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コラム 経済トレンド83

コロナ禍における税効果会計

大臣官房総合政策課 調査員 志水 真人

本稿では、コロナ禍の下で、税効果会計がどのように会計上の利益に影響を与えるかを考察した。

税効果会計とは

・税効果会計は、企業が行う財務会計の開示の質を向上するために用いられている制度である。財務会計はステークホルダーへの情報提供を目的とし、配分可能な利益等の計算を行う一方、税務会計は課税の公平性を目的とし、所得とそれに基づく税金の計算を行う会計制度である。

・財務会計は、収益から費用を差し引いて当期純利益を算出し、税務会計は益金から損金を差し引いて課税所得を算出する(図表1.当期純利益と課税所得の関係)。しかし、上述のように財務会計と税務会計は目的が異なるため、収益と益金、費用と損金は一致せず、当期純利益と課税所得には差異が生じる(図表2.財務会計と税務会計における差異の例)。

・両者の差異は、その性質に応じて「永久差異」と「一時差異」に分類され(図表3.差異の分類と内容)、このうち将来的に解消される「一時差異」を調整する仕組みが税効果会計である。

DTA・DTLの動向

・損益計算書における一時差異の調整には、法人税等調整額が用いられる。法人税等調整額の規模感を確認すると、東証一部上場企業の法人税等調整額(負値の場合、会計上の利益にはプラスに作用)は、リーマンショック直後に会計上の利益に対して大きなプラスの効果を示し、その後しばらく大きなマイナスの効果を示したが、2010年代半ば以降は概ねゼロ近傍で推移している(図表4.法人税等調整額が純利益に与える影響)。なお、「会社標本調査」によれば、繰越欠損金残高はリーマンショック直後に大きく増加し、その後減少しており、繰越欠損金の変動がその時期の法人税等調整額の変動に大きな影響を与えていたと考えられる(図表5.繰越欠損金残高の推移)。

・貸借対照表における一時差異の調整には、繰延税金資産(DTA)・負債(DTL)が用いられ、その規模は図表6.DTA・DTL残高の推移(純額)のように推移している。DTAの増加要因としては引当金や繰越欠損金の計上、資産の減損等が挙げられ、DTLの増加要因としてはその他有価証券の評価益等が挙げられるが、それらの中には、その他有価証券の評価損益のように、貸借対照表にのみ影響し、法人税等調整額には影響を与えないものもある。

DTAの資産性について

・税効果会計では、税務会計と財務会計における差異を調整するために、DTA・DTLが計上される。例えば、N期に損金として認められなかったが、財務会計上認識した費用については、その費用に税率を乗じた金額をN期に前払いしたと考え、法人税等調整額として法人税等合計から減じ、DTAを資産計上する。翌期に損金として認められた場合は、DTAを解消し、同額を法人税等調整額として税金費用に加える(図表7.税効果会計の適用によるDTA計上の例)。

・DTAが会計上の資産として計上されるのは、税負担軽減の対象となる課税所得が将来に存在することが前提であるため、将来に十分な課税所得が見込めなければ、資産として計上することは不適切となり得る。そのため、我が国では1999年の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」以降、過去の業績等により企業を分類し、その分類に応じて計上額を決定することを基本としている(図表8.「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(2015)による分類)。

コロナ禍における税効果会計

・上述のように、回収可能性の判断には過去の業績が重視されるが、コロナ禍が長期化した場合、赤字が長引く企業が増加すると考えられる。足元では減少傾向にあるものの、2020年度の赤字企業数は増加しており(図表9.赤字企業数の推移)、繰越欠損金を計上する企業が増える可能性がある。

・しかし、将来の業績予想が難しいコロナ禍においては、新たに計上する繰越欠損金の資産性の有無について、企業の分類変更の必要性を踏まえた慎重な検討が必要とされる。また、DTAが前年から増加した企業数は近年増加傾向にあるが(図表10.DTAが前年から増加した企業数)、すでに計上されているDTAの資産性についても見直す必要が生じ得る。

・そのため、コロナ禍が長期化した場合、損失としてDTAを取り崩す必要に迫られる企業が出てくると考えられる。純資産に対するDTAの比率は近年上昇傾向にあるが(図表11.純資産に対するDTAの比率)、DTAの比率が高い企業が取り崩しを行った場合には、足元の業績に基づく想定以上に、財務状況が悪化する可能性に留意する必要があるだろう。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

(出典)日本政策投資銀行設備投資研究所「日本における税効果会計制度の概要と上場企業の適用状況」、荻窪輝明「税効果会計と財務諸表の視点」、FactSet、国税庁「会社標本調査」、企業会計基準委員会「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」