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地域開発金融機関(RDBs)の年次総会について

国際局開発機関課課長補佐 影山  昇*1

1.概要
国際開発金融機関(MDBs)のうち、特定の地域における開発を支援する地域開発金融機関(RDBs)であるアジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)、アフリカ開発銀行(AfDB)及び欧州復興開発銀行(EBRD)については、例年、春頃にそれぞれ年次総会を開催している。
昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、春に予定されていた年次総会が延期されるとともに、ADB・AfDB・EBRDの3機関*2については、昨年8月から10月にかけてバーチャル形式*3で年次総会が開催された。
本年は、各RDBsとも、当初の予定どおり、5月から7月にかけて年次総会を開催することとはしつつも、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、バーチャル形式での開催を決定した。
これらの年次総会は、各地域の開発課題等について、加盟国・地域等が一堂に会して議論を行う重要な会議であるところ、開催順に沿って、概要を紹介したい。

2.米州開発銀行(IDB)第61回年次総会・米州投資公社(IIC)第35回年次総会(3月17~21日)
IDB第61回年次総会及びIIC第35回年次総会は、当初、2020年3月にコロンビアのバランキージャで開催予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により2021年3月に延期されたところ、引き続き、通常通りの形式での年次総会の開催が困難な状況であることを踏まえ、本年3月17日から21日にかけてバーチャル形式で開催されることとなった。
今回は、昨年10月に就任したマウリシオ・クラベルカロネIDB総裁下での初めての年次総会となり、同総裁の下で示された今後5年間(2021~2025年)のIDBグループのビジョンである「Vision 2025」等について議論が行われた。
日本からは、三村審議官(当時)が臨時総務代理として出席した。
日本は、総務演説の中で、IDBグループによる新型コロナウイルス対策を評価するとともに、「Vision 2025」を歓迎した上で、公的セクターと民間セクターのシナジー強化の重要性と、積極的な民間資金動員や組織運営の一層の効率化の必要性を指摘した。加えて、「Vision 2025」を効果的・効率的に遂行していく上で、望ましいIDBグループ全体の最適な組織構造や理事会によるチェックを含むガバナンスの在り方について議論する必要があり、今後更にメインストリーム化する民間セクター業務に、(IICのみならず)IDB本体がより主体的に関わるべき旨を発言した。
また、年次総会に併せて3月19日に開催された多数国間投資基金(MIF(通称:IDB Lab))セミナーにおいては、麻生財務大臣より、IDB LabがIDBグループ全体に不可欠な「革新的実験室(innovation laboratory)」として機能しており、ポスト・コロナの復興では、このような革新的な技術を活用するIDB Labの役割が一層重要になる旨のビデオメッセージを発信した。
更に、3月24日に開催された日本信託基金(JSF)の署名式には、中西財務副大臣がバーチャル形式で出席し、JSFの重点分野として、従来から掲げている質の高いインフラ投資に防災・保健を加えて3本柱とし、これら重点分野の取組みにおいてIDB Invest・IDB Labを含むIDBグループ全体と協力するため、日本としてJSFに新たに2,000万ドルを拠出する旨を表明した。

3.アジア開発銀行(ADB)第54回年次総会(5月3~5日)
ADB第54回年次総会は、当初、本年5月にジョージアのトビリシで開催予定であったが、IDB年次総会と同様に、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、5月3日から5日にかけてバーチャル形式で開催され、日本からは、ADB総務である麻生財務大臣が出席した。
日本は、総務演説の中で、新型コロナウイルスによる危機からの脱却に向け、ワクチン・治療薬・診断薬の開発・製造・普及を一層促進し、途上国を含めた公平なアクセスを確保することが不可欠であり、浅川雅嗣総裁*4の強力なリーダーシップの下でADBが実施してきた緊急支援パッケージやワクチン支援イニシアティブ(APVAX)等の取組みを高く評価する旨に言及した。
また、総務演説では、強靭で持続可能な復興に向けた、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進の重要性について指摘しつつ、アジア・太平洋地域においてUHCを支える(1)制度枠組の構築、(2)人材育成の強化、(3)インフラの整備から成る3本柱に係る支援を加速する観点から、日本として日本信託基金(JFPR)に新たに1,500万ドルを拠出することを表明した。更に、気候変動・防災への対応や、質の高いインフラ投資、国内資金動員、債務の透明性・持続可能性といった課題を重視している旨を示した。
年次総会に併せて5月3日に開催されたADB総務セミナーには、麻生財務大臣がパネリストとして出席し、アジア・太平洋地域の途上国のコロナ禍からの復興に向けた課題として、UHCの促進や、気候変動への対応・防災、質の高いインフラ投資、国内資金の動員、債務の透明性・持続可能性の確保といった分野が重要である旨を指摘しつつ、浅川総裁のリーダーシップの下で、こうした分野での取組みを継続してほしい旨の期待を表明した。
更に、同日に開催された税に関するセミナーにおいても、麻生財務大臣より、租税分野での豊富な経験と国際租税等に関する優れた見識を有する浅川総裁のリーダーシップの下で、国内資金動員と国際租税協調の促進を目的としたリージョナル・ハブが設立されることを歓迎する旨のビデオメッセージを発信した。

4.アフリカ開発銀行(AfDB)第56回年次総会・アフリカ開発基金(AfDF)第47回年次総会(6月23~25日)
AfDB第56回年次総会及びAfDF第47回年次総会は、当初、本年5月にガーナのアクラで開催予定であったが、他の機関と同様に、6月23日から25日にかけてバーチャル形式で開催されることとなり、日本からは、麻生財務大臣がビデオメッセージを発信するとともに、三村審議官(当時)が臨時総務代理として出席した。
日本は、年次総会において実施された総務対話及び日本がパネリストとして参加した債務に関するハイレベルナレッジイベントにおいて、(1)債務措置に係る共通枠組の迅速な実施、(2)債務データの突合(debt data reconciliation)による債務データの透明性・正確性の確保、(3)秘密条項やnon-Paris Club条項などの不適切な契約慣行の是正が、アフリカの国々の利益になる点を強調した。
また、総務演説の中で、アフリカにおける強靱で持続可能な成長に向けた取組みとして、債務の透明性・持続可能性の確保、気候変動や自然災害への対応、質の高いインフラ投資の促進の重要性を指摘するとともに、こうした取組みの前提として、AfDB自身が、透明性が高く信頼される国際機関であり続けるために、引き続き、ガバナンスの強化に取り組む重要性に言及しつつ、ガバナンス改革に関する暫定委員会による報告に期待する旨を示した。

5.欧州復興開発銀行(EBRD)第30回年次総会(6月28日~7月2日)
EBRD第30回年次総会は、当初、本年5月にアルメニアのエレバンで開催予定であったが、他の機関と同様に新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、6月28日から7月2日にかけてバーチャル形式で開催され、日本からは、元榮財務大臣政務官が臨時総務代理として出席した。
日本は、総務会合(プレナリーセッション)や総務演説において、EBRDによる新型コロナウイルス対応策(COVID-19 Solidarity Package)を評価するとともに、EBRDの限られたリソースを効果的かつ効率的に活用する観点から、引き続き、最大の移行効果が見込まれる中央アジアやモンゴルを始めとする市場経済への早期移行段階の国(Early Transition Countries)に対する支援を重点化すべき旨を指摘した。
また、日本として、中期戦略(Strategic and Capital Framework 2021-2025)の合意に基づき、EBRD支援対象国の拡大について、引き続き建設的な議論を行っていく意向を示すとともに、EBRDの支援を卒業した国が、危機等で再びEBRDによる支援が必要となった場合に、一時的に支援対象国に戻ることを可能とする仕組み(Post-Graduation Operational Approach)に関する議論を支持する旨を表明した。
更に、東京にあるEBRD代表事務所の重要性を指摘しつつ、日本の技術・知見をEBRDの支援に一層活用するため、同事務所がその機能を更に発揮していくことを期待する旨を示した。
なお、プレナリーセッションの冒頭では、総務会議長(ドナフー・アイルランド財務大臣)より、本年8月1日から日本人の小口一彦氏が新事務局長に就任することについて言及があり、祝辞が述べられた。

6.終わりに
新型コロナウイルスの感染拡大が収束を見せない中で、各RDBsともにバーチャル形式での年次総会という異例の対応が求められているが、こうしたRDBsの年次総会における議論を通じて、各地域の状況を踏まえた新型コロナウイルス危機への対応と、危機からの強靭で持続可能な復興が更に促進されることを期待したい。

*1)本稿において意見の表明に当たる部分は、筆者個人の見解であり、財務省、日本政府の意見を代表するものではない。
*2)IDBについては、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、2020年は年次総会を開催せず、2021年に延期することを決定。
*3)ただし、RDBsの事務局や議長国等、一部の出席者は、物理的に開催地で会議に出席。
*4)本年4月26日、浅川ADB総裁は、現在の任期(~2021年11月23日)満了後の再選を目指す意向を表明した。これを受け、日本政府は、同日付で財務大臣談話を発出し、浅川総裁の卓越した指導力を評価するとともに、再選を支持する旨を示した。