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経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応:青写真(Blueprint)の公表

主税局参事官室 主税企画官 宇多村 哲也/主税局参事官室 参事官補佐 今岡 植

1.問題の所在

経済のデジタル化が進展する中、現行の国際課税の原則が十分に機能しなくなっている。この原則とは具体的には、(1)「PE(Permanent Establishment:恒久的施設*1)なければ課税なし」、(2)「独立企業原則」に基づく利益配分ルール、のことを指す。

・(1)については、外国企業の事業所得については、PEがある場合にのみ課税できる、という原則である。これは国際連盟の時代に淵源を有する原則の一つだが、経済のデジタル化の下、事業を行う上で必ずしも物理的拠点を必要としないデジタル企業等に対して、市場国において十分に課税ができないという状況が生じている。

・(2)については、多国籍企業グループ間の国際的な取引について、その取引価格を、独立した企業同士であれば成立していたであろう「独立企業間価格」で取引が行われたものと見なして、各グループ企業の所得を計算する原則で、多国籍企業の課税利益を各国間で配分する機能を持つ。この原則についても、経済のデジタル化が進む中で特許やブランドなどの「無形資産」の価値が高まっており、適正な「独立企業間価格」の算定が困難になっているという背景がある。

また、経済のデジタル化により多国籍企業グループ内の無形資産の移転が容易になる中で、低い法人税率や優遇税制を有する軽課税国へのBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)リスクが増大していることも課題となっている。

現在、前段の国際課税原則の見直しである「第1の柱(Pillar 1)」、後段の軽課税国への利益移転への対応である「第2の柱(Pillar 2)」の2つの柱により構成される解決策が検討されている。

2.検討の経緯

経済のデジタル化に伴う国際課税上の対応は、2012年に始動したBEPSプロジェクトに端を発するが、特に、2015年10月のBEPS最終報告書の行動1において、法人課税について2020年まで作業を継続することとされて以降、OECDやBEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)、G20など国際的なフォーラムにおいて本格的な議論が行われている。

2018年3月の「中間報告書*2」において、2020年までにコンセンサスに基づいた解決策の取りまとめに向けて作業を進めることに合意し、2019年6月、我が国がG20議長国として取りまとめた「作業計画*3」において、解決策の論点と今後の検討作業を示し、2020年1月には「制度の大枠と進捗報告書*4」を公表し、2020年末の合意に向けて検討が進められていた。

こうした中、2020年10月、約140の国・地域で構成されるBEPS包摂的枠組みにおいて、第1の柱・第2の柱に関する「青写真」を取りまとめ、公表した。この青写真と同時に公表されたステートメントにおいては、コンセンサスの構築に向けて大きく進展しており、青写真は「将来の合意のための強固な土台」であるとしつつも、新型コロナウイルス感染症等の影響もあったことから、合意期限については、2021年半ばへと約半年間延期された。同内容は、その後のG20でも支持された。

3.青写真の概要

今回取りまとめた青写真は、第1の柱については約230ページ、第2の柱については約250ページにもわたり、制度の詳細な設計図が記載されている。他方、下記にも示すとおり、重要な数値基準や幾つかの制度内容については、未規定・両論併記となっているものもあり、今後の作業課題となっている。詳細については「青写真」そのものをご参照いただきたいが、ごく簡単に制度概要を次に示す。

3.1第1の柱(市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルールの見直し)

第1の柱は、大きく分けて3つの要素から構成されている。

第一に、「PEなければ課税なし」に係る課題への対応策として、多国籍企業が活動する市場国に対して、物理的拠点の有無にかかわらず、新たに課税権を配分すること(国際課税原則の見直し(「利益A」))が検討されている。具体的には、大規模な多国籍企業を対象に、グループ全体の利益のうち、市場国の貢献によるものと見なしうる一定割合を市場国に売上等による定式で配分する方向で議論が進んでいる。対象は、「自動化されたデジタルサービス(Automated Digital Services)」及び「消費者向けビジネス(Consumer Facing Businesses)」の2種類で、たとえば、前者はオンライン広告やクラウドコンピューティングサービス、後者は家電製品や衣服、化粧品等の販売が該当する。対象企業の規模に関する具体的な閾値や、利益の配分割合については合意が見られていない。

第二に、多国籍企業の販売子会社における適切な利益の算定が困難となっていることを受け、市場国における基礎的な販売活動について、「独立企業原則」に基づき一定の利益を市場国に保証するルールが検討されている(「利益B」)。この背景には、多様化する販売子会社の機能・資産・リスクの評価について、市場国と企業との間で紛争が頻発していることがある。具体的な利益率の水準や対象となる取引・販売活動の範囲等については引き続き議論を継続している。

第三に、効果的な紛争防止・解決手続である。「利益A」及び「利益A以外」のそれぞれについて、義務的・拘束的な紛争防止・解決手続が検討されている。紛争への対応は、企業・執行当局にとって極めて重要な課題であり、実効的な制度となることが強く期待されている。

第1の柱:市場国への新たな課税権の配分

第1の柱:市場国での販売活動等に係る移転価格ルールの定式化等

3.2第2の柱(軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入)

第2の柱では、軽課税国への利益移転に対し、国際的に合意された最低税率による法人課税を確保するルール(ミニマム課税)の導入が検討されている。

第一に、軽課税国に所在する子会社等に帰属する所得について、親会社等の所在する国・地域において、最低税率まで上乗せして課税するルール(所得合算ルール(Income Inclusion Rule))である。また、これを補完する制度として、軽課税国への支払を行っている子会社等に対し、支払会社等の所在地国で課税するルールが検討されている(軽課税支払ルール(Undertaxed Payment Rule))。具体的な最低税率の水準(両ルール共通)については引き続き議論を継続している。

その他、支払受取者の所在地国が軽課税の場合に租税条約の特典を否認するルール(租税条約の特典否認ルール:Subject to Tax Rule)や国外所得免除方式を採用する国・地域について、所得合算ルールの適用のために外国税額控除方式への切り替えを認めるルール(スイッチオーバールール:Switch-Over Rule)も併せて検討されている。

第2の柱:所得合算ルール(イメージ)

軽課税国に所在する子会社等に帰属する所得について、親会社等の所在する国・地域において、国際的に合意された最低税率まで課税を行う

第2の柱:主要な2つのルール(イメージ)

○全ての多国籍企業グループが最低限の法人税負担をすることを確保するため、以下のルール等を導入。これらのルールを合わせてGloBE(Global Anti-Base Erosion)ルールという。

(1) 所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)

軽課税国にある子会社等へ帰属する所得を最低税率まで親会社等の国で課税

(2) 軽課税支払ルール(UTPR:Undertaxed Payment Rule)

軽課税国への支払を行っている子会社等に対し、支払会社の国で課税

4.影響評価

本制度が導入されると税収や経済にどのような影響があるのか。制度の詳細が決まっておらず、また特に多国籍企業についてデータ制約がある中で、税収や経済への影響を予測することは困難ではあるが、一定の前提の下、OECD事務局は、青写真の公表に併せて試算結果を公表した。

具体的には、世界全体での税収は、最大で年800億ドル程度増加すると推計している(所得グループ別の結果は下図参照)。また、国際的な合意に至らず各国の一方的措置(詳細は後述)が拡大し貿易紛争が増加する場合、世界全体で最大1%を超えるGDPの押下げ効果があるとの分析も行っている。

経済のデジタル化に伴う課税上の課題:影響評価(2020年10月)

○OECD事務局は解決策に係る影響評価(インパクトアセスメント)を公表

○一定の仮定の下、世界全体の税収は、最大で年800億ドル程度増加すると推計(米国外軽課税無形資産所得(GILTI)税制を含めると最大約1000億ドル(世界の法人税収の約4%相当))

○第1の柱による税収増加は小幅なものにとどまるが、第2の柱についてはより大きな税収増(下図参照)

図.所得グループごとの税収への影響

5.最近の海外の動向

2019年7月、仏は国内世論の高まり等を受け、国際的な合意が得られるまでの暫定的措置として、デジタル企業に対する独自のデジタルサービス税を導入した。これに対し米国は、同年12月に仏産スパークリングワインやチーズ等に対する報復関税の適用を示唆したが、2020年1月の両首脳の電話会談を経て、それぞれの措置の適用を、合意に向けた議論が継続する2020年末までは停止することとされた。しかし、今般の合意期限の半年間の延長を受け、ルメール仏経済・財務相は、2020年12月にデジタルサービス税の徴収を再開すると発言しており、今後の動向に注視が必要な状況である。

同様の一方的措置を導入・検討する国も増えているが、前述のとおり、こうした一方的措置は世界経済に悪影響を与え、また、各国の措置内容が区々であることから企業のコンプライアンスコストも増大するなど、一方的措置の拡大は望ましくなく、早期の国際的な合意が重要である。

また、2019年12月に、米国のムニューシン財務長官は、「第1の柱」を企業の選択制(「セーフハーバー」)とすることを提案する内容の書簡を公表した。これに対し、多くの国が懸念を表明した。更に2020年6月、同長官が欧州4か国(英、仏、伊、西)の財務大臣に向けて、第1の柱に関する議論を一時中断し、年後半に議論を再開することを提案する書簡が報道され、米国と欧州との対立が先鋭化することが危惧されたが、7月のG20において、合意に向けたコミットメントを再確認する声明を公表し、こうした状況は沈静化した。しかし、米国はこの「セーフハーバー」に関する提案を取り下げておらず、第1の柱における最も重要な政治争点の一つとなっている。

6.結語

日本はBEPSプロジェクトを主導してきた経緯があり、国際的な議論をリードする役割が期待されている。課税という国家主権の根源に関する議論であり、交渉には困難を伴うが、合意が実現されれば、国際課税の分野だけでなく、世界経済全体にとって大きな成果となる。引き続き、国際的な合意に向けて積極的に議論に参画していきたい。

(番外編)オンライン交渉の実態

感染症の影響を受け、オンラインによる国際交渉も定着しつつある。「青写真」の取りまとめの直前は、連日(日本時間では「連夜」)、オンラインでの議論が行われた。従前は、当然ながら出張者のみが会議に参加していたわけだが、オンライン開催は、これまで出張に行くことが少なかった多くの担当者・関係者の参加・傍聴を可能にした。コーヒーブレーク等を使った各国との議場外のやり取りができない不便さはあったものの、「会議での議論の雰囲気がよくわかった」という同僚の声も多く聞かれた。

*1)工場や支店などの物理的拠点のこと。

*2)「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に係る中間報告書」

*3)「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対するコンセンサスに基づく解決策の策定に向けた作業計画」

*4)「第1の柱の統合的アプローチに係る制度の大枠と第2の柱の進捗報告書」