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海外ウォッチャー/「ファイナンス」令和2年12月号

ドイツを語る~経済財政、歴史と文化、新型コロナウイルス流行下での対応、将来~

在ドイツ日本国大使館ニ等書記官 小林 千鶴

1.はじめに

早いもので海外生活をはじめてもう3年あまりが経ちました。私が、欧州での生活を始めたのは2017年の夏であり、はじめはイギリスのロンドンで大学院の修士号を取得すべく、約1年間を過ごしました。修士号を1年で取るというのは、なかなか大変な経験でしたが、国際的な都市で、色々な国の出身の学生と議論をしながら過ごす日々はあっという間でした。

その後、2018年の夏にベルリンに引っ越しました。到着した当初は、言葉の問題や、習慣の違い(※例えば、ドイツでは日曜日にレストラン等を除きほとんどのお店が閉まってしまうので、日用品(例えばトイレットペーパー等)を買い忘れると結構困ったりします)に戸惑うことはあったものの、今ではすっかりこの国にも慣れ、例えばドイツ国外に行った際に、ドイツ資本のお店を見たり、ドイツ語を聞く機会があったりすると少しほっとする自分がいたりします。

コラム ドイツの休日(ドイツ閉店法とフローマルクト)

ドイツにおいては、閉店法(Ladenschlussgesetz)という小売店等の開店時間を規制する法律があり、日曜日や公的祝日には、レストラン等を除くほぼすべての店が閉まってしまいます。

そんな日曜日にショッピングを楽しみたい人におすすめなのが、フローマルクト(Flohmärkte)です。ここでは、古本や手工芸品等を含め、色々なものが売られており、ベルリンのホームページによると、主要なものだけでも15もあるとのことです。*2右の写真は博物館島(Museumsinsel)というベルリン内で有名な博物館が集まった文化的なエリアで土日に開かれている骨董品・古本マーケットです。

2.ドイツの紹介

(1)概要

さて、ドイツは皆様にとってなじみの国で、改めて紹介するほどでもないかもしれませんが、せっかくなのでざっと概要をおさらいできればと思います。なお、以下の内容は、外務省のHP*1を参考に書かせていただいているので、ぜひ詳しく知りたい方はそちらをご覧下さい。ドイツの国土面積は日本より少し小さい35万7千平方キロメートルですが、人口は8,315万人(2019年9月、独連邦統計庁)と日本3分の2くらいであり、特に首都ベルリンに住んでいるのは375万人(2018年、ベルリン―ブランデンブルク統計庁)くらいなので、東京と比べるとかなり人口密度は低めです。その分、ありとあらゆるところに緑があり、休日などは市民の憩いの場となっています。

コラム ドイツと自然

ベルリンにも緑は非常に多く、例えば大使館の前にある動物の庭(Tiergarten)という公園においては、その名にふさわしく、運が良ければ野生動物を見ることができます。写真は、筆者が同公園を訪れた際に偶然見かけた狐です。

政治体制は、16州からなる連邦共和制をとっており、国家元首は連邦大統領であり、立法府は連邦議会と、各州政府の代表により構成される連邦参議院からなります。連邦議会では、キリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU)と社会民主党(SPD)が二大政党であり、現在はこの2党が連立を組んでいますが、この他に自由民主党(FDP)や左派党の他、環境に対する意識の高まりから同盟90/緑の党や、EUに対する反発等から独のための選択肢(AfD)も勢力を伸ばしてきています。

なお、ドイツにおいて特徴的なところは、行政や産業が首都ベルリンに集中しておらず、各州に分散しているということです。例えば、政治・行政の観点で言うと、教育や文化に関することは、連邦ではなく州に委ねられています。また連邦政府の組織でさえも、首都ベルリンのみに位置しているわけではなく、例えば財政・金融関係の組織だけを見ても、連邦財務省はベルリン、連邦中央税務庁はボン、連邦金融監督庁はフランクフルトにあります。産業という観点においても、ベルリンに産業が集中しているわけではなく、例えば、金融の中心はフランクフルトとなっています。

(2)マクロ経済と財政

さて、次は、経済・財政状況についても紹介できればと思います。なお、新型コロナウイルスによる経済・財政への影響については、後半で詳しく紹介するので、ここでは昨年までの状況についてご説明させて頂きます。

ドイツは経済大国というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、実際その通り、GDPの規模は日本に次いで世界第4位、EUの中では最大の規模を誇ります。

一方で、ドイツは1990年の東西統一後は、高い社会保障や労働コスト等に苦しめられ、2000年代に入ってからは、失業率も10%を超え、経済成長率もマイナスを記録する年がある等、「欧州の病人」と言われていた時期がありました。しかし、2000年代前半に行われた労働市場改革を経て、失業率は低下し、実質GDP成長率も4%を記録する等、奇跡的な回復を見せました。その後、金融危機の影響は受けたものの、経済成長率は2014年以降堅調に推移、失業率は低下の一途をたどりました。ただし、最近は成長の減速が指摘されていました。

財政運営についても、東西ドイツ統一以降は、それに伴う財政支出の増加等により、財政赤字の年が続きました。*3 2007年には、好況等により一度黒字に回復するものの、金融危機対応のため再び悪化、2010年債務残高対GDP比はピークの82.3%を記録しました。しかし、2009年の基本法(憲法)改正による起債制限や、またECOFINの勧告もあり、2010年に「財政健全化に向けた基本方針」を閣議決定し、歳出削減と歳入増加の両面から財政収支の改善が図られました。*4その後、財政状況は著しく改善、2014年以降は新規国債を発行せず、2019年には債務残高対GDP比はマーストリヒト基準の60%を下回るようになりました。

図表1.実質GDP成長率の推移
図表2.失業率の推移
図表3.一般債務残高対GDP比の推移
図表4.一般政府財政収支の推移

(3)ドイツと日本との関係

2019年には、61.5万人の日本人がドイツを訪問し、23.7万人のドイツ人が日本を訪問しました。*5また、在独日本人数は4.5万人あまり(2018年)、在日ドイツ人数が7千万人(2019年)あまりです。*6ドイツの在留邦人が多いことの理由の一つとして、ドイツがヨーロッパにおけるビジネスの拠点となっており、日系企業が多く進出していることがあげられます。在独日系企業数は、ヨーロッパにおいて最大の1,814(2017年時点)であり、これは2位の在英日系企業数986の2倍弱にあたる数になります。*7

ドイツの中では、特にデュッセルドルフに多くの日本人が住んでおり、欧州ではロンドン、パリに続いて、第3位の在留邦人数である8,332人(2019年)となっています。*8その中でも、特にインマーマン通り(Immermannstraße)には日本のお店がたくさんあり、ここに行けばまるで日本にいるかのような雰囲気を味わえるらしいです。

また、ここベルリンも、東京と姉妹都市関係を結んでいます。残念ながら、まだデュッセルドルフと比較すると在留邦人もそこまで多くないですが、最近日本食や日本酒に対する認知度も少しずつ上がってきており、美味しい日本食や日本酒を飲む機会も増えてきています。とはいえ、まだロンドンやパリに比べると日本食や日本酒の普及率が高いといえないので、日本酒類PR担当(※実は私は、財政・金融関係のことのみならず日本酒類のPRも担当しているのです)として、農水省アタッシェと協力しながら、将来ここベルリン、そしてドイツでの、日本食・日本酒の認知度をさらにあげ、この地に美味しい日本酒・日本食がよりいっそう普及するよう日々励んでいるところです。

3.ベルリンの紹介

さて、続いては、大使館が立地するここベルリンについて紹介できればと思います。皆さんベルリンというと、どのようなイメージを持たれているでしょうか。ベルリンの壁、舞姫の舞台、ベルリン管弦楽団などなど。もちろん、これらもベルリンの特色の一つではありますが、私がこの地に来て特に感じたのは、非常にクリエイティブな街だということです。これは、2003年当時の市長であったクラウス・ヴォーヴェライト(Klaus Wowereit)氏が述べた「ベルリンは貧しい、けれども非常にセクシーな町である(Berlin ist arm,aber sexy)」という言葉に表されていると思います。では、なぜベルリンはこのような特徴を持つに至ったのでしょうか。

ご存じのとおり、ドイツは第二次世界大戦後、分断の時代を迎えることになり、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)とドイツ民主共和国(東ドイツ)という2カ国が存在する状態が長い間続きました。この分断の時代において、ベルリンは非常に特殊な状況におかれます。すなわち、基本的に、地理的に西側にある州は西ドイツ、地理的に東側にある州は東ドイツの領域となったのですが、ベルリンだけは、一つの都市の中で西側が西ドイツ、東側が東ドイツの領域という形になり、いわゆる西ベルリンが、東ドイツの中で飛び地にある状況となります。当初は、東西ベルリン間でも人の往来があったのですが、東ベルリンから西ベルリンへの人口流出が止まらないことがあり、とうとう1961年にはドイツ分断の象徴であるベルリンの壁によって同都市は西側と東側に分断されてしまいます。このような背景があり、西ドイツの産業の中心は、東ドイツ側から離れた西側に移動することになり、西ベルリンは産業の基盤を失ってしまいました。*9経済社会研究所(WSI)の2016年の調査によると、ベルリンの物価は、首都であるにもかかわらず、ドイツの15大都市の中で、下から5番目と低めの水準になっています。*10

一方で、ベルリンの置かれたこの複雑な状況は、特に壁崩壊後、独自の文化を発展させることになります。壁崩壊後、東ベルリンの地区にあった発電所や工場などの多くの建物は廃墟となりました。これらの廃墟に若者たちが集まり、違法なパーティーを開くようになりました。*11その後もベルリンのクラブカルチャーは発展を続け、ベルリンは世界でも有数のクラブ地域となります。現在では、ベルリン市の公式ホームページがクラブについて説明するほど、クラブはベルリンにとって重要な観光資源の一つとなっています。*12*13また、ストリートアートも、ベルリンの文化を構成する大きな要素の一つです。ストリートアートは、壁崩壊前に西ベルリンにおいて、トルコからの移民やいわゆるパンク等を中心に始まったのですが、その後1970年代後半に関心が高まり、様々なスタイルやテクニックが持ち込まれ発展しました。*14一方で、東ベルリンにおいても、社会的に抑圧された中でも、ある種のストリートアートのようなものがあり、壁崩壊後、東西の文化はミックスされました。*152006年にはユネスコのCity of Design賞を受賞する等、ベルリンは名実ともにストリートアートの街となりました。*16ベルリンではいたるところでストリートアートを見ることができるのですが、特にイーストサイドギャラリーという、ベルリンの壁に数多くのアーティストがアートを施したものは本当に圧巻で、ワルシャワ通り駅から東駅までの一駅分にわたって数多くの作品を見ることができます。

なお、冒頭で、ベルリンから産業が撤退してしまったと述べましたが、現在では、このクリエイティブさを生かした産業の中心地としてベルリンは栄えるようになりました。すなわち自由な文化や、国際的な人材の多さ、安価な家賃(※これについては残念ながら現在年々高騰しているところですが)等は、起業家にとって非常に魅力的であり、この街で多くのスタートアップ企業が生まれ、活動しています。

コラム ベルリン分断とその爪痕

ベルリン分断とその爪痕は今も残されていて、街を歩いていると至るところで見かけます。例えば、私が以前住んでいた場所の近くには、フリードリッヒ通り(Friedrichstraße)駅というのがありますが、ここはかつて、東ベルリンと西ベルリンの境となっていた駅であり、ここの国境通過のための場所は、東と西に住む家族や親戚、友人等の別れの場になったことから、涙の宮殿(Tränenpalast)と呼ばれています。*13また大使館の最寄りにあるポツダム広場(Potsdamer Platz)駅付近では、壁によって分断されていた地域であり、今でも以下のように壁のあった場所を指し示す跡が残されています。写真は、現在のポツダム広場駅であり、道路を横切って走っている線がかつてベルリンの壁があった場所です。

コラム ドイツのストリートフード

皆様お待ちかね、現地の食べ物をご紹介できればと思います。もちろんドイツには白アスパラガス(Weißer Spargel)やフェダーヴァイサー(Federweißer)等、季節の食べ物もあるのですが、せっかくベルリンのお話をした後なので、ベルリンの食べ物をご紹介させて頂きます。

べルリンの屋台料理の定番と言えば、カリーブルスト(Curry Wurst)です。これはソーセージにケチャップとカレー粉等をかけたものであり、通常フライドポテトやパンと一緒に食べます。実は、カリーブルストの本家がベルリンなのか、そうでないのかについて議論もあるらしいのですが、ここではベルリンが発祥ということにしておければ幸いです。カリーブルストのお店や屋台はいたるところにあり、結構お手軽な値段で食べることができるので、小腹がすいたときに重宝しています。下はアレクサンダー広場(Alexander Platz)駅構内のカリーブルスト屋さんのカリーブルストです。

4.ドイツと新型コロナウイルス感染症対策

(1)ドイツにおける新型コロナウイルス感染症事情

ドイツにおいては、1月27日に初の新型コロナウイルス感染者が出ましたが*17、流行が拡大したのは3月中旬以降でした。拡大のスピードは非常に早く、それに合わせて政府が各種の規制を行なって以来、街の雰囲気はがらりと一変しました。スーパーマーケットとドラッグストア等の一部を除いて、店は全て閉まり、街からは人が消え、唯一空いているスーパーマーケットやドラックストアー等からは消毒液やトイレットペーパー等が消え、他の商品も品薄になりました。ニュースでは、イタリアやスペイン等のひっ迫した状況の報道をはじめとして、一日中新型コロナウイルスの話ばかりが流れるようになりました。その後3月中は感染者の数は非常に大きかったものの、3月末に6,000人を超える感染者を記録した後は、4月以降新規感染者数は減り続け、6月にはかなり落ち着いた状況になり、店も開きはじめ、街に少しずつ人が戻ってきました。夏の前半はかなり落ち着きを見せていたのですが、最近再び感染者数が増え、この記事を執筆している11月上旬現在、新規感染者数は3月の水準を大きく上回りました。再び規制が強化され、それに伴いレストランやバー等が閉まり、街を歩く人も数少なくなっています。

図表5.週ごとの新規感染者数

(2)ドイツにおける新型コロナウイルス感染症対策*18

さて、ドイツにおける新型コロナウイルス対策が本格化したのは3月に入ってからです。3月11日、メルケル首相は、連邦保健相やロベルト・コッホ研究所長と初の共同記者会見を実施し、住民に、連帯を示し、医療制度に負担をかけないよう呼びかけました。*19その後、近隣諸国との交通の制限や、第三国(EU、シェンゲン加盟国及び英国以外)からの入国禁止等が実施されました。また国内においても連邦と州の協議において、原則として2人を超える集まりの禁止や、学校についての休校・通学義務免除、食料品店や薬局等を除いて店舗の閉鎖等、様々な接触制限措置が決定されました。なお、ドイツにおいて、州の権限は強く、各種制限措置の具体的な実施は州が行うのですが、各種対策の決定にあたり、連邦政府は州と協議をして、統一的な方針を打ち出し、その後各州政府が具体的な措置を州令で打ち出すという形がとられました。*20*21

その後、4月に入り、感染者数が落ち着き始めると、段階的な緩和措置についての連邦と州での合意がなされ、まずは一定のサイズ以下の店舗等の再開、5月に入ると、外出制限の人数の緩和や学校の再開、全店舗の営業再開が決定されました。6月に入ると、公共の場での接触人数の制限の撤廃をする州も多く出てきました。また国境管理についても、5月以降、近隣諸国との制限を段階的に解除、7月以降は第三国からの入国制限も段階的に解除されることとなりました。

その後、10月に再び感染が大きく拡大したことを受け、10月中旬に再び連邦と各州の協議がなされ、感染者数が一定人数を超えた地域における、段階的な接触制限やマスク着用義務の拡大等が決定されました。そして、とうとう10月末の連邦と州の協議では、飲食店やレジャー余暇施設等の閉鎖や接触人数の制限等の措置の導入が決定されました。

コラム ドイツとマスク

日本においては、マスクは、花粉症対策、風邪対策、喉の保湿等、非常に幅広い用途で広く受け入れられています。一方、ドイツにおいては、新型コロナウイルス流行以前に、マスクをはめている人をほぼ見かけませんでした。コロナの流行直後もその状況は変わらず、逆にマスクをしづらい雰囲気さえ、少しありました。幸い、その後マスクによる他人への感染防止効果等が着目されるようになり、ヨーロッパ各国での着用義務導入の流れの中で、私の住むベルリンでも4月末に、公共交通機関と小売店でのマスク着用義務(正確には、マスクではなく、口鼻を覆う(Mund-Nasen-Bedeckung)義務という形になっています。)が課されるようになりました。*20とはいえ、当初はまだ慣れている人が少なく、違反者に罰金が科されるまでの間は、そもそも着用していない人も多かったです。またマスク着用義務に対する訴訟が多発し、中には同義務が基本法(憲法)違反だと主張しているものもある等、大きな議論を生む施策の一つとなっています。*21

(3)経済的影響と経済対策

新型コロナウイルスの感染状況の悪化に伴い、ドイツの実体経済も悪化します。実質GDP成長率は第1四半期にマイナス1.9%、第2四半期にはマイナス9.8%と大きな落ち込みを見せました。その後新型コロナウイルスの感染状況の改善等もあり、第3四半期は8.2%の成長となりました。失業率は少し遅れて4月に上がり始め、6月、7月にはピークである6.4%となりましたが、その後低下傾向にあります。次に分野ごとに見ていきましょう。影響は分野によって異なります。建設業では、連邦政府が早期に工事を継続する方針を示したこともあり大きな変化がなかったものの、製造業では大きな落ち込みがあり、特に自動車産業では2005年を100とした売上指数において、24.7という非常に低い値を記録します。また、小売業については、非食品の中では特に衣服等の売上が大幅に下がる一方、オンライン販売が増加し、全体としては大きな変化は見られません。一方、飲食・宿泊業は非常に大きな影響をうけており、特に宿泊業では4月には、2005年を100とした売上指数で、4月に13.3となりました。

このような中で、ドイツでは、まず、3~4月に雇用の維持や企業の流動性支援を中心に新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う経済的影響を緩和するための施策が実施されます。具体的には、操業短縮手当の要件緩和や、納税の猶予、小規模事業者や個人事業主等への給付措置や、復興金融公庫(KfW)ローンの拡大、経済安定化基金の設置による大企業への直接資本投入等の施策が打ち出されました。

その後、6月に足元の経済強化のための施策や環境・デジタル分野への投資促進策等が決定されました。ここでは、付加価値税率の時限的引下げや児童手当対象者への追加支給等の経済強化のための措置に加えて、国家水素戦略の実行や、電気自動車の購入補助の増額等、AIや量子技術、5G、6G研究開発等、将来に向けた投資促進策が取られました。

その後、10月に入り、感染が拡大し制限措置が強化される中で、KfWローンの更なる拡大や、制限措置の影響を受ける事業者への給付措置等が発表されています。

ドイツにおける対策を見ている中で何点か気づいた点があります。

まず、1点目は財政余地を普段から作っておくことは、危機時において有用であるということです。ドイツにおいては、前述の通り、7年間新規国債を発行しないという非常に堅実な財政政策が取られており、ショルツ財務大臣も3月のインタビューにおいて、ドイツの財政状態はファーストクラスである、過去数年にわたる堅実な財政方針によって、現在必要な全てのことを行うことができると述べています。*22また、ブリュッセルをベースとしたシンクタンクであるブリューゲル(Bruegel)のジョルト・ダーバス(Zsolt Darvas)氏も、4月時点での西欧諸国の新型コロナウイルス関係の財政政策のデータを比較し、財政的余地がより限られているヨーロッパ諸国では、新型コロナウイルス対応の施策を即時に行うことに対して慎重であったと指摘しています。*23

2点目は、EUという超国家的枠組が国内の施策に与える影響です。もちろん、EUという枠組は自由貿易等を通じて、加盟国に利益をもたらし、特にドイツはその恩恵を非常に大きく受けていると言われています。*24一方で、今回の新型コロナウイルス対策の実施にあたり、EUのルールが、後述する復興基金のようなドイツの対外施策のみならず、国内施策に影響を与えた部分があります。具体的には、ドイツでは、大企業の支援を目的とした経済安定化基金という6,000億ユーロ規模の対策が3月末に議会で承認されたのですが*25、実際にEUから経済安定化基金による初の企業支援が認められたのが6月末*26、一般的な経済安定化基金の利用の許可が下りたのが7月*27となりました。

3点目は、施策の実施手続における簡易さと厳密さのバランスの難しさです。ドイツでは、3月に小規模事業者やフリーランサー等を支援するための、連邦政府による緊急支援(Sofolthilfe)が決定され、10人以下の従業員の事業者に対して、最大1万5000ユーロが支給されることとなりました。*28この連邦による支援の支給実務は、州によって行われましたが、多くの州においてオンラインで本人が直接申請することができ、一部の州では申請後非常に短期間で現金を受け取ることができました。しかし、後になって、この連邦による支援*29が、事務所家賃等、ビジネス関連の固定費を対象としており、人件費や、プライベートの家賃や生活費は含まないということが明確になり、事務所等を持たないフリーランサーの方が受け取ったものの、実際は使えず困ったり、返却しなければならなかったりという問題が指摘されました。*30このようなこともあり、緊急支援の後続となる、つなぎ支援(Überbrückungshilfe)においては、人件費の一部をカバーするという緩和をする一方で、申請方法については、原則として税理士等の第三者を通してのみ申請できる厳しい形をとるようになりました。*31ところが 今度は、この厳格な要件により、多くの企業が申請できないでいるという指摘が出ており*32、11月3日現在、緊急支援の支払額が138億ユーロであるのに対し、つなぎ支援の支払額は13億ユーロにとどまっています。*33

図表6.実質GDP成長率(四半期)の推移
図表7.失業率(月次)
図表8.建築業(建築・土木)売上指数の推移
図表9.製造業売上指数の推移
図表10.実質小売業売上指数
図表11.実質サービス業売上指数

(4)EUの中のドイツ

世界の中で見ると、ドイツにおける新型コロナウイルス感染者数はかなり多い方ですが、ヨーロッパの中ではイタリアやスペイン等、ドイツ以上に大きく影響を受けた国があります。これらの国は、新型コロナウイルスによる影響を強く受けただけでなく、元々の債務残高対GDP比も、ドイツ59.6%に比べてそれぞれイタリア134.8%、スペイン95.5%(2019年)*34と財政状況もあまりよくありません。その中で、欧州共同で債券を発行し、それによって得たお金をイタリアやスペイン等の影響を受けた国が中心に受け取るという案が議論され始めました。

もともと、ドイツは、新型コロナウイルス危機以前は、シュヴァルツ・ヌル(Schwalz Null)という新規国債を発行しない施策が取られている等、借金に対する抵抗が強く、またEU予算等、財政面でのEUの更なる統合について、ドイツのお金が他国へ流れるという構造になりがちということもあり、消極的なところがありました。

議論が始まった4月頃は、メルケル首相や、ショルツ財務大臣は、面と向かって否定しないものの、同議論への言及を避けていました。その後、議論が白熱化し、南欧諸国が苦しむ中で、5月中旬、メルケル首相はフランスのマクロン大統領と共に、欧州委員会が市場で資金を調達して各国がそれを保証し、得た資金をもとに返済不要な補助金をコロナの影響を強く受けた国に与える5,000億ユーロ規模の復興基金の設立について提案し、今までのドイツの立場を大きく転換することとなります。*35

EU債を発行して調達した資金を補助金として新型コロナウイルスの影響を強く受けた国に与えるという案は、特にいわゆる倹約4カ国(スウェーデン、デンマーク、オーストリア、オランダ)から非常に強い抵抗を受けますが、メルケル首相はマクロン大統領と二人三脚で、最終的に欧州理事会において7500億ユーロ(3,600億ユーロの補助金と3,900億ユーロのローン)の復興基金である次世代のEU(NGEU)をまとめ上げます。*36 11月上旬現在、同案は最終的な採択に向けて議論されており、ドイツは議長国であるということもあり、引き続き合意を得るために尽力しているところです。

今回の復興基金は、これまで金融政策は統合されていたが、財政政策については、各国がばらばらであった欧州において、新たに財政統合への道を切り開いたという見方ができます。もちろん、ドイツ国内でもこのような復興基金を一度限りのものにするべきなのか、それとも継続するべきなのか議論されているところではありますが、*37危機時の欧州において、ドイツが果たした役割は間違いなく大きいと言えるでしょう。

5.ドイツの将来

さて、ここまではドイツの過去や現在について話してきました。では、ドイツは今後どのような方向を向いていくのでしょうか。

一つの参考になるものとして、先ほどご紹介した6月の経済対策があります。この経済対策は、いわゆる景気・将来パッケージと呼ばれる与党合意であり、ここでは、足元の経済の強化に加えて、今後ドイツが将来投資していくべき分野についても言及されています。*38繰り返しになりますが、具体的には、5G/6G、AI研究、デジタル化等に加え、水素戦略、再生可能エネルギー、Eモビリティ等の環境関連施策が多く記載されており、ドイツが将来に向けて何を重視していくのかがわかります。

この中でも、ドイツにおいて、特に環境保護に対する熱意は従来より非常に高く、基本法(憲法)にまで、国家は次世代のために自然を守る責任があるという文言が含まれています。*39昨今では、環境関連施策の中でも、特に気候保護に関して、気候内閣(首相及び気候関連の閣僚で構成)により「気候保護プログラム2030」という包括的な気候保護対策パッケージが昨年の9月に決定されました。ここには、ドイツで初めての気候保護のための法律「気候保護法」の制定、建物と交通セクターに対してのCO2価格設定の導入、脱石炭等が含まれています。*40どれもドイツの環境政策に大きな影響をもつ決定ではありますが、特に石炭は、ドイツの近代化と第二次世界大戦以降の奇跡の経済復興を支えてきた産業であり、例えば、ドイツのメインスポーツであり、鉱夫たちにも愛されてきたサッカーチームの一つのシャルケ(Schalke)では、「Glück Auf(この先の坑道に幸運あれ、実際の起源には諸説あり)」というが鉱夫たちの挨拶が、チームの合言葉になっていたりします。*41そのようなドイツが、石炭からの脱出を決めたのは一つの時代の終わりであり、感慨深い気持ちになります。

コラム ドイツ人とエコ意識

私がドイツに来て驚いたことの一つは、ドイツ人の環境保護に対する熱心さです。社会的な動きとしても、前述の気候パッケージの決定の他に、環境への負荷を避けるため使い捨てプラスチック容器の利用禁止法が成立したり*42、同盟90/緑の党という、環境保護を主要な政策課題としている政党が支持率を伸ばしていたり*43、Fridays for Futureという毎週金曜日に学生が学校を休んで環境のためにデモを行う活動が社会現象になっていたりする等、色々な側面で見ることができます。また私自身、自転車道での混雑を経験したり、(※すなわち、ベルリンにおいて、自転車はそれだけポピュラーな手段として受け入れられています)、身近に環境等のことを考えてスーパーマーケット等での購入製品を選択している人がいたり、格安航空は便利だという話をすると飛行機は環境に良くないと指摘される等、普段の生活においても色々な場面で、環境についての意識がより深く根付いているように感じられます。

6.おわりに

私の2年余りのドイツ滞在を通じて、学んだこと、経験したこと等を踏まえ、色々な観点からドイツを紹介させて頂きました。まだ、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で見通しがつかない部分がありますが、状況が落ち着いたらぜひドイツを訪れてみてください。

なお、本稿は11月上旬に執筆しており、各種の情報もその時点のものであることをご了承下されば幸いです。また、本稿は筆者の個人的な見解であり、日本政府及び在ドイツ日本国大使館としての見解ではないことを付言させて頂きます。*42*43

*1)https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/germany/data.html

*2)https://www.berlin.de/special/shopping/flohmaerkte/

*3)https://www5.cao.go.jp/keizai3/sekaikeizaiwp/wp-we91-1/wp-we91-00203.html

*4)https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/kaigaichyosa2607/06.pdf

*5)https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/200117_monthly.pdf

   https://www.destatis.de/DE/Themen/Branchen-Unternehmen/Gastgewerbe-Tourismus/_inhalt.html#sprg236172

*6)https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/germany/data.html

*7)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000368753.pdf

*8)https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html

*9)https://www.tagesspiegel.de/berlin/laenderstatus-der-hauptstadt-warum-berlin-arm-ist-und-warum-das-nicht-so-bleiben-wird/8989228-2.html

*10)https://www.wsi.de/de/einkommen-14582-wsi-vm-verfuegbare-einkommen-staedte-15214.htm

*11)https://www.dw.com/de/1989-revolution-der-clubkultur-im-wiedervereinigten-berlin/a-51033602

*12)https://www.berlin.de/clubs-und-party/

*13)https://www.berlin.de/mauer/orte/ehemalige-grenzuebergaenge/bahnhof-friedrichstrasse/

*14)https://www.berlin.de/kultur-und-tickets/tipps/kunst/streetart/4393322-4376139-streetart-geschichte-in-berlin.html#:~:text=Streetart%20gelangte%20in%20den%201970er,machten%20sie%20sich%20zum%20Ausdrucksmittel.&text=In%20den%201970er%20Jahren%20schlie%C3%9Flich,%2DBewegung%20inspirierte%20Graffiti%2DSzene.

*15)同上

*16)同上

*17)https://www.sueddeutsche.de/bayern/coronavirus-bayern-rueckblick-januar-februar-1.4794769

*18)https://www.de.emb-japan.go.jp/itpr_ja/konsular_aktuelles.html#corona

   https://www.deutschland.de/en/news/german-federal-government-informs-about-the-corona-crisis

   https://www.handelsblatt.com/politik/deutschland/covid-19-in-deutschland-coronavirus-so-hat-sich-die-lungenkrankheit-in-deutschland-entwickelt/25584942.html?ticket=ST-6314673-aFtwMwwXfuHpWcX5IuH2-ap6

*19)https://www.tagesschau.de/inland/coronavirus-deutschland-175.html

*20)https://www.de.emb-japan.go.jp/itpr_ja/konsular_coronavirus280420.html

*21)下記は一例です。

   http://www.vgh.bayern.de/media/bayvgh/presse/pressemitteilung_maskenpflicht__3.baylfsmv_.pdf

https://verwaltungsgerichtshof-baden-wuerttemberg.justiz-bw.de/pb/,Lde/Startseite/Medien/Corona-Verordnung_+Eilantrag+gegen+Maskenpflicht+und+Kontaktbeschraenkungen+scheitert/?LISTPAGE=1212860

https://verwaltungsgerichtsbarkeit.hessen.de/pressemitteilungen/sog-maskenpflicht-wird-nicht-au%C3%9Fer-vollzug-gesetzt

https://oberverwaltungsgericht.niedersachsen.de/aktuelles/presseinformationen/keine-ausservollzugsetzung-der-maskenpflicht-beim-einkauf-und-im-opnv-188070.html

*22)https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Interviews/2020/2020-03-17-Handelsblatt-Corona.html

*23)https://www.cnbc.com/2020/04/20/coronavirus-germany-vastly-outspends-others-in-stimulus.html

*24)https://www.reuters.com/article/us-europe-single-market-study-idUSKCN1SE07Z

*25)https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/coronavirus/wirtschaftsstabilisierung-1733458

*26)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1179

*27)https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Pressemitteilungen/Finanzpolitik/2020/07/2020-07-08-PM-WSF.html

*28)https://www.bmwi.de/Redaktion/DE/Artikel/Wirtschaft/Corona-Virus/unterstuetzungsmassnahmen-faq-04.html

*29)一部州が上乗せし、連邦支援より広範に支援を認めていることがあります。

*30)https://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/coronavirus-selbststaendige-soforthilfe-1.4889817

https://www.deutsche-handwerks-zeitung.de/corona-soforthilfe-wann-eine-rueckzahlung-droht/150/32542/402173

*31)https://www.ueberbrueckungshilfe-unternehmen.de/UBH/Redaktion/DE/FAQ/FAQs/faq-liste-02.html

*32)https://www.tagesschau.de/inland/corona-hilfen-103.html

*33)下記リンクでは、最新の値が表示されるようであり、11月3日の値から既に更新されています。

https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Standardartikel/Themen/Schlaglichter/Corona-Schutzschild/zahlen-der-woche.html

*34)https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2020/October/weo-report?c=132,134,136,184,&s=GGXWDG_NGDP,&sy=2018&ey=2025&ssm=0&scsm=1&scc=0&ssd=1&ssc=0&sic=0&sort=country&ds=.&br=1

*35)https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/dt-franz-initiative-1753644

*36)https://www.consilium.europa.eu/de/infographics/ngeu-covid-19-recovery-package/
*37)https://www.faz.net/aktuell/politik/ausland/finanzminister-olaf-scholz-gemeinsame-schuldenaufnahme-in-eu-wird-bleiben-16917063.html

https://www.spiegel.de/politik/deutschland/corona-krise-angela-merkel-sieht-eu-schuldenaufnahme-als-begrenzte-massnahme-a-27465ca5-5999-44ed-91b5-5a347a17d800

*38)https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Standardartikel/Themen/Schlaglichter/Konjunkturpaket/2020-06-03-eckpunktepapier.pdf?__blob=publicationFile

*39)https://www.gesetze-im-internet.de/gg/art_20a.html

*40)https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/klimaschutz/klimaschutzprogramm-2030-1673578

http://www.gesetze-im-internet.de/ksg/KSG.pdf

*41)https://schalke04.de/business/hospitality/vip-bereiche/glueckauf-club/

*42)https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/nachhaltigkeitspolitik/einwegplastik-wird-verboten-1763390

*43)https://www.wahlrecht.de/umfragen/forsa.htm