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新型コロナウイルス感染拡大後の海外出張について(G7財務大臣会合、2021年6月4、5日、於:英国ロンドン)

前大臣官房秘書課財務官室主任 小山  祥子/前国際局国際機構課企画係長 竹谷  綾

6月4日から6月5日にかけて、G7財務大臣会合(G7)が英国ロンドンにて開催されました。本会合は、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、初めて対面開催されたG7であり、同時に2020年2月*1以来約1年半ぶりの麻生大臣の海外出張となりました。
会合では、議題としてデジタル課税、経済政策、気候変動、保健、また低所得国支援等について議論されました。また会合の合間に、本年1月末に就任したジャネット・イエレン米国・財務長官や議長のリシ・スナク英国・財務大臣をはじめ、各国財務大臣や各国際機関の代表とのバイ会談も数多く実施されました。
以下では、今回の麻生大臣訪英の概要について、新型コロナウイルス感染拡大後という特殊な状況での海外出張という点にフォーカスしてご紹介させていただきます。

1.コロナ危機下ならではの風景
新型コロナウイルス感染拡大以降の必需品と言えばマスクです。今回のG7でも、英国政府より各国代表団に公式マスクが配布されました。英国ではワクチンの接種が進んでおり屋外ではマスクを着用しない人も多いものの、今回のG7の会場内ではマスクの着用が義務付けられました。多くの参加者は、会場内で会合やバイ会談に参加している間、基本的にこの公式マスクを着用していました。新型コロナウイルス感染症が収まらない中で開かれたG7ならではの象徴的な光景でした。
また閣僚同士の挨拶は通常握手ですが、今回は英国政府より、感染防止のため肘と肘を突き合わせる「エルボー・グリーティング」を行うことを要請されました。麻生大臣も、多くの閣僚とエルボー・グリーティングを交わし、親交を深められました(写真(1))。国際会議で通常撮影されるファミリー・フォト(参加閣僚陣の集合写真)は、一定の距離を開けて撮影されました(写真(2)、距離を開けた上でマスクは外しています)。更に、会場内にはアクリルパネルが複数設置され、会談に用いられる部屋にも定期的に消毒・清掃が入るなど、会合期間中は終始感染対策が徹底されていました。
こうした取り組みは、全て感染対策の一環ですが、出席者の動線や会合の進行にも一定程度の影響を与えました。新型コロナウイルス感染症拡大以降に開催された会合ならではの出来事として象徴的であったといえます。

写真:(1)エルボー・グリーティングの様子
写真:(2)ファミリー・フォト

2.日本側の徹底した感染対策
今回の大臣訪英で何よりも重視したのは、感染対策の徹底です。麻生大臣は国会会期中のため、日本帰国後も国会へ出席し公務をこなす必要があります。英国政府からの要請に加え、日本側としても万全の感染対策を講じました。以下では、このうち一部をご紹介させていただきます。
まず、出張者については、G7の業務に関連する範囲に行動を厳格に制限しました。また英国滞在中の面会相手を限定し、現地で不特定多数の人と接触出来ないよういわゆる「Bubble(バブル)」を形成しました。結果、筆者も含め、出張者の中には、滞在期間中、会場のランカスターハウスはおろかホテルから一度も足を踏み出さずに帰国する者もいました。
また、人数制限や社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保にも努めました。具体的には、出張中の作業部屋や勉強会部屋等、ホテルの会議室内で出張者が集まる際には厳しい人数制限が敷かれました。また出張者がホテル・会場間を移動する際の車内でも、密な空間とならないよう、乗車可能人数の約半数の人員で移動しました。宿泊先ホテルで行われた記者会見は、対面形式で現地特派員を対象に実施しましたが、参加人数を制限し、大臣と記者の間には十分な距離をあけたうえでアクリルパネルを設置するなど、感染対策を徹底しました。
更に、感染経路として最も懸念される食事中の会話を防ぐため、食事は原則として宿泊ホテルのルームサービス、もしくは会場内にて提供された食事(お弁当のようなランチボックス等)等に限定しました。不特定多数の人との接触が懸念されるホテル内レストランの利用を禁止することで、感染リスクを最小限に留めました。
これらの感染対策のほか、出張前後および出張期間中は、全出張者が複数の検査を実施しました。まず日本出国前に、英国入国時に義務付けられるPCR検査を実施しました。この検査は、英国入国72時間前以内に実施し、英国政府が求める条件に合致した陰性証明書を発行してもらわなければなりません。英国到着後は、英国政府が今回の各国代表団に求めるPCR検査を初日に受検し、さらに迅速抗原検査と呼ばれる簡易的な検査を毎朝受検しました。この迅速抗原検査は、30分程度で検査結果が判明するタイプのものでした。毎朝起床とともに各自ホテルの客室内で受検し、結果判明後に出張者全員へメールで報告することとしました。出張期間中は、この陰性報告メールが出張者間での起床の合図のようになっていました。この他にも、日本への入国時提出用に現地でPCR検査を1回、帰国時の空港で抗原検査1回、更に帰国後3日目にもPCR検査を1回受検する必要がありました。合計で1人当たり約8~10回検査を受けたことになります。また、現地で支援をいただいた在英大使館の職員・運転手等についても同様にPCR検査や迅速抗原検査を実施しました。
感染対策を徹底した効果もあり、今回の出張では財務省・金融庁からの出張者、および在英大使館の職員・運転手等について、一人も陽性者を出すことなく無事会合を終えることができました。

3.英国政府の厳しい制限
厳重な感染対策を敷いたのは英国政府側も同様です。英国政府は、感染リスクを抑えるために各国からの出張者数を厳しく制限しました。このため、今回の出張では通常の大臣出張よりも日本から派遣する出張者数を減らしました。現地では限られた人員で大臣のサポートや会議の交渉にあたることとなり、各出張者は睡眠時間を惜しんで対応に当たりました。特にG7の会場内は人数制限が厳しく、参加者が一人何役もこなす場面もありました。また、東京からも遠隔で手厚いサポートをもらうことで、無事に出張を乗り切ることができました。大臣出張の円滑なサポートのためには、一定の出張人数が求められますが、十分なサポート要員の確保と万全な感染対策とのトレードオフは当面免れないと考えられます。

4.対面開催ならではの特長
感染対策を行いながらの大臣出張は苦労が尽きませんが、やはり国際会議は対面開催でしか得られない成果があります。
まずは、参加者同士が相手の印象や人柄を良く知ることができる点です。前述の通り、今回の訪英では数多くのバイ会談が設定された上、大臣級同士・財務官級同士が親交を深める場も設けられました。例えば、麻生大臣は今回リシ・スナク英国・財務大臣とは初対面(写真(3))でしたが、「話をしていても、理屈はきちんと整然としているし、話が一方的に話し倒すというふうな感じでもないし、人の話はちゃんと聞いてまとめようとする」等と、まさに相手と対面で話すことで、オンライン上では分からない相手の人柄全般を知ることが出来たと語っています*2。こうしてG7の財務大臣が、対面で本音の意見交換を行うことで、G7が一致して世界をリードしていくとの力強いメッセージを発信できました。この点は、対面開催でしか得られない収穫であったといえます。
また、対面で参加することで、会合の交渉等は大きく捗りました。今回の会議では、現場で急遽専門家同士で集まり喧々諤々の議論を行い、合意を目指す場面もありました。加えて、時差に関係なく会合を開くことができた点もメリットの一つとして挙げられます。オンラインのビデオ会議では、どうしても時差に左右されてしまい、長時間国際会議を開くことが難しくなります。日米欧がオンラインで議論をしようとすると、米国は早朝、日本は夜の開催とならざるを得ず、交渉が長引くと、日本は徹夜の対応が迫られることもしばしばです。中には時差ボケに苦しむ職員もいましたが、滞在地の日中にまとまった時間をとって議論が行えることは、出張の大きなメリットといえます。
写真:(3)リシ・スナク英国・財務大臣との写真

5.最後に
2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、国際会議のあり方が大きく変容しました。オンライン開催が世界中で急速に普及し、その効率性と利便性が広く知られたのも事実です。しかし、今回のG7財務大臣会合では、対面開催ならではのメリットが改めて認識されました。麻生大臣は7月にも、イタリアのベネチアにてG20財務大臣・中央銀行総裁会議に参加されました。当面、海外出張では様々な防疫措置や人数規制が避けられませんが、安全な海外出張に向けてさらなる模索を続けていくことになります。

*1)麻生大臣は、2020年2月22-23日にサウジアラビア・リヤドで開かれたG20財務大臣・中央銀行総裁会議へ参加されました。
*2)令和3年6月5日(土)にロンドンにて行われた麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣記者会見での発言。