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シリーズ 日本経済を考える115

東京大学 公共政策大学院/財務総合政策研究所 服部  孝洋*1

債券(金利)オプション入門―スワップションについて―

1.はじめに
本稿では、実務的に幅広く活用されているスワップションを中心に債券(金利)オプションについて解説をします。債券オプションの代表格であるスワップションは、その名の通り、金利スワップのオプションです。「金利スワップ入門」で強調したとおり、金利スワップとは債券と類似した取引ですから、スワップションとは債券オプションと解釈することができます*2。スワップションは金融機関が有する金利リスクのヘッジなど金融市場では広く活用されています。
「国債先物オプション入門」で説明しましたが、オプションの価格を利用することで投資家が感じている金利リスク量を定量的に測ることが可能です。オプション価格に立脚したボラティリティはインプライド・ボラティリティ(Implied Volatility, IV)と呼ばれますが、IVは恐怖指数(VIX)など金融市場で幅広く活用されています。債券のオプションについては、日本取引所グループ(JPX)に上場している日本国債先物オプションは7年金利に関するオプションであるのに対して、スワップションのIVを用いれば、様々な年限の金利リスク量を把握することができます。例えば、金融政策との観点で投資家が感じている金利リスク量を見たい場合、短期金利に紐づいたIVをみることが一案ですが、このようなケースでスワップションは役に立つわけです。
筆者の印象では、スワップションについて解説した文献はあるものの、その多くがモデルに特化した説明を行っています。本稿の特徴は、政策担当者や金融機関の実務家を想定読者とし、スワップションの実務的な側面やIVを用いた分析手法などに焦点を当てて説明を行う点です(モデルの解説は次回の論文で行う予定です)。なお、本稿では、筆者が執筆した「金利スワップ入門」および「国債先物オプション入門」を前提とするため、金利スワップやオプションになじみのない読者はまずは同論文を参照いただければ幸いです。

2.スワップションとは*3

2.1 スワップションの基本的な設計
「金利スワップ入門」(服部(2020d))で強調したとおり、スワップは債券と本質的に似た取引といえます。スワップションとはスワップのオプションに相当しますから、その意味ではスワップションとはいわば債券のオプションと類似した取引と解釈できます。筆者は「国債先物オプション入門」で国債先物のオプションを解説しましたが、債券市場でIVを見たい場合、先物オプションではなく、スワップションから算出されたIVを使うことも少なくありません。
スワップションの初学者が最初に躓く点は、コール・オプションをレシーバーズ・スワップション、プット・オプションをペイヤーズ・スワップションという独特の用語を用いて表現する点です。服部(2020d)で説明しましたが、スワップについては固定金利を受けること((ニアリーイコール)債券をロングすること)をレシーブするといい、スワップについて固定金利を払うこと((ニアリーイコール)債券をショートすること)をペイするといいます。「国債先物オプション入門」(服部(2020b))で説明したとおり、オプションでは原資産を購入するオプションをコール・オプション、売却するオプションをプット・オプションといいますから、レシーバーズ・スワップションとペイヤーズ・オプションは、まさにコール・オプションとプット・オプションに相当します。したがって、下記のような整理ができます。
レシーバーズ・スワップション=コール・オプション
ペイヤーズ・スワップション=プット・オプション
スワップションは、スワップをレシーブ(ペイ)するオプションですから、満期にオプションの保有者が権利行使したら、その時点でスワップをレシーブ(ペイ)するポジションが生まれます(これは現物決済の場合です。その他の決済方法は後述します)。例えば、読者が満期1か月、行使価格1.0%の10年のレシーバーズ・スワップションを現時点で購入したとします。読者が1か月後、権利行使をした場合、10年の金利スワップをレシーブ(受ける)ことになるため、その後、10年にわたり、1%の固定金利を受けとり、変動金利を支払うということになります。このキャッシュフローを図示すると図1 スワップションのキャッシュフローのイメージ *4のようになります。
服部(2020d)で説明したとおり、金利スワップについては、インデックスとする変動金利により様々な金利スワップがあります。金利スワップは、長くLIBOR(London Interbank Offered Rate)と呼ばれる指標金利に紐づいた商品が普及していましたが、LIBORの公表停止が近づいており、TONA(日本円の無担保コール翌日物金利、Tokyo OverNight Average rate)と呼ばれる短期金利をインデックスとするOIS(Overnight Index Swap、オーバーナイト・インデックス・スワップ)の重要性が増しています。OISを原資産とするレシーバーズ・スワップションを購入した場合、権利行使をすることにより、OISをレシーブすることになります。服部(2020d)で説明したとおり、金利スワップは紐づく変動金利(例えばTONAやLIBORなど)によってスワップレートが異なりますから、スワップションの原資産である金利スワップがどのような変動金利に紐づくかによって、オプションのプライス(IV)も異なります。
オプションとは、価格が変化したときの保険ですから、スワップションは金利変化によって被る損失をヘッジする保険と解釈できます。例えば、金利が上がる(下がる)と投資家が考えている場合、債券をショート(ロング)する(スワップを払う(受ける))ことが考えられますが、ペイヤーズ(レシーバーズ)・スワップションを買うという選択肢もあります。この場合、金利が上昇し(下落し)、権利行使された場合、スワップを払う(受ける)というポジションが生まれるため、債券ショート(ロング)のポジションが生まれます。スワップションを買う代わりに、スワップを払う(受ける)ことでヘッジした場合、自分の想定した相場と逆方向に動いた際(例えば金利は上昇せず低下した際)、損失を被ることになります。一方、スワップションを買った場合、オプション料を負担する必要がありますが、オプション料以上の追加的な損失を回避できるという効果を有します。

図1.スワップションのキャッシュフローのイメージ

2.2 その他のポイント
クオートの方法及び取引のイメージ
前述のとおり、スワップションもオプションですから、「国債先物オプション入門」で説明したとおり、通常のオプションと同じ性質を持ちます。ここでは同レポートの知識を前提に、スワップション特有の性質について触れます。まず、国債先物はクオート(プライスの提示)や権利行使価格など、基本的に価格をベースに議論がなされます(例えばある権利行使価格のコール・オプションを購入する場合、〇銭という形でクオートされています)。一方、スワップションの場合、金利をベースに議論がなされます(クオートについては後述します)。例えば、1か月後に金利行使価格1%でレシーブする(債券を購入する)オプションがレシーバーズ・スワップションです。また、1か月後に、行使価格1%でペイする(売却する)オプションがペイヤーズ・オプションです。
Bloombergなどでスワップションのデータをとると、特定のモデル(例えば、ノーマル・モデル)に基づいたIVが得られる傾向があります(ノーマル・モデルについては次回の論文で説明します)。例えば、Bloombergから、10年のスワップションのIVのデータを取得し、20bpsという値が得られたら、それは特定のモデルに基づき、スワップションのプレミアムをボラティリティに変換した値を意味します。「国債先物オプション入門」で説明したとおり、IVは基本的に年率で表示される点にも注意が必要です。例えば、10年のスワップション(満期1か月)のIVが20bpsであるとしましょう。この場合、金利の変動について、(正規分布を想定し)68%のレンジ*5で評価した場合、10年スワップレートが年率で±20bps変化すると投資家が予測していると解釈できます(日次ベースのボラティリティを考えると、68%のレンジで±1.26bps(=20bps/√250)変化すると投資家が予測していると解釈できます)*6。
Bloombergなどのベンダーを経由してスワップションのデータを見る場合、ボラティリティで表示されることがほとんどですが、実際の取引においてもボラティリティでクオートされることがあります。もっとも、円金利市場の場合、プレミアムでクオートされる傾向にあります。ボラティリティの値はモデル依存であり、業界で活用されているモデルは複数あるがゆえ、取引の際にボラティリティを用いて取引を行うと混乱が生じる可能性があることが一因です。この場合、例えば、読者が10年のスワップション(満期1か月)のプライスを証券会社に聞いた場合、額面に対して何%かという意味で「〇bp」という形でプライスが返されます(35bpという価格を提示する場合、額面100億に対して3500万円を支払えば、そのオプションが購入できることになります)。具体的な取引において、例えば、想定元本100億円の10年スワップション(満期1か月)の場合、「想定元本100億円の1 month into 10 year(原資産は10年金利スワップ、満期は1か月後)の行使価格(ストライク)1%のペイヤーズ・スワップションのビッド(オファー)をほしい*7」という形で投資家は業者にプライスを聞きます。
オプションには、権利行使のタイミングが満期である「ヨーロピアン・タイプ」、いつでも行使できる「アメリカン・タイプ」、その中間にあたる「バミューダ・タイプ」*8などがありますが、スワップションは国債先物オプションとは異なり、OTC市場で取引されるデリバティブですから、投資家のニーズに合わせてオプションのタイプを選択することができます。Bloombergなどで得られるデータは通常、ヨーロピアン・タイプのオプションに基づくことが一般的です(一方、国債先物オプションは実務的にはヨーロピアン・オプションとみなされているものの、制度的にはアメリカン・タイプでした*9)。
アット・ザ・マネー・フォワード(ATMF)
スワップションのIVの時系列データを取得する場合、権利行使価格がAt The Money(ATM)を想定するケースが多いですが、この場合、権利行使価格がフォワード・レートで定義されます(フォワードであることを明示するため、At The Money Forward(ATMF)と記載することもあります)*10。例えば、満期1か月の10年のペイヤーズ・スワップションの場合、現在のイールドカーブを前提とした1か月後の10年金利(フォワード・レート)が1%であれば、そのフォワード・レートと権利行使価格が一致する点をATMとして定義するということです*11。ペイヤーズ・スワップションの場合、フォワード・レートより権利行使価格が低い(スワップレートが高い)オプションはイン・ザ・マネー、権利行使価格が高い(スワップレートが低い)オプションをアウト・オブ・ザ・マネーといいます。
現物決済と現金決済
スワップションの決済については、現物決済(physical settlement)と現金決済(cash settlement)があります。例えば、レシーバーズ(ペイヤーズ)・スワップションを権利行使した場合、オプションの買い手は金利スワップを受ける(払う)ポジションが生まれます。現金決済の場合、行使時点の時価をベースに差金決済をするという方式です。投資家は現物決済と現金決済を選択することができます。近年はカウンター・パーティ・リスクを減らすという観点から海外通貨のスワップションについては現金決済が増えているという意見もあります*12。

3.スワップションの特徴*13

3.1 国債先物オプションとの違い
前述のとおり、オプションの価格を使う有益な点は、投資家が将来のリスクをどのように捉えているかを定量的に把握できる点です。例えば、新しい政策を政府が検討している場合、その政策がもたらしうる市場リスクという観点で投資家がどのような意見を持っているかを政策担当者が知りたいケースがあります。このような場合、オプションの価格から算出されたボラティリティ(IV)をみることが一案です。もちろん株式のIVに立脚した恐怖指数(VIX)を見ることも一案ですが、スワップションを用いた場合、投資家が考えている金利リスクを把握することができます。
金利に関するオプションはスワップション以外にも様々あるため、読者がまず認識すべき点はスワップションでは特にどのようなリスクを把握できるか、という点でしょう。重要な点は国債先物オプションとの違いです。国債先物オプションとの主な違いは、主に(1)原資産となる金利の期間について様々な年限のデータがとれるということに加え、(2)先物のように満期が特定日に定まっているのではなく、満期までの期間を任意に決めて取引している特性です。(1)については、スワップションであれば、1年スワップを原資産とするオプションのように短い年限から30年スワップのオプションのような長い年限まで取引がなされているため、そこから得られるIVをみれば、投資家が各年限の金利リスクをどう見ているかのデータが得られます。服部(2020a)で説明しましたが、日本の場合、国債先物は長期国債先物しか取引されておらず、国債先物オプションも長期国債先物を原資産としています。その一方、例えば、金融政策に係る場面では、伝統的な政策金利が短期金利と紐づいていますから、短期金利の金利リスク量に対して投資家がどのように考えているかを知りたい場面があります。このように、様々な年限のリスクを捉えるうえで、スワップションから算出されたIVは有益です。
また、(2)については、先物オプションの場合、上場させるため限月という形で満期日の標準化がなされています。特に、国債先物オプションの場合、1か月など満期が短いオプションに流動性があるため、投資家の短期の予測に適しているといえます。一方、スワップションの場合、満期が1年以上先のオプションについてもデータが取得できるため、投資家が短期ではなく、長期的にどのような予想をしているかを把握することができます。また、様々な満期のスワップションのデータを用いれば、nか月(年)後に1年金利のリスク量がどうなっているか、という予想の期間構造の分析ができます。
さらに、先物オプションの場合、オプションの満期日が特定の日付に設定されているために、取引日の違いや時間の経過によって、満期日までの期間が変化することになります。そのため、時系列でそのオプションのIVを見た場合、その推移にはオプションの期間が短くなることの影響を受けることになります*14。しかし、スワップションであれば、それぞれの取引について、取引日から満期日までの期間を決めて取引しているため、例えば、1か月後に満期を迎える10年スワップのオプションの価格データを時点時点で継続して得られますから、先物オプションのように徐々に満期が短くなることの影響を排除してIVを捉えることが可能になります。これは実際にデータを用いた分析を行う場合、非常に良い特性といえます。
もっとも、「日本国債先物入門」で強調したとおり、先物を標準化させることの背景には、流動性を高めることが企図されています。先物オプションの場合、満期日が特定化されており、一つ一つのオプションにたくさんの投資家の取引が集まりやすいという先物が有する望ましい性質がある点も看過できません。そのため、7年周辺の金利のボラティリティにかかる投資家の(1か月未満といった)短期の予想を見たい場合は、日本国債先物オプションのIVやそれに紐づいた日本国債VIXを用いた方が望ましいといえましょう。

3.2 スワップション市場の規模・流動性
スワップション市場について常に付きまとう問題は流動性です。特に円金利のスワップションについては長く流動性が低いという問題が指摘されています。例えば、多くの投資家が取引した結果、あるプライスがついているとすれば、そこには多くの投資家の意見が集約されており、それは実務家や政策担当者が知りたい変数になります。一方、ほとんどの取引がなく、例えば、数名のトレーダーの意見のみが反映されているのであれば、そのプライスは一部の意見にすぎないということになりかねません。現実的には、日本国債先物オプションと比較してこれまでみてきたような様々な良い性質をスワップションは持っている以上、スワップションのデータを用いた分析をせざるをないのですが、円金利のスワップションについては流動性が常に論点になることを認識しておくことは大切です。
筆者による一連の研究(Hattori 2017, 2021)では実際の金利スワップの動きを予測できるかという観点で、スワップションのプライスにどの程度投資家の意見が含まれているかを検証しています。筆者が見出したことは、米ドル金利などに比べ、円金利のスワップションのIVは、実際のスワップレートの変動を予測できる度合いが小さい点です。このことは円金利のスワップションのプライスに多くの投資家の意見が反映されていないことの証拠と解釈することができます。また、筆者の研究の中で、スワップションの有する情報が流動性と関係性を持っている点も議論しています。実際、円金利ではかつてスワップションを担当するトレーダーがスワップションに関して不正を働いており事件になったことがありますが、そもそも構造的に流動性が低く、適切なマーケット・プライスが観察しづらいマーケットであったこともその背景にはあるのかもしれません。
もっとも、スワップション市場が金利デリバティブ市場で小さいかというとそうではありません。図2 店頭デリバティブ取引情報:商品別残高(金利関係取引、2020年3月末)は金融庁が公表している金利関係取引の残高です。この図をみると、固定と変動金利を交換するスワップは3,000兆円である中、スワップションは140兆円に相当します*15。スワップションは「固定と変動」あるいは「変動と変動」を交換する金利スワップに次いで大きく、OISより残高が大きいことがわかります。また、140兆円という金額そのものは、確かに金利スワップよりは小さいとはいえ、他の市場と比べると巨大なマーケットとみることができることも事実です。
なお、先物オプションは先物の持っている性質から本来的には流動性は高いものの、円金利オプションの代表格である日本国債先物オプションの流動性がそもそも低いと指摘されていることも事実です。金利オプションの売買が活発ではない背景には、わが国では他国に比べて金利が長い間低金利で推移し、その変動も小さかったことから、その金利変動に係る保険商品であるオプションに、そもそもあまりニーズがなかったこともあるでしょう。
上記に鑑みると、スワップションのデータには一定の弱点はあるものの、分析の広がりを考えると、スワップションのIVが有益であると考えられます。実際、実務家はスワップションのデータを用いた分析を非常に頻繁に行っていますし、後述するとおり日本銀行など公的機関の分析でも幅広く用いられています。

図2.店頭デリバティブ取引情報:商品別残高(金利関係取引、2020年3月末)

4.スワップションの使用例

4.1 スワップションのIVの推移
図3.スワップション(円金利)から算出したIVの推移は、円金利の1か月後に行使を迎えるATMのスワップションからのプレミアムから算出したIVの推移を示しています。前述のとおり、IVは金利と同様、通常、年率で表示されている点に注意してください。ここでは2年、5年、10年、20年の金利スワップを原資産とするスワップションのIVの推移を示しており*16、このように短期ゾーンの金利リスク量と超長期ゾーンの金利リスク量をみることができます。この図をみると、円金利の水準と同様、低下トレンドがあり、投資家が認識している金利リスク量が下がっていることがわかります。また、量的質的金融緩和など日銀が新しい政策を行った時や新型コロナウイルスが問題になり始めた時期などにIVは上昇しており、投資家がリスクを感じているとみることができます。*17

図3.スワップション(円金利)から算出したIVの推移

4.2 市場分析の事例
前述の通り、実務家が市場分析を行う場合、スワップションのIVは非常に活発に活用されています。例えば、長野・大岡・馬場(2006)は「日銀レビュー」で円金利市場の動向を分析した内容ですが、そこではスワップションのIVを用いた分析がなされています*18。伝統的な金融政策を考える場合、中央銀行が操作する金利は短期金利ですから、投資家が短期金利にどういう期待形成をしているかを把握することは非常に重要です。過去のデータから標準偏差を算出してリスク量を把握する場合(これを「ヒストリカル・ボラティリティ」といいます)、あくまで過去の動きに立脚してリスク量を測るところ、オプションの価格は投資家の将来の予測を含むという意味で「フォワード・ルッキングな変数」ですから、スワップションの価格の情報をつかえば、これまでに経験したことがない新しいイベントに対して、投資家がどういう予測をしているかを把握できます。長野・大岡・馬場(2006)では満期1か月2年物スワップションのIVを参照して、当時の量的緩和解除前後の解釈をしていますが、「7月の政策金利引上げ以降は、利上げペースが緩やかになるとの見方が強まり、ボラティリティも低下基調を辿った」とコメントしています。
スワップションのIVは国債の入札の分析でも用いられます。特に、スワップションの情報を使えば、先物がとらえる7年以外の年限に関する情報が得られます。入札前に投資家がリスクを感じていると、その保険であるスワップションが買われ*19、それがスワップションの価格に影響を与えるため、IVを通じて投資家の入札に対する意見が把握できます。例えば、かつての30年債の入札についてBloombergの報道では、金融機関のアナリストが「30年スワップションのインプライド・ボラティリティも低水準となっている中、先行きそれなりの頻度で日銀オペが見込まれることから入札を楽観的にみることもできる」*20という見方を提示しています。
スワップションのIVを用いた典型的な市場分析の例は、IVとヒストリカル・ボラティリティを比較するものです。図4 インプライド・ボラティリティおよびインプライド・ボラティリティの比較はスワップションから算出されたIVと過去1か月のスワップレートの変化に基づき標準偏差を計算し年率化したもの(ヒストリカル・ボラティリティ)を比較した図です。両者は短期的には乖離するものの、おおむね似た動きをしていることがわかります。この特性を利用して投資家はボラティリティの予測や運用戦略を練る傾向にあります。例えば、ペデルセン(2017)では「インプライド・ボラティリティと、自身が予測する実現ボラティリティを比較し、インプライド・ボラティリティが低ければ、デリバティブを買うとともに現物債や債券先物、スワップを用いて金利リスクをヘッジする」(p.367)と指摘しています。

図4.インプライド・ボラティリティおよびインプライド・ボラティリティの比較

4.3 金融規制やリスク管理で用いられる事例
前節では生命保険会社のリスク管理の事例を上げましたが、スワップションのIVは政府による金融規制で使われることもあります。実は、金融機関のリスク管理や金融規制上のリスク量は過去の価格や金利の動きをベースにしたボラティリティ(ヒストリカル・ボラティリティ)に基づく傾向があります。例えば、バリュー・アット・リスクなどはまさにヒストリカル・ボラティリティということができます。前述のとおり、スワップション市場の流動性の問題点を指摘されることもあり、国際的に整合性が求められる規制においてヒストリカル・ボラティリティを使うことの合理性はあります。
もっとも、スワップションのIVが金融規制の観点で用いられることもあります。例えば、非清算取引の証拠金規制における証拠金の算出でスワップションのIVが用いられています。また、金融規制では内部モデルを用いることも許容されており、IVに基づいたリスク量や感応度が用いられるケースもあります*21。

5.生命保険会社のヘッジの事例*22
ここでは実際に金融機関がスワップションを使ってどのように金利リスクをヘッジしているかのイメージを掴むため、生命保険会社の事例を取り上げます。生命保険会社はAsset Liability Management(ALM)を強化する中で、スワップションを用いて金利リスク管理するケースが増えています。まずは規制の観点でどのようにスワップションを活用しているかを取り上げた後、一時払終身保険のヘッジの事例を考えていきます。

5.1 経済価値ベースのソルベンシー規制に伴うリスク管理強化の必要性
服部(2020f)で説明しましたが、生命保険会社はビジネスの特性上、年限が長い負債を抱えており、そのデュレーション・ギャップを埋めるようALMを実施しています。生命保険会社は2000年以降、資産と負債のデュレーションのマッチングを進めてきましたが、近年、生命保険会社は規制対応という観点でもALMを強化しています。特に、生命保険会社には経済価値ベースのソルベンシー規制が導入される予定であり、今後より一層ALMの強化が必要とされています。経済価値ベースの資本規制とは資産および負債を経済価値*23で評価し、その差額を経済価値ベースの自己資本とする考え方であり、経済価値ベースのソルベンシー比率(Economic Solvency Ratio, ESR)に対して規制がなされます。住友生命は平成31年3月8日における「国の債務管理の在り方に関する懇談会」で、「生命保険会社の負債の大部分は、残存期間が非常に長い保険契約準備金であり、この保険契約準備金に対して超長期国債等の買入れによるALMを進めてきたものの、依然として資産と負債の年限および金額のミスマッチ(=金利リスク)が残っている」としており、「金利リスクは生命保険会社の主要なリスクであり、安定的で良好なESRの確保には金利リスクを抑制していく必要がある」としています。
このように現存する資産と負債の年限および金額のミスマッチに対して40年国債など超長期債への投資や金利スワップをレシーブすることで資産サイドのデュレーションを伸ばすことが考えられますが、日本の生命保険会社はレシーバーズ・スワップションを購入することでも対応しています。特に、レシーバーズ・スワップションを購入することで、生命保険会社はコンベクシティ・リスクをヘッジすることが可能になります。日本の生命保険会社のように資産サイドより負債サイドのデュレーションの方が長い場合、コンベクシティは資産より負債の方が大きいといえます。また、保険負債は、そのキャッシュ・フローの特性上、同じデュレーションの債券やプレーンなスワップよりも大きなコンベクシティを持つために、コンベクシティ・ヘッジという論点がより強くなる傾向があります(これら詳細は服部(2020g)やBOX 1を参照してください)。したがって、金利が大幅に低下することでコンベクシティを通じたデュレーションの増加は負債サイドの方が資産サイドより大きくなり、その意味で、生命保険会社は金利が低下した場合、ミスマッチを解消するため、資産サイドの金利リスクを増やす必要があります。日本の円金利はこれまで非常に低くなったことがありますが、コンベクシティを通じて資産と負債のミスマッチが拡大したことが話題になりました*24。
そのような中、例えばアウト・オブ・ザ・マネーの(超長期金利を原資産とした)レシーバーズ・スワップション(コール・オプション)を購入すればオプション料を抑えながら*25、仮に金利が大幅に低下した場合、年限の長い金利スワップをレシーブするポジション(資産サイドのデュレーションを伸ばすポジション)を作ることが可能になります。例えば、30年のスワップレートが1%の時、0.5%を権利行使価格とするレシーバーズ・スワップションを買っておきます。その後、仮に金利が0.5%以下に低下した場合、このスワップションを権利行使するメリットが生命保険会社に生まれます*26。具体的には、市場で取引されているスワップ金利が1%であれば、金利スワップを受ける(0.5%の固定金利を受けて変動金利を払う)オプションを権利行使するメリットはありませんが、金利が低くなり、例えば市場で取引されているレートが0.4%であれば、(相対的に高いレートである)0.5%を受ける(レシーブする)オプションを行使するメリットが生まれます。金利スワップを受けることは、債券をロングすることと類似した取引でしたから、アウト・オブ・ザマネーのスワップションを保有しておくことで、金利が低下した場合、債券ロング・ポジションを作ることで金利リスクを増やし、コンベクシティによって増加した保険負債のデュレーションに対応することができます。

5.2 ALMの観点でみた保険負債が有する金利リスクのヘッジ
また、保険負債の特性により発生する金利リスクについても、スワップションを用いたヘッジがなされています。例えば、生命保険会社の負債は一部の終身保険など契約時に運用利回りが約束されている商品がありますが、仮に契約後に金利が上がった場合、契約者からすれば他の金融商品の魅力が相対的に増すことになります。このことは金利上昇により、契約者が途中で他の金融商品に乗り換えるインセンティブを有するという意味で、既存の保険商品の解約をする可能性を有しています。生命保険会社のバランス・シートという観点でみると、金利が上がった場合、契約者が解約することを通じて、保険負債の持つ金利リスク量が減少する可能性がある構造を生命保険会社は有しているとみることができます。
例えば、2010年以降、生命保険会社は一時払終身保険*27の販売を加速させましたが、生命保険会社からみると、一時払終身保険は金利が大きく上昇すると保険の加入者が解約するリスクがありますから、金利が上昇することにより、急に負債サイドのリスク量が低下する可能性を有します(このことをコンベクシティ・リスクということもありますが、ここでは金利リスク量(デルタやDV01*28)が金利に依存している点に注意してください*29)。実際、一時払終身保険の販売が増えたことにより、生命保険会社が有する負債サイドにおける金利リスク量が金利水準に依存する構造が増え、このリスク管理の対応が当時話題になりました。
もちろん、負債サイドの金利リスク量が低下した際、ALMの観点では、保有している超長期債を売却することで金利リスク量を削減することが一案ですが、スワップションを用いることで金利が上昇したときに、資産サイドの金利リスク量(デルタやDV01)を低下させるポジションを作ることができます。前述のとおり、生命保険会社にとって一時払終身保険は金利が上昇すると保険の加入者が解約するリスクがありますが、アウト・オブ・ザ・マネーのペイヤーズ・スワップションを購入することで、一時払終身保険を販売することにより、金利リスク量が金利水準に依存するリスクをヘッジできるわけです*30。
本稿では一時払終身保険を事例に取り上げましたが、生命保険には様々な形でオプションが含まれており、解約オプションなど商品に内在するオプションによりデュレーションが金利に依存するという意味で、コンベクシティ・リスクを有しています(デュレーションを算出する際オプション性を考慮した場合、実効デュレーションということもあります)。コンベクシティについては服部(2020g)で取り上げましたが、そこでは不動産担保証券(Mortgage-Backed Securities, MBS)の事例を取り上げ、早期償還がコンベクシティに与える影響を説明するとともに、そのコンベクシティ・ヘッジが金利に影響を与える点について議論しました。2021年でも米国金利の上昇要因としてコンベクシティ・ヘッジが大きな話題になりました*31。
もっとも、生命保険の場合、そもそも期間が長いことに加え、キャッシュフローが様々な時点で発生するために、同じデュレーションでも(解約等のオプション・保証性がないとしても)、キャッシュフローが(相対的に)満期に偏っている国債などと比べるとコンベクシティが大きい、という問題があり、このこともコンベクシティ・リスクといえます。コンベクシティとはデュレーションが金利に依存する構造ですが、オプション性だけでなく、キャッシュフローの特性など、様々な要因でコンベクシティ・リスクが発生することに注意が必要です。

6.キャップとフロア

6.1 スワップションとの比較でみたキャップとフロア
本稿では債券オプションの中でも、スワップションにフォーカスしていますが、金融のテキストをみると、代表的な債券オプションとしてキャップとフロアも紹介されます。筆者の実感では実際の市場参加者が債券オプションを用いた分析をする場合、ほとんどの場合、国債先物オプションかスワップションになります。OTCデリバティブの分析という意味では、スワップションを用いることがほとんどでしょう。そのため、本稿ではスワップションに焦点を当てて説明をしました。
スワップションが使われる最大の理由は、スワップションのほうがキャップやフロアに比べて(相対的に)流動性が高いことが挙げられます*32。これに付随して、IVの時系列データなど、スワップションのほうがデータの取得が容易である点も挙げられます。スワップションは、あくまで金利スワップの受け・払いをするオプションであるため、キャップとフロアと商品性の違いはあります(キャップとフロアの商品性は後述します)。また、キャップとフロアの場合、円LIBORやTIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)など短期金利のオプションが取引される一方、スワップションの場合、短期から長期の年限のオプションのデータがとれます。もっとも、本質的には両者ともOTCの債券オプションであるため、IVなどに集約した分析などを考える場合、投資家などは違うものの、本質的な違いは少ないとみることもできます。ファイナンスのテキストではキャップとフロアについても触れられるため、本稿ではできる限り具体例に即して補足的な説明を行います。

6.2 キャップとフロアの基本的な仕組み
キャップとは、ある金利が、事前に定めた金利を上回った場合、その差額をキャップの売り手が買い手に支払うオプションです。一方、フロアとは事前に定めた金利を下回った場合に、その差額を売り手が買い手に支払うオプションです。キャップは金利変化に上限を課すという意味で帽子(キャップ)をかぶるというイメージである一方、フロアは金利変動に下限(フロア)を設けるイメージですが、両方とも金利に関するオプションです。これらはOTC市場で取引されています。
ここでは具体的な金融商品を見ることでキャップとフロアの特徴を考えていきます。例えば、仕組預金では支払い金利が変動金利であるものの、金利に下限が付されていることがあります。個人向け国債にも半年毎に利率が変わる商品(変動利付国債)がありますが、金利は0%以下にはならないという設計がなされています。これは、この商品に暗黙にフロアというオプションが含まれていることを意味します。同様に、例えば受け取る金利の上限(キャップ)が付されている場合もありますが、これはその商品に暗黙のうちにキャップというオプションが含まれていることを意味します。
ここではキャップとフロアをわかりやすさの観点で、仕組預金で説明しましたが(ハル(2016)でも仕組債の事例を用いて説明しています)、前述のとおり、OTC市場でキャップとフロアそのものの取引がなされています。例えば、「想定元本1億円、期間10年、頻度を半年に1度、権利行使価格を0%、参照金利をDTIBOR*33(6か月物)としたフロアのビッドが欲しい」などという形で注文がなされます。仕組預金の中にフロアやキャップが含まれていると記載しましたが、金融機関はこれらの商品を提供するうえで、フロアとキャップを使ってヘッジをしています*34。フロアの場合、前述のとおり、仕組預金などのヘッジで用いられることを考えると、権利行使価格が0%のフロアが取引される傾向がありますが、キャップの場合、様々な権利行使価格のキャップが取引されています。

6.3 キャップレットとフロアレット
キャップとフロアの大きな特徴は権利行使が複数回ある点です。先ほど例では、仕組預金の金利がその時々の金利に依存するというケース(変動金利のケース)でしたが、例えば半年ごとにその時々の金利が支払われるとします。この場合、仕組預金の変動金利に0%のフロアが付されているとしたら、半年ごとに金利がマイナスになった場合、0%に金利が設定されることを考えれば、利払いのタイミングごとにオプションの行使のタイミングが来ていると解釈できます。このように、キャップやフロアは権利行使のタイミングが複数回あるため、複数のオプションが組み合わさっていると解釈できますが、その一つのオプションだけを取り出したものをキャップレットとフロアレットといいます。その意味では、キャップ(フロア)とは、キャプレット(フロアレット)のポートフォリオと解釈できます。
ファイナンスのテキストではプライシングに際しては、キャップレットとフロアレットという形で議論がなされます。というのも、キャップレットとフロアレットのプライシングができれば、キャップとフロアはこれらのポートフォリオであることを考えると、キャップとフロアのプライシングも容易に複製できるからです(こういう工夫はファイナンスでよくなされます*35)。
スワップションについて実務家が分析する場合、ガンマセクターとベガセクターという表現がしばしば用いられます。結論からいえば、ガンマセクターはオプションの満期が1年未満のような比較的短いオプションを指し、ベガセクターとは満期が1年を超えるような満期が長いオプションです。ガンマとは行使価格が動いた時のオプションのデルタの変化であり、ベガとはIVが動いた時のオプション価格の変化です。ガンマやベガはオプションではデルタなどと並び「グリークス」と呼ばれますが、結論的には、満期が短いオプションについては、原資産が動くことの影響が大きいためガンマの影響が大きいですが、満期が長いと、原資産の価格の動きというよりは、IVの動きの影響が強くなり、ベガの重要性が増します(ガンマとベガの詳細はハル(2016)などを参照してください)。このようにオプションは満期の長さでガンマとベガの重要性が異なるため、その重要性に鑑み、年限が短いセクターをガンマセクター、年限が長いセクターをベガセクターといいます。ちなみに、国債先物オプションの場合、そもそも流動性があるオプションの満期が1か月以下ですから、ガンマセクターやベガセクターという表現が使われることはありません。
なお、ベガセクターおよびガンマセクターと年限の関係は、投資家や商品などによって変わりえる点に注意が必要です。図5 満期およびガンマセクター・ベガセクターの関係はHuggins and Schaller(2013)をベースに満期とベガセクター・ガンマセクターを整理した作成した図ですが、1年以下はガンマセクター、3年以降など年限セクターはベガセクターと呼ばれますが、1~3年などはグレーとして説明されています。

図5.満期およびガンマセクター・ベガセクターの関係はHuggins and Schaller(2013)をベー

7.終わりに
本稿ではスワップションの基礎について説明をしました。本稿ではスワップションのモデルについては触れなかったため、次回はモデルの概要について触れることを予定しています。

*1)本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。
*2)ファイナンスのテキストでも、スワップションは債券オプションの中で取り扱われます。例えば、タックマン(2012)ではスワップションは債券オプションの章で取り扱われます。
*3)本節については後藤勇人氏からコメントをもらいました。記して感謝申し上げます。
*4)例えば、2021年7月12日に2 year into 10 yearのスワップションを購入した場合、スワップションの取引日は2021年7月12日、スワップションの満期日は2023年7月12日、スワップションが行使された場合、スワップのスタートは2023年7月14日、スワップのエンド日は2033年7月14日になります。
*5)ここでのレンジと正規分布の関係は服部(2020b)で詳細に議論したため、説明を割愛します。詳細は同論文を参照してください。
*6)もし金利変化の分布に正規分布を仮定すれば、営業日をTとすると、1日で算出したボラティリティに√Tをかけ合わせることで、異なる期間のボラティリティを簡易的に算出できます(逆に、1年の営業日数を250とした場合、年率のリスク量を√250で割ることで1営業日のリスク量を算出できます)。ハル(2016)が指摘しているとおり、この性質は資産価格の変化が正規分布かつ独立同一分布に従っている場合は成立しますが、そうでない場合は近似式である点に注意が必要です。本稿では250営業日を1年としましたが、異なる営業日数を用いることがある点に注意してください。
*7)行使価格や満期を同じにしたペイヤーズとレシーバーズを同時に注文(ストラドルの注文)するなど、様々なバリエーションがありえます。
*8)バミューダ・オプションとは、満期日までの間で、行使可能な日が特定の制限されているオプションです。ハル(2016)では「標準的でないアメリカン・オプション」と整理されています。
*9)服部(2020b)を参照してください。
*10)日本国債現物オプションの場合、スポット価格=権利行使価格をATMということもありますが、日本国債現物オプションの場合、満期までの期間が短いことなどが一因です。ちなみに、株式については権利行使価格をスポット価格とするオプションをATMと呼ぶことが一般的であり、金融商品によって定義が異なる点に注意が必要です(株式の場合、フォワードを計算するうえで不確実性を含む配当が関係することがその一因です)。
*11)現時点で1か月後のスワップレートを先渡取引で決めることができることを考えれば、フォワードでATMを定義することは自然といえます。
*12)現金決済であれば、オプション満期時点以降にカウンター・パーティ・リスクは発生しない一方、現物決済では満期時点で金利スワップの受払が発生するため、そのスワップの終了期間までのカウンター・パーティ・リスクにさらされるといえます。また、カウンター・パーティ・リスクを回避するため、オプションのプレミアムの支払いを満期日の後にすることも少なくありません。
*13)本節については大石凌平氏(日本銀行)からコメントをもらいました。記して感謝申し上げます。
*14)日本国債VIXでは満期が1か月未満である第一限月と、満期が1か月以上2か月未満の第二限月のオプションの価格を用いて線形補間をすることでちょうど1か月のボラティリティを計算しています。日本国債VIXについては服部(2020c)を参照してください。
*15)図2では銀行の取引が多いですが、例えば銀行は仕組預金を取り扱っており、そのヘッジなどでスワップションが用いられています。
*16)例えば、2年のIVの場合、(6か月円LIBORを変動金利とする)2年金利スワップを原資産とし、行使価格をATMFとしたうえで、市場で取引されているストラドルのプレミアムをノーマル・モデルでIVに変換したものをみています。
*17)ストラドル・ロング(ショート)とは満期と行使価格が同じであるペイヤーズ・スワップションとレシーバーズ・スワップションを購入(売却)することを意味します。例えば、BloombergでIVを取得した場合、ストラドルの値が得られるため、ペイヤーズとレシーバーズ両方の情報を含んだ値が得られます。
*18)スワップションは外国人投資家に取引される傾向があるため、外国人投資家の投資行動とともに解説されることが少なくありません。日本銀行「金融市場レポート」(2010年7月)では、国債市場を説明するうえで、スワップションのIVの動きを議論しています。日銀では「デリバティブ市場では、2009年下期から2010年初にかけ、外国人投資家の間で、長期的な日本の財政悪化を見込んだ、スワップション等でのポジション構築の動きが活発化した」(p.35)とコメントしています。
*19)ここでは、日本国債とスワップ金利の間に高い相関を想定しています。もっとも、スワップ・スプレッドの変化があるとおり、両者の相関が崩れる可能性があります。スワップ・スプレッドについては服部(2020e)を参照してください。
*20)「弱くなるリスクも相応にみておくべきだろう、30年入札」(2016/10/11, Bloomberg)を参照してください。
*21)ボラティリティに依存する商品を持っている金融機関はリスク管理におけるリスク・ファクターとしてスワップションのIVを用いているケースは少なくありません。
*22)本節については森本祐司氏からコメントを頂戴しました。記して感謝申し上げます。
*23)経済価値ベースとは、時価など市場価格に整合的な手法で評価することを指します。
*24)例えば、2016年の前半などは20年国債の金利がマイナスになるなど、大幅に金利が低下する局面があり、生命保険会社のコンベクシティ・リスクの拡大が話題になりました。
*25)権利行使価格が(市場環境より)大幅に低い金利に設定されたスワップションは、現在行使しても利益が出ないという意味で、アウト・オブ・ザ・マネーといえますが、大幅な金利低下はあまり起こらないため、保険料であるプレミアムは低く、オプションを保有するコストを抑えることができます。
*26)ヘッジ効果を得るためにはスワップションの満期をある程度長く設定する必要があるのですが、満期を長くするとスワップションの流動性が落ちるというトレードオフがあります。また、ここでは行使価格を0.5%とした例をあげましたが、行使価格をどこに置くかなど、実務的には難しい点があります。
*27)保険料を契約時にまとめて一回で支払う終身保険を指します。
*28)デルタ(DV01)とデュレーションの違いは服部(2020f)を参照してください。
*29)一時払終身保険の場合、生命保険会社の有するデュレーションや購入する家計の年齢等に依存して、生命保険会社のバランスシートにおけるデュレーションへのインパクトが異なる点に注意が必要です。一時払終身保険は退職金の運用など高齢者による加入も少なくないため、デュレーションへのインパクトはそれほど大きくないという意見もあります。
*30)例えば、20年のスワップレートが1%の時、1.5%を権利行使価格とするペイヤーズ・スワップションを買っておきます。例えば、その後、実際に金利が1.5%以上に上昇した場合、このスワップションを権利行使するメリットが生命保険会社に生まれます。具体的には、市場で取引されるスワップ金利が1%であれば、1.5%の金利スワップを払う(1.5%の金利を払って変動金利を受け取る)オプションを権利行使するメリットはありませんが、市場で取引されるスワップ金利が1.6%であれば、(相対的に低いレートである)1.5%を払う(ペイする)オプションを行使するメリットが生まれます。スワップを払うことは、債券をショートすることと類似した取引でしたから、金利が上昇した場合、債券ショートのポジションを作り、金利リスク量を削減するポジションを作ることができます。
*31)日本経済新聞(2021/2/26)「米金利急上昇の裏に「コンベクシティ・ヘッジ」市場点描 マーケットの話題」などを参照。
*32)図2からスワップションの方がキャップやフロアより流動性が高いことが指摘できます。また、例えば、DTCCのデータレポジトリをBloomberg経由で見ると、スワップションのほうがフロアやキャップよりも取引件数や想定元本が大きい点も指摘できます。
*33)TIBORには本邦無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR(DTIBOR)」と本邦オフショア市場の実勢を反映した「ユーロ円TIBOR(ZTIBOR)」があります。
*34)例えば、フロアが付された商品を組成した場合、金利がマイナスになると、金融機関は市場の金利がマイナスにもかかわらず、金利は0%となるため(マイナス金利にもかかわらず金利を受け取らないため)、損失を被ります。そのため、0%のフロアを買っておくことで、金利がマイナスになった場合、利益が出るポジションを事前に作ることでこのリスクをヘッジすることができます。
*35)例えば、割引債は短期国債など一部に限られますが、割引債の価格のプライシングができれば、利付債のプライシングも複製されるため、ファイナンスのテキストでは割引債のプライシングに焦点が当てられます。

参考文献
[1].ブルース・タックマン(2012)「債券分析の理論と実践(改訂版)」東洋経済新報社
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[8].服部孝洋(2020f)「金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―」『ファイナンス』10月号、54–65.
[9].服部孝洋(2020g)「コンベクシティ入門―日本国債における価格と金利の非線形性―」『ファイナンス』12月号、66–75.
[10].ジョン・ハル(2016)「フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕―デリバティブ取引とリスク管理の総体系」きんざい
[11].ラッセ・ヘジェ・ペデルセン(2018)「ヘッジファンドのアクティブ投資戦略―効率的に非効率な市場」金融財政事情研究会
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[13].Hattori(2021)“Information content and market liquidity in the fixed income market:Evidence from the swaption market” Finance Research Letters102117.
[14].Huggins, D. and Schaller, C. 2013. Fixed Income Relative Value Analysis:A Practitioners Guide to the Theory, Tools, and Trades. Bloomberg Financial.