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シリーズ 日本経済を考える114

「第2回貿易・国際物流ワークショップ」を開催
財務総合政策研究所 主任研究官 曽我  奈津子/財務総合政策研究所 研究員 虫明  英太郎

1.はじめに
2021年5月18日、財務総合政策研究所・株式会社日通総合研究所共催で、「第2回貿易・国際物流ワークショップ」を開催した。
貿易と物流を巡る世界情勢の変化は加速を続けており、同分野に関する最新の動向について知見を共有し理解を深めておくことが必要との認識のもと、本ワークショップでは、新型コロナウイルス感染拡大による影響を中心とした、最近の国際物流を取り巻く環境をテーマとした。
財務総研からは、新型コロナウイルス感染拡大を受けた国際物流の概観と、ブロックチェーンを活用した貿易金融プラットフォームの現状についての報告が行われた。日通総研の田阪リサーチフェローからは、インターモーダル輸送やチャイナ・ランドブリッジ(CLB)の概要、コロナ禍におけるCLBの動向や、CLBが抱える課題について説明が行われた。また、拓殖大学の松田教授からは、新型コロナウイルス感染拡大後の国際海上コンテナ輸送の動向として、コンテナ不足や、港湾混雑、運賃高騰等の現状およびその背景に加え、今後の見通しについての報告が行われた。
今回は、新型コロナウイルス感染症拡大を避ける措置の一環としてオンライン形式で行われ、財務省内および株式会社日通総合研究所から約50名が参加した。以下、それぞれのセッションでの報告内容を紹介する。

図.第2回貿易・国際物流ワークショップ 議事次第

2.各発表の概要

2.1 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた国際物流の概観
(発表者:財務総合政策研究所主任研究官 曽我奈津子、研究員 虫明英太郎)
(1)「新型コロナウイルス感染拡大後の貿易動向」
(発表者:虫明研究員)
2020年の世界全体の輸出総額が対前年比7.6%減少した中で、生産活動の再開が早く、マスクなど需要が増加した品目に比較優位を持つ中国の輸出シェアが拡大している。日本の貿易をみると、2020年の輸出額は11.1%、輸入額は13.7%、それぞれ前年から減少している。欧米向けの自動車・一般機械の輸出や、中東からの燃料の輸入などが減少する一方で、中国への重工業製品の輸出や中国からの繊維製品の輸入が増加しており、輸出入ともに中国のシェアが拡大した。
また、コロナ禍で需要が増加したと考えられる品目について、日本の輸入動向を説明した。マスクや消毒液等の衛生用品、使い捨て手袋等の医療用品、ノートパソコン等のテレワーク用品は、8割以上が中国からの輸入である。これらの品目の輸入量・輸入額は、2020年2月・3月に中国での生産・物流の停滞を受けて急減し、4月以降は中国での生産体制の回復と増産に伴い、コロナ前の水準を超えるまでに増加している。以上より、中国と日本との間で感染拡大のタイミングにずれがあったことから、日本で衛生用品などの需要が高まる頃には、中国では生産・輸出体制が回復に向かっており、結果として日本国内での供給不足は一時的なものに留まった。
(2)「新型コロナウイルスワクチンを巡る貿易上の課題」
(発表者:曽我主任研究官)
世界の新型コロナウイルスの感染拡大状況およびワクチン接種完了率の現状について概観すると、2021年1月以降、北米・欧州の感染者数は減少している一方、インドの感染拡大を受けて2021年3月以降、アジアにおける感染者数が増加している。ワクチン接種完了率は、北米・欧州が高い一方、アジア・アフリカは低く、地域・国家間においてワクチン接種完了率の格差が生じている。
次に、ワクチンの貿易上・物流上の課題として、ワクチンおよび関連物品のサプライチェーンについてみると、ワクチンおよび主成分の製造は、欧州や米国、インド等の少数の国に集中しており、また、ワクチンの製造・運搬に関連する注射器や冷凍庫、アイスボックス等の製品の生産シェアは中国、米国、ドイツ等が上位を占めている傾向がみられた。
貿易上の課題として、EUによるワクチンの輸出許可の義務付けの措置や米国によるワクチン原材料の輸出制限措置等の問題があり、ワクチンなど、人命にかかわる緊急性の高いケースについては、各国が輸出制限措置をとることによって、円滑な貿易が行われにくくなる事態も想定される。
また、主要なワクチンは-75℃または-20℃と超低温での輸送・保管が求められており、設備等が整備されていない途上国におけるコールドチェーン物流の確保が課題である。

2.2 ブロックチェーンを活用した貿易金融プラットフォームの現状
(発表者:財務総合政策研究所副所長 高見博)
貿易実務者は慢性的に人材不足であり、コロナ禍では書類ベースでの業務が中心で在宅勤務の導入が難しいという課題も顕在化した。その中で、数年前から実証実験を行っていたNTTデータ株式会社を中心に、商社、金融、物流等の企業が、貿易情報連携プラットフォーム“TradeWaltz”への共同出資を行い、書類の電子化、貿易金融サービスの展開、NACCSとの連携等、効率化と利便性向上に向けた取組みを推進している。さらに、ASEAN諸国への展開も予定されており、今後の動向が注視される。
2.3  新型コロナウイルス感染拡大が一帯一路の一環としてチャイナ・ランドブリッジの運航に与えた影響
(発表者:株式会社日通総合研究所リサーチフェロー 田阪幹雄)
CLBとは、日本の港から中国の雲連港・天津新港等中国の港湾までの航路、それらの港湾からロシア・カザフスタン国境までの中国鉄道、ロシア・カザフスタンから中央アジア各地や欧州までのシベリア鉄道を組み合わせた、インターモーダル輸送(複合一貫輸送)である。
インターモーダル輸送とは、貨物を積んだコンテナを、複数の輸送モード(船、トレーラー、鉄道)に載せ替えて輸送するシステムを意味し、1950-60年代に荷役の自動化やオペレーションの標準化に伴って世界各地に普及した。例えば北米の大陸横断鉄道では、コンテナの2段積みや長編成列車による大量輸送が行われており、アジアから米国内陸部や五大湖周辺に向かう貨物の多くが、西海岸の港から大陸横断鉄道で輸送されている。
東アジアから欧州への輸送では、スエズ運河もしくは喜望峰経由の航路に加え、ロシアの極東地域からシベリア鉄道を利用するシベリア・ランドブリッジ(SLB)とCLBが選択可能である。CLBはSLBよりも約2,000km距離が短く、中国からドイツまでのリードタイムは海路よりも10日短い約20日となっている。CLBを走る定期コンテナ列車である中欧班列は2011年に運行を開始し、2013年に提唱された一帯一路の象徴として位置付けられている。
新型コロナウイルスがCLBに与えた影響については、旅客航空便の減便が相次ぎ、旅客機の貨物室を利用する航空貨物の輸送量が減少した。また、欧州に空コンテナ、中国に実入りコンテナが滞留する中で欧州に寄港するコンテナ船が減少し、中国から欧州への海上輸送も大きく減少し、海上運賃も高騰した。これらの理由から、コロナ禍においてCLBの利用は急増し、2020年の輸送量は前年から50%以上増加している。
ただし、2020年のCLBのコンテナ輸送量は海路の5%未満、CLBとSLBを合わせたユーラシア・ランドブリッジの輸送量でも海路の20%未満に過ぎない。ユーラシア・ランドブリッジの輸送力増強が難しい原因として、以下のような課題が存在する。まず、国によって軌間(線路の幅)が異なるため、中国と欧州の間で2回、貨車の積み替えや編成替えが必要となり、プラットフォームの手配待ちによる列車の遅延や、荷役コストによる価格競争力の低下が発生している。さらに、国ごとに貨物運送に関するルールが異なり一貫運送責任が困難であることや、国境を超えるたびに保税運送手続きや他法令関係の手続きが必要となることなども、課題として挙げられる。

2.4 COVID-19と国際海上コンテナ輸送の動向
(発表者:拓殖大学商学部教授 松田琢磨)
コンテナ不足については、新型コロナウイルス感染拡大による外出制限の影響を受けた荷主のコンテナ受取りの遅れや労働者不足による港湾処理の遅れに加えて、米中貿易摩擦を受けて2019年末以降コンテナの輸送量が減少し、新造コンテナの生産が抑制されたことが背景にある。さらに、労働者不足や本船のスペース不足は港湾の沖待ちなど激しい混雑をもたらした。一方で、感染拡大後もコンテナ輸送の需要は変わらず、サービスから実物消費への転換等の「巣ごもり需要」が加わった。在庫確保のための需要も堅調であった。需要が増加したことに加え、コンテナ輸送が2020年後半に集中したことにより、世界中でコンテナ不足の連鎖が生じた。
上記のコンテナ不足と需要増加により、コンテナ輸送の運賃が上昇し、また輸送の遅延が発生している。運賃については、特にスポット運賃が上昇し、契約運賃との差が拡大している。また、2020年夏以降、コンテナ輸送の遅延が本格化し、2021年3月時点でも定時到着率は4割程度である。なお、日本発着航路は運賃の低い契約運賃の割合が高く、また製品価格に占める輸送コストの割合が小さいことから、物価上昇は運賃高騰ではなく欠品によるものと考えられる。
2021年3月に発生したスエズ運河座礁事故の発生により、港湾混雑の解消の時期の見通しは2021年夏から9月以降へと伸びている。今後のコンテナ市況について、2021年の運賃契約更改も値上げの方向で進んでいるが、コンテナ市場は供給過剰に陥りやすいことや、環境対策投資の課題があることに留意すべきである。
スエズ運河の再開通後も、スエズ運河を迂回した船舶と再開後の船舶が同時に欧州に到着していること等を受けて、北米・欧州航路は混雑が続いている。港湾混雑を受け、直近(2021年5月)の北米東岸や欧州航路等におけるスポット運賃は急上昇しているものの、現在の運賃の維持は不可能であると考えられ、船社にとっては、どのように平常時の市況に戻していくかが課題である。
日本におけるコンテナ輸送の課題として、日本の主要輸出品目が自動車部品等のB2B品目であることおよび日本発着航路は契約運賃のシェアが大きく運賃が低いことがコンテナ不足の影響を顕著にしたことが挙げられる。さらに運賃が低いことでコンテナ確保に関して買い負けた側面があり、今後、コンテナ不足等の問題を回避するためには、いかに輸送コストを消費者に転嫁するかが重要である。

3.終わりに
今回は、オンラインかつ短時間ではあったものの、新型コロナウイルス感染拡大が貿易および国際物流に与えた影響や課題について理解を深めることができ、意義のあるものとなった。
最後に、本ワークショップに多大なる貢献をいただいた発表者、出席者、ならびに共催者である日通総研その他関係者の皆様に厚く御礼を申し上げる。