このページの本文へ移動

巻頭言:ひとを大切に~ラグビー日本代表のリーダーシップ変革~

園田学園女子大学 教授 順天堂大学 スポーツ健康科学部 客員教授(株)CORAZON チーフコンサルタント 荒木 香織

 スポーツ心理学や組織心理学を基盤とした、選手、指導者には思考力や判断力向上、チームには組織力向上を促す、プログラムを提供している。最近は、ラグビー日本代表の活躍やオリンピックなどでの成功例もあり、ビジネス、医療、教育、そして、エンターテイメント界においても、メンタルパフォーマンスのトレーニングについて興味を持っていただくことが増えた。メンタルヘルスへの関心も高まりつつあるため、今後も学術を基盤としたサービスの提供への需要は高まると考えている。
 どの組織においても、課題は類似しており、課題解決にむけた取り組みへの仕組みづくりに労力をかけるのも同様である。生産性向上や業務効率化アップのための「働き方改革」、縦割り組織の改善や組織間連携向上のための「エンゲージメント」や「コミュニケーション力アップ」、そして、自律、自立、自主性を促し、個々の能力発揮を期待する「組織風土改革」などである。
 組織内でのアンケート調査結果などを参考に、他社との比較を通じて、「問題」を明らかにする。その情報を手にした幹部やリーダーからの通達により、組織の構成員が組織風土または組織文化改革のためのプロジェクトに駆り出され、翻弄される。構成員が回答した内容が反映された課題のため、自分たち自身が困っていることに対して、自分たちの手で解決するために、先に仕組みづくりを課せられる。
 しかしいま、仕組みづくり以上に必要なことは、一人ひとりが、ひとに興味をもち、ひとを大切にすること。効率が悪い、コミュニケーションが取れない、自主的にすすめる勇気がない、やりがいを感じられない。そんな思いを抱えるそれぞれの感情にそれぞれが気づき、それぞれのために一緒に働きづらい環境に変化を促すことはそれほど難しくはない。
 2015年ラグビー日本代表も連敗の歴史から抜け出すための変化が必要であった。そこで、特にリーダーシップを鍛えるトレーニングを遂行した。変化をリードしていくために、「長」や「リーダー」といった役職名のつくひと以外もリーダーシップを発揮できれば、環境だけでなく、個人にも変化を促すことが可能である。すべてのひとに実行可能なリーダーシップを、バーナード・バスが1985年に提唱した変革型リーダーシップ理論に基づいて紹介する。
1)理想的な影響力 それぞれが、模範となる判断や行動をする。お互いを尊重し合い、良い影響を多くのひとに提供できる聞き方、話し方、任務遂行をこころがける。
2)モチベーションを鼓舞する モチベーションは勝手に湧き出てくるものではない。「これができる(有能感)」、「貢献できている・必要とされている(関連性)」、「自分(たち)で取り組んでみよう(自主性)」とそれぞれが感じることができるよう、それぞれが日々働きかけていくことが大切である。
3)当たり前への挑戦 これまで、「当たり前」とされてきた、伝統、文化、風習、慣例などに、「これは変えていきましょう」と提案できる力と、それを温かく受け止め、変化をさせていくしなやかさが必要である。
4)個々への配慮 最近は、ダイバーシティとインクルージョンと表現されるが、組織には年代、性別、生活背景、価値観など、すべて異なる多様な構成員が存在する。それぞれの、興味、不安、持ち味、価値観などを理解しようとするお互いの思いやりは、組織に大きな変化をもたらす。
 困っているひとがいない組織を目指したい。