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特集 知的支援や研究交流を推進 財務総合政策研究所の「国際協力2021」

財務省財務総合政策研究所は、開発途上国に対する知的支援や海外の研究機関との研究交流を行っており、最新の取組状況を紹介した「財務総合政策研究所の国際協力2021」が発行された。その内容をもとに取組状況を紹介する。取材・文 向山 勇

写真:2021年7月に発行された「財務総合政策研究所の国際協力2021」

財務総合政策研究所の国際交流
開発途上国に対する「知的支援」と海外の研究機関との研究交流等を推進
1992年に国際交流室を設置し2015年には国際交流課に組織変更
 財務省財務総合政策研究所(財務総研)は、財務省のシンクタンクとして、財政経済に関する基礎的、総合的な調査・研究のほか、財政史の編纂、財務省の業務統計の収集・整理、図書館の運営、統計調査の実施、職員の研修等の業務を行っている。
 また、国際協力に関する業務を充実させるため、1992年7月に国際交流室が設置された。その後、同室は2015年5月の機構改正により国際交流課に名称変更し、開発途上国に対する知的支援や海外の研究機関との研究交流等を進めている。知的支援では、財政・税制・政策金融等の分野での改革を支援するための研修員受入れや専門家派遣等を行い、研究交流では共同ワークショップの開催や日本の財政・経済を研究する研究者の受入れ等を行っている。
 こうした国際協力活動を通じて、財務総研は開発途上国経済の更なる発展への貢献を目指している。
写真:財務総研のウエブサイト(https://www.mof.go.jp/pri/)では、最新の国際交流の情報を紹介している
図表.財務総研の国際交流活動


開発途上国に対する「知的支援」
日本の財政・経済制度に関する知識を提供し人材育成を支援
財政経済セミナー
2021年度は期間を短縮し、5月にオンラインで開催
 「財政経済セミナー」は、日本と社会的・経済的に密接な関係にあるアジア地域を中心とした開発途上国の財務省等の若手幹部候補生に対して、日本の財政・経済制度に関する知識・経験の提供を通じて、参加各国の人材育成を支援することを目的としている。また、財政当局間のネットワーク形成にも役立つことが期待されている。1992年から毎年開催しており、2019年度は、5月13日~6月7日まで17名が参加し、日本(東京)で行われた。
 政策講義では、財政・税制・経済等の幅広い分野における日本の諸政策及び経済活動の経験を伝えることを目的として、財務省及び関係諸機関の実務担当者の他、各分野の研究者・専門家による講義を実施した。
 一般講義では、日本の文化・歴史・社会についての理解を深めてもらうことを目的として、当該分野の研究者・専門家による講義を実施した。
 グループワークでは、各参加者が自国の政策課題を踏まえて選択したテーマについて、各分野の研究者による指導の下でグループごとに議論を行い、最終成果物として自国の課題に対する政策提言をポリシー・ペーパーにまとめ、発表した。
 また、日本の経済・社会情勢について理解を深めてもらうため、東京近辺の主要関係機関や関西地方を視察した。
 2020年度は新型コロナウィルスの影響により中止、2021年度は期間を短縮し、5月17日(月)~5月21日(金)にオンライン開催した。財政経済セミナーには、これまでに500名以上の参加を得ている。
写真:2019年度に東京で行われた財政経済セミナーの参加者
図表.過去5年間の参加国

政策講義の内容
■日本の財政の現状と財政健全化の取組
■戦後日本の経済成長
■日本国債市場の発展と国債管理政策
■日本の税制の概要と最近の改革 ほか
写真:2019年度の政策講義の様子

一般講義の内容
■日本の社会と生活
■日本語研修 ほか
写真:2019年度の一般講義の様子

グループワークの様子
写真:2019年度のグループワークの様子

視察先
■国会
■日本銀行
■横浜税関
■造幣局 ほか
写真:2019年度の視察の様子

中央アジア・コーカサスセミナー
海外の若手幹部候補生を招き参加各国の人材育成を支援
 「中央アジア・コーカサスセミナー」は、日本の市場経済移行国に対する知的支援の一環として、中央アジア・コーカサス諸国の財務省等の若手幹部候補生を約1カ月間日本に受け入れ、日本の財政・経済制度に関する知識・経験の提供を通じて、参加各国の人材育成を支援することを目的とするもの。また、財政当局間のネットワーク形成にも役立つことが期待されている。
 本セミナーは、1997年度から2005年度までウズベキスタン金融財政アカデミー(Banking and Finance Academy:BFA)の学生を対象として行っていたセミナーを発展させる形で、2006年度から毎年開催している。
 2019年度は8月7日~8月29日まで20名が参加し日本(東京)で行われた。政策講義では、財政・税制・経済等の幅広い分野における日本の諸政策及び経済活動の経験を伝えることを目的として、財務省及び関係諸機関の実務担当者の他、各分野の研究者・専門家による講義を実施した。
 一般講義では日本の文化・歴史・社会についての理解を深めてもらうことを目的として、当該分野の研究者・専門家による講義を実施した。
 また、各参加者は、財政・税制・金融・国際経済等の分野における自国の政策課題の中から選定したテーマについて、各分野の研究者・専門家によるグループ指導の下で、講義内容も踏まえた日本の制度・経験の適用の是非等に関する検討・分析も交えた研究を行い、その成果をポリシー・ペーパーにまとめた。加えて、セミナーの最後の2日間において、全参加者が各自のポリシー・ペーパーについてプレゼンテーションを行った。
 日本の経済・社会情勢について理解を深めてもらうため、東京近辺の主要関係機関や関西地方の視察をした。なお、2020年度は新型コロナウィルスの影響により中止した。
写真:2019年度に開催された中央アジア・コーカサスセミナーの参加者
図表.中央アジア・コーカサス諸国

政策講義の内容
■日本の財政の現状と財政健全化の取組
■公共支出管理:日本の経験と国際比較
■マクロ経済政策と国の債務管理
■日本の税務行政の概要
■日本の税制の概要 ほか
写真:2019年度開催の政策講義の様子

一般講義の内容
■日本の社会と生活
■日本語研修 ほか
写真:2019年度開催の一般講義の様子

ポリシー・ペーパーテーマ例
■中小企業セクターの変革のための効果的なツールとしての予算支援手段
■商業銀行の活動におけるマイクロファイナンスシステムの改善
■自国の保険会社における保険マーケティングの最新の方法の実施
■長期生命保険の外国の経験と自国での実施上の問題
■外部監査の質の向上を通じた公共監視システムの発展 ほか
写真:2019年度開催のポリシーペーパープレゼンの様子

視察先
■国会
■横浜税関
■東京証券取引所
■造幣局 ほか
写真:2019年度開催の視察の様子

ウズベキスタン金融財政アカデミー(BFA)支援
ウズベキスタン政府の要請を受けBFA設立当初から学生を受け入れ
 財務総研ではウズベキスタン政府からの要請を受け、同国の人材育成に対する知的支援活動を実施している。1996年に金融財政アカデミー(Banking and Finance Academy:BFA)が設立されたが、設立当初からBFAの学生を日本に受け入れるとともに、BFA第一副院長(非常勤)を推薦・派遣し、現地で特別講義を実施する等様々な支援を行っている。
 2019年度は、中央アジア・コーカサスセミナーに、BFA学生10名を受け入れた。また、令和元年度の修了者10名のBFA学生に対する修士論文の最終口頭試問が、2020年6月15日、16日2日間にわたりオンラインで実施された。BFA第一副院長及び最終口頭試問審査委員会の委員長を兼務する財務総研特別研究官が、同最終口頭試問に出席した。
 なお、2020年度は新型コロナウィルスの影響により受け入れを中止した。
写真:最終口頭試問にオンライン出席した財務総研特別研究官。

column
財務総研の調査・研究等の活動
シンポジウムなどを毎年1~2回開催
財務総研では、調査・研究活動の一環として、内外の研究者との意見交換を行うこと等を目的としたシンポジウムやコンファレンスを毎年1~2回程度開催している。例えば、2015年度から、国際通貨基金(IMF)及びアジア開発銀行研究所(ADBI)と連携して、国際コンファレンス「Tokyo Fiscal Forum」を開催しており、「The Sixth Tokyo Fiscal Forum―TowardsStrong Economic Recovery and Sound Public Finances in Asia―」を2020年12月にオンラインで開催した。
写真:2020年12月にオンラインで開催したTokyo Fiscal Forumの様子


海外の研究機関との研究交流
共同ワークショップの開催や研究者の受入れ等を実施
中国の研究機関との研究交流
中国の代表的研究機関と研究交流を実施
中国における代表的な研究機関である中国財政部財政科学研究院(Chinese Academy of Fiscal Sciences:CAFS)、国務院発展研究センター(Development Research Center of the State Council:DRC)、中国社会科学院(Chinese Academy of Social Sciences:CASS)、中国国際経済交流センター(China Center for Interna­tional Economic Exchanges:CCIEE)等との間で、研究交流を行っている。
また、中国国務院発展研究センター(DRC)とは2018年以降、日中両国に共通する課題となっている「人口構成の変化のマクロ経済的帰結と財政の持続性」をテーマに掲げ共同研究を行っている。
2021年6月11日には、オンラインで今後の共同研究のあり方や両国の経済情勢等について意見交換を行った。
写真:2019年に中国の主要シンクタンクであるCAFSと開催した「日中財政シンクタンクフォーラム」の様子
写真:2018年からDRCと、「人口構成の変化のマクロ経済的帰結と財政の持続性」について共同研究を行っており、2020年には今後の共同研究のあり方や両国の直近の経済情勢等についての意見交換をオンラインで行った

インドワークショップ
インド経済の現状と政策に対する認識を深めるのが目的
今後のインドの潜在的な成長の可能性に鑑み、財務省においてインド経済の現状と政策に対する認識を深めていくことを主眼として、2011年度よりインドワークショップを開催している。2021年2月9日には、2020年度の第2回が開催された。インド国際経済関係研究所所長のDr.Rajat Kathuria氏が「The Digital Economy」をテーマに、インド国際経済関係研究所教授Dr.Nisha Taneja氏および同シニアコンサルタントMs.Sanjana Joshi氏が「India and RCEP Agreement」をテーマに発表を行った。
写真:2021年2月に行われたインドワークショップの様子
写真:2021年2月に行われたインドワークショップの資料