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ファイナンスライブラリー:『図表でみる世界の行政改革 OECDインディケータ(2019年版)』

OECD 編著 平井 文三 訳

明石書店 2020年11月 定価 本体6,800円+税

評者 渡部 晶

2019年8月号の本欄で、2017年版を紹介したが、初版の2009年版から翻訳の労をとる平井文三亜細亜大学法学部教授のご努力で、6回目となる2019年版がこの度刊行された。

また、ほぼ同時に、同じく平井教授の訳により、『図表でみるASEAN諸国の行政改革~OECDインディケータ(2019年版)』も刊行された。同書は、OECDとアジア開発銀行(ADB)のパートナーシップによって刊行された東南アジア諸国連合(ASEAN)地域に関する初めての版である。OECDでは、2010年代半ばから、『図表でみる世界の行政改革』の地域版を出版する取り組みが進んでいるという。地域版は、ラテンアメリカとカリブ諸国版が2014年、2017年、2020年の3版、西バルカン諸国版が2020年に初版が出された。ASEAN諸国版は、OECD諸国平均のほか、隣接OECD諸国としてオーストラリア、日本、韓国、ニュージーランドの個別指標も掲載されている。

2019年版は、グリア事務総長の「政府に対する幻滅を撃退するには、人間中心の公共部門の政策とサービスが必要である」との読者メッセージ、要旨等に続き、第1章は、各年度版の特色を示す、「人間中心の公共サービスに向けて」との論考となる。ここで「人間中心」とは、「公共政策やサービスを設計、提供、実施、評価する際に、人々のニーズと声を考慮に入れることを意味する」という。公共サービスの満足度が、政府活動の重要なアウトカムとみなされている。これに関連して、本書では、保健医療政策・サービス、教育、司法システムのスコアカードが掲載される。日本の順位は、OECD諸国中真ん中ぐらいである。そして、デジタル変革の重要性、ビッグデータの活用はもちろんのこと、政府の労働力も、女性、マイノリティ、障がい者などが上位の職位につき、より広い社会を反映することが要請されるとする。

第2章以下は原則的に見開き2ページで掲載指標を紹介していく。第2章 財政と経済、第3章 公共部門の雇用、第4章 組織、第5章 予算編成の慣行と手続き、第6章 人的資源マネジメント、第7章 規制のガバナンス、第8章 公共調達、第9章 デジタル政府とオープン・ガバメント・テータ、第10章 中核的な政府の結果、第11章 国民にサービスを提供する、となっている。

OECDは、本書の取り組みにおいて、インプット指標、プロセス指標とアウトプット指標、アウトカム指標との因果関係を立証するという目標を掲げている。第10章で、政府全体の次元として、政府への信頼、政府応答性の認知度、所得と資産の再分配及び法の支配を取り上げている。また、公共部門の効率性については、保健医療と税務行政、費用対効果については、保健医療と教育に限定して取り上げられている。コロナ禍前のデータであることを前提に保健医療について紹介すると、効率性の測定に関する「すべての疾患に関する平均入院日数」については日本のデータは(急性)治療のための入院しか含まれていないとして、図表に掲載されていない。費用対効果に関する「平均寿命と国民1人あたり保健医療に関する経常支出額」では、日本は、イタリア、スペイン、イスラエル、韓国と並び、支出に比して、相対的に平均寿命が高いと分析されている。アメリカは、支出に比して期待される平均寿命よりかなり低く、「保健医療システムの高度に断片化された性質(これとともに、公衆衛生とプライマリー・ケアに向けられた資源の相対的な少なさ)、健康医療行動、肥満率や道路交通事故による死亡などの保健医療関連行動、他のOECD諸国よりも高い貧困率と所得格差などがある」との分析にははっとさせられた。第11章では、保健医療、教育及び司法制度について、サービスへのアクセス、応答性及び質という3つの観点から、サービスのアウトプットとアウトカムの計測に取り組んでいる。

日本の現状に鑑みると、さまざまなベンチマークを提供するOECDの議論に参画し、その成果を活用することはますます重要になっていると思う。ぜひ、一読をお勧めしたい。