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特集:すべての酒類を対象に国税庁長官が指定 お酒の地理的表示(GI)が地域活性化に一役買う

地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進するお酒の地理的表示(GI)。産地にとっては、地域ブランドの確立につながり、地域活性化に一役買っている。制度の内容と最新の指定状況をレポートする。

図.酒類の地理的表示の指定状況(令和2年9月【2020年9月】現在)

取材・文 向山 勇

お酒の地理的表示(GI)とは?
産地名が有する「ブランド価値」を保護し消費者の適切な商品選択が可能に

お酒の地理的表示(GI=Geographical Indication)は、地域の共有財産である「産地名」を守り、適切な使用を促す制度。産地が申請し、国税庁長官の指定を受けると産地名を独占的に名乗ることができる。現在、国レベルのGIである「日本酒」を含む、全国で13の指定が行われている。

海外では、古くからフランスなどワイン生産国で産地名を名乗ることができる公的な制度を定めていた。その後、WTO(世界貿易機関)発足の際に、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国に義務付けられたことから、日本でも平成6年に国税庁が制度を制定、国内外の地理的表示の適正化を計ってきた。さらに、平成27年10月に見直しを行い、地理的表示を受けるための基準を明確化するとともに、すべての酒類を対象とした。

地理的表示の指定を受けることにより、主に図表1のような経済的効果が期待できる。消費者にとって酒類を購入する際、商品のラベル等の説明だけでは、消費者は品質を評価しにくい。地理的表示の指定を受けた酒類は、生産基準が公開されており、第三者の品質管理が義務付けられているため、消費者は事前に品質を確認した上で購入が可能になる。

一方、市場で一定の評価を得てブランド化した酒類は、その名声にフリーライドする模造品が出回る可能性があり、最良の価格設定が難しくなる。地理的表示の指定を受けることで行政の取り締まりが可能になり、模造品の流通を防止することができる。

ただし、地理的表示は、指定を受けるだけで「地域ブランド」としての価値が向上するものではなく、製品の付加価値を向上させていくためには、地理的表示を活用した地域ブランド戦略の構築が重要となっている。次ページ以降では、実際に指定を受けた地域がどのような活動を行っているかを紹介しよう。

図表1.地理的表示の導入効果

「地域ブランド」による他の製品との差別化
製造された酒類とその産地とのつながりを明確にすることにより、「地域ブランド」としての付加価値の向上が期待でき、他の製品との差別化を図ることができる。

日本の特産品として輸出拡大に寄与
地理的表示が浸透しているヨーロッパ等においては、信頼できる特産品として扱われるなど、海外への輸出を後押しすることが期待できる。

消費者の信頼性の向上
品質検査等により一定の品質が確保されることにより、消費者の信頼性向上につながる。
公開された生産基準により、消費者は容易にその産地の製品に関する情報を知ることが可能になる。

「地域ブランド」の保護効果
行政の取締りにより「地域ブランド」が保護されるため、商標のように自力で訴訟等を行う必要がない(国際的にも保護されうる。)。
似たような表示も禁止されるため、努力して築き上げた「地域ブランド」への「ただ乗り」を防止できる。


お酒の地理的表示の活用
酒類の産地と繋がりを明確にし「地域ブランド」として付加価値を向上

清酒

1.官民・地域一体となった取組を続ける「灘五郷」

灘五郷の産地である兵庫県神戸市灘区、東灘区、芦屋市及び西宮市は、冬季に「六甲おろし」が吹き降りる地形で、寒造りに極めて適した気候をもたらしている。また、この地域の地層を通って湧き出る地下水は、酵母の増殖に必要なミネラル分を適度に含み、酒造りに適した硬水となっている。この地下水を仕込み水として醸造することで、味わいの要素の調和がとれ、後味の切れの良い酒質が形成されてきた。

特に、寒造りした酒を春から夏にかけて貯蔵したものは、香味が整いまろやかさのある酒質になることから「秋上がりする酒」と呼ばれる。その中でも加熱処理することなく出荷するものを「ひやおろし」といい、灘五郷では伝統的に9月に出荷が解禁される。

また、イベントも積極的に行っている。灘五郷酒造組合は、令和2年11月28日に「灘の酒YouTube生配信」&「灘の酒オンライン酒場を楽しもう!」の2部構成で「灘の酒 meets ONLINE」を開催した。

写真:令和2年9月5日に開催された「ひやおろし」の解禁記念イベント
写真:灘五郷は、西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの地域からなる日本を代表する酒どころ。室町時代にはすでに酒造が始まっていたとの記録がある。18世紀以降には、江戸向けの銘醸地として発展した。その要因の一つに西宮に樽廻船問屋ができて輸送体制が着実に強化されたこともある。江戸へ輸送する際には海路を使った樽廻船で運ぶことができ、陸地からの輸送よりも早く大量に出荷することができた。また、その際に樽の杉香が清酒に移り、熟成されることにより酒質も向上。「灘の酒」は江戸での人気を得て、江戸後期には江戸の酒の需要の8割を供給したと言われている。

2.兵庫県産山田錦により醸される「はりま」

「はりま」の穀倉地帯にはミネラル分が多い粘土質の農地が広がり、米が登熟する時期には一日の気温差が大きくなる。こうした気候風土が、山田錦に心白の形状、脂肪やたんぱく質の少なさなど、清酒原料として良い影響を与えている。また、昭和11年に誕生した山田錦は、現在に至るまで原種が管理され、主要農作物種子生産条例(兵庫県条例第31号)により厳格に米の品質を守ることにより、兵庫県に山田錦を根付かせてきた。「はりま」の清酒は総じて、口当たりは柔らかく優しい丸みがあり、苦み渋みが少ない繊細なコクと豊かな香味がある。さらに、兵庫県産山田錦を麹に用いることで心地良い酸味が付与され、後味が軽快な酒質になっている。

管理機関である「はりま酒研究会」は、様々なイベントの開催を通じて、「はりま」のPRを行っている。令和2年10月22日~12月20日にはインスタグラムで「GIはりま 日本酒マリアージュ」を開催。これは「はりま」の日本酒とそれに合う食べ物を撮影し、「#GIはりま」などを付けてインスタグラムに投稿してもらうイベントだ。また令和2年9月27日には、「GIはりま利き酒ライブ」を開催。オンライン一斉乾杯や、YouTubeでセミナー等のライブ配信を行った。

写真:利き酒ライブ等の様子

3.雪解け水が酒造りに適した軟水をもたらす「山形」

山形県では、冬場に積もった雪が溶けた地下水が酒づくりに適した軟水となる。また、寒さの厳しい山形の冬は、酒造りで大切な「雑菌の繁殖抑制」と「低温長期発酵」に向いている。県内では、山形県工業技術センターと山形県酒造組合が中心となって、人材育成と醸造技術の向上に取り組んでおり、県全体として醸造技術が底上げされている。

山形の清酒は、全般的にやわらかく透明感のある酒質が特徴。純米吟醸酒・吟醸酒は、やわらかな口あたりとバナナのほか山形県特産のリンゴ、メロンやラ・フランスを思わせる果実のような香りがポイントになっている。

管理機関である「山形県酒造協同組合」は、PRのため、様々なイベントを開催している。令和2年10月24、25日には、日本酒造組合中央会が主催するオンライン日本酒フェア2020に参加。30分間の持ち時間で独自企画のセミナーを行った。

4.「菊酒」の伝統と歴史を背景に米の旨味を引き出す「白山」

白山の清酒は総じて、米の旨みを活かした豊かな“こく”を持つ。その中でも、純米吟醸酒・吟醸酒は、穏やかな果実様の香りとほどよい酸味がある。

石川県白山市は、1,300年以上も前から信仰の対象となっている霊峰白山を水源とする手取川扇状地にあり、豊かな伏流水に恵まれている。この水はカルシウムを多く含み、カリウムが少ないことから、酒造りの過程において穏やかな発酵をさせる一方で、米の溶解が促されることにより、米の旨みが引き出され、豊かなこくのある白山特有の酒質が形成されてきた。

白山の清酒は、古くから「菊酒」の伝統と歴史に培われている。「菊酒」とは、古来は菊の花びらを酒盃に浮かべたもの。平安時代に編纂された格式の一つである「延喜式」によると、平安期の宮廷では重陽の節句に菊酒を飲む風習があったとされる。平成17年には地域ブランド「白山菊酒」を立ち上げるなど、その特性の維持と品質の向上を図っている。

写真:手取峡谷(白山市吉野)
写真:菊と酒盃(菊酒)

5.貝類や甲殻類などと共に食中酒として楽しめる「三重」

三重県の夏季は太平洋を流れる黒潮の影響により温暖な気候であるが、冬季には北東から紀伊山地や鈴鹿山脈を越えて「鈴鹿おろし」や「布引おろし」と呼ばれる乾いた寒冷な風が吹き、冷涼な気候となる。特に、比較的内陸部にある伊賀盆地では気温差が大きい。また、鈴鹿山脈に冬季に降り積もった雪や、日本屈指の多雨地帯である紀伊山地に降り蓄えられた雨水が、醸造に適した優良な水となって三重県全体に豊富に供給される。このような気候や豊かな水資源により、三重の暖かみがあり芳醇な酒質が形成されている。食材の臭みが爽やかな酸味により覆い隠されることから、特に貝類や甲殻類などと共に食中酒として楽しむことができる。近年では、三重県工業研究所とも協力し、独自の清酒酵母の開発に取り組むなどの研究活動も活発に行っている。

写真:GI「三重」認定酒発表会の様子(令和2年9月)。

ぶどう酒

1.豊かな酸味と果実の香り「北海道」

北海道のぶどう栽培地では、4~10月の日照時間が1,100時間以上と長く、気温の日較差が大きくなるため、糖度の高いぶどうが収穫できる。また、ぶどう生育期は総じて冷涼な気候であり、有機酸を豊富に含有する。さらに、ワイン製造業者の独自努力や道産ワイン懇談会の活動によって豪雪・厳寒などの気候に対応した栽培方法が確立されているほか、北海道の自然環境に適応したヤマブドウ種やハイブリッド種といった耐寒性品種の開発が積極的に行われている。

2.日本を代表する甲州ぶどうの産地「山梨」

山梨県の気候・風土はぶどう栽培に適しており、ぶどうの着色は良く、秋の冷風が糖度をはじめとする品質全体に良い影響を与えている。甲州ぶどうを原料とした白ワインは、香り豊かで口中で穏やかな味わいを感じることができ、辛口の甲州ワインはフルーティーな柑橘系の香りと、はつらつとした酸味がある。マスカット・ベーリーAを原料とした赤ワインは、鮮やかな赤紫色の色調を有し、甘さを連想させる華やかな香りと穏やかな渋味がある。

蒸留酒(焼酎、泡盛)

1.麦を原料とする最古の焼酎「壱岐」

長崎県壱岐市は、九州北方の玄界灘にある壱岐島を中心とした群島にあり、玄武岩層によって長い年月をかけて磨かれた地下水が豊かな地域。壱岐の地下水により発酵が順調に促され、「壱岐」に厚みのある味わいを与えるほか、割水に用いることによりキレの良い飲み口を引き立たせている。

また、歴史上で麦を原料とした焼酎は、長崎県壱岐市のものが最も古く、日本における「麦焼酎発祥の地」とされている。

2.米由来の香味を特徴とする「球磨」

熊本県球磨郡及び同県人吉市は、九州中央部の九州山地に囲まれた球磨盆地にあり、日本列島では低い緯度でありながら冬季の平均気温が低く、寒暖の差が大きい。濃霧の日も多く、この環境により、比較的低温での発酵及び適度な環境による貯蔵が可能となり、清涼感のある香味を有する焼酎の製造に適している。単式蒸留焼酎「球磨」は、総じて米由来のまろやかな甘さと清涼感のある香味がある。その中でも、常圧蒸留したものは香ばしさを伴った米特有の香りを持つ。

3.良質なさつまいもで香り豊かな「薩摩」

鹿児島県では江戸時代以降、さつまいもを広く栽培。単式蒸留焼酎「薩摩」は、原料のさつまいもの産地と焼酎の製造地が同じ鹿児島県のため、良質で新鮮なさつまいもを使用できる。「薩摩」は、華やかで芳醇な香りを持っている。

「薩摩」の製造技術は、鹿児島県工業技術センターが中心となり技術開発・普及に当たっているほか、鹿児島大学の焼酎・発酵学教育研究センターにおいてもさつまいも焼酎の研究開発や人材育成を行っている。

4.仕次ぎにより古酒を育てる楽しみ「琉球」

単式蒸留焼酎である「琉球(琉球泡盛)」は、原料の米こうじに由来する適度な油分による芳醇な味わいがある。特に、常圧蒸留したものの古酒(3年以上貯蔵したもの)は、黒こうじ菌の酵素により米から生じる成分に由来する甘いバニラ様の香りや松茸様の香り等が調和した、濃厚で奥の深い香りを持っている。琉球泡盛は、容器詰めされた後でも香味成分の変化による熟成が進むことから、消費者自らが「仕次ぎ」と呼ばれる手法により古酒を育てる文化も定着している。

リキュール(梅酒)

1.梅酒に適した高品質な梅の製造を追求する「和歌山梅酒」

和歌山県で収穫した梅は、梅干しに加工して食用とするのが主用途であったが、し好の変化により梅干しの需要量が減少し、新たな用途を開拓が課題だった。その中で清酒製造業の閑散時期に収穫ができる梅を原料として梅酒を製造するという発想が生まれ、梅酒の製造が盛んになっていった。また、梅酒及び梅加工食品の原料となることを前提とした梅の栽培方法の研究により、梅の改良等が重ねられた。

平成27年には世界農業遺産として認定された「みなべ・田辺の梅システム」(ミツバチによる受粉率の向上、整枝・剪定技術の改善、収穫ネットの利用など)を確立するなど、安定的に梅酒の原料である高品質な梅の栽培が行えるよう栽培技術の開発と蓄積も行っている。

写真:和歌山梅酒


「日本酒」を地理的表示に指定
国際交渉等を通じ「日本酒」のブランド価値の向上を目指す

日EU・EPAで「日本酒」を地理的表示として保護

酒類の地理的表示制度では「日本酒」も国レベルの地理的表示として指定されている。「日本酒」は、秋に収穫された米を使い、気温が低く雑菌が増殖しにくい冬に製造し、春から夏にかけて貯蔵・熟成させ出荷するなど、日本の明確な四季と結びつき発展してきた酒類と言える。貴重な米から製造される特別な飲料として、古来より冠婚葬祭や年中行事の際に飲まれる習慣があり、日本の伝統的なお酒として、日本人の生活や文化に深く根付いている。このような歴史的・文化的背景等を根拠として、日本が長年育んできた日本酒の価値を保全していくため、国税庁は平成27年12月に「日本酒」を地理的表示として指定し、保護している。

日本酒と清酒はあまり明確に区別されていないケースも多いが、定義は異なる。海外産も含め、米、米こうじ及び水を主な原料として発酵させてこしたものを広く「清酒」(Sake)と呼ぶ。一方で「清酒」のうち、「日本酒」(Nihonshu/Japanese Sake)は、原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したもののみを言う。

「日本酒」の地理的表示の指定により主に3つの効果が期待される。一つ目は、外国産の米を使用した清酒や日本以外で製造された清酒が国内市場に流通したとしても、「日本酒」とは表示できないため、消費者にとって区別が容易になること。

2つ目は海外に対して、「日本酒」が高品質で信頼できる日本の酒類であることをアピールできること。

3つ目は海外においても、地理的表示「日本酒」が保護されるよう国際交渉を通じて各国に働きかけることにより、「日本酒」と日本以外で製造された清酒との差別化が図られ、「日本酒」のブランド価値向上を図ることができることだ。

国税庁では、「日本酒」の地理的表示が海外でも保護されるよう国際交渉等を通じて働きかけを行っている。たとえば、平成31年2月に発効した日EU・EPAでEUは「日本酒」を地理的表示として保護している。また、令和2年1月に発行した日米貿易協定で米国は「日本酒」の表示の保護に向けた検討手続きを進めることを約束している。

写真:日本産酒類の輸出促進のため、国際的イベント等におけるプロモーション、海外の酒類専門家の酒蔵等への招へい等により、日本産酒類に対する国際的な認知度や理解の向上に取り組んでいる。
写真:日EU・EPAの発効記念式典では、「日本酒」での鏡開きと、日本産酒類の地理的表示のPRを実施した。


3つの地域ブランド制度の違いとは?
地理的表示制度と地域団体商標制度の重複指定で強固なブランド価値確立へ

不正使用の規制面などで制度による違いが出る

地域ブランドを指定する制度には酒類のGIの他に農林水産省の「農林水産物等のGI制度」、特許庁の「地域団体商標制度」がある。

農林水産物等の地理的表示制度は、酒類等を除く農林水産物や飲食料品等が対象で、北海道の「夕張メロン」、兵庫県の「神戸ビーフ」、福井県の「越前がに」など、全国で約100産品が指定されている。酒類の地理的表示制度とは、根拠法等が異なるが、制度の目的等はほぼ同じだ。

一方で「地域団体商標制度」は、「地域ブランド」として用いられることが多い地域の名称及び商品(サービス)の名称等からなる文字商標について、登録要件を緩和する制度。「地域名+商品(サービス)名」の組み合わせからなる文字商標は、通常、「全国的に周知」されていなければ登録ができないが、一定の条件を満たせば「地域団体商標」として登録が可能になる。たとえば、北海道の「摩周メロン」、宮城県の「仙台牛」、福岡県の「博多なす」などが指定を受けている。

地域団体商標制度は、酒類のGI制度、農林水産物等の地理的表示制度と異なり、対象とが限定されておらず、すべての商品やサービスが対象となる。また、不正使用された場合に、酒類の地理的表示制度や農林水産物等の地理的表示制度は、国による不正使用の取締りが行われるが、地域団体商標制度では、商標権を保有している団体などが差し止め請求や損害賠償請求を行うことになる。

酒類の地理的表示制度と地域団体商標制度、あるいは農林水産物等の地理的表示制度と地域団体商標制度は重複して指定を受けることも可能となっている。2種類の指定を受ければ、より強い地域ブランドの確立が可能になる。

図表2.3つの制度の違い