このページの本文へ移動

令和3年度 農林水産関係予算について

主計局主計官 波戸本 尚

1.令和3年度農林水産関係予算の基本的考え方

(1)大規模経営体の生産性・収益性向上へ向けた課題への対応

我が国では、2020年実績で9,223億円の農林水産物・食品の輸出額を2030年までに5兆円とする意欲的な目標(輸出5兆円目標)を掲げ、農業の成長産業化に向けた農政改革を展開している。こうした中で、農業経営の規模拡大の進展等を背景に、この10年間で主業農家*1の農業所得は約6割増加した(資料1.農業経営の動向 参照)。一方で、今後の農業の成長産業化を担うべき大規模経営体の状況を見ると、その収益性や生産性は必ずしも十分なものとはいえず、輸出拡大を見据えた高収益作物への転換等を進める必要がある。

経営規模別の農業粗収益と農業経営費(水田作経営)を見ると、単位面積当たりの農業粗収益が規模拡大につれて低減する一方で、農業粗収益に占める補助金の割合が規模拡大につれて増加する傾向にある。また、経営規模が大きくなるにつれて単位面積当たりの農業経営費が低減するが、一定規模(15ha)を超えると低減しにくい状況にある(資料2.経営規模別の農業粗収益と農業経営費(水田作経営)参照)。

単位面積当たりの農業粗収益が規模拡大につれて低減する背景として、水田の転作地の大半が、収益性が低く補助金交付の多い転作作物に充てられ、交付対象面積は大規模経営体が大きな割合を占めることが挙げられる(資料3.大規模経営体の農業粗収益の増加に向けた課題 参照)。こうした転作農地を大規模経営体の経営能力を活かした輸出基盤に生まれ変わらせることが、輸出5兆円目標の達成に向けて重要である。そのため、令和2年度第3次補正予算(新市場開拓に向けた水田リノベーション事業等:350億円)により、輸出5兆円目標を見据え、輸出・実需ニーズに対応(生産者と実需の販売契約を含むプランを作成)した輸出用米や高収益作物等の生産拡大に向け、生産者の低コスト生産技術等の導入支援と、実需の製造機械・施設整備支援を実施することとしている。

また、一定規模を超えると単位面積当たりの農業経営費が低減しにくい背景として、1経営体当たりの耕地面積が増加(集積)しても、農地が分散してまとまっておらず、「集約」が進んでいないことが挙げられる。平成26年の農地バンク創設以降、農地の集積は一定程度進んできたが、今後は農地の集約度をさらに高めることが重要である。そのため、令和3年度予算では、農業経営の生産性向上に向け、農地の集積のみならず、まとまった形での集約を進めるべく、農地バンクを通じた農地集約へのインセンティブを拡充することとしている(機構集積協力金交付事業:35億円)。

(2)サプライチェーン全体の生産性向上へ向けた課題への対応

また、これまでの農政は「生産現場」に焦点を当てた施策が中心であったが、流通・小売を含めたサプライチェーン全体を視野に入れて展開することが重要である。デジタル技術による各主体のデータ共有を進めながら、消費者ニーズに的確に対応した新たな価値を創造していくという視点は輸出拡大に当たっても不可欠である。そのため、農林水産行政に関する補助金申請等の手続を全てデジタル化し、農地の現地情報との統合も可能とする農林水産行政におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進(令和3年度予算:39億円、令和2年度第3次補正予算:62億円)することとし、これにより、行政組織の効率化・働き方改革や補助金の申請事業者の負担軽減を図るとともに、将来的なフードサプライチェーン全体のデジタル化へつなげることとしている。

(3)今後の中山間地域の農地管理の在り方への対応

さらに、人口減少が著しい中山間地域対策も急ぐ必要がある。将来的な人口動態を踏まえつつ、農地が無計画に荒廃していかないよう、どこまでを耕作地として維持し、どこまでを粗放的管理に委ねるのか、各地域での具体的な管理の在り方を検討すべきである(資料4.中山間地域の人口減少と粗放的管理 参照)。そのため、令和3年度予算では、食料自給力維持のための農地等の粗放的な利用の実証(農山漁村振興交付金における「最適土地利用対策」の新設:98億円の内数)等を支援し、同事業等を通じた地域による検討を後押しすることとしている。

(4)令和3年度農林水産関係予算のポイント

以上の点を中心に、令和3年度農林水産関係予算及び令和2年度第3次補正予算については、

・農林水産行政のデジタル化を進めるとともに、農林水産物・食品の輸出5兆円目標の実現に向けた輸出・生産体制の強化や、令和3年産において必要な過去最大規模の水田の作付転換への対応、さらには農業経営の生産性の向上・スマート化への支援を実施することとしている。

・加えて、中山間地域等の課題への対応を図るとともに、グリーン社会の実現に向けた森林資源管理や、資源管理に取り組む漁業者の経営安定対策等を実施し、また、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている農林水産業者への支援や、引き続き厳しい状況にある飲食業の需要喚起等を実施することとしている。

こうした結果、令和3年度の農林水産関係予算は総額2兆3,050億円と対前年度比▲59億円(▲0.3%)となった(資料5.農林水産関係予算の推移 参照)。また、令和2年度第3次補正予算は1兆519億円となった。

2.主な施策の概要

以下、令和3年度予算の主な施策の概要を紹介する(以下の括弧内の金額は前年度当初予算比)。

(1)農林水産行政のDX

農林水産行政に関する補助金申請等の手続を全てデジタル化し、農地の現地情報との統合も可能とする農林水産行政におけるDXを推進。これにより、行政組織の効率化・働き方改革や補助金の申請事業者の負担軽減を図るとともに、将来的なフードサプライチェーン全体のデジタル化へつなげる。

・農林水産省共通申請サービスによるDXの推進 38.9億円(+31.7億円)

・デジタル改革による農林水産行政におけるDXの推進 [令和2年度第3次補正予算]62.2億円

(2)輸出5兆円目標へ向けた輸出拡大の推進

農林水産物・食品の輸出5兆円目標の実現に向け、令和2年11月に策定した『農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略』に基づき、組織再編により新たに設置する「輸出・国際局(仮称)」を中心に、輸出重点品目について、生産体制の強化、輸出障壁の解消、海外での販路開拓を一体的に推進する。

・輸出5兆円目標へ向けた輸出拡大の推進 99.1億円(+4.5億円)、[令和2年度第3次補正予算]703.2億円

(3)水田の作付転換への対応

令和2年度第3次補正予算(「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」)において、農林水産物・食品の輸出5兆円目標を見据え、輸出・実需ニーズに対応した輸出用米や高収益作物等の生産拡大に向けた、生産者の低コスト生産技術等の導入支援と、実需の製造機械・施設整備支援を実施する。

当該補正予算による特別な前倒し支援と、令和3年度予算(「水田活用の直接支払交付金」)における転作支援により、令和3年産において必要な過去最大規模の水田の作付転換(令和2年産比6.7万haの転作面積増)に対応する。

・新市場開拓に向けた水田リノベーション事業等 [令和2年度第3次補正予算]350.0億円

・水田活用の直接支払交付金 3,050.0億円(±0.0億円)

(4)農業経営の生産性の向上・スマート化

ア.農業経営の生産性向上に向け、農地の集積のみならず、まとまった形での集約を進めるべく、農地バンクを通じた農地集約へのインセンティブを拡充する。

・機構集積協力金交付事業 34.8億円(+2.1億円)

イ.スマート農業の社会実装に向け、先端技術の生産現場での導入・実証を推進するとともに、農業農村整備事業において、スマート農業に適した基盤整備や高収益作物に転換するための水田の畑地化・汎用化等を推進する。

・スマート農業総合推進対策事業 13.6億円(▲1.4億円)

・スマート農業技術の開発・実証プロジェクト[令和2年度第3次補正予算]62.0億円

・農業農村整備事業関係 4,445.3億円の内数、[令和2年度第3次補正予算]1,855.2億円の内数

(5)中山間地域等の課題への対応

少子高齢化・人口減少で中山間地域等が直面する農地保全を含む集落活動の低下等の課題に対応するために、食料自給力維持のための粗放的な農地利用の実証、農業等の収益性事業によるコミュニティ・サービスの維持に関するモデル事業等を支援する。

・多面的機能支払交付金 486.5億円(±0.0億円)

・中山間地域等直接支払交付金 261.0億円(±0.0億円)

・農山漁村振興交付金 98.1億円(±0.0億円)

・鳥獣被害防止総合対策交付金 110.0億円(+10.0億円)、[令和2年度第3次補正予算]22.9億円

(6)グリーン社会の実現

カーボン・ニュートラル及びグリーン社会の実現に向けて、温室効果ガスの吸収源となる森林資源の適切な管理や木材製品の利用拡大を推進するとともに、更なる温室効果ガスの排出抑制・吸収に向けた農林技術開発を推進する。

・森林整備事業 1,248.0億円(+25.4億円)、[令和2年度第3次補正予算]496.0億円

・木材産業・木造建築活性化対策 12.5億円(+0.9億円)

・農林水産研究推進事業 21.5億円の内数

(7)水産改革

改正漁業法の施行を踏まえ、資源調査・評価体制を充実し水産資源の適切な管理を図るとともに、資源管理に取り組む漁業者の経営安定対策を着実に実施する。

・水産資源調査・評価推進事業 60.0億円(+7.8億円)

・漁業収入安定対策事業 200.5億円(+58.5億円)、[令和2年度第3次補正予算]424.9億円

(8)新型コロナウイルス感染症拡大による影響への対応

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けている農林水産業の担い手に対する経営継続や労働力確保、農林水産物の販路の多様化等の支援や、引き続き厳しい状況にある飲食業の需要喚起等を実施する。

・経営継続補助金[令和2年度第3次補正予算]570.7億円

・高収益作物次期作支援交付金[令和2年度第3次補正予算]1,343.0億円

・農業労働力確保緊急支援事業[令和2年度第3次補正予算]15.3億円

・国産農林水産物等販路多様化緊急対策事業[令和2年度第3次補正予算]250.0億円

・Go To Eatキャンペーンの延長[令和2年度第3次補正予算]515.0億円

*1)「主業農家」とは、農業所得が主(経営所得の50%以上が農業所得)で、1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家をいう。