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海外ウォッチャー/「ファイナンス」令和3年6月号

担当者の視点から見たアジア開発銀行のパンデミックにおける緊急財政支援について―執行・モニタリング編―
アジア開発銀行 南アジア局エコノミスト 鳥羽  建

1.はじめに
ファイナンス5月号では、モルディブのパンデミック対策を支援するための緊急財政支援融資であるCPRO(COVID-19 Pandemic Response Option)が、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)の理事会で承認されるまでの案件組成過程について、まとめさせていただいた。*1融資案件の組成・承認はダイナミックなプロセスであるが、本当に重要なのは、借入国政府が、ADBからの借入資金を用いて、ADBとの間で合意された政策パッケージを確実に実行し、適切な支援を社会的・経済的脆弱層に迅速に届けることができたかどうかである。本稿では、5月号の続編として、ADBの理事会でモルディブに対するCPROが承認された後、実際にどのように執行・モニタリング(implementation and monitoring)が行われてきたかについて、担当者の視点からまとめたいと思う。国際開発金融機関の融資案件において、執行・モニタリングが具体的にどのように行われているのかについての情報は限られていると感じており、本稿を通じて、多少なりとも、実際の様子を読者に伝えることができれば幸いである。
通常、ADBが提供しているインフラ整備等向けのプロジェクトローン、構造改革を支援するプログラムローン(PBL/G:policy based loan/grant)においても、執行・モニタリングの段階になると、組成・承認の際には想定していなかったような問題が発生しうる。CPROについては、特に、パンデミックという不確実性の高い状況を背景に、モルディブ政府と案件デザインについて合意した段階では全く想像していなかったような外部環境の変化、それに伴う政策方針の変更、現場での課題の顕在化といった事態が生じ、臨機応変な対応が求められる場面が多々あった。
さらに、パンデミック下において、国をまたいだ往来が制限される中、フィリピンにあるADB本部から現地への出張ミッションを行うことができず、またモルディブの特殊事情として、ADBの現地事務所(resident mission)がないため、完全に本部からリモートでその進捗管理を行わなければならないという難しさがあった。その上で、CPROの構造上の特徴を踏まえて、借入国であるモルディブ政府に対して、ガバナンスをいかに効かせて、その進捗を確かなものにしていくか、という点に気を配る必要があった。これらの点についても、具体的な事例も交えながら、本稿の中で触れていきたいと思う。
なお、本稿は、当時の業務経験および作業記録を元にして筆者が個人として解釈・構成したものであり、組織の公式な見解を記すものではない。また、本稿に含まれた情報や制度の説明について間違いがあることも十分にありうる。そのような場合、それらは筆者の責に帰するものであることをご承知おきいただきたい。*2

2.ADBのプロジェクトサイクルについて
まず、モルディブに対するCPROの執行・モニタリングについて具体的に触れていく前に、ADBの一般的なプロジェクトサイクルについて概観したい。
ADBのプロジェクトサイクルは、通常、図1.ADBのプロジェクトサイクルにあるように、(1)国別支援戦略(CPS:country partnership strategy)、(2)融資準備(preparation)、(3)融資の承認(approval)、(4)支援の執行・モニタリング(implementation/monitoring)、(5)支援のクローズ・事後評価(completion/evaluation)という流れで進んでいく。*3このサイクルのうち、ファイナンス5月号で取り上げた案件組成プロセスは、(2)融資準備、(3)融資の承認にあたる。本稿で新たに取り上げるのは、主に、(4)支援の執行・モニタリングにあたる。
今後、CPROの支援が概ね達成されると、(5)支援のクローズ・事後評価に移行することになり、ADBは借入国政府の実施省庁・機関とともにプロジェクト完了報告書(PCR:project completion report)を作成し、プロジェクトの実績を、適切性(relevance)、有効性(effectiveness)、効率性(efficiency)、持続可能性(sustainability)の観点から評価することになる。*4作成された報告書は独立評価局(IED:Independent Evaluation Department)によって検証され、最終的なプロジェクトの評価が確定する。この評価は、翌年以降のADBから各借入国(DMC:Developing Member Countries)*5に対する支援金額の国別割り当て(country allocation)の算定の基礎になるほか、報告書の中でなされた総括は、将来のプロジェクトの組成、国別支援戦略(CPS)の策定において活用され、反映されていくこととなる。このように、ADBにおいては、PDCAサイクルを回し、借入国に対する支援の効率化・効果の改善を継続的に図る仕組みが整っている。
図1.ADBのプロジェクトサイクル

3.融資手法ごとの執行・モニタリングの比較
それでは、ADBが借入国に対して提供する融資手法ごとに、それぞれ、どのように執行・モニタリングが行われているのであろうか。また、CPROの執行・モニタリングは、資金の払い出し方法、進捗管理の仕方、借入国に対するガバナンスといった観点から、既存の融資手法であるプロジェクトローンやプログラムローンと比べて、どのように異なっているのであろうか。
(1)プロジェクトローン
ADBの融資手法の中で最も規模が大きいのは、電力や道路、水道施設といった個別のインフラ整備に対する融資(プロジェクトローン)である。パンデミック以前の2019年のADBの融資金額のうち、約80%がプロジェクトローンに分類される。*6プロジェクトローンの場合、どのように執行・モニタリングが行われているのであろうか。例えば、筆者が担当しているモルディブ政府の電子通関システムの導入プロジェクト*7のケースを見てみよう。まず、融資契約書が署名された後、実施省庁である経済開発省が、ADBのガイドラインに基づいて、調達作業(procurement)を行っていく。電子通関システムの基幹システムの開発について、システムインテグレーターと契約する必要があるが、その調達作業にあたっては、詳細な仕様書の作成が必要となるほか、ADBの調達ガイドラインに則った形で適切に手続きを進めることが求められる。借入国政府にはそのようなスキルや経験を持った職員が必ずしもいるわけではないので、ADBは技術協力(TA:technical assistance)を通じて専門家(consultant)を雇用・派遣し、政府の実施省庁・機関において調達作業が問題なく進むよう支援している。*8
プロジェクトの進捗は、案件承認時に借入国政府と合意した「立案・検証フレームワーク(DMF:design and monitoring framework)」の達成目標指標(target indicator)を定期的にフォローアップすることによって管理している。例えば、高速道路の建設プロジェクトにおいて、その効果目標(outcome targets)が「2023年時点で、ある二地点間の交通量を現時点に比べて2倍に増やすこと」であるとする。その効果目標を達成するために、「道路の敷設」や「料金体系・徴収方法の整備」といったいくつかの定量的または定性的な成果物目標(output targets)が設定される。各指標にはそれぞれ「いつまでに何を実施しなければいけないか」を詳細に記載したマイルストーンとタイムラインが設定されている(通常、プロジェクトローンの執行・モニタリング期間は数年に渡る)。その事前に合意されたマイルストーンと実際の進捗を比べることで、プロジェクトが予定通りに進んでいるのか遅れているのかを借入国政府と共通の物差しで判断することができる。
また、契約金額(contract award)と払い出しの金額(disbursement)もプロジェクトの進捗を管理する上で重要なツールである。通常、プロジェクトローンにおける契約から払い出しまでの流れとして、(1)借入国政府と受注者の間で作業に関する契約が結ばれた後、(2)その契約がADBのルールに適合していることを確認し、(3)契約の下で作業が進んで政府が受注者に対して支払いをした後、(4)その支払い金額をADBが政府に対して払い出す(リファイナンスする)という形になっている(プロジェクトによって、ADBが受注者に直接支払うという場合もある)。契約金額と払い出しの金額は、プロジェクトの進捗の度合いに対して、それぞれ先行指標的、一致指標的な意味合いがある。また、そうした指標を用いたモニタリングを補完する形で、年に数回、プロジェクトの担当者が実際に現地を訪問して、実際の進捗の状況について政府の実施省庁・機関の関係者と会議を行うことによって、現地で生じている課題を把握し、対処することとなっている。
また、インフラ整備を対象としたプロジェクトの場合、借入国政府はADBの環境・社会セーフガード政策に則ってプロジェクトを実施しなければならない。例えば、土木工事(civil work)を伴うプロジェクトの場合、工事によって周辺環境に対して影響が生じる可能性がある。また、工事用地に居住していた先住民の非自発的な移住を伴う可能性もある。ADBはこのようなプロジェクトの潜在的な環境・社会に対する影響について厳格なセーフガード政策を定めており、案件組成の過程で厳密な審査を行い、その影響の程度に応じてA(影響度大)からC(影響度少)の三段階に分類している。政府の実施省庁・機関は、プロジェクトの準備・実施の段階で、その分類に応じて、環境アセスメント等適切な対応をとらなければならない。*9
(2)プログラムローン(PBL/G)
プログラムローン(PBL/G)は、借入国政府とADBの間で構造改革プログラムについて合意し、その合意内容を達成すれば、それをトリガーとして事前に合意された支援金額が払い出されるという融資手法である。*10そのため、PBL/Gの進捗管理は、構造改革プログラムに含まれる各種政策措置(policy actions)が着実に実行されているかどうかにその力点が置かれる。*11例えば、筆者の所属している南アジア局のRegional Cooperation and Operations Coordination Division(SARC)は、ネパール税関に対する組織改革・近代化を目的としたPBLを提供していた。*12当該PBLについて、融資組成の段階で4つの改革分野について計20の政策措置が合意されており、それぞれ10の政策措置が達成された段階で支援金額のうち1回目の払い出し、2回目の払い出しがそれぞれ行われるという形になっていた(ADBではこの分けられた支援金額の払い出しのことをトランシェ(tranche)と呼んでいる)。プログラムローンは複数回のトランシェで構成されていることが多く、借入国政府の立場からすると、ADBとの合意内容に基づいて改革分野の政策措置を期限通りに達成しなければ、ADBからの支援金額の払い出しを受けることができないことから、政策措置の早期実施を通じて構造改革プログラムを前に進めるインセンティブが生まれ、借入国政府内で内部リソースを振り分けたり関係省庁間での調整を進めることが促される。
また、ネパール税関に対するPBLの場合、融資契約書に署名後、TAを通じて改革分野の専門家を雇用し、ネパール税関に派遣した。ネパール税関は、その専門家の助言を受けながら、各政策措置をより細かく具体的なアクションに分割して、達成までの順序付けをしたワークプランを作成した。ADBは、専門家を通じて、また税関職員との定期的なコミュニケーションを通じて、それらの個別のアクションが順を追って達成されているかを確認していた。また、3か月に一度ほどの頻度で実際に出張ミッションを行い、ネパール財務省、ネパール税関の幹部職員と直接面談を行い、組織のハイレベルからの継続的な構造改革へのコミットメントを引き出すことにより、当初のタイムライン通りに構造改革プログラムが達成されるようガバナンスを効かせていた。
(3)CPRO(COVID-19 Pandemic Response Option)
それでは、本稿の対象であるCPROの場合、どのような点が、既存のプロジェクトローン、プログラムローンと異なっているのであろうか。まず、緊急財政支援としてのCPROの構造上の特徴がある。ファイナンス5月号でも取り上げたように、CPROは、景気循環対策支援ファシリティ(CSF:countercyclical support facility)という緊急支援に特化した融資手法に準じて、今般のCOVID-19のパンデミックに対応して新設された時限的オプションである。*13その設計として、財政資金が足りず、パンデミック対策を適切な規模で行うことが困難なDMC各国政府に対して、迅速に流動性を供給できるようになっている。そのため、ADBと借入国政府の間で合意されたパンデミック対策の政策パッケージが迅速に実施できるよう、融資契約書の署名後、すぐに支援金額が全額払い出される。この点、通常のプロジェクトローンが具体的な支出行為に対して、プログラムローンが構造改革プログラムの政策措置の実行に対して、事後的に資金の払い出しを行うこととは大きな違いが見られる。また、進捗管理についても、例えば、プログラムローンのように合意した構造改革プログラムや政策措置の実行が対象となるのではなく、プロジェクトローンのように、合意されたパンデミック対策の政策パッケージの進捗・効果を立案・検証フレームワークを用いてモニタリングするという仕組みになっている。しかし、CPROの場合、上記のとおり、融資契約書の署名後すぐに支援金額が全額払い出されており、また、プロジェクトローンのように、個別の具体的な調達行為に関わるわけではないため、借入国政府に対して、間接的ながらも、強くガバナンスを効かせる必要がある。そこで、ADBと合意されたとおりにCPROが適切に実施されなかった場合には、低い事後評価を受けることにより、将来的にADBから追加的な融資(特にプログラムローン)が受けづらくなるという「将来のペナルティの可能性」を直截に伝えることで、借入国政府が事前のコミットメントを反故にしないよう牽制するという対応がとられた。
表1.融資手法ごとの執行・モニタリングの違い

4.モルディブに対するCPROの執行・モニタリングについて
ここからは、モルディブに対するCPROについて、その執行・モニタリングがどのように行われていったか、筆者の経験に基づいてまとめていきたい。ファイナンス5月号で取り上げたように、2020年6月25日にモルディブに対するCPROの稟議書がADBの理事会によって承認され、6月28日にはADBとモルディブ政府の間で融資契約書が署名された。それを踏まえ、7月2日には支援金額の払い出しが行われた。
(1)執行・モニタリングの開始(7-9月)
CPROは、上記の3(3)でも述べたように、事前に資金を供与して、事後的に政策パッケージの進捗をモニタリングしていくという仕組みであるため、相手国政府が事前のコミットメントを反故にしないよう、適時に進捗を確認し必要なサポートを行う必要性が通常のプロジェクトローンやプログラムローンに比べて大きい。さらに、CPROの支援対象は、規模が大きく複雑なパンデミック対策の政策パッケージとなる。今回のように、政策パッケージに含まれる計9つの実施省庁・機関にまたがる10以上の施策の進捗を取りまとめることは、ADBの直接のカウンターパートであるモルディブ財務省にとっても経験のないことであり、CPROの執行にあたって、効率的なモニタリングの仕組みを考える必要があった。また、モニタリングに際しては、政策パッケージの支援が計画通りに受益者に行き届いているかを、モルディブ財務省とADBの双方で適時に把握することが望ましい。そのために、性別、年齢、社会ステータス(寡婦、障害者、移民労働者といった属性)、居住地域(首都圏か島嶼部か)等の受益者の属性に係る詳細なデータの収集・分析を行うことが重要となる。しかし、実施省庁・機関からはそのようなデータ収集・分析が困難である旨の懸念が示されていた。さらに、政策パッケージの一部施策は、国の基準を超えて、ADBの求める環境セーフガード対策を行う必要があったが、実施省庁・機関には専門知識・経験を持った人材が不足していた。*14併せて、CPROの条件として、借入国財政に対して短期的な流動性を供給しつつ、中期的な財政の健全性、債務の持続可能性を確保する必要があり、パンデミック後にプログラムローン(PBL/G)の提供を通じて財政・税制改革を支援することを見据えて、構造改革プログラムの対象となる重点分野を洗い出す必要があった。
それらの課題に対処するために、はじめに着手したのは、政策パッケージ実施にあたって、実施省庁・機関に対して政策アドバイスを行い、その人材不足を補う専門家の採用活動である。具体的には、(1)モニタリング・評価(monitoring and evaluation)、(2)社会開発・ジェンダー(social development and gender)、(3)環境セーフガード(environmental safeguard)、(4)公共財政管理(public finance management)の分野について、技術協力(TA)を通じて計7名の専門家を雇用した。ADBが専門家を雇用する場合、応募者の評価や内部の承認プロセス等を含めて少なくとも2ヶ月はかかる。採用プロセスは7月初めから開始したため、専門家が実際に雇用され、その活動を開始するのは大体8月末となった。また、専門家たちは外国人とモルディブ人の混成であったので、外国人専門家にリモートでTAの支援の方針を検討してもらい、モルディブ人専門家に現地での実際の調整を担ってもらう形で協働していくこととなった。
また、専門家の採用活動と並行して、ADBとしてどのようにCPROの進捗管理をしていくかについての検討が行われた。モルディブに対するCPROの融資契約書の下で、モルディブ政府はADBに対して、四半期進捗報告書(quarterly progress report)を提出することが義務付けられていた。一度目の四半期進捗報告書の提出のタイミングは、プロジェクト開始から4か月後の11月中旬であったため*15、プロジェクト開始直後の7月から10月の期間について、適時に政策パッケージの状況が把握できる進捗管理の方法を考える必要があった。CPROの進捗については、ADB経営陣も高い関心を示していたため、2週間に一度の頻度で、モルディブ政府から立案・検証フレームワークの達成目標指標(5月号の表2を参照のこと)のアップデートを受けつつ、モルディブ人専門家の手も借りながら状況の把握に努めることとなった。
なお、この時期になると、モルディブ国内での新規感染者数の抑え込みを背景に、2020年3月から課されていたロックダウンは徐々に緩和され、7月1日には政府機関や学校が再開することとなった。また、7月15日には国境を再開し、まだ少ないながらも、7月末までに1,752人の海外からの観光客を受け入れ、観光・旅行業の回復に向けて舵を切ることとなった。他方、社会的隔離措置の緩和と経済活動の再開に伴い、8、9月にかけて第二波が到来したため、政策パッケージの一部の施策についてその影響を受けることとなった。
また、この時期の大きな進展として、2020年9月30日に、国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)がモルディブに対して借款を提供することが発表された。*16同借款は、ADBのCPROと同様に、モルディブ政府に対する財政支援を通じて、政府のパンデミック対応に貢献することを目的としたものであった。発表に先立ち、ADBとJICAの間で6月頃より水面下で協議が行われ、執行・モニタリングの有効性、効率性の観点から、JICAは支援対象となる政府の政策パッケージの内容をADBと同一のものとすることで立案・検証フレームワークを組織間で共有し、協調融資者(cofinancier)として共同で執行・モニタリングを行っていくこととなった。
図2.モルディブの新規感染者の推移
(2)モニタリングの難航(10-12月)
9月に入り、モルディブ人専門家たちによる現地からの報告も受けつつ、2週間に一度の頻度で行われる政府による進捗報告を組み合わせながら、フィリピンにあるADB本部からリモートで、CPROの執行・モニタリングを進めていくこととなった。しかし、実際に執行・モニタリングを始めてみると、リモートで進捗報告として上がってくる数字を検証するだけでは、それぞれの施策を通じた支援が実際に必要な人に届いているのかどうかが見えにくく、もどかしさを感じるようになった。例えば、休業者・失業者に対する所得補償プログラムについて、8月の申請者数の減少が見られた。しかし、これが7月にロックダウンが解除されたことによって就業環境が改善したというプラスのサインなのか、単に集計上の技術的な要因(集計期間がたまたま短かったのか)によるのかがはっきりしなかった。また、ADBと政府の間で、全ての申請について申請書の提出から給付までのプロセスを3週間以内に行うことで合意していたが、8月のデータによれば、申請全体の7割程について申請書の提出から給付までに3週間以上の期間を要していた。この遅延についても、実施省庁・機関の審査プロセスの問題(例えば、審査フローの非効率性、人員の不足)なのか、申請者側の要因(例えば、申請書類の不備等)なのかも数字からだけでは見えてこなかった。この時期、モルディブ政府は国境の再開から始まった第二波への対応にリソースを割かれており、ADB、専門家と政策パッケージの実施省庁・機関の担当者の間のオンライン会議についても設定しづらい状況にあり、数字の裏付けとなる現場の情報が得づらいという状況に悶々とすることとなった。
11月になると、一回目の四半期進捗報告書が提出された。この時期には、モルディブ人専門家たちの協力もあり、概ねデータが揃い、立案・検証フレームワークの達成目標指標について大体の動向が見えてくることとなった。例えば、政策パッケージのうち、保健医療対策パッケージについては、検査キャパシティの増大や隔離病床の確保等、概ね早い段階で目標が達成されていたものの、そのうちジェンダーに関する指標については、提出されていたデータからだけでは合意内容が適切に遵守されているのか(例えば、本当に確保された隔離病床について男女で病棟が分けられて運用されているか)判断ができなかった。また、社会的保護パッケージ、経済対策パッケージについては、指標の中に遅れの見られるもの、そもそもデータが提出されておらず判断が難しいものなどが散見された。
ADBは、2020年12月9日に、DMCに対するワクチン供給支援のために、アジア太平洋ワクチンアクセスファシリティ(APVAX:Asia Pacific Vaccine Access Facility)という枠組みを打ち出しており、モルディブもその支援の対象となることが想定された。しかし、同枠組みの支援をモルディブが利用できるかどうかの検討にあたっては、モルディブ政府がCPROを通じて、ジェンダーの観点も踏まえながら、移民労働者といった社会的弱者に対して適切に支援を行うことができたかどうかという点が重要な判断材料となる。APVAXに限らず、CPROの適切な実施は、将来のADB支援の妥当性を判断する上で非常に重要であり、CPROの達成目標のうち進捗が遅れているものについては、今後どのように改善していくかについて、早い段階で政府と(オンラインながらも)膝を突き合わせて議論し、方向性をまとめる必要があった。
(3)合同レビューミッションの実施(1月)
2021年1月25日から28日にかけて、ADBはJICAと合同で、CPROの進捗に関するレビューミッションをオンラインで実施した。JICAからは南アジア部とモルディブ支所が合同ミッションに参加した。同ミッションは、4日間で財務省、経済開発省、保健省、ジェンダー省をはじめとする計9つの実施省庁・機関との間で、政策パッケージに含まれている施策について個別に会議を行い、各施策の進捗についてインタビューを通じて指標データに表れてこない定性的な現場レベルの情報を収集した上で、進捗が遅れている施策について今後の具体的な改善策を協議・合意するというものであった。
インタビューを重ねるにつれて、過去半年にわたって、実施省庁・機関が、現場レベルで創意工夫を重ねることで、CPROの組成段階では想定できていなかった、ロックダウンによる影響、国境再開後の第二波の到来やモルディブ政府の政策方針の変更といった不測の事態を乗り越えて、政策パッケージを効果的に実行してきたということがわかってきた(その具体例については後段で紹介したい)。そのような数字に表れてこない努力の内容について、CPROの執行・モニタリング期間が完了した後の評価作業において適切に評価されるべく、ADBとJICAのミッション団は、モルディブ政府に対して、今後の四半期進捗報告書の中に、そのような背景情報についても指標の数字を補完する記述(narrative)の形で入れ込んでいくことを強く促した。
他方で、ジェンダーに関する目標が達成できていない施策についても実情を確認した。例えば、移民労働者の受け入れ施設を建設・提供したものの、蓋を開けてみると、実際には、その施設を男性移民労働者しか利用していなかったという事実が判明した。そのような施策については、要因の検証と改善策の実行をモルディブ政府に対して要請した。また、受益者の属性に基づいた詳細なデータの収集・分析が不十分という課題が浮き彫りになった。この点については、引き続き、TAで雇用・派遣しているモニタリング・評価と社会開発・ジェンダーの専門家たちの助言・能力開発を受けながら、実施省庁・機関で検討を続けてもらうこととなった。
以下では、いくつかの施策について、本ミッションにおいて把握された象徴的な内容について、簡単に紹介したいと思う。

COVID-19 Income Support Allowance Program(休業者・失業者に対する所得補償プログラム):休業者・失業者に対する所得補償プログラムは、パンデミックによって、その就業状況に対して悪影響が生じた者を対象として所得補償を支給する施策であり、経済開発省、国家社会的保護機関(NSPA:National Social Protection Agency)が実施省庁・機関である。具体的には、パンデミック前に比べて給与水準が著しく下がった就業者、パンデミックにより無給の休職状況を余儀なくされた者、失業状態に置かれた者、自営業者・フリーランス等がその支給対象となる。実施時期について、当初、ロックダウン期間の2020年4月から6月までの予定であったが、経済状況が7月以降も改善しなかったことから、結果として12月まで継続されることとなった。
所得補償の支給にあたっては、受給申請者から提出された申請書を基に、経済開発省の担当チームが受給資格の審査を行う。プログラム開始当初、申請手続きは紙ベースで行われていた。しかし、マレ首都圏は6月までロックダウンが敷かれていたため、経済開発省の職員も在宅勤務を余儀なくされ、紙ベースでの審査作業は困難であった。また、申請プロセスにおいては、必要書類や必要情報の漏れが散見され、経済開発省から申請者に対して申請書の差し戻しが生じることが頻繁にあった。ロックダウン下においては、省庁建物のカウンター越しに相談に乗ることも不可能であったため、同プログラムの申請プロセスはロックダウンにより大きく遅滞した。このような事態の下、経済開発省は申請プロセスをオンラインに移行した。また、SMS等を活用して職員が積極的に申請者に対してアプローチすることにより申請プロセスの効率化を図っていた。
また、受給資格の審査においては、申請者の給与への影響の程度や、経済開発省以外の政府機関が提供する譲許的ローンスキームに対して申請が重複していないか等について、細かい確認が必要となる。当初、それらの確認作業は、内国歳入庁(MIRA:Maldives Inland Revenue Authority)、年金機構、譲許的ローンを提供する金融機関等に対して、経済開発省から、申請ごとに都度、電話やメールを通じて行われていた。しかし、審査作業の効率化のため、経済開発省はデータベースをそれぞれの機関のデータベースと統合することによって、申請者の資格要件を効率的に確認できるように改善していた。
さらに、同プログラムについては、マレ首都圏ではある程度の認知度があったものの、島嶼部においてはまだ認知度が十分ではなかったことから、経済開発省は島嶼部の市議会(city council)や女性団体(women association)とパートナーシップを結び、島嶼部に対しても積極的にその支援の範囲を広げていった。
これらの現場の努力の経緯については、必ずしも数字を見ただけでは把握することができず、ヒアリングを通じて、はじめて把握することができた。
図3.所得補償プログラムの申請用ポータルサイト

移民労働者の受け入れ施設の建設・提供:モルディブ経済は、バングラデシュ等他の南アジアの国からの移民労働者によって支えられていたが、COVID-19のパンデミックに伴うロックダウンにより、それらの移民労働者が特にマレ首都圏において厳しい環境に置かれていた。*17その状況に対応するために、経済開発省とフルマレ開発公社(HDC:Hulhumale' Development Corporation)が実施省庁・機関となり、移民労働者の受け入れ施設を建設・提供することになった。同施策は、二つの活動で構成されている。一つ目は国営企業や民間企業がフルマレ島に既に建設済みの居住用建物を改修し、一時的な仮設の受け入れ施設して用いるというものである。二つ目は、モルディブ政府がフルマレ島とグリファル島(Gulhifalhu)に恒久的な労働者居住区域(labor village)を新規に建設し、そこを移民労働者の受け入れ施設としても活用するというものであった。恒久的な労働者居住区域の建設については、政府内で施工業者の調達作業が必要となるため、2020年終盤の建設の開始が目指された。
2020年12月までの時点で、フルマレ島の仮設施設には8,000人ほどの移民労働者が受け入れられていた。また、入所した移民労働者が公式に登録されていなかった場合は、公式な登録作業を経て母国に帰されていった。他方、本ミッションにおいて、過去半年の間、同施設には男性の移民労働者しか支援を求めてきていなかったことも判明した。その状況に対する実施省庁・機関の見解は、男性の移民労働者の多くが建設業に従事しているのに対して、女性の移民労働者は主にリゾートや家事手伝い等のサービス産業に従事しており、ロックダウン下においても、居住面についてはある程度雇用主からのサポートがあったのではないか、ということであった。確かに、男女間でロックダウン下で置かれた状況に違いがあった可能性はあるが、受け入れ施設の運営やデザイン・設計がジェンダーに十分に配慮したものとして女性の移民労働者からポジティブに受け止められていたか、そもそも施設の存在が女性の移民労働者から十分に認識されていたのか、といった点も懸念された。これらの点について、モルディブ政府に対して、要因をよく検証し必要に応じて改善策を実行するよう要請するとともに、ADBとしても、本ミッション後に、国際移住機関(IOM:International Organization for Migration)と連携しながら、要因の分析と善後策を講じることとした。
また、ADBからモルディブ政府に対して、移民労働者の現状を詳細なデータに基づいて適時に把握することの重要性をあらためて強調した。上記のとおり、CPROに留まらず、例えば、将来的にADBがモルディブに対してAPVAXを活用したワクチン供給に関する支援を提供するためには、モルディブ国民だけでなく移民労働者にも適切にワクチンが行き渡ることを確認しなければならない。そのためには、移民労働者の適切なデータ管理が前提条件となる。このような観点から、ADBよりモルディブ政府に対して、データの整備を進めてもらえるよう要請した。
図4.フルマレ島の移民労働者受け入れ施設

移民労働者へのCOVID-19感染者の治療費に対する医療保険スキームのカバレッジの拡大:2020年6月のCPROの組成段階において、ADBとモルディブ政府の間では、外来診察と入院治療を含めて、公的医療保険スキーム(Aasandha)のカバーの対象を拡大し、モルディブ国民に限らず外国人を含むすべてのCOVID-19の感染者を支援対象とすることで合意していた(従来は、モルディブ国民だけがAasandhaによるカバーの対象であった)。しかし、その後、モルディブ政府が突如方針転換をして、Aasandhaのカバーの対象をモルディブ国民のままとすることを決定したという報告を受け、対応する達成目標指標が未達となるのではないかという懸念が持たれていた。
しかし、本ミッションにおける保健省との会議により、Aasandhaのカバレッジ自体は外国人まで拡大しなかったものの、実態としては、COVID-19 Special Measures Actという法律が2020年9月に成立しており、移民労働者を含む外国人について、仮にビザが失効した状態であっても、政府の保健医療サービスに申し込んだ者については、COVID-19に関する治療関係費がかからずに医療サービスに対してアクセスできるようになっていた(上記の移民労働者の受け入れ施設にアクセスした者についても同様)ことが判明した。ADBがこの達成目標指標を設定した趣旨としては、移民労働者も含めて誰一人取り残すことなくCOVID-19に関する保健医療サービスを受けることができる環境を目指すことであったので、本指標についてはその趣旨を満たしていると言え、ADBとモルディブ政府の間で、本経緯を詳細に四半期進捗報告書に記載するということで合意することができた。
以上のような、実施省庁・機関との包括的な議論を踏まえ、1月28日にラップアップミーティングが開催され、モルディブ政府、JICA、ADBの三者間で、今後の方針について公式合意文書(Aide Memoire)が取り交わされた。そこでは、(1)本ミッションにおいて明らかとなった、指標の数字に表れない実施省庁・機関の過去半年間の各施策の取り組みの実態について、適切に把握できるよう、四半期進捗報告書に詳細な説明を加えてデータを補完すること、(2)社会的弱者に対して支援が適切に行き届いているか把握できるよう、可能な限り、ジェンダーや年齢、社会ステータス、居住地域等の属性で分類された詳細な受益者のデータを収集・分析・提供すること、(3)個別の施策について協議・合意された具体的な改善策を実行すること、などが盛り込まれた。
また、同ミーティングの中で、モルディブ政府からは、ADBとJICAが協調融資したCPROにより、ロックダウンに伴う社会的弱者への悪影響を緩和しつつ、保健医療体制を整えることができ、結果として、当初からモルディブ政府の目指していた、観光・旅行業を中心とした経済活動の早期の再開、保健医療の充実、社会的保護を同時に達成し、パンデミックに対する強靭性(resilience)を獲得することができたことについて、あらためて感謝が述べられた。

5.今後のプロセス(2月-)
2021年1月のレビューミッションにおいて、Aide Memoireを通じて合意された内容について、モルディブ政府がしっかりと実行できるよう、ADBとして適切に支援・モニタリングを続けていかなければならない。他方、CPROの執行・モニタリング期間は2021年6月末までなので、残された時間は限られており、CPROの執行・モニタリングの内容をどのように将来のADBのプロジェクトに繋げていくかについても検討していかなければならない。また、上述のとおり、ADBのプロジェクトサイクルとして、CPROがクローズしてから1年以内にプロジェクト完了報告書(PCR)を作成してプロジェクトの評価を行うことになる。達成目標指標の達成如何がプロジェクトの評価の上で重要であることはもちろんではあるが、CPROがパンデミックという非常事態を前提とした融資手法である以上、モルディブ政府がどのように臨機応変に政策パッケージの内容を実行しようとしたか、という数字に表れてこない情報を公式文書に残し、事後評価の材料としていくことも重要であろう。
なお、図5 訪モルディブ観光客数の推移に見られるように、観光・旅行業について、2020年7月に国境を再開した後、2020年後半から足下の2021年初旬にかけて、官民で連携しながら実行している先進的な観光戦略が功を奏し、2019年の水準にはまだ至ってはいないものの、相当な程度まで訪モルディブ観光客数は回復してきている。*18他方、2021年2月以降、モルディブは感染の第三波を経験しており(図2 モルディブの新規感染者の推移を参照のこと)、本稿執筆時点(2021年5月)の新規感染者数の後方7日間移動平均は1,000人程まで増えてしまっている。引き続き、感染状況は予断を許さない。CPROの執行・モニタリング期間は終わろうとしているが、パンデミック対策は一回限りの対応では十分ではなく、ADB、モルディブ政府ともに次に何が必要とされるかを継続的に議論・検討していかなければならないだろう。
図5.訪モルディブ観光客数の推移

6.おわりに
創業と守成の故事に言われるように、融資案件の執行・モニタリングには、その組成とはまた異なる難しさがある。多くのプロジェクトは組成段階で描いていたように問題なく進捗していくことはまずない。特に、緊急財政支援であるCPROのようなプロジェクトの場合、ADB、借入国政府ともに、情報を完全に集めた上で、全てのリスクに対処できる完璧なデザインを事前に行うことほぼ不可能である。今般のパンデミックのようなケースにおいては、デザインに時間をかけるほど、支援の遅れに伴い被害がより大きく拡大することとなりうる。何より迅速な資金の供給が重要となるため、走りながら考える必要がある。そのような特殊性を鑑みると、数字の上で事前のコミットメントが達成されたどうかももちろん重要だが、実際に、政府の実施省庁・機関が、パンデミック対策の政策パッケージを実行する中で生じた問題に対して、どのように工夫を以て臨機応変に対応することができたか、プロジェクトの組成段階で考えられていた本来の意図・目的を達成することができたかどうか、という点にも事後評価の力点がおかれるべきではないかと思う。
CPROにおける意図・目的とは、すなわち、パンデミック下において本当に支援を必要とする社会的弱者たちに対して、モルディブ政府の政策パッケージの施策・支援を適切に行き届かせることである。その意味で、相手国政府との緊密なコミュニケーションを通じて適時に現場で生じている課題を把握し、実情に合った対応の提案を通じて政策意図・目的の達成へと促し、そして適切な事後評価につなげていくという、きめ細やかな執行・モニタリングの重要性は非常に高く、また、よき伴走者としてのADBの本領が発揮される業務なのではないか、と筆者は思う。
組成と執行・モニタリングはそれぞれADBのプロジェクトサイクルの円環の中の一要素であり、またCPRO自体もそれで完結するものではなく、大きなADBの支援戦略の中の一ピースである。CPROの執行・モニタリングを通じて得られた課題や把握された潜在的な支援ニーズを、パンデミック後の国別支援戦略(CPS)といった中長期戦略の策定、個別のプロジェクトの組成へと適切につなげていくことで、ADBが、より地に足のついた真に求められる支援を開発途上加盟国(DMC)に対して継続して提供することが可能となっていく。CPROの執行・モニタリング期間は2021年6月末までと限られてはいるが、このような総合的な視点を意識しながら、担当者として、引き続き、クローズに向けて、その執行・モニタリングに取り組んでいきたいと思う。

プロフィール
鳥羽 建
アジア開発銀行(ADB) 南アジア局 エコノミスト
2010年財務省入省。総合政策課、広島国税局、総務省、ミシガン大学留学、金融庁を経て2018年7月より現職。ADBではモルディブ政府との調整業務、モルディブの通関システム開発に対する融資、パンデミックに関する緊急財政支援の組成・執行・モニタリングなどを担当。

*1)ファイナンス令和3年5月号に掲載された拙稿「担当者の視点から見たアジア開発銀行のパンデミックにおける緊急財政支援について」も本稿と併せてご覧いただきたい。
*2)本稿の執筆に当たっては、池田氏、林氏、中根氏、星野氏をはじめ多くのADB関係者にアドバイスをいただいた。特に、星野氏には本稿の構成の検討においても多大なご助力をいただいた。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。
*3)Operations-Project Design and Management:Project Cycle https://www.adb.org/what-we-do/public-sector-financing/project-cycle
*4)Guidelines for the Evaluation of Public Sector Operations https://www.adb.org/documents/guidelines-preparing-performance-evaluation-reports-public-sector-operations
*5)ADBでは、正式には、開発途上加盟国(DMC)と呼ばれている。
*6)Statement of the Asian Development Bank's Operations in 2019 https://www.adb.org/documents/statement-asian-development-banks-operations-2019
*7)Maldives:South Asia Subregional Economic Cooperation National Single Window Project https://www.adb.org/projects/51330-001/main
*8)仕様書の作成について、案件承認前に行われ、融資の承認時に既にいくつかの調達パッケージについて契約が済んでいることも多い。
*9)Safeguards https://www.adb.org/who-we-are/safeguards/main
*10)2019年のADBの融資金額のうち17%がプログラムローン(PBL/G)に分類されている。プログラムローンの詳細な内容については、ファイナンス平成30年2月号に掲載された星野拓哉氏の「構造改革を支援する―南アジアの資本市場改革プログラムを例に」を参照いただきたい。 https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/denshi/201802/html5.html#page=47
*11)この合意された支援金額は、構造改革プログラム実施に当たってのコストとは無関係に、借入国政府のマクロの開発金融ギャップ(development financing needs)との関連で決められており、プロジェクトローンのように資金使途が限定されていない。
*12)Nepal:South Asia Subregional Economic Cooperation Customs Reform and Modernization for Trade Facilitation Program https://www.adb.org/projects/50254-001/main
*13)CPROの詳細な内容については、ADB日本代表部児玉駐日代表の「アジア開発銀行(ADB)の新型コロナウイルス問題への取り組み」を参照いただきたい。 https://www.adb.org/sites/default/files/page/505251/20200520-JOIa.pdf
*14)プログラムローンは、基本的に土木工事を伴うような個別のプロジェクトを対象としないため、通常は環境セーフガードについてC(影響度少)に分類され、環境アセスメントは必要とされない。しかし、モルディブに対するCPROの場合、その支援対象となる政策パッケージの内容に移民労働者の受け入れ施設の建設・提供が含まれており、同施設の建設のための土木工事を伴ったことから、融資の組成にあたって、環境セーフガードについてB(影響度中)と分類され、対象工事について適切に初期環境評価(IEE:Initial Environmental Examination)を行うことが融資の条件の一つとしてモルディブ政府に対して義務付けられた。
*15)融資契約書によれば、一度目の四半期進捗報告書の提出期限は、融資契約書の署名から次の四半期末の45日後となっており、モルディブに対するCPROの場合、2020年6月28日に署名されたことから、9月30日の45日後である11月14日が報告書の提出期限となっていた。
*16)ニュースリリース:モルディブ向け円借款貸付契約の調印:財政支援を通じ、政府による新型コロナウイルス感染症危機対応に貢献 https://www.jica.go.jp/press/2020/20200930_31.html
*17)移民労働者の多くは主に建設現場等で働いていたが、ロックダウンによりその稼得手段を失い、また国境も封鎖されていることから帰国もできず、マレに放置されることとなった。彼らは一般に限られたスペースかつ劣悪な環境に集団で生活することを余儀なくされていたことから、そうした集団生活に由来するクラスター感染が頻繁に発生していた。
*18)モルディブの観光省は、保健省と連携しながら、パンデミック下でもリゾート島に観光客を受け入れることができるよう詳細なガイドラインを作成・実施している。例えば、その中では、ヴェラナ国際空港からリゾート島への導線、リゾート内の保健医療体制の整備、リゾートの従業員が他の島に行く際の隔離ルール等が詳細に規定されている、また、観光省は旅行客に対するCOVID-19を対象とした保険の提供をはじめとする諸施策も並行して実施している。ADBが4月28日に公表したAsian Development Outlook(ADO)2021においては、太平洋地域の島嶼国やタイ、ジョージアとった他の国に比べてモルディブの観光客数の回復が際立っていることが取り上げられており、モルディブのパンデミック下での観光戦略はグッドプラクティスとして他の開発途上加盟国からも注目されている。 https://www.adb.org/publications/asian-development-outlook-2021