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コラム 海外経済の潮流133

米国と中国の貿易動向について

大臣官房総合政策課 海外経済調査係 野上 優

IMFの統計によると、2018年の世界の総貿易額38.8兆ドルのうち、世界の貿易相手国の順位を見ると、第1位は中国4.5兆ドル(シェア11.6%)、第2位が米国4.1兆ドル(同10.6%)となっている*1。

世界の総貿易額の約1/5を占める超大国である両国の動向は世界経済に大きな影響力を与えることがわかる。

2016年11月の米国大統領選で、事前の予想に反しドナルド・トランプ氏が勝利、ここから米中関係は大きな変動の時を迎える。

そこで本稿では、米国貿易統計からみた足元の米中貿易の概要について解説するととともに、米中貿易摩擦から第一段階合意に至った経緯、合意の履行状況、またバイデン政権の対中方針について考察することとしたい。

1.米中貿易の概要

2020年の米国の輸出入相手国をみると、中国は、輸出ではカナダ、メキシコに次ぐ第3位、輸入では第1位となっている。米中は両国とも重要な貿易相手であり、お互いに無視できない存在となっている【図表1.米国の輸出入相手国〔2020年〕】。

次に米国から中国への主な輸出品をみると、大豆、ICチップ、原油、自動車、機械部品、航空機・エンジンなどが挙げられる。大豆の輸出額は、2020年11.4%と1位になっているが、これは、米中合意を受けた大豆の輸出増を受けたものであり、2019年は第3位である。

一方、米国の中国からの主な輸入品は情報処理機器、電気機器、繊維製品、玩具・遊戯用具、テレビ類などが挙げられる。

2020年の対中貿易では、輸入額〔4,354億ドル〕が輸出額〔1,246億ドル〕を上回っており、米国の対中貿易は▲3,108億ドルと大幅な貿易赤字となっている【図表2.米国の対中輸出入品目別〔2020年〕】。

中国の貿易赤字は、1987年時点では、対GDP比で0.1%であったが、その後急速に赤字額が拡大し、2017年時点では対GDPが1.9%と米国の貿易赤字の対GDP比4.1%の半分を占めている。米国はこの対中貿易の膨大な赤字額の増加を問題視していた【図表3.国別貿易赤字の内訳(財のみ・原数値)】。

2.米中貿易摩擦・第一合意(経緯と第一合意、合意の履行状況)

2017年1月に誕生したトランプ政権は対中貿易赤字の縮小を目指し、2018年7月以降、第1弾から第4弾にわたり段階的に中国からの輸入品に対し追加関税措置を実施した。中国も米国の対応に応じる形で追加関税装置を実施してきた。これら相互の追加関税措置により米中貿易摩擦が激化し、2019年後半の世界経済は減速するに至った。IMFは2017年に3.8%であった世界の実質GDP成長率が2018年に3.6%、2019年に2.9%に低下するとの見方を示した。

2019年9月11日、トランプ大統領は、10月1日に予定されていた第1弾から第3弾の追加関税率の引上げを、中国の劉鶴副総理の要請と中国建国70周年記念日を考慮し、10月15日に延期する旨を表明した。そして、その後に開催された閣僚級協議において米中間で第一段階の合意がなされたとして、上記関税率の引上げは見送られた。11月には、米国において、香港でのデモを受け「香港人権・民主主義法案」が成立するなど、米中関係の更なる悪化が懸念されたが、12月13日、米中両政府は改めて第一段階の合意に達したと発表し、翌2020年1月15日には第一段階合意文書への署名が行われた。

この合意は米国産の大豆をはじめとする農産品や工業製品、エネルギーの輸入を特定年の2017年対比で2020年に767億ドル、2021年に1,233億ドルの合計2,000億ドル増加させることを規定している【図表4.米中第一段階合意の内容】。

ところが、米国のシンクタンクであるピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)によると、2020年通年の中国による達成状況は約58%から59%にしか満たないとされる。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大などにより達成からほど遠いという厳しい現状が伺える。

3.バイデン政権の対中方針

2021年1月に発足したバイデン政権は、それまでのトランプ政権の政策を次々と転換した。

自国第一主義を改め、欧州をはじめとする同盟国との協調を掲げ、WTOなどの国際枠組みを重視するとした。

中国に対しては懲罰的な制裁関税は用いないとしつつ、トランプ政権の発動した追加関税を維持し、中国の新疆ウイグル自治区におけるウイグル族への弾圧、香港の統制強化、台湾への圧力に対して厳しい姿勢で臨む方針を示した。

また第一段階合意の履行状況を点検し、合意自体の見直しを含め検討するとの考えも表明している。

2月10日に電話で行われた米中首脳会談において、バイデン大統領は中国の習近平国家主席に対し、中国による香港の民主派弾圧や新疆ウイグル自治区での人権侵害、威圧的で不公正な経済慣行に「根源的な懸念」を抱いていると伝えたとホワイトハウスが報じている。

さらにUSTR(米通商代表部)代表に指名されたキャサリン・タイ氏も2月25日、中国の知的財産権侵害や不公正や貿易慣行を問題視したうえで、トランプ政権の発動した対中追加関税は、「合法的な手段」であるとし、第一段階合意について「中国は実行に移すべきだ」との見解を示している。

4.終わりに

これまで足元の米中貿易の概要について解説するととともに、貿易摩擦のさなか第一段階合意に至った経緯、合意の履行状況、またバイデン政権の対中方針について考察してきた。

米中貿易の今後の動向は、日本経済のみならず世界経済の命運を左右しうる重要なトピックであり、「新たな冷戦」とも比喩される両国の関係から目が離せない。

米中貿易の動向を引き続き緊張感を持って注目してまいりたい。

(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。
(出典・参考文献等)*2

コラム 中国の大豆輸入

○中国政府は米・小麦・トウモロコシの3大穀物は基本的に自給する方針であり、大豆は収益性がトウモロコシ等より劣ることから輸入に頼っている。また、国内の食用油需要の増大により、油の成分が多い遺伝子組み換え大豆の輸入が急増している。なお、大豆の中国国内消費量のうち食用約15%、搾油用約85%。搾油後の搾り粕は豚などの飼料原料となる。

*1)IMF direction of trade statistics

*2)(出典・参考文献等)米商務省センサス局、内閣府・世界経済の潮流2018-II、2019-II、ジェトロ、各種報道、レポート