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コラム 海外経済の潮流134

中国テック企業BATHの概要
大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 田村  真平

「世界の工場」と呼ばれて久しい中国だが、今や国内総生産(GDP)では米国に次ぐ経済大国となっており、とりわけIT産業の進歩は目覚ましく、多くのテック企業が誕生している。2000年代に入ってからは、米国のGoogleやFacebookのようなグローバルなプラットフォーム企業が中国市場に参入したが、中国政府による厳しいネット検閲やアクセス制限によって撤退を余儀なくされた。その結果、中国国内では独自のプラットフォーム企業が成長し、足もとでは世界市場でも大きな存在感をみせつつある。
この背景にあるのは、中国国内の携帯電話の急速な普及だ。インターネット普及率では、2019年時点で62.9%と日本(98.5%)や米国(83.8%)には及ばないものの、携帯電話普及率では2019年時点で120.4%と日本(139.2%)や米国(123.6%)と比べても遜色はない*1(図表1.中国でのインターネット利用率及び携帯電話普及率)。携帯電話やスマートフォンの普及拡大に伴い、その事業を大きく成長させたのが、中国を代表する4つの巨大テック企業(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)である。その4社の頭文字をとってBATHと呼ばれ、しばしば米国のGAFAと対比されている。そこで本稿では、中国の巨大テック企業であるBATHの概要について紹介する。
1.BATHの概要
【Baidu(百度:バイドゥ)】
Baiduは2000年に設立され、主要事業である検索エンジンのほか、オンライン広告や動画配信サービス、オンライン百科事典などの事業を展開している。売上規模でみるとBATHの中では比較的小さいが、同社の検索エンジンは中国国内で90%のシェアを占め、月間利用者数は6億人を越えている*2。しかし、検索エンジンの世界シェアをみると2020年10月時点でPC、モバイル、タブレットの順に12.5%、3.6%、3.4%とGoogleの69.8%、94.0%、88.4%とは大きな開きがある*3。
【Alibaba(阿里巴巴:アリババ)】
Alibabaは1999年に設立し、現在は中国最大のE-Commerce(以下「EC」という)事業を展開している。同社の2020年度のEC取引総額は100兆円を超え*4、日本のEC取引総額の5倍程にのぼる*5。また、同社最大のショッピングイベント「独身の日」*6では数日間で取引総額が7.9兆円にも及んだ*4。さらに、同社が提供している電子決済システム「Alipay」は当初、EC事業のみに使用されていたが、現在は実店舗での買い物やレストラン、タクシーでの支払い、電気ガスなどの公共料金の支払いにまで使用されており、中国の生活に不可欠なものとなっている。
【Tencent(騰訊:テンセント)】
Tencentは1998年に設立され、主にSNSやチャットツールなどのコミュニケーションアプリやゲームなど多岐にわたるオンラインサービスを提供している。日本で多く利用されている「LINE」と近い性質を持つ「WeChat」は、2020年3月時点で月間12億人以上のアクティブユーザーを抱えている*7。また、「WeChatPay(電子決済システム)」の国内シェアは38.8%と先述した「Alipay」の55.6%に次ぐ規模で、この2社だけで中国全体の約94%を占めている*8。
【Huawei(華為:ファーウェイ)】
Huaweiは1987年の設立以来、ICTインフラ機器やスマートフォンなど通信機器の開発製造を手がけている。2019年の研究開発費は年間売上の15.3%を占め*9、国際特許出願数でも2020年は5,464件と世界一位であり*10、技術開発に力を入れている企業である。同社のスマートフォンは国内だけでなく世界にも輸出され、2020年第2四半期では一時的に世界シェアトップ(20%)となった*11。しかし近年では、米中貿易戦争で注目を浴びており、2020年9月15日には米国による同社への半導体輸出規制が発効され、2020年第4四半期のシェアは5位(8.6%)まで下落し、スマートフォン事業で陰りが見えている*11。
2.BATHの今後について
以上のように中国のテック企業BATHについて概要を解説してきたが、その全体の規模を売上高で比較するとGAFAの3割程度である(図表2)。これまで、BATHは中国の国内市場で成長してきたが、今後のさらなる成長は、中国以外の市場での事業展開にかかっていると言えるだろう。
また最近では中国においても数多くのユニコーン企業*12が誕生する一方で、米国の禁輸措置や中国当局によるプラットフォーム企業規制など、大きな転換期を迎えている。BATHのほかにも、新たな企業が競争へ参加していく可能性も考えられ、中国テック企業をめぐる動向を引き続き注視していく必要がある。
(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。

*1)国際電気通信連合(ITU)。
*2)Baidu公式HP。
*3)NetApplications「Market Share Statistics for Internet Technologies」。
*4)Alibaba公式HP。
*5)経済産業省「電子商取引に関する市場調査」2020年7月。
*6)毎年11月11日に行われるオンラインショッピングのセールイベント。
*7)Tencent公式HP。
*8)iResearch「中国第三者決済市場レポート」2020第2四半期。
*9)Huawei公式HP。
*10)世界知的所有権機関(WIPO)。
*11)International Data Group(IDC)。
*12)創業10年以内で評価額が10億ドル以上の未上場テクノロジー企業。