このページの本文へ移動

日英EPAとRCEP協定の概要について その2:RCEPについて

関税局経済連携室課長補佐 恵﨑 恵

1.はじめに

日英EPAの発効及びRCEPの署名を踏まえ、3月号では、まず、日英EPAの概要等について紹介しました。本稿では、3月号に引き続き、RCEPの概要、及びEPAの利用促進に係る財務省関税局の取組について紹介します*1。

2.RCEPの概要

【協定への署名】(資料1.地域的な包括的経済連携(RCEP)協定)

RCEPは、ASEAN10カ国*2に日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドの5カ国をあわせた計15カ国の間での経済連携協定です。日本にとっては、中国、韓国を含む初めての経済連携協定ということで、経済界からも大きな注目を集めています。

RCEPは2012年11月に交渉立ち上げが宣言され、8年間の交渉の後、2020年11月15日に署名されました。当初は先述の15カ国にインドを加えた16カ国で交渉を続けてきましたが、2019年11月にインドは突然RCEP交渉からの離脱を示唆し、他の15カ国から復帰の働きかけを行ったものの、インドは不参加のまま15カ国で署名に至りました。残りの15カ国はインドがRCEPに戻ってくればいつでも歓迎するとして、RCEPがインドによる加入のために引き続き開かれている旨規定されています(インド以外の国は発効後18か月を経過した後にのみ加入可)。現在、発効に向けて我が国を始めとして参加国においてそれぞれ作業を進めているところです*3。

【RCEPの意義】

RCEPは世界のGDP、貿易総額及び人口の約3割を占める巨大な経済圏であり、日本にとって主要な貿易相手国である中国と韓国が含まれるなど、日本の貿易総額のうち約5割を占める地域との経済連携協定です。RCEPにより、日本と世界の成長センターであるRCEPの地域とのつながりがこれまで以上に強固になり、これを通じて日本の経済成長に寄与することが期待されます。

また、市場アクセスの改善により、地域の貿易・投資の促進やサプライチェーンの効率化が期待される点や、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備した点が、大きな意義としてあげられます。

写真:RCEP署名式(2020年11月15日)(首相官邸ホームページより)

【RCEPの主な内容:物品の貿易】(資料2.RCEPの主な内容(物品の貿易))

物品貿易交渉の結果について、譲許表*4は国によって異なりますが、日本から輸出される際の関税撤廃率(品目ベース)は、ASEAN・豪州・ニュージーランドが86~100%、中国が86%、韓国が83%となっています。今まで日本がEPAを締結していなかった中国と韓国については、RCEPにより、日本からの工業製品の輸出品目に占める無税品目の割合が、中国では8%から86%に、韓国では19%から92%に、それぞれ大幅に広がることになります。工業製品では、例えば、インドネシアにおける鉄鋼製品、韓国における自動車の電動化に必要な電子系部品、中国における電気自動車用のモーターの一部等について、新たに関税が撤廃されます。農産品の輸出関心品目についても、関税撤廃を獲得しています。中国におけるパックご飯、米菓、ほたて貝等、韓国における菓子等、インドネシアにおける牛肉、醤油等で、関税撤廃を獲得しています。また、酒類について、中国及び韓国における清酒等の関税撤廃も獲得しています。

また、RCEPの国から日本への輸入に係る関税撤廃率については、ASEAN・豪州・ニュージーランドが88%、中国が86%、韓国が81%となっています。輸入農産品については農水省が掲げる重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)は譲許から除外されました。

【RCEPの主な内容:ルール分野】(資料3.RCEPの主な内容(ルール分野))

原産地規則では、他の締約国で生産された原産材料を自国の原産材料とみなす「累積」の規定が導入されています。このため、例えば、日本からASEANに原産材料の部品を輸出して組み立てた製品を中国に輸出する場合に、RCEPに基づく特恵税率が適用される等、地域に拡がるサプライチェーンのメリットが向上することが期待できます。また、本協定がすべての締約国について発効した場合には、他の締約国での生産行為や付加される価値も累積の対象に含めることを検討することになっています。

税関手続・貿易円滑化では、各締約国の関税法令の適用における予見可能性、一貫性及び透明性を確保するとともに、通関の迅速化や税関手続の簡素化を図るためのルールを規定しています。通関の所要時間等に関して数値目標が設定され、例えば、「通関に必要な全ての情報が提出された後48時間以内に通関を許可する手続を、また急送貨物に関しては6時間以内に貨物の引取りを許可する手続を採用又は維持する」といった内容が規定されています。また、関税分類等に関する事前教示の義務規定も盛り込まれています。

投資に関しては、投資環境整備のための法的枠組みとして、投資時の技術移転の要求やロイヤリティ規制を含む特定措置の履行要求の禁止が規定されています。知的財産に関しては、例えば、著名な商標が自国や他国で登録されていないこと等のみを理由として保護の対象から外すことを禁じる規定等、WTO協定(TRIPS協定)を上回るルールを規定しています。また、電子商取引に関しては、先述の日英EPAでご紹介したTPP3原則のうち、「Data Free Flow(国境を越えた自由なデータの移行)」と「Data Localization(サーバを自国に置くことを強要してはいけない)」の2つがRCEPでも規定されました。なお、残りの「Source Code(プログラムの開示の禁止)」は、現時点では入っていませんが、発効後に改めて検討して見直すという規定が入っています。

日本がEPAを初めて結ぶ中国・韓国を含めたRCEPメンバー国との間でこうしたルールを合意できたことは、大きな意味があると考えています。

【RCEPの主な内容:酒類、たばこ、塩の合意概要】(資料4.RCEP:酒類、たばこ、塩の合意概要、資料5.RCEP:酒類、たばこ、塩の合意概要)

財務省所管物資の合意概要については、特に、清酒をはじめとする日本産酒類について、日本がこれまでEPAを締結していない中国・韓国との間で関税撤廃を獲得しています。例えば、韓国においては、日本から輸出されるビールに対し30%もの高い関税が課されています。RCEPでは、日本から韓国に輸出されるビールに課される30%の関税率について、発効後20年目に撤廃することとされました。また、清酒に関しても、日本から中国、韓国へ輸出される場合、中国では40%、韓国では15%の関税がそれぞれ課されていますが、それぞれ発効後21年目、15年目に撤廃されることとなりました。焼酎についても、中国では10%、韓国では30%の関税がそれぞれ課されていますが、それぞれ発効後21年目、20年目で撤廃されることとなりました。日本の酒類の主要な輸出相手国である中国、韓国に対し、関税撤廃を確保できたことは、日本産酒類の輸出拡大に寄与するものと考えています。

RCEP協定の発効時期については、他国の国内手続にもよるため、現時点で具体的な発効時期を特定することはできませんが、可能な限り早期に発効させることが重要であるとの認識が各国間で共有されており、それぞれ国内手続きが進められています。

3.経済連携協定(EPA)利用促進に向けた取組(資料6.EPA利用促進に向けた取組、資料7 EPA関連情報)

先述した通り、RCEPの署名を経て、日本の貿易総額に占めるEPA等発効済・署名済の国・地域との貿易額の割合が約8割となり、EPAの利用機会の更なる拡大が見込まれます。こうした中、財務省では、事業者の方々によりEPAを活用いただけるよう、様々な取組みを実施しています。

まず、発効前説明会を含む各種説明会の実施です。新しいEPAが発効する前にはその内容について説明会を実施してきており、日英EPAについても、コロナ禍の中、オンライン説明会を実施しました*5。そのほか、事業者等の要望に応じて、個別のセミナー等も実施しています。

また、相談窓口の設置による相談対応も行っています。これまで行ってきた輸入に関する相談だけでなく、最近では輸出に関する相談対応も強化しており、東京税関の原産地センターでは、輸出先からの情報提供要請に対する相談など、様々な相談を受け付けています。

さらに、税関ホームページ等での情報発信も強化しています。リーフレットやYouTubeを使ってEPAに関する情報を発信*6することに加え、事業者等との意見交換やアンケートにおける要望を踏まえ、ホームページ上の情報を見やすく整理したり、ホームページへの掲載要望のあったEPA締結相手国の譲許表を新たに掲載したりするなど、ニーズに沿った情報発信ができるよう、工夫を続けているところです。

財務省関税局・税関のEPA関連情報URLの一覧を資料7.EPA関連情報に掲載していますので、EPAに関する疑問や要望などがあれば、是非ご活用ください。

4.おわりに

今年度は、日英EPAの署名・発効、RCEPの署名と、日本のEPA交渉が大きく進展した年でした。特に新型コロナウイルス感染症の拡大以降、世界で保護主義や内向き志向が強まる中で、これらの協定により、自由貿易体制を維持・強化し、自由貿易を更に推進していくとのメッセージを世界に向けて発信することができたのも、大きな意義だと感じています。そして、これらの協定の実現は、これまで交渉に関わった多くの方々の努力や苦労があってのことです。日英EPA交渉が3カ月という短期間で合意に至ったのも日EU・EPAという土台があったこと、RCEPも8年という交渉の年月を積み重ねて今年度に合意を迎えられたことと思っています。

日英EPA、RCEP交渉において、関税局は経済連携室及び原産地規則室を中心に、制度を担う関税課、税関執行を担う業務課等とも連携し、局全体で精力的に取り組みました。また、国税庁課税部酒税課をはじめとする関係部局にも交渉の中で多大な協力をいただきました。これまで交渉に携わって来られた全ての方々に、この場を借りて感謝申し上げます。

*1)文中、意見等に係る部分は筆者の個人的見解です。

*2)ASEAN10カ国とは、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム。

*3)RCEPの場合、(1)ASEAN10カ国のうち少なくとも6カ国、及び(2)非ASEAN5カ国のうち少なくとも3カ国が国内手続きを終えて批准書を寄託した後60日後に発効することになっています。日本の国内手続きとしては、今通常国会での審議・承認を目指しているところです。発効の具体的な時期は各国の準備状況に左右されるため、現時点で明言するのは難しい面があります。

*4)関税を引き下げる約束を「関税譲許」と言い、EPAの協定上で、品目ごとに、関税引下げのステータスが記載されたものを「譲許表」と呼びます。RCEPは複数の国が参加しているEPAなので、ASEAN・豪州・ニュージーランド向けの譲許表、中国向けの譲許表、韓国向けの譲許表の3つがあります。

*5)YouTubeの税関チャンネルに説明会の動画を掲載しています。https://www.customs.go.jp/roo/origin/j-uk_exp.htm

*6)EPAについてわかりやすく解説した動画・パンフレットを税関HPに掲載しています。https://www.customs.go.jp/kyotsu/kokusai/fta-epa_index.htm