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財務総合政策研究所によるミャンマー計画・財務・工業省支援

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 研究員 土井 与葵/同 国際交流課 研究員 金井 優洋/同 国際交流課 国際交流係長 岩松 大洋

1.はじめに

財務総合政策研究所(以下「財務総研」)は、ミャンマー計画・財務・工業省(Myanmar Ministry of Planning, Finance and Industry、以下「MOPFI」)からの支援要請を受け、2017年以降、同省の公共財政管理の近代化プロジェクトの一環で設立された同省職員向け研修機関(PFMアカデミー)支援を目的とした技術協力を実施している。本稿では、本支援のこれまでの経緯や取り組み及びコロナ禍での支援形式の変化等について報告する。なお、本稿に関する意見に係る部分は、全て筆者による個人的見解であり、財務省及び財務総研の見解ではないことをお断りさせて頂く。

2.MOPFIとPFMアカデミー

(1)MOPFIの概要

MOPFIは、金融や歳入・歳出、経営企画、国営企業の管理や民間企業の育成策等を所管するミャンマーの行政機関である。2016年にMOPFIの前身であるミャンマー計画・財務省が、旧計画省と旧財務省の合併により誕生し、さらに2019年に行政の効率化等を理由に旧工業省と合併し現在に至る(図表1.MOPFIの再編図)。2020年7月時点で24の組織から構成されている(図表2.MOPFIの組織一覧)。

(2)PFMアカデミーの概要

PFMアカデミー(Public Finance Management Academy)は、MOPFI職員を含めた政府職員のための研修機関であり、健全な財政運営に貢献する人材の輩出を使命に掲げている。旧計画省には研修機関があったものの、旧財務省には研修機関がなく、2014年より世界銀行等による協調融資のもと「公共財政管理の近代プロジェクト」が進められ、本プロジェクトの一環としてPFMアカデミーが設立された*2。組織図を見るとMOPFIの予算局の下に設置されており、局長をトップとした十数名の職員で事務局を構成している。

PFMアカデミーの授業は「通常授業」と「特別授業」の2つのタイプに分けられる。通常授業は1年のうち、「11月~3月」と「5月~9月」の2ターム開講される。カリキュラムは「公共財政管理」「予算企画・編成」「会計・監査」「予算管理」の4編から成る(図表3.通常授業の主な内容)。

他方、特別授業は具体的な開講時期や授業内容が定まっておらず、国内外の専門家や機関、政府組織等による協力のもと、その時々の研修ニーズに応じて実施される。後述の財務総研によるセミナーはこの「特別授業」にあたる。

3.ミャンマー計画・財務・工業省支援

(1)これまでの支援(第1,2回現地セミナー)の評価

2017年に、マウン・マウン・ウィン計画・財務副大臣から、研修機関の設立及び職員の人材育成に関する協力要請があり、財務総研はPFMアカデミーに対する支援を開始した。具体的には、2018年5月と2019年8月に訪緬し、政府職員を対象に、日本の財務省主計局及び会計センターの職員より「予算制度・会計法」「中期的な予算管理・評価プロセス」「官庁会計システム」等の講義を提供した。

なお、2018年の第1回セミナーにはMOPFI職員を中心とした各省庁から計50名の職員が、2019年の第2回セミナーには計80名の職員が参加している。(図表4.現地セミナーの様子(2019年))

これまでの2回のセミナーでは、参加者に対して満足度に関するアンケート調査を実施している。2つのアンケート結果を見ると「やや不満足」「不満足」の回答はなく、全体の満足度は高かったと言える(図表5-1.第1,2回アンケート結果(セミナー全体の満足度))。

第1回セミナー終了後には、参加者に対して講義内容の更なる改善を行うためのニーズ調査を実施し、その結果を踏まえて第2回セミナーでは日本の予算管理プロセスの説明を充実させる等の対応を行った事から、満足度の上昇が見られた。

また、第2回セミナーでは、講義毎の理解度についても調査を行っている。結果を見ると「あまり理解できなかった」「全く理解できなかった」の回答はなく、理解度も高かったと言える。一方で、理解度の最上位評価である「大変よく理解できた」を選択した割合を見ると、参加者の属性*3(参加省庁・職務年数・職務経験)によって若干のバラつきがあることがわかった。職務年数別に見ると、(図表5-2.第2回アンケート結果)の通り、職務年数11年超の方がその割合が高い傾向にあった。参加省庁別に見ると、MOPFI以外の職員の方がその割合が高く、セミナーの3つの講義のうち、「予算評価プロセス・中期的な予算管理」の講義が特にその割合が高かった。これはMOPFIからの参加職員に職務経験年数の少ない若手が多数含まれていたことが要因と考えられる。

職務経験別に見ると、(図表5-3.第2回アンケート結果)の通り、会計業務経験がある職員はその他の職員に比べ、どの講義に対しても理解度が高い傾向がある。これは会計業務経験者が全体的に経験年数の長いベテラン層であったことが理由と考えられる。また、予算業務経験のある職員は「官庁会計システム」の講義に対して、特にその割合が高い傾向が見られた。

以上のアンケート結果より、参加者の満足度は全体的に高かったものの、理解度については改善の余地があり、特に職務経験年数の少ないMOPFI職員に向けては更なる支援の必要性が見られた。

(2)オンライン形式での協力

2020年初旬から始まったCOVID-19の世界的流行に伴う渡航制限等の措置が各国でなされる中、財務総研ではコロナ禍における今後のミャンマーに対する支援について検討を行っていた。他方、ミャンマーでは上半期のCOVID-19感染者数は比較的少なかったが、この影響により当初2月頃に予定していたPFMアカデミーの開講もずれ込み、結果として8月初旬に運営を開始することとなった。*4(図表6.運営を開始したPFMアカデミーの講義風景*4)

8月においてもミャンマー国内の感染者数は依然少なかったものの*5、世界的な出入国規制や、国際航空便の大幅な減便等は続いており、現地でのセミナー開催は依然困難な状況であった。一方、PFMアカデミーからは、引き続き財務総研に対して特別講義の実施要請があった。そのため、今回、ウェブ会議システムを用いたオンラインセミナーの開催を検討することとなった。

オンラインセミナーの開催に当たり、まず、ミャンマー側との通信状況の確認を兼ねたテストセミナーを9月に開催した。テストセミナーでは、MOPFI職員を中心とした参加者18名に対し、財務総研から「財務総研の国際協力」等について、特にミャンマーに対するこれまでの支援を中心に説明を行った。通信状況は概ね良好であり、セミナー終了後に実施したアンケートの「セミナー全体を通じた満足度」では、参加者全員が「大変満足である」又は「大体満足である」との回答であった。また、時折参加者から質問も出るなど、対面と変わらない積極的な受講姿勢を感じることができた。

テストセミナーで技術的問題は生じなかったことから、翌10月、財務総研として初のミャンマー国内向けオンラインセミナーを開催した。この時、ミャンマー国内では感染拡大期に入っており、10月10日には新規感染者参加者が過去最多となる2,158人を記録していた*6。このため、参加者がPFMアカデミーの施設内に一同に集まることが困難となったが、各自が自宅や自分の職場のIT設備を利用することで、最終的にPFMアカデミー研修生を中心に計41名が参加した。

日本-ミャンマーの時差は2時間半あり、時間的な制約もある事から、今回のオンラインセミナーでは「官庁会計システム」のみをテーマに、会計センター職員から同センターの役割やシステムの概要、機能等について講義を行った*7。

質疑応答では、システムの導入に費やした期間や職員の人材育成に関する質問があり、オンラインでも対面でのセミナーと同じく、積極的に日本の知見を吸収しようとする姿勢が見られた。セミナー全体の満足度についても、全員*8が「大体満足」と回答しており、「普通」「あまり満足ではなかった」「全く満足ではなかった」との回答は皆無であった。セミナーの理解度も、「普通」と回答した者が1名いたものの、その他全員*9が「大変有意義」「大体有意義」と回答をしており、オンライン形式でも満足度、理解度共に高い非常に有意義なセミナーであったと評価している。(図表7.セミナーの模様)

4.おわりに

COVID-19の流行を機に世界は大きく変化し、今やテレワークやソーシャルディスタンスなどの新しい生活様式は、既に人々の生活に浸透しているように感じられる。COVID-19によって強制的に変化せざるを得なかった側面は否めないものの、COVID-19への対応を模索する中で、これまでの行動を見直す一つの機会になったことは確かである。

研修生の招聘や専門家・職員の派遣を軸とする財務総研の技術協力活動にとっても、アプローチの仕方を再考する一つの機会になったと思われる。本稿でご紹介したオンラインセミナーはその一例であるが、既存の考え方に捉われることなく、今後もより充実した支援を行うべく、ミャンマー側と連携していきたい。

最後になるが、11月4日現在、ミャンマーでは1日の新規感染者数は1,000人を超える状況が続き、予断を許さない状況である。ミャンマーを含む世界での感染拡大の早期収束と共に、従来の対面の方法も活用した効果的なセミナーを開催できる日が一日でも早く訪れることを期待し本稿の結びとする。

コラム:テレワークより出勤派?ミャンマーのテレワーク事情

財務総研は、10月26日に開催したオンラインセミナーの参加者(計41名)に対して、テレワークの実施状況に関するアンケート調査を行った。ミャンマーではこの時期、COVID-19の感染者数が大幅に増加しており、政府は職員に対して、検温、マスクの着用、こまめな手洗い、そしてテレワークの実施など各種の感染防止策の積極的な実施を促している。

本アンケートの質問内容・回答結果は(1)~(4)に示した通りである。

ミャンマーでは政府主導でテレワークの実施を推進しており、特にヤンゴンを初めとする都市部では大手企業を中心にテレワークが導入され始めた報道も出ている。アンケート調査では、2人に1人がテレワークを実施している結果となっており、政府職員が積極的にテレワークを実施している状況が伺える。なお、ミャンマーの会計年度は10月~翌年9月となっており、決算処理等を担当している職員からは「10月は繁忙期であり、これまでテレワークを実施できなかった」との声も聞かれた。

テレワークを始めた時期については、中国での感染が大々的に報じられるようになった1月、ミャンマー初の陽性者が確認された4月、急激な感染拡大が起きた8月、と言った節目の月でテレワークを開始した職員が多い傾向にある。

最も興味深い結果となったのは、「テレワーク、出勤」のいずれを支持するかを聞いた質問である。意外にも8割の職員はテレワークより出勤派となっている。その理由としては「職員同士の連絡がスムーズだから」、「紙資料を扱うことが多いから」、「自宅のネットワーク環境や機器インフラが整っていないから」など、職務上の課題が挙げられている。そうした課題を解決するために出勤を支持する姿勢を見ると、この結果は、堅実・真面目なミャンマーの国民性を示しているのかもしれない。

図(1)テレワークを実施しているか?

図(2)実施している場合、週に何度実施しているか?

図(3)テレワークはいつから始めたか?

図(4)テレワークと出勤どちらがよいか?

*1)本稿を執筆するにあたり、財務総合政策研究所総務研究部・上田淳二総務研究部長、同部国際交流課・大西敢二郎国際交流課長、その他関係者から大変貴重なご意見を賜った。ここに記して謝意を表する。

*2)PFMアカデミーの庁舎はネピドーに所在し、2019年末~2020年初にかけて完成している。

*3)第2回参加者の約74%は、予算・会計業務を経験している。また、参加者の平均業務経験年数は約15年となっており、一定の経験値を持った職員をセミナーの対象としている。

*4)座席間隔を空け、ソーシャルディスタンスを保って運営していることがうかがえる。

*5)8月1日時点のミャンマー国内の感染者数は353人であった。WHO:https://covid19.who.int/region/searo/country/mm

*6)WHO:https://covid19.who.int/region/searo/country/mm

*7)日本時間15時半から開始(ミャンマー:13時)し、同17時半(同:15時)に終了するスケジュールであり、質疑応答や意見交換の時間を含めて全体で2時間の構成となっている。オンラインでのセミナー・スケジュールの決定にあたっては、時差を踏まえて、双方の業務時間や昼食・休憩時間などの違いに配慮する必要がある。

*8)4名の無回答者を除く。

*9)6名の無回答者を除く。

(参考文献)

JETRO(2020)「国家公務員の出勤と在宅シフト制導入、行政サービスの遅延・停止に不安の声」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/09/7e6049d6653f63a2.html

Johns Hopkins University(2020):“COVID-19 Dashboard by the Center for Systems Science and Engineering(CSSE)at Johns Hopkins University(JHU)”(https://coronavirus.jhu.edu/map.html

MYANMAR NATIONAL PORTAL(2020)「Ministry of Planning, Finance and Industry」(https://myanmar.gov.mm/en/ministry-of-planning-finance

NNA ASIAニュース(2019)「工業省と計画財務省が合併へ、反対押し切る」(https://www.nna.jp/news/show/1979388

NNA ASIAニュース(2020)「ヤンゴン、企業がテレワークの導入開始」(https://www.nna.jp/news/result/2023566#%E5%9C%A8%E5%AE%85%E5%8B%A4%E5%8B%99

NNA ASIAニュース(2020)「【ミャンマー市場の今】コロナによる経済と企業活動への影響 第2回(https://www.nna.jp/news/result/2041692#%E5%9C%A8%E5%AE%85%E5%8B%A4%E5%8B%99

World Bank(2020)「Myanmar Financial Sector Development Project」(https://projects.worldbank.org/en/projects-operations/project-detail/P154389