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令和3年度税制改正(国税)について

前主税局総務課 税制企画室長 藤嶋 正信

令和3年度税制改正については、令和2年12月10日に与党において「令和3年度与党税制改正大綱」が決定され、同年12月21日に「令和3年度税制改正の大綱」が閣議決定された。

本稿においては、「令和3年度税制改正の大綱」を中心に説明したい。なお、文中意見等にわたる部分は、筆者の個人的見解である。

1.令和3年度税制改正の基本的考え方

急速な少子高齢化や働き方の多様化、「新たな日常」の構築など、経済社会の構造が大きく変化している中で、税制としても、こうした諸課題へ的確に対応するとともに、デフレ脱却と経済再生を確かなものとしていくことが求められている。

令和3年度税制改正においては、ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルフォーメーション(DX)及びカーボンニュートラル(CN)に向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設けることとしている。あわせて、中小企業の経営資源の集約化による事業再構築等を促す措置を創設するほか、家計の暮らしと民需を下支えするため、住宅ローン控除の特例の延長等を行うこととしている。

具体的な改正内容等は以下のとおりである。

2.令和3年度税制改正における主な措置等

(1)産業競争力の強化に係る措置

(ア)デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制の創設

企業がウィズコロナ・ポストコロナの新たな日常に対応した事業再構築を早急に進めていくためには、レガシーシステムから脱却しつつ、デジタル技術を活用して企業変革(DX)を進めていくことが重要である。この企業の取組みを後押ししていくため、デジタルトランスフォーメーション(DX)の投資促進税制を創設し、他社とのデータ連携等によりデジタル環境を構築し、事業変革を行う場合に税額控除又は特別償却ができることとする。(資料1.デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制の創設(案))

(イ)活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し

企業が研究開発投資を増額させるインセンティブを強化させる観点から、

・厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる場合に、一般型(旧:総額型)の税額控除上限を引き上げる

・控除率の下限の引下げを含め、控除率カーブを見直す

・産学官連携の更なる活性化を図り、質の高い研究開発を推進していく観点から、オープンイノベーション型の対象範囲を拡大するとともに、運用改善策を講じる

等の見直しを行うこととする。(資料2.研究開発税制の見直し(全体像)(案))

(ウ)コロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し(人材確保等促進税制)

厳しい雇用情勢の中、新たな人材の獲得及び人材育成の強化を促しつつ、第二の就職氷河期を生み出さないようにする観点から、新規雇用者に対する給与を前年度より2%以上増加させた企業に対し、新規雇用者給与等支給額の15%を税額控除できる措置等を講ずる。また、事業変革に向けた人材投資(教育訓練費)を増加させた企業に対しては、税額控除率を上乗せすることとする。(資料3.賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し(案)〔人材確保等促進税制〕)

(エ)繰越欠損金の控除上限の特例

わが国の国際競争力・経済成長力を維持していくためには、赤字企業も含め、厳しい経営環境の中でも果敢に投資を行い、事業再構築・再編に取り組んでいくことが強く求められる。

このため、産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けた場合は、2年間にわたって生じた欠損金額について、翌期以降最大5年間、当該計画に従って行った投資額の範囲内で所得の最大100%まで繰越控除を可能とする特例を創設することとする。

(2)自社株式等を対価としたM&Aに係る税制上の措置

企業の機動的な事業再構築を促し、競争力の維持・強化を図る観点から、自社株式等を対価としたM&Aを行った場合に、その対象会社の株主の株式譲渡損益課税を繰り延べる措置を講ずることとする。(資料4.自社株式等を対価としたM&Aに係る税制上の措置(案))

(3)国際金融都市に向けた税制上の措置

日本の金融資本市場を国際金融センターの一つとして発展させ、海外から金融事業者・高度人材を呼び込むため、政府一丸となって取り組むこととしており、税制においても以下の措置を講ずることとする。

・法人課税においては、投資運用業を主業とする非上場の非同族会社等の役員に対して支給される業績連動給与について、一定の要件を満たした場合は損金算入を可能とする措置を設ける。

・相続税においては、就労等のために日本に居住する外国人に係る相続等について、その居住期間にかかわらず、外国に居住する家族等が相続により取得する国外財産を相続税の課税対象としない。

・個人所得課税においては、ファンドマネージャーが運用成果に応じ利益の分配として受け取る「キャリードインタレスト」について、一定の場合には、株式譲渡益等として20%の分離課税の対象となることを法令解釈上明確化する。

・国際課税においては、リミテッド・パートナーシップ※を通じて投資を行う非居住者等に対する課税の特例について、持分割合要件を緩和する。

※無限責任組合員及び有限責任組合員から構成され、共同して投資事業を行う組合

(4)住宅ローン控除の特例の延長等

住宅ローン減税については、10年間を限度として住宅ローン年末残高の1%を所得税額から控除する仕組みとされていたが、令和元年度税制改正において、令和2年末入居分まで、控除期間を13年間に延長する等の特例が設けられたところ。(注)今般、経済対策の観点から、

(1)控除期間13年間の特例を適用できる入居期限を延長し、一定の期間に契約した場合には、令和4年末までに入居した者を対象とするとともに、

(2)これまで床面積50m2の住宅が適用対象とされていたが、特例が延長される期間に入居する者のうち合計所得金額1,000万円以下の者については、床面積が40m2以上50m2未満の住宅も適用対象とする

ことで、新型コロナウイルス感染症の影響等により低迷が続いている住宅投資を幅広い購買層に対し喚起することとした。

なお、会計検査院からの指摘を踏まえ、令和3年度与党税制改正大綱において、住宅ローン年末残高の1%を控除する仕組みについて、1%を上限に住宅ローン支払利息額を考慮して控除額を設定するなど、控除額や控除率のあり方を令和4年度税制改正で見直すこととされている。(資料5.住宅ローン控除の見直しについて(案))

また、住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置については、令和3年4月から12月末までの間に契約した場合の非課税枠を最大1,500万円まで引き上げるとともに、合計所得金額が1,000万以下の者を対象に、床面積が40m2以上50m2未満である住宅についても適用することとする。

(注)消費税率の8%への引上げ時に、10%への引上げも踏まえた控除額の引上げ等の反動減対策が講じられていたが、令和元年度改正における措置は、これを上乗せするもの。

3.デジタル社会の実現

(ア)研究開発税制の見直し

企業がクラウド環境でサービスを提供するソフトウェアなどは、いわゆる「自社利用ソフトウェア」として取り扱われ、その制作に要した試験研究費は、税務上、資産計上され、研究開発税制の対象外とされてきた。本改正では、ソフトウェア分野における研究開発を支援し、企業のDXを推進する観点から、その資産の取得価額に含まれるものであっても、研究開発費として損金経理をした金額を研究開発税制の対象とすることとする。

(イ)押印義務の見直し

税務署長等に提出する国税関係書類において、実印及び印鑑証明書を求めている手続き等を除き、押印義務を廃止することとする。なお、税制改正関係法案の施行日前においても、改正の趣旨を踏まえ、当該書類については、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする。

(ウ)電子帳簿保存制度の見直し等

経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続きを抜本的に見直すこととしている。具体的には、

・事前承認制度を廃止する

・国税関係帳簿書類について、正規の簿記の原則に従うなどの一定の要件を満たせば電子データのまま保存できる電子帳簿とすることを可能とする

・国税関係帳簿のうち、現行の要件全てを充たしているものを優良な電子帳簿とし、その普及を促進するためのインセンティブ措置を講じる

・納税者が紙で受領した領収書等をスキャナで保存できるスキャナ保存制度について、ペーパレス化を一層促進する観点から、その手続き・要件を大幅に緩和するとともに、電子データの改ざん等による不正行為を抑止するための担保措置を講じる

等の見直しを行う。(資料6.電子帳簿等保存制度の見直し(案))

4.グリーン社会の実現

(1)カーボンニュートラル(CN)に向けた税制措置の創設

2050年カーボンニュートラルをという高い目標に向けて、脱炭素化を加速する製品(優れた燃料電池・化合物パワー半導体等)や生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新設備の導入投資等について、税額控除又は特別償却できる措置を創設することとする。(資料7.カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設(案))

(2)エコカー減税の見直し

全体として自動車ユーザーの負担が増えないように配慮しつつ、燃費性能がより優れた自動車の普及を促進する観点から、その適用要件について、目標年度が到来した2020年度燃費基準を達成していることを条件に、2030年度燃費基準の達成度に応じて減免する仕組みに切り替えることとする。

また、クリーンディーゼル車については、燃費基準の達成状況や普及の状況等を総合的に勘案し、ガソリン車と同等に扱うこととするが、現行の取扱いが大きく変化することから、市場への配慮等の観点も踏まえ、令和3年度及び4年度に関しては激変緩和措置を講ずることとする。(資料8.自動車重量税のエコカー減税の見直し(乗用車)(案))

5.中小企業の支援

地域経済の中核を担う中小企業を取り巻く状況を踏まえ、ポストコロナを見据えて、生産性の向上や経営基盤の強化を支援する必要があり、中小企業関連税制について、次の措置を講じることとする。

(ア)中小企業向け投資促進税制等の延長

設備投資を促進し、経営基盤の強化を支援する等の観点から、中小企業の軽減税率の特例や中小企業投資促進税制等の適用期限を2年延長するとともに、商業・サービス業・農林水産業活性化税制について、対象業種を中小企業投資促進税制に統合することとする。(資料9.中小企業投資促進税制等の延長等(案))

(イ)所得拡大促進税制の見直し

中小企業全体として雇用を守りつつ、所得拡大を促すため、賃上げだけでなく、雇用を増加させる企業を下支えする観点から、雇用者全体の給与等支給額に着目した要件に見直すこととする。(資料10.中小企業における所得拡大促進税制の見直し(案))

(ウ)中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設

中小企業の経営資源の集約化を通じた生産性向上等を促すため、M&Aを実施する企業の投資リスクに備える準備金制度(株式等の取得価額の70%以下の金額を積み立て、当期の損金に算入)を創設するとともに、前向きな投資を推進するための措置を講ずることとする。(資料11.中小企業事業再編投資損失準備金制度の創設(案))

6.経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し

(ア)国や自治体等の実施する子育てに係る助成等の非課税措置

子育て支援の観点から、保育を主とする国や自治体からの子育てに係る助成(ベビーシッター・認可外保育施設の利用料等)について、所得税を非課税とする措置を講ずることとする。

(イ)セルフメディケーション税制の見直し

国民が適切な健康管理の下、セルフメディケーションに取り組む環境を整備することが、医療費の適正化にも資することを踏まえ、より効果的・効率的なものとする観点から、スイッチOTC薬の中でも効果の薄いものを本税制の対象外とする一方で、とりわけ効果があると考えられる薬効については、スイッチOTC成分以外の成分にも対象を拡充することとする。併せて、手続きの簡素化を図るとともに、本税制の効果検証を行うため、適切な指標を設定して評価を行うこととする。

(ウ)教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し

孫等が受贈者である場合に、贈与者の死亡時の残高に対して相続税額の2割加算が適用されないこと等が本制度の節税的な利用につながっているとの指摘を踏まえ、2割加算を適用する等の見直しを行った上で、適用期限を2年延長することとする。

7.円滑・適正な納税のための環境整備

(ア)国際的徴収回避行為への対応

租税条約に基づき各国税務当局間で互いに相手の租税債権を徴収していこうとするいわゆる徴収共助の枠組みが拡大してきている。

この徴収共助の要請が可能な国に財産を所有する滞納者による徴収回避行為に適切に対応し、適正かつ公平な課税・徴収を実現する観点から、滞納処分免脱罪及び第二次納税義務の適用対象を見直すこととする。

(イ)退職所得課税の適正化

退職金は、一時にまとめて相当額が支払われるものであり、長期間にわたる勤務の対価の一括後払いという性格を有するため、その課税に当たっては、累進税率の適用を緩和し、税負担の平準化を図る観点から、退職金から退職所得控除額を控除した額の2分の1を課税対象とする措置が講じられている。

この「2分の1課税」の平準化措置の適用にあたり、勤続年数5年以下の短期の退職金について、現行、法人役員等に支払われるものが除外されているが、今般の改正において、平準化措置の趣旨や現下の退職給付の実態を踏まえ、法人役員等以外に支払われるものについても、退職金のうち一定額以上の部分について平準化措置の対象から除外することとする。

(ウ)金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し

より一層の金密輸の抑止を図る観点から、仕入税額控除の要件として保存が求められる売却した者の本人確認書類から、外国政府発行の書類等を除外することとする。