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ファイナンスライブラリー

土木学会建設マネジメント委員会インフラPFI/PPP研究小委員会 編 著 公共調達における事業手法の選択基準:VFM
評者 渡部  晶
丸善出版 2021年2月 定価 本体1,300円+税

本書は、公益社団法人土木学会建設マネジメント委員会の下に設置されているインフラPFI/PPP研究小委員会(主査:北詰恵一・関西大学教授、副査:大西正光・京都大学准教授。前身のPFI研究小委員会は2001年7月設置)のメンバーにより調査研究の成果の一部として世に問われたものである。
政府は、公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るPPP/PFI手法の推進を通じて、新たな事業機会の創出や民間投資の喚起による経済成長を実現することを目指している。最新の「PPP/PFI推進アクションプラン(令和3年改定版)」では、「多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針」に基づいて優先的検討規定を定め、的確な運用が求められる地方公共団体を人口20万人以上から人口10万人以上の団体に拡大し、令和5年度末までの策定を促すとする。
本書の主題は、「VFM(Value for Money)」である。そして、「大多数の地方公共団体でいまだ導入が進まない、また、インフラ事業での実績がほとんどない等の課題の基本的背景には、これまでとは異なる事業プロセスに対する担当者の抵抗感などが存在するが、PFIの効果であるVFMに対する理解が十分得られていないことも一つの大きな理由として考えられる」と、これまでの実態に即した適切な観察から、本書の目的を「公共サービスの提供事業における効率性及び効果の指標としてのVFMの測定方法だけではなく、それを高めるための一連のマネジメントについて改めて検討して提示することにより、わが国におけるインフラ分野をはじめとする適切な事業に対してPFIの導入を推進することである」とする。
構成は、第Ⅰ部第1章PFI/PPP概論、第2章VFMの従来の考え方と計測方法、第3章VFMを高める価値ドライバー、第4章VFMマネジメントの考え方と方法、第Ⅱ部第5章VFMマネジメントマニュアル、第Ⅲ部 補.1 PPP/PFIの諸論点に関する学問的背景、補.2 確率分布が得られたときのリスク定量化手法、となっている。
端的にいえばPFIとは事業主体に工夫を促す発注制度でかつ規律付けの仕組みといえる。この視点から、本書ではPFIのメリット、すなわちVFMの源泉を7つに整理している。それは、(1)性能発注、(2)複数年契約、(3)一括発注、(4)包括契約、(5)競争的緊張環境、(6)リスク対応、(7)モニタリングの7つである。
7つの源泉の解説、第3章第2節「VFMの源泉に対する評価」は、本誌ファイナンスで「路線価でひもとく街の歴史」を連載中の鈴木文彦氏(大和総研)が執筆する。性能発注は、「仕様」の選択肢が広がること、一括発注による整備条件の分離・分割による非効率の解消、複数年契約による引継ぎコストの削減、知見の蓄積による業務品質の向上、長期投資が可能となることによるイノベーションの創出効果、包括契約(本来の公共施設の整備・運営事業に加え、他の公共施設あるいは収益施設にかかる整備・運営事業を包括的に担う契約)によるシナジー効果、VFM実現を規律付ける競争、従来の短期・不安定な公共発注に対して長期契約であることによるガバナンスで整備、維持管理・運営の追加支出の抑制可能にするリスク対応、事業の実施期間にわたって競争に代わる規律付け効果を発揮するモニタリング、とそれぞれについて簡にして要を得た解説がなされている。
評者が前職で在籍した沖縄振興開発金融公庫では、PPP/PFI地域プラットフォームの協定制度の第1次募集に応募し、「沖縄地域PPP/PFIプラットフォーム」として、沖縄県、沖縄電力株式会社とともに代表者となり、2019年5月に内閣府・国交省と協定を結んだ。これには、沖縄におけるPPP/PFIへの普及について公庫なりの現状認識と地域の課題解決を「自分ごと」にしていくという覚悟があった。2017年10月福岡開催の国交省主催の九州・沖縄ブロックのPPP関連の会合に参加した職員は、地域ごとの活動が熱く報告される中、沖縄の事例は皆無であることに強い危機感をもったという。そして、沖縄で官民連携が少ない理由のひとつに、効果や必要性に対する認識の遅れがある、という。(詳しくは、読売新聞オンライン「調査本部」2021年3月4日付掲載記事「沖縄で胎動する官民連携『プラットホーム』活動の推進」(執筆:伊志嶺朝彦 沖縄公庫調査部地域連携情報室長)(https://www.yomiuri.co.jp/choken/kijironko/ckeconomy/20210301-OYT8T50104/)を参照のこと。)このような地域はまだまだ全国的には多いと考えられる。このような中、PPP/PFIの中核である「VFM」に焦点を絞った本書の意義は極めて大きい。関係者に広く一読をお勧めしたい。