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コラム 経済トレンド77

女性の労働とテレワーク

大臣官房総合政策課 調査員 田村 怜/大井 克彰

本稿では、テレワークの拡大が女性の労働参加にどのような影響をもたらすかについて考察する。

女性の労働参加

・日本の総人口は2008年をピークに減少に転じているが、労働力人口は1990年代後半から減少基調となった後、2014年に再度増勢に転じている。その要因のひとつとして、女性の労働参加率が上昇したことが挙げられる(図表1.労働力人口推移)。

・女性はかつて結婚・出産を機に退職を選択する割合が高く、その後就労に復帰しないケースも多かったとみられるが、産休・育休や短時間勤務の仕組みの整備、待機児童対策などを背景に、有配偶者を中心に労働力率が上昇している(図表2.配偶関係・年齢階級別女性の労働力率の推移)。

・出産後の母親の就業状況の変化をみると、出産後に勤めていた会社を退職する人が多いものの、子どもの年齢があがるにつれ再び就労する傾向にある。なお、その多くは非正規雇用を選択している(図表3.子と同居する母の就業状況の変化)。

(出典)総務省「労働力調査」、厚生労働省「第9 回21 世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)」

女性のワークライフバランス

・非正規雇用を選択している理由をみると、男女ともに「自分の都合のよい時間に働きたいから」が一番多く、女性については男性と比較して「家事・育児・介護等と両立しやすいから」を選択している割合が多い。一方で、正規の職員・従業員の仕事がなく不本意に非正規雇用に就いている割合は有配偶者の女性で4.8%となっている。女性の中には、家事・育児・介護との両立の観点から、柔軟な働き方を希望し、自ら非正規雇用を選択する人が多いと言える(図表4.非正規雇用者が現職の雇用形態についている理由)。実際に、共働きの夫婦においても、男女の家事・育児時間には大きな差がある(図表5.夫婦と子どもの世帯の1日当たり家事・育児総平均時間)。

・夫の平日の家事・育児時間は、出産前後において妻が就業を継続するかどうかに関係しているとのデータがある(図表6.夫の平日の家事・育児時間別の妻の出産前後の継続就業割合)。夫婦間で、家事・育児等の分担がより一層行われることは、女性の就業継続にプラスの効果があるだろう。そのためには、労働生産性を高めて勤務時間を縮減するとともに、時間や場所にしばられない柔軟な働き方を選択できる環境を実現することが望ましい。

(出典)総務省「労働力調査」「社会生活基本調査」、厚生労働省「第7回21世紀成年者縦断調査(平成24年成年者)」

テレワークがワークライフバランスに与える効果

・テレワークは、ICTを活用することによって、場所や時間にしばられない柔軟な働き方を実現するものであり、在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイルワークの3形態に分けられる。2019年時点でのテレワークの導入状況は20.1%となっている(図表7.テレワークの導入状況)。

・テレワークの拡大により、家事に従事する時間が増えた労働者は男女ともに過半となっており、男性の家事への従事時間の増加は、女性の就労継続にも効果を持つことが期待される(図表8.在宅勤務を通じた家事にかける時間の変化)。また、子供のいる女性を部下に持つ管理職は、在宅勤務が部下である女性の活躍を促す手段として有効と考えている(図表9.男性管理職から見た子を持つ女性の在宅勤務の有用性)。テレワークの拡大は、夫婦間の家事・育児の分担を見直す契機となり、ワークライフバランスの改善に寄与することが期待される。

(出典)総務省「通信利用動向調査」、野村総合研究所「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う在宅勤務等に関する調査

女性のテレワークに係る課題

・女性によるテレワークの活用を考える際には、女性の従事する職業には、販売業や保健医療従事者をはじめとする専門的・技術的職業など、テレワークが困難な職業に就く人数が過半を占めていることに留意する必要がある(図表10.生産人口に属する女性の職業内訳)。

・実際に、新型コロナウイルス感染症への対応下においても「テレワークを行わない理由」を尋ねると、「テレワークで行える業務ではない」が半数を超えており、テレワークを実施・拡大できない業務も多い。一方で、「テレワーク制度が整備されていない」が34.6%、「テレワークのためのICT環境が整備されていない」が14.6%など、組織の環境整備によって対応できると考えられるケースも一定程度存在する(図表11.テレワークを行わない理由(複数回答))。ハード・ソフトウェア面での対応、業界全体での制度の確立など、可能な取組みを進める必要がある。

・なお、新型コロナウイルス感染症拡大に伴いテレワークを活用した労働者のうち、「働きながら子供の世話をしなければならない」点を困りごととして挙げる割合がテレワークの長期化につれて増加しており、特に女性にとって大きな課題となっている(図表12.育児負担をテレワークでの課題と回答した割合の変化)。テレワークの拡大だけでなく、育児に伴う負担が過度に生じないようにすることも、女性の就労継続にとっては重要であることがうかがわれる。夫婦間の意識や行動を変えていくことによって、夫婦間の家事・育児の分担を見直すとともに、保育・教育サービスの利用可能性を確保することも重要と考えられる。

(出典)総務省「労働力調査」、パーソル総合研究所「第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。