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ファイナンスライブラリー:江夏 あかね/西山 賢吾 著『ESG/SDGs キーワード130』

一般社団法人金融財政事情研究会 2021年2月 定価 本体2,800円+税

評者 渡部 晶

本書は、著者たちのESG投資やサステナブルファイナンス研究についての不断の蓄積から誕生した1冊である。なお、関連する野村資本市場研究所の「サステナブルファイナンスの時代」(水口剛(高崎経済大学経済学部教授)編著 2019年6月)については、本誌2019年12月号のライブラリーにて紹介した。2019年12月、野村資本市場研究所では、さらにサステナビリティ関連研究を深める場として、野村サステナビリティ研究センターを設立し、江夏あかね氏がセンター長に就任した。西山賢吾氏はセンター主任研究員である。

本書の冒頭で、水口剛氏が「サステナビリティリテラシーの時代―推薦のことば」と題して寄稿し、環境と社会の危機を背景に、ESGやサステナビリティに関する理解が問われる時代であることを強調している。また、帯の方で「最新の情報、深みのある解説」とあるほか、高田英樹氏(財務省/Green Finance Network Japan事務局長)が「有用な手引き」として推薦している。

著者たちは、「本書の作成にあたっては、各キーワードを取り巻く状況・経緯を含めた実務に役立つ内容をできる限りわかりやすく解説するように心がけ、より多くのステークホルダーにとって、『知識の引き出し』になるような本となることを目指した」という。実際、「ESG/SDGs全般」、「環境」、「社会」、「ガバナンス」といったテーマに大別し、合計130のキーワードを紹介するものとなっている。また、巻末の索引を参照することにより、キーワードの有機的な関係性を理解することができる。10カ所以上頻出するキーワードは、ESG、PRI(責任投資原則)、SDGs、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、アセットオーナー/アセットマネージャ―、エンゲージメント、グリーンボンド、コーポレートガバナンスコード、スチュワードシップ・コード、ステークホルダー/ステークホルダーエンゲージメント、パリ協定である。

去る4月8日開催の財務総合政策研究所内の外部有識者講演会では、石井菜穂子氏(東京大学理事、未来ビジョン研究センター教授、グローバル・コモンズ・センターダイレクター)が登壇。「Global Commons Stewardshipで日本と世界を駆動する」との演題で、「地球環境危機」の状況、2030年を経て2050年への「社会・経済システム転換」の不可避性、東京大学の全学的取り組み「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ」の紹介に係る講演を行った(講演資料は財総研のホームページに掲載)。この石井氏の印象的な講演の重要なキーワードである、「プラネタリー・バウンダリー」や「サーキュラー・エコノミー」を、本書の「環境」にあるキーワードとして参照することができる。すなわち、「プラネタリー・バウンダリー」は、「地球の環境容量を科学的に表示したものであり、人類が生存できる範囲の限界を示している」、「サーキュラー・エコノミー」は、「旧来の大量生産・大量消費・大量廃棄といった直線型経済(リニアエコノミー)にかわり、リサイクル、再利用、再生産、省資源の製品開発、シェアリング等を通じて資源をできるだけ循環させていく(サーキュラ―)経済モデルである」と、各項目の冒頭で要を得た解説がなされる。

通読して痛感するのは、水口教授が指摘するように、本書で紹介されている「組織や仕組みや概念などが相互に関係し合い、全体として一つのエコシステムを掲載している」ということだ。日本政府は、いまや、「普遍的価値」(自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づく「価値の外交」を標榜する。「環境」だけでなく、「社会」にあげられている、ジェンダー、児童労働/奴隷的労働、社会的責任監査、社会的包摂、ダイバーシティ、ビジネスと人権、紛争鉱物、ワーカーズキャピタル、CHRB(企業と人権ベンチマーク)など、これまでビジネスシーンで真正面から取り扱われてこなかった事項にも注目して対応していく必要がある。そのためにも必携の1冊である。