このページの本文へ移動

コラム 経済トレンド78

農業の動向と収益性の向上

大臣官房総合政策課 調査員 志水 真人/髙根 孝次

本稿では、近年の農業の動向を調査し、農業の収益性向上についての可能性を考察する。

農業の現状

・日本の農業就業人口は、生産年齢人口の減少を上回るペースでの減少が続いている(図表1.農業就業人口の推移)。

・新規就農者へのアンケート調査によると、現状の経営課題としては「所得・収益の確保」が最多となっており、収益の確保が難しいことが担い手不足の一因となっている可能性が考えられる(図表2.新規就農者が抱える現状の経営課題(2018年))。

・実際に、毎月勤労統計における一般労働者の年間給与総額と農業経営統計における個別農家の1経営体あたりの所得を比較すると、農業所得は現金給与総額の全産業平均を下回っている(図表3.所得の比較)。今後も担い手の減少が続く可能性があるため、農業の収益性を高める必要があると考えられる。

近年、生じている変化

・農業総産出額は長年減少傾向が続いていたが、2014年以降増加傾向に転じている(図表4.農業総産出額の推移)。背景としては、近年における農産物価格の上昇や、法人経営体数の増加による大規模化等が影響していると考えられる。

・農産物価格上昇の要因としては、需要に応じた生産による主食用米の価格回復や、消費者の健康志向の高まりによる鶏肉の需要増等が考えられる(図表5.農産物価格指数の推移)。

・法人経営体数については、近年農業経営体数全体が減少する中において増加を続けている(図表6.農業経営体数の推移)。法人経営体は従業員を集めやすく、規模の拡大を行いやすいこと等から、法人経営体数の増加が農業総産出額の上昇に寄与したと考えられる。長期的には縮小傾向にあった農業だが、近年は拡大の兆しがみられている。

日本の農業における課題

・一般的に、農業経営は大規模化が進むにつれて、収益性も向上すると考えられる。しかし、作付規模別の米の生産コストをみると、規模拡大に伴い生産コストは減少するものの、減少幅は逓減する傾向にある(図表7.米の作付規模別1経営体当たりの生産コスト(2018年度))。

・その要因としては、日本は耕地面積における中山間地域の比率が高く(図表8.中山間地域比率の比較(2010年データ))、大規模化した場合でも農地が分散していること等が影響していると考えられる。

・法人経営体は従業員を集めやすい点で大規模化に適していると考えられるが、企業経営には業績予想に基づく事業の計画と実行が求められる。しかし、農業総生産額が夏期の気温に大きく影響を受けているように(図表9.農業総生産額と夏の気温)、農業は天候や自然災害等の不確定要素の影響を受けやすく、安定した企業経営が難しいといえる。

収益性の向上にむけて

・前述のように、中山間地域の多い日本での農地の大規模化は難しいため、ICT・ロボット技術等の活用により、農地が分散していることによる生産性の低下を補う必要があると考えられる。

・具体例としては、自動運転で隣接圃場を移動できるトラクターや、農地間の斜面に対応した無人草刈ロボット等が挙げられ、実際に無人草刈ロボットがコストを2割削減したという実証実験結果も出ている(図表10.無人草刈りロボット導入前後の人件費比較)。

・一方、天候や自然災害等の不確定要素による影響を取り除く方法としては、植物工場が挙げられる。植物工場は、ICT技術を用いた生育環境の制御によって、天候に左右されずに農産物を安定生産することができる施設である。植物工場は、露地栽培よりも事業計画が立てやすい点で、企業経営に適している(図表11.露地野菜と植物工場野菜の比較)。

・植物工場は、生産コストが高く栽培技術確立までに時間がかかるため、現状では赤字施設が多い。ただし、栽培面積が大きくなるほど黒字施設の割合が高くなるため、大規模化のメリットは大きい(図表12.植物工場の面積別収支状況)。

・今後はICT・ロボット技術や植物工場等を通じた、農業部門の収益性向上と不確定要素の軽減が期待される。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

(出典)農林水産省「農林業センサス」「農業経営統計調査」「生産農業所得統計」「農産物価統計」「令和元年度 食料・農業・農村の動向」「スマート農業の展開について」、総務省「人口推計」、日本政策金融公庫「アグリ・フードサポート2019夏号」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」、マッキンゼー「日本における農業の発展、生産性改善に向けて」、内閣府「国民経済計算」、気象庁「気象観測データ」、第一生命経済研究所「日照不足が及ぼす広範囲な影響」、三井住友銀行「植物工場の現況と今後の方向性」