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コラム 経済トレンド82

原油価格変動と経済波及

大臣官房総合政策課 調査員 石神 哲人/田村 怜

本稿では、原油価格の変動と経済への波及について考察する。

主な原油関連指標と近時の変動

・原油価格は、市場経済における需給に応じた変動に加え、金融の動向、地政学リスク等により上下する性質を持つ。現在は国際的な指標として、主な産出国の違いに応じて英国のブレント先物、米国のWTI先物、ドバイ先物などが参照される(図表1.主要原油先物価格の推移)。

・原油は資源の中でも価格変動が大きく、とりわけ新型コロナウイルス感染拡大の際は他の資源以上の価格低下となり、WTI先物価格が一時マイナスとなった(図表2.コロナ下における資源価格水準の推移)。

原油産出の状況

・2019年時点で、1日当たりの原油生産量が多い国は米国となっており、次いでサウジアラビア、ロシアと続く。近年はOPEC非加盟国の生産量が増加し、価格決定への影響力が増大している(図表3.国別原油生産量(2019年)、図表4.OPEC加盟/非加盟別原油生産量)。

・サウジアラビア等のOPEC加盟国は、市況を勘案し協調して産出量を増減することで、原油全体の価格安定化を図っているが、しばしば価格競争が行われ、2020年に原油先物価格が一時マイナスとなった要因の一つとして、シェア争奪を背景とした減産協議の不調が挙げられている。また、産出国ごとに経常収支や財政収支が均衡する価格は異なっており、価格変動は原油に依存した国の経済運営に大きな影響を与える(図表5.主要産出国の収支均衡価格)。

原油価格変動が日本に与える影響

・日本は化石燃料を輸入に頼っており、取引価格の変動は、物価に影響する。主な使途の一つである発電をみると、電力会社ごとの燃料構成による差異があるものの、原油価格変動が3か月程度遅れて作用するLNGの変動も相まって、足元では電気料金の低下が、物価全体を押し下げている(図表6.原油、LNGおよび電気料金水準の推移)。

・直近10年間を見ると、輸入量と輸入価格の積である総支払額は、最大の2013年度で約14.5兆円、原油価格が下落した2016年度は約6.2兆円となっており、原油価格の変動により、8兆円程度の規模で対外収支が増減する効果があった(図表7.原油輸入量と価格)。

・企業にとっては、売上原価を増減させる効果があり、輸入価格が上昇すると、時間差を持って利益を押し下げる効果が働く(図表8.利益に対する原価増減の寄与度および原油CIF価格(前年比))。販売価格が固定的な業種では最終利益の増減に直結し、販売価格が柔軟に動く業種では、消費者の利益が増減することになる。

原油価格の展望

・OECD諸国の原油需要は2005年に頭打ちとなっており、中国を中心とした非OECDが需要増加を牽引している(図表9.地域別原油需要)。中国も労働力人口が減少傾向にあり、人口要因から需要が頭打ちとなる可能性が指摘されている。

・また、欧州を中心に、発電における化石燃料使用を抑制する動きがあり、環境規制の強化から需要が軟調に推移することで(図表10.化石燃料由来発電割合)、需要低下に基づく価格下落が生じる可能性も否定できない。コロナウイルス感染拡大に伴う原油価格下落時には、産油国で、財政安定性の目安となるCDSスプレッドが急上昇(悪化)する事態も生じた(図表11.産油国CDSスプレッド)。

・一方で、地政学的リスクが高まり、供給が制約される事態が生じれば、価格高騰を生むおそれもあることには留意が必要である。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

(出典)Bloomberg,Thomson reuters, BP“Statistical Review of World Energy”,資源エネルギー庁『エネルギー白書』,東京電力,財務省『貿易統計』、内閣府『四半期別GDP速報』,財務省『法人企業統計』,原油連盟,IEA “monthly electricity statistics”, IEEI『コロナ禍におけるによる内外石油市場への影響』,日本総研『原油価格下落の家計への影響』,第一生命『原油高が日本経済に及ぼす影響』