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コラム 経済トレンド90

リユース市場における消費者の価値観と企業行動

大臣官房総合政策課 調査員 川原  竜馬/大井  克彰

本稿では、リユース市場の拡大と、その前提にある消費者の価値観や、求められる企業行動について考察する。

ICTの進展とリユース市場の拡大
・リユースとは「循環資源を製品としてそのまま使用すること(修理を行ってこれを使用することを含む。)」「循環資源の全部又は一部を部品その他製品の一部として使用すること。」と定義され、足元でリユース市場は急激に拡大している(図表1 リユース市場規模の推移と予測)。
・その要因として、ICTの進展やスマートフォンの普及によって、フリマアプリを代表とするインターネット上のプラットフォームが登場したことが挙げられる。1年間に退蔵される不用品は7.6兆円にも及ぶと推計されているが(図表2 過去1年間に退蔵された不用品の推計価値と不用品発生世帯の割合)、プラットフォームは、こうしたリユース市場に出回らなかった不用品の情報をオンライン上で集約・見える化し、不用品を売却したい個人と、他人の不用品に価値を見出して購入したい個人のマッチングを容易にした。
・その結果、消費者間取引(CtoC)を中心に、リユース市場の参加者は加速度的に増加し、特にフリマアプリ等を利用することが多い若年層を中心に、中古品に対する抵抗が小さく(図表3 フリマアプリの利用と中古品への許容度)、社会経済生活において不可欠な存在となりつつある。

リユースと日本人の「もったいない」精神
・そもそも日本においては、「もったいない」精神という言葉に代表されるように、古来より物を大切にする文化・風習があり、使用しなくなった物を形を変えずに繰り返し使用するリユースは馴染みやすい概念といえる。例えば、「お下がり」は、現在のフリマアプリでも取引量の多い衣服などを、子どもの成長などにより使えなくなった際に他人に提供する風習である。しかし、可処分所得の増加や、核家族化・単身世帯の増加などにより親族や近所との付き合いが減少したことで、そういった風習は希薄化しつつある。
・一方で、大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済の進展により廃棄物が急増したことを背景に、循環型社会形成推進基本法で廃棄物処理の優先順位として3R(リデュース・リユース・リサイクル)が法定化されたが、リユースの取り組みは進んでいるとはいえず、多くの人が「捨てられない」「捨てるのが手間」な不要品を退蔵している(図表4 過去1年間における不用品の売却・引き渡し経験について・5 不用になった製品の排出・引き渡し先)。
・こうした中、フリマアプリは、物を大切にする文化・風習の新たなスタイルとして日本人に受け入れられ、既存のリユースショップとともに、リユース市場の供給者として後押ししていると考えられる(図表6 フリマアプリで商品を出品する理由)。

消費者の嗜好やライフスタイルの変化
・不用品を処分する供給側において、リユース市場、特にインターネット上のプラットフォームは消費者のニーズにマッチしていたが、商品を購入する需要側においても重要な存在となっている。
・日本では、不足する生活必需品や耐久消費財への消費者の欲求に応えるために、安価で画一的な大量生産・大量消費が必要とされた時代があった。しかし、近年、「量的な豊かさ」はすでに充足され、消費嗜好は多様化している。また、高価であっても自身にとって必要なものにお金をかけ、それ以外の出費を抑えるなど、消費のメリハリ化が進んでいる(図表7 消費スタイルの分布・8 消費スタイルの推移)。リユース市場には、生産が終了した希少品や、流行が一巡して安価となった中古品など、新品市場で購入できない商品が手に入る可能性があり、リユース市場での取引者が増加することによって、消費者の商品購入の選択肢を広げることとなる(図表9 フリマアプリで商品を購入する理由)。
・また、足元では大量生産・大量消費・大量廃棄から循環経済への転換が国際的に求められており(図表10 循環経済の概念)、リユースはエシカル消費のひとつとして、消費者の意識やライフスタイルに定着していくことも期待される。

企業に求められる対応
・ここまで述べた通りリユース市場の発展は一時的な流れではなく、今後広く消費者に根付くと考えられる。リユース市場が拡大することで新品(一次流通)が中古品(二次流通)に置き換わるマイナスの影響があるとされているが、新品を製造・販売するメーカー・小売企業には、リユース市場の拡大がもたらす競争環境の変化に対応した企業戦略が求められる。
・戦略策定においては、どのような嗜好・ライフスタイルの消費者に価値があるのかに加えて、リユース市場でどのように取引されるのかを分析し、製造・販売を行っていくことも重要である。例えば、フリマアプリを既に利用する消費者の中には、新品購入時にリセールバリューを見込んで(図表11 新品を購入する際にリセールバリューを考えるフリマアプリ利用者の割合)、高価格帯の商品を選ぶ層が一定数存在する(図表12 フリマアプリを利用することによる新品購入単価の変化)。リユースされることを前提に、長期の保証・リペアサービス等の付加価値を付与して、あえて高価格で販売するなど、買値・売値の差が小さくなるように工夫することも、ひとつの選択肢である。
・最近では、フリマアプリ大手のメルカリが事業戦略のひとつとして、「データ連携を通じた一次流通と二次流通の融合」を掲げるなど、今まで把握が困難であった二次流通データの把握が容易となっている(図表13 株式会社メルカリの事業戦略「データ連携を通じた一次流通と二次流通の融合」)。より良い新品が製造・販売され、中古品としてリユース市場に出回ることで、一次・二次流通双方が拡大することを期待したい。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

(出典)リサイクル通信、経済産業省「平成28年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る(電子商取引に関する市場調査)報告書」「循環経済ビジョン2020」、総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」「IoT時代における新たなICTへの各国ユーザーの意識の分析等に関する調査研究」、環境省「平成30年度リユース市場規模調査報告書」、野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」、株式会社メルカリ「2019年度フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動に関する意識調査」「メルカリ、初の事業戦略発表会「Mercari Conference 2020」を開催」