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ファイナンスライブラリー


神田  眞人 編著 図説ポストコロナの世界経済と激動する国際金融
評者 渡部  晶
財経詳報社 2021年8月 定価 本体2,600円+税

 本書は、編著者がつとに強調する「人類の歴史的岐路」にあって、ひとびとがしっかりとした世界観をもって正しい判断を行うことに資するために、財務省が有する世界経済と国際金融にかかるフロンティアの情報と認識を共有したいとの思いから発刊された。2015年2月に編著者が上梓した『図説国際金融』のアップデートを土台としつつも、足元の極めて流動的な国際環境の変化や人類が直面する新型コロナ感染症による経済危機とそれへの政策対応の解説も加え、抜本的に充実させている。
 編著者の神田眞人氏は、東京大学法学部を卒業後、1987年に旧大蔵省入省。オックスフォード大学経済学修士。最近では、主計局次長、総括審議官、国際局長などの要職を歴任し、2021年より財務官に就任。また、2016年よりOECDコーポレートガバナンス委員会議長を務める。著作も10冊程となり、そのうち、本誌2016年2月号で『国際金融のフロンティア』、2017年5月号で『超有識者達の慧眼と処方箋 強い文教、強い科学技術に向けて3』、2018年1月号で『金融規制とコーポレートガバナンスのフロンティア』を紹介した。
 本書の構成は、はしがき、」第1章 激変する国際環境と世界経済、第2章 国際収支・資本フローと外国為替市場、第3章 国際通貨金融体制と危機対応、第4章 国際金融システムの乱用防止への取り組みと外国為替及び外国貿易法、第5章 G7・G20財務大臣・中央銀行総裁会議における政策協調、第6章 アジアにおける地域金融協力、第7章 経済協力、第8章 ポストコロナを見据えて取り組むべき課題、補章 国際協調の再生~2021年6月G7財務大臣会合、となっている。
 「はしがき」で、編著者は、まず、冒頭の「人類史的な危機と機会」と題する節で、破局へ向かう傾向を憂いつつ、明るい兆しもあるとし、「この人類の生存と明るい未来を掛けた営みに、日本は積極的に貢献すべきであるし、それは可能である。自由で平和な国際秩序を最も必要とする日本は、その溶解局面において、もはやフリーライドは許されず、よりよい国際社会を築く努力の前衛に立たなければならない。そして、その能力と意志と実績により、日本民族は国際社会で名誉ある地位を占め、自由と平和と繁栄を享受することができるのである。これは編著者の確信である。しかし、それには、国民全体の、ひいては人類全体の直面する課題に対する正しい現状認識と、これを克服する政策努力(時には苦い薬)への支持が必須である」と述べる。
 次に「国際社会の大変容」、「コロナ禍の歴史的衝撃」、「再稼働を始めた国際協調:人類の希望」という節に分けて、「人類史的な危機と機会」の内容をさらに詳述する。ポストコロナに中長期的な影響を残す傷跡(スカー)として、著者は、(1)金融・資本市場に蓄積された歪み、(2)各国政府の財政状況の急激な悪化、(3)各国が実施している止血策に伴う、将来の成長を妨げる副作用、(4)経済格差の拡大(ダイバージェンス)の4点をあげ、最後の点が最も重要だとする。
 また、第8章で詳述されているが、「グローバルヘルスとUHC(ユニバーサルヘルスカバレッジ)」、「債務問題への対応(非パリクラブ諸国や民間債権者の巻き込み等)」、「気候変動ファイナンス」、「デジタル化への対応(デジタル通貨、デジタル課税等)」などを「歴史的なリスクと機会」とみる。
 この第8章と補章では、デジタル化といった社会構造変容を加速したコロナ禍の影響も踏まえた最新の国際交渉の実情を詳述しているが、そこでは、日本の財務省が国際秩序の形成に大きな役割を果たしてきたことも見えてくる。特に、経済デジタル化に伴う課税改革やコーポレートガバナンス改革は日本が主導してきたものであるし、途上国債務問題やデジタル通貨問題等でも中心的な貢献を行ってきており、その成果の現状が詳述されている。
 それぞれの章では、基礎的な知識から最近の動向まで、図表とともに的確な解説がなされているので、門外漢の方から専門家まで有用である。また、目次には出ていないが、章の終わりに、コーヒーブレイク的に、生き生きとした現場感をあらわす前線の経験談を記したコラムが挿入されており、楽しい。
 本書刊行後も、国際社会の激動はなお続く。これらに対する冷静な認識を持つためにも、本書は極めて有用である。一読をお勧めしたい。