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自転車通勤で「なろう」になろう!?(4)

―異世界に転生してチートで活躍ってご都合主義じゃないですか、でも本当にそんなこともあるんですよ!

4.いよいよ最終回!最後に頼りになるのは自分だけど、この連載ですから、必要なのは苦しい修行なんかじゃなく、楽して勝つるチートだ!

証券取引等監視委員会事務局 総務課長 若原 幸雄

『まず、万が一、ジオルド王子に殺されそうになった時のために剣の腕を磨くのです。いざその時、剣で応戦できれば簡単にやられることはありませんわ!』

『おお、確かに!』

『それから、もし国外追放されたときに生きていくすべが必要ですわ。なので、ここに魔力を磨くことを提案します』

(略)

『よし、では皆さん。今後は剣の腕と魔力を磨くということでよろしいですかな』

『『『はい』』』

山口悟『乙女ゲームの破滅フラグしかない

悪役令嬢に転生してしまった…』

《チートその19:ポジション》

連載第1回、「その5」でサドルの高さを調整したことを覚えていらっしゃいますか?その際には書きませんでしたが、サドルを上げれば、ハンドルも上げない限り、姿勢は前傾します。前を見るには首が疲れるのですが、この前傾姿勢、仕方なく我慢するものではなく、楽するためにこそおススメなのです。

まず、体の重心をちょうどいい場所に置きやすくなります。長時間自転車に乗っていると、お尻が痛くなったりしませんか?それは体重をサドルに預けすぎということ。体重は足に乗せるべきで、お尻が痛くなりづらくなりますし、ペダルを押す助けにもなります。前傾姿勢をとれば、上体が脚の上に来ますから、自然に重心を前に移せるのです。

次に、空気抵抗を減らせます。「その13」で取り上げた上り坂と並んで自転車できついのは向かい風ですが、これがその最たる例。無風状態でも、スピードが30km/hを超えるあたりから空気抵抗をはっきり感じるようになります。前方投影面積を減らす=前傾姿勢をとって減らすんだ!

首が疲れるのは、残念ながら慣れるしかありません。あえて言えば、最初は前傾を浅めにするためハンドルも上げて浅めの前傾とし、慣れるにしたがって段階的にハンドルを下げ前傾を深くしていくと負担は少ないでしょう。サドルの位置はすべての基本になるので、こちらで調整するのはやめましょう、念のため。

《チートその20:ペダリング》

再びサドル高の話ですが、脚の力を最大限に発揮できるように調整するのは既述のとおり。しかし、できることと、実際にできているかは別の話。街中の自転車乗りを見ると、大きく2つの点で、力をロスしている人がいて、「もったいないなぁ」と思うのです。

ガニ股がそのひとつ。足でペダルを押す=脚を伸ばす主力は太もも前面の大腿四頭筋ですが、腹筋・背筋からふくら脛のヒラメ筋まで下半身の筋肉ほとんどが連動するのに、ガニ股では、うまく使えない筋肉が出てきます。足をペダルの一番内側に寄せ膝を外ではなく前に向ける(つま先よりも膝を意識した方が直しやすいかと)、それでもダメなら、ペダルはその真上に据えた膝で押すイメージ(下腿は膝の力を伝える棒のイメージ)を試してみてはいかがでしょうか。

もうひとつが上体の揺れ。ペダルを押せば反動が返ってくるので、それを抑え込もうと、右脚で押すときには右に、左脚なら左に、上体が動きがちです。しかしこの場合、体幹の筋力の幾分かが脚にではなく上体に使われているのです。対策としては、ペダルを「踏む」のではなく「押す」、脚を「伸ばす」よう意識しつつ反動を背中で受け止めること。上り坂などで強くペダルを押すため反動も強くなったら、ハンドルを自分に向かって引き付けるように両腕に力を入れれば、反動をハンドルに逃がすことができます。さらに強く押すために、いわゆる立乗りをするときには、自転車を左右に倒し―右足でペダルを押す場合は左に、左足の場合は右に―、押す足と体幹は動かないようにすると、力のロスを最小にできます。

《チートその21:ギア》

初歩的な英語の復習として、ギア(gear)は歯車を意味しますが、ここで取り上げるのは、その組み合わせの話。ペダルに直接つながっている歯車(チェーンリング)と、後輪の中央にある歯車(スプロケット)の組み合わせです。わたくしの自転車でいうと、チェーンリングは48・38・28歯の3枚、スプロケットは11~32歯の8枚があり、組み合わせは3×8=24通り。さあ、どれとどれをチェーンでつなげましょう?

英語の次は算数(ノットイコール数学)です。チェーンリングはペダルと直結しているので、ペダル1周につきこちらも1周。チェーンリングとスプロケットの歯はチェーンにより一対一でつながっているので、それぞれどの歯車につなぐかで、ペダルが1周したときに後輪が何周するか定まります。わたくしの自転車の場合、後輪の最少周回がペダル1周当たり0.875周(28÷32)、最多周回が4.36周(48÷11)。「重い/軽いギア」といいますが、同じペダル1周で多く進めば重く、少ししか進まなければ軽く感じるわけです。

以上を前提に、ペダルの回転ペースを一定に保った方が効率よく、一般に90回転/分が目安です。言い換えれば、これより回転数が多ければ1周当たりの距離を延ばし(歯数の多いチェーンリング/少ないスプロケットにシフト)、少ないなら縮め(逆にシフト)ます。ただしこれは、ツールドフランスのような長距離レースが発祥の目安で、疲労が回復しづらい筋肉より、回復しやすい心肺に負担を寄せています。素人だとかなり息が上がりますから、もう少し筋肉に負担を寄せて70回転/分ぐらいでもいいでしょう。

前回、「その17」でネックスピーカには意外な使い方があると記しましたが、それが何かといえばこのペースメーカーとして。レーサーは「その15」で触れたサイコンにセンサーをつなげて回転数を測りますが、本連載はそういうガチ路線ではないので、曲に合わせてペダルを回しちゃいましょう。昨今のJ-POPで例示すれば、Official髭男dism「Pretender」や米津玄師「Lemon」などが90回転ペース(左右ペダルを分けて180回押すとするならRadwimps「前前前世」など)、LiSA「炎」やあいみょん「裸の心」などが70回転ペース(同、ヨルシカ「ただ君に晴れ」など)なので、道中のお供にどうぞ。

《チートその22:コーナーリング》

「その2」で止まることを、今回ここまで進むことを主に取り上げたので、自転車の操作を網羅するに、残るは曲がることになります。スピードが出ていなければハンドルを切るだけですが、20km/h前後からは急ハンドルは事故の元、車体を倒して曲がりましょう。慣性の直進力と倒した側の重力のバランスで曲がり方が決まりますが、車体の構造上、倒した分とちょうど釣り合うように前輪が傾いてハンドルが切れるので、ハンドルは操作しなくてよいのです。

大切なのは、倒す前に十分に減速しておくこと。平地や上り坂なら問題ないでしょうけれど、下り坂で思わぬスピードが出ていると、慣性が強く曲がり切れないか、十分な重力が効くほど倒した角度ではタイヤのグリップが失われて転倒するかになってしまいます。特に後者は、路面が濡れていたりゴミが積もっていたりすれば、比較的遅いスピードでも起こることも。滑りやすそうな路面では、いつも以上に減速するのは当然として、車体は起こし気味にしてその分自分の体をイン側に倒すことで、グリップを確保することも選択肢に入ってきます。

なお、車体を倒すと、イン側のペダルが路面に近づきます。万が一路面に接触すると、バランスが崩れて転倒の原因になるので、イン側のペダルは必ず上げるようにしましょう。

《チートその23:好奇心》

ここまで4回にわたりいろいろと書いてきましたが、それも自転車沼のほんの浅瀬にすぎません。詳しい人から見れば「違うだろ!」ということも、敷居を下げるために書いたりもしました。自転車は手軽な乗り物ですから、いろんなことを自由に試すことができます。拙稿を超えて使いこなすのも、とっても簡単です。好奇心に導かれ沼に浸かる人が出てくることを、先住の一人として心よりお待ち申し上げております(笑)。