このページの本文へ移動

巻頭言:オールジャパンで挑戦―日本の有人宇宙活動は新たなステージへ―

JAXA 若田  光一
日本の有人宇宙活動は毛利宇宙飛行士が搭乗した1992年のスペースシャトルによる宇宙環境利用から始まりました。シャトルミッション参加による有人滞在や宇宙実験に必要な知見や技術の修得からスタートし、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟や宇宙ステーション補給機「こうのとり」の開発と運用、日本人宇宙飛行士によるISS滞在、「きぼう」利用の蓄積を進め、世界から高い信頼を得る水準に到達しています。現在、「こうのとり」の後継機HTV-Xや月周回有人拠点の開発が進められています。昨年から今年5月にはJAXAの野口飛行士がISS長期滞在を成功させ、現在星出飛行士がISS船長として活躍中です。
ISS運用・利用における着実な歩みは、我が国の国際的プレゼンスの向上に寄与するものですが、これは、国際的協力関係構築における財務省、文科省、内閣府、外務省をはじめとする関係省庁、「きぼう」や「こうのとり」、実験装置等の開発企業、運用・利用計画を立案し実行する運用管制チーム、実験研究者、技術者、宇宙飛行士等、多くの方々の力の結集で実現できた成果であり、オールジャパンでの取り組みが日本の有人宇宙分野での国際的な信頼を生んでいると実感します。
ISS有人滞在開始から20年、また「きぼう」利用開始から12年が経ち、ISSは2024年までの運用が国際的に合意されており、現在各国でISSの運用延長が検討されています。昨年度の「きぼう」利用の状況としては、新たな技術獲得や民間需要創出を実現し、ISS参加5極中最も効率よく利用成果を創出しています。具体的には、臓器創出を目指したiPS細胞を用いた立体培養技術の開発、宇宙放送局等の民間の事業展開に向けた取組み、新興国の宇宙参画の実現や人材育成への貢献、探査に向けた月、火星の重力模擬環境による実験等、新たな利用の可能性を拓いています。私自身5度目の宇宙飛行となる来年のISS長期滞在では、(1)科学研究利用/教育、(2)国際宇宙探査に向けた技術実証、(3)有償・民間利用という「きぼう」利用の3つ柱において成果を最大化できるよう、訓練と準備に励みたいと思います。
米国企業による宇宙観光飛行が本格的に始まり、今後、地球低軌道活動では民間の参画が加速していくと考えられます。一方、各国政府が国際協力を通して進めるのが、月、火星に向けた有人宇宙探査の取り組みです。2019年10月に日本政府としてアルテミス計画参画が決定し、JAXAは政策実行を技術で支えるべく研究・開発を進めています。国際協力計画で主体的な役割を果たすためには、優位性の高い技術で参画する事が不可欠です。深宇宙補給技術、有人宇宙滞在技術、重力天体離着陸技術、重力天体探査技術、という日本の強みを生かせる4つの分野で貢献する事で国際的なプレゼンスを高め、幅広い⺠間企業の参加を得て進める事で探査活動における持続可能なエコシステムを実現することが、国際宇宙探査に取り組む重要な意義と言えるでしょう。
この秋、JAXAは月探査を見据え、新たな宇宙飛行士の募集を開始します。宇宙飛行士に求められる資質として、「多国籍チームの中で、日本の代表として多様性を尊重し、協調性とリーダシップを発揮できる力」、「適応能力、極限環境でも柔軟な思考と着眼点を持ち、自らを律し、適切な判断と行動ができる力」、「経験を世界中の人々と共有する発信力と次の世代に受け継ぐ能力」等が挙げられます。是非、多くの方々が応募して下さる事を期待しています。