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還流する地下資金―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―

3.FATF:成立とルール・メイキング機能

IMF法務局 上級顧問 野田  恒平

図表.本章の範囲

要旨
■国際的地下資金対策のルール・メイキング機能を担うFATFは、世界的な麻薬対策の延長として、1989年に設立された。これは、麻薬問題に悩まされていた国際社会、特に欧米の利害が一致したことで、実現したもの。
■一般的なイメージとは相違し、FATFの組織態様は、歴史的経緯を反映して独特かつ不完全な「恒久化された暫定組織」。自発的な地域組織という独自のシステムを通じて、その影響力は世界のほぼ全ての国・地域に及ぶ。
■FATF基準の中でも中核となるのは、40の勧告及び11の有効性指標。そのカバー範囲は、大国の意向を受けて拡大され、現在、犯罪収益・テロ資金・拡散金融対策を柱とするが、将来的には更に拡大して行く可能性もある。

 ここまで、FATFという組織について、さしたる解説も付さずに話を進めて来た。国連はおろか、筆者が現在所属するIMF(国際通貨基金)等と比べても遥かに知名度が劣るこの組織は、聞いたことが無い人にとっては何をしているか考えも及ばず、また知っている人にとっても、多くの場合は日本の地下資金対策が遅れていると圧力をかけて来る外生的存在というのが、その一般的な理解であろう。FATFという存在は、多くの場合一方において過大な完成形としてイメージされると同時に、他方で主にその実効性・影響力という側面においては、受けている評価はまだまだ過小である。これらは何れも、その組織の成立に至る歴史的経緯に対する理解と、それを前提とした、現在の国際社会における措定が正しくなされていないことに起因する。
 前章までで、マネロン罪という犯罪類型が、人類史において非常に特殊なものであることを見て来たが、マネロン対策を軸に設立されたFATF、及びそれを核とした地下資金対策の国際的枠組も、また他に類を見ないユニークさが際立つ存在である。しかもその経緯は、出自からして非常にアドホックで不完全な枠組みが、更に時代の節目ごとに、見方によっては場当たり的とも言える伸長を繰り返す内に、ある意味での制度的な均衡解に至り、当初の青写真の起草者達も想定しなかったであろう強大な執行力を獲得するに至る、興味深いグローバル・アーキテクチャーの形成史でもある。
 この章においては、FATF及びそれを中心とした現在の国際社会における地下資金対策の枠組みを俯瞰し、その極めてユニークな形質と意義を検討して行きたい。
写真:フランソワ・ミッテラン(出典:SPC 5 James Cavalier, US Military, Public domain)ミッテラン大統領の在任時にフランスで開催されたG7サミットにおいて、FATF(金融活動作業部会)の創設が合意された。

1.FATFという不可思議な組織
 改めてとはなるが、FATFとはFinancial Action Taskforceの略であり、世界の地下資金対策に関して、(1)国際的なルール・メイキングを軸として、(2)それに基づく相互審査、(3)基準達成のための履行支援供与、(4)関連リサーチ業務等の機能を負う組織である。一部で誤解されているようであるが、間違っても、金融犯罪に対する捜査権限などは持っていない。日本では「ファトフ」と発音する場合が多いが、海外の関係者の中には「ファタフ」、或いはローマ字そのまま「エフ・エー・ティー・エフ」のように呼ぶ人もいて、今一つ定まらない。また、この組織にはもう一つ、GAFI(ガフィ)という略称も与えられており、これはGroupe d’Action Financièreというフランス語の呼称から来ている。単に呼称のみならず、FATFの文書の多くが英語・仏語両方で作成され、主要な会議では仏語の同時通訳が付いて参加者はどちらの言語で話しても良いことになっているが、これは、その本部がパリにあるからである。
 但し、FATFは独立の本部を有している訳ではなく、経済協力機構(OECD)の本部をいわば間借りしている形になっている*1。会議で本部を訪れた際も、入口はOECDと同じ場所を通過することになり、建物の地下フロアに広がる会議場もFATF専用のものがある訳ではない。専担の事務局を抱えているが、その職員達の給与体系等は、OECDのものに準拠している。更に、FATFという名称も日本語では「金融活動作業部会」と訳されるが、通常国際機関に与えられるOrganization等ではなく、「タスクフォース」とは、職場の中にプロジェクトのために一時的に作る、検討チームのような軽い響きである。事実、FATFの組織態様は、一部に流布している「完全無比な超国家主体」というイメージからは程遠く、どちらかと言えばあらゆる意味でパッチワーク的な組織である。そしてその成立過程は、地下資金対策の国際的枠組が形成されて来た歴史自体の投影であるとも言える。
 マネロン規制の、従って広く今日に連なる地下資金対策の一丁目一番地が麻薬との闘いであることは既に述べたが、国際場裡においても、マネロンへの取組みが最初に規定されたのは、麻薬の国際的な取締りに関連する条約においてである。麻薬関連条約は、それ自体として長い発展の歴史を持つが、1980年代初頭から国連等の場で特にマネロン犯罪化への議論が活発化し、1988年に採択された麻薬新条約*2において、薬物収益に係るマネロン行為の犯罪化が義務付けられる。我が国においても、正にこの条約を批准するための国内法の整備として1991年に麻薬特例法*3が制定され、この中で、日本としてはじめてマネロン罪の規定が設けられた*4。前章で紹介した、麻薬犯罪に立ち向かうもう一つの武器であるコントロールド・デリバリーが規定されたのも、この時である。そして、条約採択の翌年である1989年のG7アルシュ・サミットにおいて合意された経済宣言の、二つのパラグラフにおいて、マネロン規制を行う専担機関としての、FATFの設置が合意されることとなる*5。
写真:ミッテラン大統領肝煎りのパリ大改造計画の象徴として当時建設されたばかりの、新凱旋門(La Grande Arche)において開催された1989年のG7首脳会議は、その会場名を取ってアルシュ・サミットと呼ばれた。(出典:Coldcreation, CC-BY-SA2.5)

2.設立経緯からの含意
 さて、ここまでの経緯及びこの宣言の内容を見る限りにおいても、FATFというものの原点について、かなり多くのことを読み取ることができる。まず第一に、これがG7をプラットフォームとして合意したことが象徴する通り、この枠組みが先進国間、なかんずく欧米の共通の政策的関心から始まったということである。
 深刻な薬物汚染に悩まされた米国が、「麻薬戦争」推進の一環としてマネロン規制を世界に先駆けて実施し、1986年までに主要な関連国内法を整備したところまでは既に解説したが、同国はそこで留まることなく、それを国際的な取組みとしてスケールアップすることを企図する。麻薬からの違法収益を捕捉しようとした場合、米国一国がいくら頑張っても限界がある。カネというものの性質上、簡単に国境を越えて移動することができ、対策が脆弱な国に逃げられてしまったカネは二度と捕まえることができなくなるからである。米国はこのような穴を塞ぐため、国際的なレベルでマネロン規制の実施が必要と考えたが、このことに関しては、当時、米国同様、麻薬の消費地としてその対策に頭を悩ませていた欧州諸国の利害とも一致した。この時の開催国フランスは、自国のリーダーシップの下でこの取組みを推進することにコミットし、自ら第1回会合の招集を約束する。FATF本部がパリに置かれることになったのは、このような経緯によるものである。欧米は今日でこそ、自分達が負っている政治的立場を背景に、FATFの場でも意見が相違したり、また、FATFが目指す国際協調路線から外れたユニラテラルな行動をそれぞれに取り、お互いを非難し合ったりすることもあるが、その船出は、両者のハッピー・マリッジによるものであった。なお、G7のもう一つの角を占める我が国としても、前章で見た通り当時は第2次覚醒剤乱用期の真っ最中であり、この提案に反対する由はなかった。
 ただ第二に、宣言文の行間から滲むこととして、中等国・途上国までを含めた広範な枠組みは、この時点においては想定されていなかった、ということも言えそうである。当初の段階で、G7の外側からFATFに参加した国は、僅か8か国に過ぎなかった。その後、FATFの地域的影響力は拡大の一途を辿り、現在では実質的に世界200以上の、即ちほぼ全ての主権国家・地域を包摂するまでに至っている。そのような急速な拡大の理由は、通り一遍の教科書的説明をするとすれば「世界的な麻薬問題への意識の高まり」ということになろうが、話はそう単純ではない。麻薬問題の流通段階における位置付け(生産地・消費地・中継地の別)や被害の深刻さ、従って政策としての優先順位には、国によって相当の差異がある(前章図表4・ヘロインの流通図参照)。また、そもそもどの国であれ、自国の立法措置に至るまでの政策決定を他人にとやかく言われることを心地良いと思う政府は存在しないのは、当然である。更に、マネロンと汚職の関係という大きな論点にも関わって来るが、国によっては政府関係者が犯罪組織から賄賂を受け取り、自らもマネロンに手を染めつつ共生関係を築いている例が少なからずあり、このような国にとっては、マネロンは極力触れられたくないトピックである。このような中で、FATFがこれだけ広範な参画を得るというのは、通常では想定し難い。それが実現したのは、FATFがグローバル金融市場へのアクセスを担保とした、実質的な執行力を有する枠組みであり、そこへの不参加自体が、自国経済に大きな負の影響を及ぼしかねない、という事実に由来する。この点は、FATFの機能の面と併せ、後述したい。
 なお、実は現在に至るまで、FATF本体はさほど大きい組織ではなく、構成メンバーは拡大して来たとは言え、未だ37か国と2地域機関に過ぎない。しかし、述べたように今日のFATFは、実質的には世界の大半の国・地域が、その策定する国際基準の順守を要請される立場にある。FATFがそのような影響力を拡大してきた方途も、また独特のものである。それを担っているのは、世界9地域において、FATF基準に準拠した地域ごとの「FATF型地域体(FSRB:FATF-Style Regional Body)」と呼ばれる組織である*6。各地域の自発的取組として始まったFSRBは、現在ではFATFという「本部」が策定した基準に従ってその実施を各地域で担う、実質的支部としての役割を果たしている*7。自発的取組と言いつつも、その設立に当たっては先進国、特にFATFの設立を牽引した米仏が、強い梃入れを行った。FATF本体はコンパクトに留めることでルール・メイキング機能の機動性を高め、かつ、地域の自発的取組という形を取ることで、お仕着せではなく、地域の実情に合った基準の適用を促すという、巧みな戦略である*8。これにより、FATFは巨大な国際機関にも比肩し得るネットワークを、他には類を見ない形で築いているのである。
 最後に第三として、スタート地点においてこの枠組みは、必ずしも永続的なものとして構想されていた訳ではなかったという点を、指摘しておきたい。先進国を中心とした、短期間の集約的な取組みによって、マネロン対策の国際レベルを引き上げれば、この組織の役割は終了するというのが当初の見込みであった。従って、名前もライトに「作業部会(タスクフォース)」とされたのである。しかし、当初の目論見は大きく外れることとなる。残念ながらマネロンの脅威は深刻さを増す一方であり、他方で国際基準の調和化は想定以上に困難な作業であった。そのような中で、都度ごとに自分たちの活動指針(マンデート)を延長するという形を取りながら、「実質的に恒久化されて来た暫定組織」というのが、FATFの本質である。形の上でもマンデートが恒久化され、名実ともに「廃止されない限りは存続する」形態となったのは、実はつい最近の2019年に過ぎない。とは言え、現在でもFATFがフルフレッジ(完全体)の国際機関かと言えば、そうではない。事務局長をヘッドとした事務局はあるが、前述の通りOECDの軒下を借りている状況であり、ましてや常任の各国理事や大使がいる訳ではなく、法人格もない。今のFATFは、会議体と国際機関の中間のような、何とも形容し難い存在である。よって、その組織形態を強化しようという議論も断続的になされてはいる。他方でFATFの現実の機能性に着目した場合、その外形的組織論に時間を費やすのが無意味と思える程、この組織は既に、実質的には高い執行力を獲得していることもまた事実である。この点については、次章にて論ずる。
写真:FATF全体会合の様子(筆者撮影)

3.FATFのルール・メイキング機能
 FATFが担う機能の内、最も重要なのは地下資金対策に係るルール・メイキングであり、次いで、そのルールに従った相互審査の実施である。これらを含めたFATFとしての意思決定は須らく、全加盟国が出席する年3回の全体会合(2月・6月・10月)において行われる。
 まずルール・メイキング機能についてであるが、「ルール」という言葉の中におよそFATFの提示する規範たり得るものを広く含めた場合、主な構成要素は「基準(Standards)」とされる(1)主に法制度に関わる40の勧告(Recommendations)、(2)勧告の実施状況を審査するための11の有効性指標(Immediate Outcomes)、(3)上記2つの解釈指針となる、ノートやメソドロジー等と呼ばれる補足文書*9、の三つ、更にこれに加えて(4)各国のテーマごとのベスト・プラクティス等の参考文書、が挙げられる。
 その中でも特に中核的なのは最初の二つである。(1)は、各国の法令整備をはじめとした制度体系を問うものであり、累次の改正を経て現在に至っている。(2)は、直近の改正を機に新たに追加されたものであり、法令等の整備を前提として、その下での実施がきちんとなされているかを測定するためのものだ。これは、制度だけ作ってもそれが正しく運用されなければ、「仏作って魂入れず」になりかねないとの問題意識から規定されたものである。ただ、(1)・(2)の記述はやや抽象的であるため、実務的には(3)の内、特にメソドロジーと呼ばれる、より細分化された準則を併せ読むことになる。さて、これらを実際に見てみると、個別の項目の間でその書振りや粒度・深度にかなりの差があり、作文としては必ずしも洗練されているとは言い難い。また、各項目の射程が、複数の要素を包摂してカバーしているものがあるかと思えば、局所的にしか当てはまらない項目もあったりと、構成としてもかなり錯綜している。もっとも、以下の二つの断面から勧告と有効性指標を眺め、各々がどの要素に関わるものなのかを把握することで、それらのおよそのマッピングを行うことが可能である。
 第一は、地下資金対策の三本の「柱」である(I)犯罪による収益の洗浄、(II)テロリストへの資金供与、(III)核兵器等の大量破壊兵器拡散に寄与する資金供与(略して「拡散金融」)、の何れに関わるものかという断面である。この点、各章冒頭の論点図で示す通り、(I)と(II)は刑事政策、(II)と(III)は外交・安全保障という意味において共通点を有するため、それらを併せて射程に収めた項目が存在したり、または項目立て自体は別になっていても、内容的に似通っているものも多い。例えば、勧告20・30、指標6等は前者二つに共通のものであるし、勧告6・7、指標10・11等は、国連安保理の制裁決議の実施という意味で、後者二つに共通する要請が含まれる。勿論、(I)~(III)全てに共通するもの、また、三つに何れかだけに対応するものも多くある。
 なお歴史的に見ると、これらの柱は同時に建てられた訳ではなく、1990年の設立当初は犯罪収益に限られていたFATFのスコープが、2001年にテロ資金、2012年に核兵器等の開発資金へと徐々に拡大されて行った結果が、現在の姿を形作っている(図表3.FATFのマンデートの増大)。FATFの地域的影響力拡大については既述したが、ここには、そのマンデートの増大という、FATFのもう一つの発展の系譜がある。そして、その二度に亘る拡張の背景には、9.11同時多発テロ等を契機としての、超大国である米国の強い政治的意思が働いている。それらの経緯は後の対応する章において触れて行きたいが、総論において、ここで一つだけ注意喚起をしたい。それは、現在の地下資金移転対策でこの三つがパッケージになっていることは、ある意味での「歴史的必然」であるにせよ、「論理的必然」ではないということだ。およそ、不法なカネが動くのであればそれに対策の網を掛けることは、合理的な政策上の要請である。具体的には、テロ資金や拡散金融対策の重要な礎である国連制裁決議は、現在までも将来に亘っても、これら二つに対象を限定されている訳ではない。過去の金融的措置を含む決議対象には、例えばコンゴ民主共和国・スーダン・ソマリア等に係る、(核兵器開発等にはリンクしない)平和維持・構築目的のものも含まれており、我が国でも関係者に対する金融制裁が、外為法の下で実施されている*10。これらをFATFの射程に含めることも、理屈の上では十分に可能である。現状それが含まれていないのは、国際社会、なかんずくそれをリードする大国の政策的優先順位の高低によるものに過ぎない。また、そもそも現時点で金融制裁の発動が国際社会の総意となっていない対象、例えば目下、人道状況の悪化が懸念されるミャンマーの軍事政権関係者等に対しては、米国・EUが独自にバイラテラルの制裁措置を取っている。外交の綾と潮目の変化により、そのような対象への制裁措置が、今後、合意の対象となってグローバルに敷衍し、更にFATF基準に取り込まれて行くというシナリオも、論理的には排除されない。現在のパッケージは、国際社会がここまでで到達した最大公約数的な合意という、スナップショットだ。FATFは、そのことを是とするか非とするかはともかく、今後も拡大の可能性を秘めた枠組みなのである。
 第二のマッピングは、時系列に従って(A)リスクの特定・評価等(資源配分)、(B)顧客管理等・金融制裁の実施といった、取引の前線における措置(水際措置)、(C)捜査の端緒の獲得~処罰(事後対応)の各段階の何れに関わるものか、という観点からの性格付けである(図表4.地下資金対策の各段階)。ここにおいても、第一の断面同様、必ずしもこれら三段階が、ある項目の要素として競合的・相互排他的なものではない点には留意が必要である。なお、これらの各段階については、官民のバーデン・シェアリングという観点から、一定のウェイト付けをすることが可能である。即ち、(A)については、各国政府が国としてのリスクを把握すべきとされているのと同時に、各業界及び関係する各事業者においても、自らを取り巻くリスクを適切に評価すべきとされており、官民に応分の負担が求められる部分である。他方、(B)は金融機関をはじめとした事業者にその実施が求められるものであり、実務的には主要部分が民側の負担によるものだ。企業のコンプライアンス担当者を悩ませる最大の要素が正にここであり、世間で「マネロン対策」というと、この文脈に矮小化されて認識されがちであることも、ある意味仕方がない*11。最後に(C)については、捜査端緒としての「疑わしき取引」(STR)提出の部分において民の大きな負担が求められるが、提出された情報を捜査端緒として活用し、逮捕・起訴を経て適切な処罰に結び付けるのは、警察・検察といった刑事司法当局をはじめとする、官の責任である。犯罪者引渡しを含む国際的共助、及びそれに準ずる国際協力が求められるのも、この段階である。
 以上概観した勧告・有効性指標に、様々な補足文書・参考文書が加わりFATFのルール体系が形成される。もっとも、仮にFATFがルール・メイキング機能だけで自己完結していれば、単にデスクに向かって、画用紙に餅を描いている集団という以上の存在ではない。次章においては、その組織と規範が獲得するに至った、強い執行力の源泉を探って行きたい。

※本稿に記した見解は筆者個人のものであり、所属する機関(財務省及びIMF)を代表するものではありません。

図表1.40の勧告
図表2.11の有効性指標

*1)中川淳司『経済規制の国際的調和・国際経済犯罪規制の国際的調和(第21回)』貿易と関税・日本関税協会、2006年1月
*2)正式名称は「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」
*3)正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」
*4)城祐一郎『マネー・ローンダリング罪 捜査のすべて(第2版)』立花書房、2020年、P11
   同『現代国際刑事法―国内刑事法との協働を中心として―』成文堂、2018年、P143
   同『マネー・ローンダリング罪の理論と捜査』立花書房、2007年、P23
*5)「52.麻薬問題は、危機的なまでの状況に達した。我々は、国内的及び国際的に断固たる行動をとる緊急の必要性を強調する。我々は、全ての国、特に麻薬の生産、取引き及び消費の多い国に対して、麻薬生産に反対し、需要を削減し、更に麻薬取引自体及びその利益の洗浄に対する闘いを進めている我々の努力に加わるよう要請する。
   53.従って、我々は、関係フォーラムにおいて次の措置をとることを決意する。(中略)サミット参加国及びこれらの問題に関心を有するその他の諸国からなる金融活動作業グループを招集すること。その権能は、銀行制度と金融機関を資金の洗浄のために利用することを防止するために既にとられた協力の成果を評価すること、及び多数国間の司法面での協力を強化するための法令制度の適合等のこの分野における追加的予防努力を検討することである。この作業グループの第1回会合はフランスにより招集され、その報告は1990年4月までに完成される。」
*6)中川淳司『経済規制の国際的調和・国際経済犯罪規制の国際的調和(第23回)』貿易と関税・日本関税協会、2007年11月
*7)High-Level Principles and Objectives for FATF and FATF-Style Regional Bodies, FATF, February 2019
*8)中東・北アフリカ地域のFSRBであるMENAFATFの設立経緯につき、Juan C. Zarate, Treasury’s War – The Unleashing of a New Era of Financial Warfare, Public Affairs, 2013、P164-167
*9)FATF基準の各原文については、以下を参照。
     https://www.fatf-gafi.org/publications/fatfrecommendations/documents/fatf-recommendations.html
*10)外国為替及び外国貿易法、外国為替及び外国貿易法第16条第1項又は第3項の規定に基づく財務大臣の許可を受けなければならない支払等を指定する件、等
*11)但しこの部分についても、あくまで相互審査で評価されるのは、それらを適切に民間事業者に実施させているべき政府であり、民間事業者は直接の名宛人ではない。