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特集 令和7年までに40%へ国税のキャッシュレス納付拡大に向けた国税庁の取組

納税者の利便性向上や社会コスト縮減の観点から、申告手続や納付手続のオンライン化が進められる中、令和2年10月に開催された「第一回デジタルガバメントWG」では、個別分野におけるオンライン利用率の大胆な引上げが審議された。財務省ではこれを踏まえて「オンライン利用率引上げの基本計画」を策定し、申告手続と納付手続のオンライン化を推進している。今回は、主に納付手続のキャッシュレス化の視点から、財務省、国税庁の取組を紹介する。 取材・文 向山 勇
写真:ダイレクト納付の利用勧奨をするリーフレット
写真:インターネットバンキング等で納付が可能となるPay-easy(ペイジー)のサイト
写真:東京国税局で令和3年5月24日に行われた「キャッシュレス納付推進宣言」
写真:クレジットカード納付の方法を紹介するリーフレット

国税キャッシュレス納付拡大の目的とは納税者の利便性向上と現金管理等の社会全体のコストの削減を目指す

財務省はオンライン利用率引上げの基本計画を策定

国税の納付方法は大きく分けて「現金納付」と「キャッシュレス納付」の2種類がある。金融機関や所轄の税務署で納付する「窓口納付」とコンビニエンスストアで納付する「コンビニ納付」は現金納付に分類される。
一方、e-Taxを利用して預貯金口座から振替により納付する「ダイレクト納付」、インターネットバンキングを利用する「インターネットバンキング等」、国税クレジットカードお支払いサイトを利用する「クレジットカード納付」、預貯金口座から振り替える「振替納税」はキャッシュレス納付に分類される。
こうした納付手段がある中で、納税者の利便性の向上や納税事務の効率化を図り、現金管理等に伴う社会全体のコストを縮減するには、キャッシュレス納付の拡大が不可欠となっている。
政府は「成長戦略フォローアップ」(令和2年7月17日閣議決定)で「キャッシュレス決済比率を令和7年度までに4割程度」を目指すこととしている。さらに最近は、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点から、非対面で納付可能なキャッシュレス納付の利用拡大がより重要性を増している。
その中で令和2年10月12日に開催された「第一回デジタルガバメントWG」では、個別分野におけるオンライン利用率の大胆な引上げが審議された。これを踏まえて財務省では、オンライン利用率引上げの対象として「国税納付手続」を挙げ、「オンライン利用率引上げの基本計画」(令和2年12月4日)を策定した(令和3年4月21日改定)。
今後はこの基本計画に基づいて、キャッシュレス納付の利用拡大に取り組んでいく。
図.国税の納付方法


「オンライン利用率引上げの基本計画」とは国税申告手続と国税納付手続のオンライン利用を拡大へ

法人税申告、法人の消費税申告は令和5年度末に90%超へ引上げ

財務省の「オンライン利用率引上げの基本計画」では、(1)国税申告手続(法人税申告)、(2)国税申告手続(消費税申告(法人))、(3)国税納付手続の3つの手続が対象となっている。国税のキャッシュレス納付を拡大するには、申告手続のオンライン化が不可欠であるため、申告と納税を一体化して進めていく。
国税申告手続(法人税申告・消費税申告(法人))では、納税者(法人)は、各事業年度に確定申告書等を作成し、申告期限までに提出しなければならない。また、納税者は、申告等により確定した税額等に基づき、金融機関やコンビニ、税務署の窓口での納付のほか、各種キャッシュレス納付のいずれかの方法により、納期限までに納付する必要がある。
令和元年度の法人税申告の年間手続件数は2,720,438件で、そのうち、2,368,882件がオンラインで手続されており、オンライン利用率は87.1%となっている。
一方、消費税申告(法人)の年間手続件数は1,988,381件で、そのうち1,725,177件がオンラインで手続されており、オンライン利用率は86.8%となっている。
「オンライン利用率引上げの基本計画」では、これらのオンライン利用率を令和5年度末までに90%超とすることを目標にしている。国税申告手続(法人税申告・消費税申告(法人))の利用率が既に高水準となっているのは、様々な周知広報施策や利便性向上施策が功を奏した結果といえる。
また、平成30年度税制改正で大法人の電子申告義務化(令和2年4月以後開始事業年度から適用)が実施されたことから、大法人の法人税・消費税の申告は電子申告の利用率は100%となる。さらに、令和2年度税制改正では、グループ通算制度が導入(令和4年4月以後開始事業年度から適用)された。加えて、グループ通算制度適用法人の法人税の電子申告が義務化されたことから、グループ通算制度適用法人の法人税の申告は、電子申告の利用率は100%となる予定となっている。
一方で現在は電子申告義務化の対象となっていない中小法人は、将来的に電子申告の義務化が実現されることを前提として、電子申告の利用率100%を目標としているが、早期に法人全体のオンライン利用率を向上させるため、令和5年度末までに90%超を目標値として設定した。

図.オンライン利用率引上げの基本計画(令和3年4月21日)

目標達成へ中間KPIとアクションプランを設定
国税納付については、令和元年度の年間手続件数44,844,944件のうち、オンライン件数は11,476,233件でオンライン利用率(キャッシュレス納付割合)は25.6%となっている。「オンライン利用率引上げの基本計画」では、これを令和7年度末までに40%へ引き上げることを目標にしている。
これらの目標を達成するためにアクションプランと中間KPIが設定されている。また、スコアカードを作成し計画の進捗状況を視覚化するとともに、原則四半期ごとに更新・公表していく予定。さらに、利用者目線での第三者チェックも予定している。

窓口納付の納税者を対象に理由等のアンケートを実施
国税庁では、年間を通じてe-TaxのUI/UXに関する利用者のアンケートを実施し、その結果を毎年8月に公表している。この取組を継続するほか、新たな取組として、e-Taxを利用していない法人・税理士や金融機関窓口で国税の納付を行っている納税者を対象に、その理由等に関するアンケートやヒアリングを実施する。このアンケート等は、毎年、法人の申告や納付の件数が多い5~6月を目途に行うこととし、その結果は従来のe-Taxに関するアンケートと併せ、8月を目途に公表する予定となっている。

図.オンライン利用率を引き上げる際の課題と課題解決のアクションプラン

キャッシュレス納付率の引上げ
利用勧奨、既存納付手段の改善、新たな納付手段の提供で4割目指す

国税のキャッシュレス納付の利用率は着実に増加しつつある

国税のキャッシュレス納付の利用率は、着実に増加している。平成25年度には振替納税と電子納税を合わせて18.9%だったが、平成29年1月4日からクレジットカード納付がスタートし、令和元年度時点では振替納税、電子納税、クレジットカード納付を合わせたキャッシュレス納付の割合は25.6%まで拡大した。
一方で全体の4分の3の国税納付が金融機関や税務署で行われており、納税者の利便性を向上させるとともに、現金管理等に伴う社会全体のコストを縮減するには、より一層キャッシュレス納付を推進していく必要がある。
政府は中期的な目標として「納税者が税務署等の窓口に赴くことなく、自宅や事業所で、スマート、スムーズ、スピーディーに納付できる姿」を掲げ、令和7年度までにキャッシュレス納付比率を4割程度まで引き上げることを目指している。
具体的には、(1)利用勧奨、(2)既存納付手段の改善、(3)新たな納付手段の提供(多様化)に取り組んでいく。
「利用勧奨」では、官民連携による周知を強化するとともに、関係団体等と協力してダイレクト納付の利用の働きかけをしていく。令和元年10月には地方税共通納税システムが稼働し、全ての都道府県、区市町村を対象として複数の地方公共団体へ一括して電子的に納付できるようなった。これにより、源泉所得税(自主納付分)と納期限が同じ個人住民税(特別徴収分)もダイレクト納付が可能になった。源泉徴収義務者にとっても、キャッシュレス納付の利用メリットが増したことから、源泉徴収義務者を第一順位の勧奨対象と位置付け、利用拡大に向けて積極的に取り組んでいく。
「既存の納付手段の改善」では、令和3年1月から個人事業者のダイレクト納付及び振替納税の利用届出手続のオンライン化が実施された。これまで国税の振替納税を利用する場合には、事前に税務署又は希望する金融機関に振替依頼書を書面で提出する必要があったが、パソコン、スマートフォンからe-Taxを使って簡単な操作で提出できるようになっている。同様に個人のダイレクト納付利用届出書もe-Taxを使って提出できるようになっている。
「新たな納付手段の提供」では、新たな決済手段の活用を進めていく。その一つとしてスマートフォンのアプリ決済サービスを使用した納付を可能とする仕組みを導入する予定。税額は30万円以下に限定されるが、納付書で納付できる国税の全てを対象とし、税目による制限はない。

各国税局は関係民間団体や地方公共団体と連携

キャッシュレス納付の利用拡大に向けては、各国税局で策定した中期取組方針に沿って、関係民間団体や地方公共団体、金融機関等の協力を得て組織的かつ計画的に利用勧奨をする必要がある。一方、国税庁では最新の技術動向を参考にしながら既存の納付手段の改善や新たな納付手段の提供の検討も進めている。
新型コロナウイルス感染症の影響によって、キャッシュレス納付の利用勧奨において対面による働きかけが困難になっている。現在、現金納付の利用者の大半は金融機関の窓口利用者であることを踏まえ、国税庁と国税局、税務署がそれぞれ金融機関や関係民間団体と連携し、キャッシュレス納付の利用勧奨をしていく。特に納付機会の多い源泉所得税(自主納付分)や法人の消費税中間申告を窓口で納付している納税者をターゲットにしていく。
国税納付手続のキャッシュレス化の具体的な取組は、財務省の「オンライン利用率引上げの基本計画」に示されている(P5参照)。国税納付手続のキャッシュレス化の目標設定に当たっては、「2025年6月までに、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とする」ことを目標とした「成長戦略フォローアップ」(令和2年7月17日閣議決定)を参考に、過去からのキャッシュレス納付割合の進展状況のほか、今後の利用勧奨の強化や既存の納付手段の改善等の具体的な取組も踏まえた。
現状では金融機関窓口での納付が67.1%(令和元年度)を占めており、事業者においては、従業員給与などの国税以外の支払に合わせて国税の納付を行っている実態がある。今後、金融機関の窓口業務が非接触型に切り替わっていけば、国税以外の支払に係るキャッシュレス化が進展すると考えられ、国税の納付手続においても一層のキャッシュレス納付割合の向上が期待される。
実際の取組ではダイレクト納付の拡大に関する課題を「関係民間団体や金融機関と連携した利用促進」と「納税者のニーズや技術動向を踏まえ、納税者の利便性の更なる向上」に分けて、アクションプランなどを設定している。
前者は関係民間団体や金融機関と連携した利用促進が必要であることから、3つのアクションプランを設定している。
アクションプランaでは、関係民間団体、金融機関及び税理士を通じた利用勧奨、説明会の開催や金融機関窓口等へのリーフレットの備付等による周知・広報を行う。アクションプランbでは、ダイレクト納付の利用届出(振替納税の依頼)のオンライン手続の利用可能金融機関を拡大する。アクションプランcでは、国税及び地方税のキャッシュレス納付割合を向上させるため、金融機関や総務省等と意見交換会を定期的に開催し、協働して対応策を検討・実施する。
アクションプランa、b、cともに取組期限(期間)は、令和5年度末までとしている。中間KPIとして、令和5年度末までに、ダイレクト納付の利用届出の累計提出件数476,792件(ダイレクト納付の利用届出の累計提出件数)を目標とする。
後者では、一つのアクションプラン設定している。アクションプランaとして、スマートフォンを使用した決済サービスの利用が拡大していることを踏まえ、同サービスによる国税の納付を可能とする。これは今後導入が予定されている。また、中間KPIとして令和5年度末における、スマートフォンを使用した決済サービスによる納付件数40万件を目標としている。

図.納付手段別納付割合の推移等
図.キャッシュレス納付の推進に向けた今後の取組
図.窓口で納付している納税者の電子申告の割合

column
各地の国税局でのキャッシュレス納付の推進に向けた独自の取組
東京国税局
地方公共団体、金融機関を含む126団体で共同宣言
東京国税局は令和3年5月24日に全国の国税局で初めて「キャッシュレス納付推進宣言」を行った。
東京国税局では、令和2年7月から日本銀行、千葉県、東京都、神奈川県及び山梨県とともに利便性の周知や普及促進に向けて協議を重ねてきた。今回の宣言では金融機関等への傘下も呼び掛け、全国銀行協会、全国地銀協会等の協会19団体、大手都市銀行をはじめとした銀行・信金・信組等84団体のほか、関係民間団体等13団体、その他4団体の合計126団体という過去最大規模のメンバーが参加した。また、東京国税局では、全国で初めて国税・地方税の共通リーフレットの作成、YouTube動画によるダイレクト納付の登録手続の案内なども行っている。

写真:全国で初めて作成された国税・地方税の共通リーフレット
写真:東京国税局が作成したYouTube動画「今すぐ始めるダイレクト納付~登録手続編~」

岡山県
「電子納税推進宣言inおかやま」を開催
岡山県では「金融機関」「行政機関」が連携・協調し「電子申告・納税システムの利用」「ダイレクト納付を初めとした納税手続きの電子化の推進」の意義の醸成を図るため、令和元年11月25日に「電子納税推進宣言inおかやま」を開催した。県単位での宣言は全国で初めてで関係機関が共同して取組を進めていくとともに、広く県民に発信していくとした。

写真:「電子納税推進宣言inおかやま」の宣言書