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特集:令和2年度の事例集から紹介 全国財務局の地域連携の取組

財務局は、地域において、財務省及び金融庁の施策を実施するとともに、地域の意見・要望、地域経済の実態把握を通じて、地域と財務省・金融庁をつなぐネットワークの結節点(ハブ)としての役割を果たし、地域に貢献している。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、地域経済の回復に向けた支援にも取り組んでいる。
今号の特集では「全国財務局の地域連携事例集」(令和2年度)から、地域連携の取組内容を紹介する。取材・文 向山 勇

新型コロナの感染拡大の影響を受けた地域経済の復興に向けた支援を実施
新型コロナの影響を受けた地域経済を支援する取組も
財務局は、財務省の総合出先機関として、また、金融庁から事務委任を受けた組織として、地域において、財政、金融、国有財産などの業務を通じて国の施策を実施するとともに、財務省及び金融庁の施策の広報、地域の意見・要望、地域経済の実態把握を通じて、地域に貢献することを使命としている。
こうした機能を発揮することで、財務局は、各々の時代の要請の中で地域とつながり、地域と財務省・金融庁をつなぐ結節点となり、財政健全化や地域経済活性化に向けた施策を推進している。加えて、地域の主体とのネットワークを形成し、活用することで、地域の課題解決等をサポートする「地域連携」の取組を推進するほか、地方公共団体等が行う地方創生を支援している。
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた地域経済の復興に向けた支援に取り組むことを方針に掲げ、対面での取組が困難などの制約がある中、ウェブ会議を積極的に活用するなど創意工夫を凝らし、地域の実情やニーズを把握し、課題解決に向けて様々な取組を行った。
更に、コロナ後も見据えた中長期的な課題にも対応するため、地域において地方創生に積極的に取り組む主体と、ネットワークの構築・拡大に努め、地域連携の取組を深化・発展させた。

新型コロナウイルスへの業務上の対応
●国有財産の提供
PCR検査会場やワクチン接種会場等が不足する中、地方公共団体に対して国有財産の無償貸付を実施。
●地方公共団体の資金繰りを支援
新型コロナ感染拡大の影響を受ける地方公共団体の資金繰りを支援するため、減収補塡債※1や猶予特例債※2の引受けを実施。
※1:年度途中の減収を補填する地方債
※2:地方税の徴収猶予に伴う減収を埋める地方債
写真:PCR検査会場として活用された国有財産(中国財務局)
図表:地方創生・地域の課題解決への貢献

全国財務局の地域連携事例集(令和2年度)より
新型コロナウイルス感染症拡大を受けた取組
CASE 1:関係機関と連携したコロナ禍の事業者支援
関東財務局及び管内財務事務所
関東財務局及び管内財務事務所では、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業者を、地域の関係機関が一体となって支援していくため、政府系・地域金融機関、経営支援機関等に呼びかけ、事業者支援や事業再生をテーマとした意見交換会を各地で開催した。また、関東経済産業局と連携して、地域金融機関・経営支援機関等を対象に、事業者への伴走型支援やデジタル化支援をテーマとしたオンラインセミナーを開催した。
このほか、新たなツールを活用した情報提供も実施しており、金融機関との取引に関する相談を受ける「金融相談ダイヤル」を設置したほか、各省庁等の主な支援策を都県別に整理した一覧表を作成し、公表している。さらに、多くの事業者の目に留まるように、リーフレットや新たなツールとしてYouTubeも活用し、関係機関と連携して多角的に広報を行った。
参加者の声:課題顕在化前に積極的に取り組むことが重要と再認識した
参加者の声:案件を積み重ねて皆で情報共有することが大切だと改めて感じた
各地方公共団体や商工団体等と連携したリーフレットの周知や、関東財務局YouTubeチャンネルでの配信等に加え、地元テレビ局・地元紙の協力を通じて広報先を拡大したことにより、相談ダイヤルの相談件数が増加。
多くの事業者に必要な情報を提供。
写真:事業者支援に係る意見交換会
写真:リーフレット
写真:支援策を整理した一覧表
写真:関東財務局YouTubeチャンネルQRコード

CASE 2:コロナ禍での地域課題・ニーズへの積極的対応
近畿財務局及び管内財務事務所・出張所
近畿財務局は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受ける地域経済の課題やニーズについて、若手職員が中心となり、地域のプレーヤー(地方公共団体・金融機関・企業等)と意見交換を実施。そこで把握した地域課題・ニーズをもとに地域経済の復興に向けた取組を企画・実施したほか、近畿財務局が地域のプレーヤー同士の「つなぎ役」となって、地域で新たな連携を生み出す等、持続的な地方創生・地域連携支援を実践した。具体的な事例としては、日本政策金融公庫と産業雇用安定センターとの「中小企業支援に関する連携協定」(令和3年3月)を仲介。人材不足・過剰に関する課題や悩みを持つ事業者を支援する日本政策金融公庫と、従来から在籍型出向の活用を支援している産業雇用安定センターの連携を後押しした。
図表:近畿財務局の取組

CASE 3:沖縄版・企業支援によるコロナへの挑戦(セミナー)
沖縄総合事務局
沖縄総合事務局は、中小機構沖縄と共同で、地域金融機関や支援機関の役職員を対象に、今後重要性を増す事業再生支援等について知見・ノウハウを高めるためのセミナー「沖縄版・企業支援によるコロナへの挑戦」を令和3年2月に開催。分科会では、参加者から事前にコロナ禍における事業再生の課題等を集約し、講師がその課題を踏まえた資料を提供することにより、当日の討議レベルの深化、熱量の高い意見交換を実現した。今後も、こうした企業支援機関向けのセミナーを継続して実施し、持続的な地域経済エコシステムの形成、コロナ後の経済の力強い回復を後押しする。
セミナーの内容
基調講演
●アフターコロナに求められる沖縄の中小企業支援のあり方…沖縄県中小企業診断士協会会長 神谷 繁 氏
●地域経済エコシステムと事業者支援…金融庁監督局地域金融企画室長 日下 智晴 氏
分科会
●踏み込んだ伴走型企業支援、地域連携…島根県信用保証協会営業部長 小野 拳 氏
●アフターコロナに関する企業再生実務の隘路…北門信用金庫営業第二本部企業支援室長 伊藤 貢作 氏
●地域サービサーによる中小・零細企業支援…みちのく債権回収株式会社代表取締役社長 坂本 直樹 氏
写真:基調講演はYouTubeで配信。沖縄総合事務局ウェブサイトでも公開中。
写真:YouTubeアーカイブ視聴はこちら!

財政に関する取組
CASE 4:新たな官民連携に取り組む地方公共団体の施策を推進
東海財務局
愛知県豊田市では、介護事業に新たな官民連携の仕組みであるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を取り入れ、民間ノウハウを活用し、市民の健康増進を図ると同時に、介護給付費の縮減も目指す取組を開始している。東海財務局は、同市の取組をSIB事業の先進事例として、全国財務局長会議を始め、HPや講演会にて情報発信した。
また、愛知県内の地域金融機関等が官民対話の場として運営する「あいちPPP/PFIプラットフォーム」では、令和3年4月開催時の講師として、官民連携を進める内閣府成果連動型事業推進室を紹介。地方公共団体や民間企業の理解向上に繋げた。
今後もこうした先進事例の紹介や制度説明会を行うことで、地域の課題解決をサポートしていく。
SIBとは?
●行政の成果連動型支払契約と民間資金の活用を組み合わせた官民連携手法
●成果目標を定め、目標を達成した場合、自治体が民間事業者に成果報酬を支払う
 →行政コスト削減・事業の質の向上
図表:SIBスキーム(一例)

国有財産に関する取組
CASE 5:豪雨災害からの復旧・復興支援に国有財産を活用
中国財務局
広島県安芸郡坂町では、「平成30年7月豪雨」災害に伴い発生した膨大な災害土砂の最終処分場(広島港出島地区)への早期搬出や、被災施設の復旧等が課題となっていた。中国財務局は、広島湾沿いにある未利用国有地(庁舎・宿舎跡地)の利用要請を受けたことから、災害土砂の仮置場として同町に対する無償貸付を開始した。また、同国有地の立地を生かすため、中国地方整備局と協力し、隣接する第六管区海上保安本部広島浮標基地の岸壁から災害土砂を最終処分場まで船舶輸送する「海上搬出基地」の一つとして活用できるよう調整を図った。
その結果、災害発生からわずか5か月で被災地から大量の災害土砂の搬出が完了した。
令和2年3月には同町の要望を受け、同国有地の一部を売却し、新たなリサイクル拠点施設建設用地として、復旧・復興事業に活用している。
写真:災害土砂の仮置場
写真:国有地の空中写真(国土地理院撮影)
写真:稼働した新たなリサイクル拠点施設

経済調査に関する取組
CASE 6:経済調査のノウハウ教えます~高校生向け特別授業を実施~
北海道財務局 函館財務事務所
北海道財務局函館財務事務所では、地域経済の動向を分析する「道南経済レポート」を定期的に発表しており、その内容は新聞等で報道されている。それを知った函館商業高校から、生徒が地域経済を研究するための特別授業の依頼があり、函館財務事務所は、同校で経済調査の目的や手法を学ぶ授業を実施した。授業受講後の生徒による課題研究の取組では、授業内容を踏まえ、生徒だけで企業ヒアリングを実施し、グラフや写真を用いて、根拠に基づいたわかりやすいスライドを作成。そして課題研究発表会では、「コロナウイルス感染症が地域に与えた影響について」をテーマにプレゼンテーションを実施した。特別授業と発表会の模様は、地方紙2紙に掲載され、財務局の取組へのニーズが、地域で今後高まることが期待される。
生徒の声:経済調査の重要性やケーススタディ等を、普段教室で学んでいることと照らし合わせ、発展的に学ぶことができた。
図表:特別授業の内容
写真:授業の様子
写真:発表風景
写真:生徒作成スライド

広報相談に関する取組
CASE 7:まちの将来を考える新たな財政教育プログラムを展開
東北財務局
財務局では、若年層に日本の財政に興味を持ってもらうため、国の予算編成を疑似体験する授業「財政教育プログラム」を実施している。
東北財務局は、地域の将来を担う生徒たちにより財政を身近に感じてもらえるよう、同授業の内容を地方財政に置き換え、持続可能なまちづくりを考える「地方財政教育プログラム」を独自に考案し、宮城県角田市立金津中学校で授業を実施。授業では、角田市の歳出・歳入のバランスや政策効果等をグループで議論し、「角田市の新たな自主財源」について考え、授業後は模擬選挙等を行った。また、生徒の意見を「未来の市長からの提言」としてまとめ、角田市長へ提出。今回の提言は、市の次期総合計画の策定に活用される予定。
角田市長のコメント:市民みんなで考えていくことが本当に大事。その点で今回皆さんが人任せではなく、自分たちで考えたことに大きな意義がある。
生徒の声:角田市がどのようにお金を使っていたか全く知らなかったので、とても勉強になった。これからは住んでいる地域のためになることをしたい。
写真:グループワークの様子
写真:角田市長に提言を渡す生徒たち

金融リテラシー向上や金融犯罪被害防⽌に向けた取組
CASE 8:金融教育のオンライン授業の実施手法を考案
福岡財務支局及び佐賀財務事務所
佐賀財務事務所は、金融広報中央委員会が実施する「金融リテラシー調査2019」で佐賀県が全国ワースト2位となっている現状を受け、金融リテラシーの向上について問題意識を持つ佐賀大学と協働し、大学生向けにキャッシュレスのメリット・デメリットをテーマとした講座を開催した。同講座では、コロナ禍の教育現場において、非対面でも学びを深めるためのアクティブラーニング手法の構築が課題となっていることを受けて、同大学のオンライン講座ノウハウを活用し、アクティブラーニングを取り入れたオンラインの授業モデルを新たに策定。
具体的には、対面式の講義後に受講者とオンライン手法に関するディスカッションを実施し、その場で挙がった意見を取り入れ、オンラインのグループワークを導入したオンライン講座を実施。今回策定した授業モデルは、金融リテラシー向上に取り組む佐賀県金融広報委員会へ提供した。
大学の声:参加型で楽しみながら学びを深めることができ、動的な要素で集中が途切れない実施方法だった。
写真:対面式講義(令和2年11月)の様子
写真:オンライン形式の講義(令和3年1月)の様子

災害に関する取組
CASE 9:令和2年7月豪雨からの復旧・復興を総合的に支援
九州財務局
令和2年7月3日から7月31日にかけて、九州や中部地方等日本各地で記録的な集中豪雨が発生。熊本県を中心に、九州南部でも大きな人的・住家被害が発生し、激甚災害に指定された。これを受けて九州財務局は、地域金融機関等に金融上の措置を適切に講ずるよう要請したほか、一日も早く被災地域の生活環境の安定が図られるよう、国有財産の提供、災害復旧事業費調査に部門横断で取り組んだ。また、球磨川流域の被災地域では、非営利団体を中心に、コロナ禍や水害で休失業を余儀なくされている人たちが有償で復旧支援活動に携われる仕組みを構築。九州財務局は地域の関係主体のつなぎ役として、地域の復旧・復興プロジェクト活動を支援した。
非営利団体の声:被災から月日が経ち、ボランティアの数が徐々に減っているのを感じていた時に、このプロジェクトの話が来て本当によかったです。
写真:提供した合同宿舎
写真:災害査定立会の様子

地方創生支援に関する取組
CASE 10:ZEN(禅)を縁とした自治体の広域連携を共創
北陸財務局及び管内財務事務所
ZEN(禅)に所縁のある石川県輪島市と福井県永平寺町では、「ZENを縁とした観光等での連携をより具体化できないか」、「北陸新幹線延伸も見据えてより広域での地域活性化を考えていけないか」との声が挙がっていた。こうした声を受け、北陸財務局がZENに縁のある富山県内の自治体に幅広く声掛けを行ったところ、同県上市町から関心が寄せられたため、3自治体のネットワーク構築や連携施策立案での協働の場を提供し、関係深化をサポートした。今後、同自治体と北陸財務局は、より連携を深めながら地方創生に資する具体的な連携施策の立案を進めていく。
実施内容
キックオフミーティング(令和2年11月)
各自治体から、各地域の特性・アピールポイント、地方創生の取組、悩み・困り事などを説明・共有。財務局の地方創生支援の取組を説明。
地方創生イノベーション発想塾(令和3年1、2月)
AIを搭載した発想支援サービスを活用し、「(北陸の)ZENが、もっと注目され、愛されて、繋がりたくなる人が増えるには?」をテーマにアイデアを考えるグループワークを実施。発想を跳躍させた多くのアイデアが提案されたほか、3自治体間の相互理解が深まり、具体的な連携施策立案に向けて前進した。
図表:参加団体の主な地域資源等

CASE 11:地域の持続的発展に向けて四国でのSDGs推進を支援
四国財務局
四国財務局は、環境省四国事務所から依頼を受け、「ローカルSDGs四国」プラットフォームの立ち上げを支援。具体的には、財務局のネットワークを活かし、地域企業を熟知する金融機関や課題深堀りのノウハウを持つコンサルタント企業など、様々な機関を参加させることで、地域課題をビジネスで解決するための体制構築を支援した。
また、香川県と連携し、SDGsについて考えるワークショップを開催するなど、SDGsの推進をサポート。
令和2年度の支援内容
●令和3年2月に「ローカルSDGs四国」プラットフォームのキックオフフォーラム開催をサポート。地域のつなぎ役として、地域主体のパートナーシップ形成の促進に貢献。
●香川県と連携し、ワークショップ「香川版SDGsを考えよう」を開催(四国財務局は後援)。香川の学生等と地域課題を深堀りし、将来必要な11のゴールと23のアクションを策定。
図表:地域課題をビジネスで解決するための体制

今後の取組
財務局はこれからも、地域の様々な主体と連携・協働し、地域課題の解決に向けて創意工夫を凝らしながら、社会の変化に伴う新たなニーズに対応していくことで、希望ある社会を次世代に引き継ぐべく、地域経済の発展に貢献し、地域住民の皆様にとって役立つ組織となれるよう、引き続き地域と積極的に連携していく。また、新型コロナ感染症の拡大が地域経済に与えた影響を踏まえつつ、地域の実情に応じて、地域経済の復興に向けた支援も積極的に行っていく予定。
なお、令和2年度地域連携事例集は財務局のホームページで公開している。令和2年度は、「新型コロナウイルス感染症の影響への対応」に関するカテゴリーを新設し、関連する取組をまとめている。
https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/renkei/2020/zenkoku.pdf