることや、両庁舎の維持管理等にコストを費やしている状況を改善するため、新庁舎建設が決定しました(平成30年5月より供用開始)。それにより閉鎖され遊休施設となる2つの庁舎の活用方法が検討されました。
旧大里庁舎は、平成12年に建設された地下1階地上3階建、延床面積は5,164m2。県庁所在地の那覇市へのアクセスや隣接町村との交通の便もよく、商業施設が近くにあるなど有利な条件が揃っていました。旧玉城庁舎は平成7年に建築された地下1階地上3階建、延床面積4,963m2。周辺には小中学校など旧玉城村の中心的機能が集積している一方、静かな住宅街でもあります。
本市の地域活性化や雇用の促進を目的とし、民間事業者からの提案を公募。プレゼンテーションによる審査で優先交渉権を得た企業と賃貸借契約に向けて交渉を行いました。
交渉の結果、旧大里庁舎については、平成29年12月にソニーグループのバックオフィス業務を行うソニービジネスオペレーションズ株式会社と賃貸借契約を締結。賃料や税金などの収入の増加、若者の就労の場の確保に寄与しています。
旧玉城庁舎については、平成30年3月に国際バカロレア教育課程認定校を運営する株式会社オキナワインターナショナルスクールと賃貸借契約を締結。小学部から高等部まで約140名の子供たちが学んでいます。20年という長期契約を結ぶことで、将来的に国際社会から必要とされる郷土愛を持ち、地域貢献する気概にあふれた人材の育成が期待されます。

3.地域公共交通の再編
合併当初のバス路線は、各町村から県庁所在地の那覇市へ向かうルートとなっており、旧4町村の拠点等に連絡されておらず、合併後の新たな人の流れに対応した公共交通ネットワークとなっていませんでした。このため、徒歩や自家用車等を含めた全ての移動手段のうち公共交通の割合は3%と低く、移動が不便な状況となっていました。
このような状況において、まず市内における交通弱者の移動手段を確保するため、平成24年度からデマンド交通の導入計画を作成、3年間の無償及び有償による実証運行を経て、平成28年度から本格運行を開始。交通弱者をはじめとする多くの市民の生活の足、観光客の移動手段として機能しています。
また、平成28年度に市役所新庁舎整備やその周辺(中核地)における新たなまちづくり、地域高規格道路「南部東道路」の供用などを見据え、新たな都市構造における人の流れに対応した公共交通体系の形成を図るため、「南城市地域公共交通網形成計画」を策定。令和元年度には、「公共交通網のハブ整備」、「定時・速達性の高い幹線バスの導入」、「ハブとまちの拠点等を結ぶ支線バスの導入」の3つの再編の考え方をもとに、「南城市地域公共交通再編実施計画」を策定。第1段階の再編として、市内の移動利便性を高めるため、市内線バス「Nバス」の運行を開始するとともに、既存路線バスを幹線バスと位置付けて見直し、分散していた市内の起終点を地理的中心地にある南城市役所に集結することで市内と市外の乗継利便性を高めました。令和3年度には本市の取り組みが評価され、県内で初めて地域公共交通優良団体国土交通大臣表彰の受賞が決定しました。
南城市では当初、市内の移動利便性向上を図るため、ドアtoドアのデマンド交通を導入しましたが、飽和状態となりました。そこで、まちづくりと連動した再編を実施。デマンド交通はNバスを補完する役割へ変わりました。今後、那覇空港自動車道に接続する南部東道路の供用を見据え、中核地でのバスターミナル整備を予定しており、バスターミナルを拠点とした公共交通ネットワークの形成に向け、さらなる路線集約や那覇市・那覇空港に連絡する幹線バスの運行などの再編を段階的に進めていきます。
写真:ハブ機能の市役所バス停
写真:Nバスのシンプルモダンなデザイン

4.おわりに
南城市には世界遺産「斎場御嶽」や「グスク」の数々、神の島久高島があり、自然、歴史、文化が豊かです。コロナが落ち着きましたら、ぜひ南城市へお越しいただき、Nバスに乗って旧庁舎巡りや市内観光をお楽しみください。心よりご来訪をお待ちしております!

ハートフルなまちづくりに期待
沖縄総合事務局財務部理財課上席調査官 比嘉  則之
合併当初に約4万1千人だった同市の人口は、若者の定住促進等の取組で、令和3年3月には計画の1年前倒しで目標の4万5千人を達成しました。また、民間力の活用では、旧庁舎の活用などの他、民間事業者の提案事業を市庁舎で実施する機会を提供する、トライアル・サウンディングを行うなどの取組も進めています。
世界遺産「斎場御嶽」(せーふぁうたき)は、パワースポットとしても、観光客に人気となっており、「ハート」のおひげがトレードマークのゆるキャラ「なんじぃ」も人気を博しています。今後の同市の取組が、なんじぃのおひげのようにハートフルなまちづくりに繋がることを期待します。
写真:【なんじぃと斎場御嶽】