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地方創生の現場から【第9回】「輪中根性」の残る海津市での地方創生やら地方財政やら

地方創生に積極的に取り組む自治体(原則人口10万人以下)に対しては、国家公務員や大学研究者、民間人材を、市町村長の補佐役として自治体に派遣しています。本記事では、こうした制度などを通じて2018年度以降に財務省から各地に派遣された職員から、現地の概況や地方創生の取組について紹介します。

海津市マスコットキャラクター「かいづっち」

岐阜県海津市 総務部 地方創生・行財政改革担当部長 髙木 康一

1.海津市と輪中根性 そしてその簡単な歴史等

岐阜県海津市は、岐阜県の最南端に位置し、西部・南部を三重県と、東部を愛知県と隣接する、人口3万4千人ほどの小さな市町村で・・・とつらつら書いていっても、おそらく殆どの人が退屈で読み飛ばしてしまうだろう。なので、皆さんご存知ないであろう海津市について違った切り口から紹介したい。

「輪中」という言葉をご存知だろうか。小学校の社会の時間に学んだ(はず)なので、覚えている方もいるかもしれない。洪水から集落や田畑を守るために、周囲を堤防で囲んだ地域のことであり、また、その地域の村落組織のことも指す【図1.輪中の成り立ち】。岐阜県の海津市(とその周辺自治体)は、まさにその輪中と呼ばれる地域である。揖斐、木曽、長良の木曽三川が市内を流れており、大昔から、水害に悩まされてきたため、輪中堤防をはじめとして、水屋や助命壇、上げ仏壇や上げ舟といった独自の文化・風習をもってきた(というか、過酷な自然のためにもたされてきた)地域である【図2.水屋】。どれほど水害が過酷であったかは、この地の最初の藩主(小笠原貞信)が、水害多発のため転封を願い出たことや、その後を継ぎ幕末まで支配した藩主(高須松平氏)が江戸時代の間ずっと江戸屋敷に居住していたことからもわかると思う。お殿様にすら見放された土地なのだ。

明治政府のお雇い外国人ヨハネス・デ・レーケというオランダ人技師(東海地方の人は小学校で習うらしい)により、複雑な流れをしていた木曽三川を分流したことで、ようやく水害に悩まされないようになった。海津市に来て、今のまっすぐに流れる木曽三川を見ても、「輪中ってのはどこにあるんだ?」となること請け合いだが、古地図を見ると、ぐちゃぐちゃの木曽三川に囲まれた地域が数か所あり、この自然環境の中から輪中というものが生まれたのだなと得心してもらえると思う【図3.木曽三川の古地図】。

そして、この輪中地域に住む人の心性を表す言葉として、「輪中根性」というものがある。「同一輪中の仲間内では、一蓮托生のため結束が強いが、よそ者には排他的」と説明されることが多いが、「水害に悩まされることがなくなった今でも、この根性は残っている気がする」とよく市内の人は言う。

海津市の近現代の歴史で特筆すべきことと市内の人に問えば、どの人も間違いなく平成の合併のことを語ると思う。海津市は、海津町、平田町、南濃町という3つの町が平成17年に合併して誕生した新しい市である。全国どこの合併した市町村も、合併については、悲喜こもごもあるのだろうが、海津市のこのエリアは、先に説明した輪中根性の残る地域である。必然的に、合併後15年が経過した今も、旧町の住民間でなんとなくの居心地の悪さがあり、イマイチ「海津市」としての一体感に欠ける印象がある。さらに踏み込んで言うと、「海津市民」意識どころか、「岐阜県民意識」というものがこの地域には薄いと言われている。それは、この市が県境に位置しているためである。西部の南濃町は、揖斐川を挟んで海津町、平田町と分断されており、普段の買い物も隣県の三重県桑名市のほうに行ってしまう。海津町や平田町の人は、桑名市にはいかず、岐阜県の近隣市町村(輪之内町のビッグ(イオン系スーパー)や羽島市のバロー(東海地方の大手スーパー))に行くが、大きな買い物は、愛知県のほうにも行く。このように、日常的に他市どころか他県にいくこともあり、海津市民意識も岐阜県民意識も醸成されにくい。あるとすれば、旧町ごとの町民意識である。

そんな土地に、よそ者の自分は赴任することとなった。とは言うものの、自分がのけ者にされたとか、そういうことは全然なかった。後に説明するような、新しい取組みにも色々と挑戦してみたが、役所の人をはじめとても好意的にとらえてくださっている。

最後に、簡単に事務的に海津市の説明をさせていただく。人口は、先に述べたように3万4千人ほど。高齢化率は、29.1%(平成27年)で全国(26.7%)よりも高齢化が進んでいる。有名な日本創成会議のレポートの、「消滅可能性都市」にもしっかりと入っている。

自他ともに認める農業の盛んな地域で、耕作面積率(耕作面積/総土地面積)は32.9%で全国(11.8%)よりも高い。ただし、多くの人が農地を営農法人に貸し出しており、実際に農業を生業として営んでいる人はそこまで多くはない。主要な観光地として、千代保稲荷神社や木曽三川公園。RESASで地域経済循環図をみると、地域経済循環率は73.0%と低く、支出も多く市外に流出している。つまりは、海津市に住んではいるが、外の地域(近くの大垣市や桑名市、そして少し遠い名古屋市等)に働きに出て所得を得て、かつ市内に商業施設が少ないため消費も市外で行っているという、市に住んでいるだけの人が多い。

2.海津市の財政問題と具体的な取組み事項(財政関連)

では、自分が、どのような問題意識をもち、どのような業務に取り組んできたのか、時系列に沿いながら説明していきたい。まずは、全国の市役所初のバス釣りのイベントについて・・・といきたいところであるが、ここは財務省の広報誌「ファイナンス」。そのため、まずは皆さんがより興味があるだろう地方財政分野で当方が取り組んできたことを紹介したい。「シティマネージャー制度で赴任した職員が市財政?」と思われたかもしれない。そして、その疑問はごもっともである。当初は、地方創生担当部長という肩書で赴任しており、地方財政について担当することはないだろうと自分も思っていた。しかし、赴任後3か月で「令和2年度海津市予算編成方針」を自分が書くことになるほど、どっぷりと財政を担当することとなってしまった(自分のように様々な業務に便利屋的に使われている派遣者は結構いるのではないかと思う。個人的には、それはそれでいいのではないかと思っている。色々な市役所業務に携わる中で、国とは違う基礎自治体の輪郭がなんとなく掴めてくるからだ。)。

●海津市財政の概観

赴任後すぐ、財政係から、「海津市の財政は結構良くないんですよ。毎年の予算編成に苦慮するぐらいで・・・」と打ち明けられたが、市の予算書や決算書をみても、当初は何がどう良くないのか、ピンとこなかった。市報かいづに載っている健全化判断比率を見ても、財政再生基準はおろか、早期健全化基準までもまだ余裕があった【グラフ1】(後から気づいたことだが、この健全化判断比率は本当に財政が悪くならないとひっかからない。それに、この数値が海津市よりも悪いが、財政的には余裕がある市町村もある)。

【グラフ2、3】は、同じく市報かいづから抜粋した、平成30年度の海津市一般会計の歳入歳出決算である。これを見ると、歳入決算額は155億で歳出決算額は148億であり、およそ7億円の黒字である。「なんだ黒字じゃないか。財政いいじゃないか。」と当初の自分は思った。この市報を見た市民の方も、そう思ってしまうと思う。

ところが、歳入についてよく見ると、繰入金(2.98億円)と繰越金(7.37億円)が計上されている。前者は、歳入不足により財政調整基金等(後に補足説明)を取崩したもので、後者は前年度までの会計の余りを繰り越したもの(あけすけに言えば、第2の財政調整基金のようなもの)である。つまりは、市税収入や交付税収入といった「フロー」が記載される歳入の項目に、「ストックを切り崩したもの(繰入金)」と「ストックそれ自体(繰越金)」が計上されているのだ。

単年度収支から、基金の取崩しや繰越金の増減に加え、繰越明許費等を除くことで、「その年の歳入で、その年の歳出を賄えているか」を見ることができる「実質単年度収支」がわかる。実質単年度収支でみると、平成30年度は、7億円の黒字どころか、1.83億円の赤字である。ここ10年の実質単年度収支をみると、平成25年度より、赤字が継続していることが見て取れる【グラフ4】。つまり、海津市は歳入に見合った歳出規模となっていないのだ。実質単年度収支の赤字が継続しているがゆえに、平成22年度以来、財政調整基金は、およそ8.0億円、繰越金は、およそ8.4億円ピークより減少している。【グラフ5】

ここで、<img style="vertical-align: text-top" src="../../../../common/images/no01.gif" alt="マル1" height="13" width="13">財政調整基金とその地方財政における重要性と<img style="vertical-align: text-top" src="../../../../common/images/no02.gif" alt="マル2" height="13" width="13">実質単年度収支の重要性について補足説明をしておきたい。新型コロナウイルス感染症の影響により、東京都の財政調整基金が95%減少というニュースが話題となったが、この財政調整基金を保持することは、資金繰りの観点から、地方財政にとって大変重要なのである。

ファイナンス読者の方々には釈迦に説法になるが、国家財政では、(望ましくないが)歳入が不足する際には、財政法第4条の例外として、特例公債(赤字国債)を発行することで、歳入不足を補っている。この特例公債は、建設国債と違い、使途が建設関係に限定されない。

一方、地方自治体も地方財政法5条により、建設関係事業等に地方債の起債が制限されている(臨時財政対策債という例外はあるが)。国と違う点は、使途が制限されない赤字国債の発行が認められていないことにある。つまり、起債についての制限が国よりも大きい。そして、地方自治体も国と同様に、近年は社会保障費関係の歳出が増えており、その費用については、起債が不可能である。そのため、歳入不足が見込まれる際には、基金の取崩しを予算に入れることなしには、予算編成が大変に難しくなる。つまりは、借金という手段が取れないので、貯金をしっかりと持っておく必要があるのだ。この国と地方の違いは、意外と認識されていないのではないだろうか。

また、実質単年度収支という数値も、個人的にはもっと注目されていいのではないかと思っている。実質単年度収支の赤字は、どんなに財政状況がいい市町村でも時々発生する。例えば、庁舎の建て替えや道路の新設がある年には、赤字となるのも仕方ないであろう。一方で、海津市はここ数年、特に明確な理由もなく赤字が続いていた。これは、歳入と歳出のバランスが崩れていることを示している。実質単年度収支の赤字額を見れば、どれだけ歳出の削減(もしくは歳入の増加)をしなければいけないのかの目安になる(海津市の場合はおよそ1.5億円)。海津市の財政担当者も、今の財政状態ではよくないとは承知しているが、「果たしてどれだけの額の収支を改善しなければいけないのか」については、把握していなかった。この収支は一つの目安となるのではなかろうか。

話を戻す。海津市の財政調整基金残高は、平成30年度末時点でおよそ11.6億円であり、仮に毎年2億円ずつ取崩すこととなれば、6年で基金が消滅することとなる。それに、それより前に予算編成自体が難しくなることが予想される。

財政悪化の理由は、ひとことで言い表すことができず、複数の理由が重なって生じているのだが、主な理由としては、(1)人口流出等による、市税収入や交付税収入の減少(2)3町の合併後、重複する公共的施設があるが統廃合が進んでいない(例えば、今年の3月まで図書館が3つあった。)(3)安価な合併浄化槽でなく、下水道を導入しているが、集落が点在していることや、川で町が分断されているために下水道の建設・維持管理にかかる費用が大きく下水道会計への一般会計からの繰出金が多いこと(類似団体中ワースト)が挙げられる。

詰まる所、海津市の財政はすぐに夕張市のように、財政再生団体となるほどではないが、このまま手をこまねいていられるわけでもないという状況であった。何らかの対策が急務であった。

●包括予算制度の導入

海津市では、当方赴任前の平成31年度予算策定までは、予算編成方針において「前年度当初予算より単年度のみの一過性の経費を控除し、一律10%をカット」というシーリングをかけていたが、特に10%という数字に根拠はなく、かつあまりにも厳しい要求のためシーリングが守られることはなかった。そして、企画財政課予算係で予算を査定することとなるが、係が補佐以下3人しかいないため、予算を見ることに限界があった。

そのため、東京都の足立区や愛知県の豊明市で導入されている、包括予算制度という予算編成方法を令和2年度予算編成方針から導入することとした。包括予算制度の内容については、実施している市によってまちまちで、統一的なものがあるわけではないのだが、

(1)翌年度の一般財源(市税、地方交付税等、臨時財政対策債発行可能額、等)を見積もる

(2)人件費や公債費といった義務的な経費を除く(枠に含めるところもある)

(3)残った部分について、前年度の予算とその執行状況等を踏まえ、各部局に配分する

(4)各部局の部局長のマネジメントにより、その予算枠を守るといった流れは概ね共通すると思う。(詳しくは、包括予算制度で検索してみてほしい。特に豊明市にはヒアリングに行き大いに参考にした。)

つまりは、歳入をしっかりと見積もり、これだけしか支出できませんというのを明らかにしたうえで、マンパワーや個別の業務の知識の不足する予算係から、業務に精通している各部局長にこれまで以上に予算編成の責任をお願いするという制度である。これにより、

(1)歳入をしっかりと見積もることで、一律のカットと異なり、予算の枠についての説得力が増す。

(2)各部局長は、これまで予算の削減は予算係任せで過大に予算要求をしていたが、各部局長があらかじめ予算枠を与えられることで、それが抑えられる。

(3)予算の査定が、マンパワーに欠け、各部局の業務に疎い予算係ではなく、それぞれの業務に詳しい部局長が責任を持つことで、より効率的な予算の策定が可能になる

といった効果が期待された。赴任が7月で、予算編成方針の作成が例年9月であったため、2か月しか準備期間がなかった。各部局長に、包括予算制度の内容については丁寧に説明をしたが、これまでの予算編成方法と大きく異なることからどのような結果となるかは、大変不安であった。ところが蓋をあけてみると、10の部局のうち、予算枠が守れないと言ってきたところは、2つのみであとは枠内に予算が収まったため、例年よりも査定にかかる時間が短くなり、「例年になくスムーズに予算編成ができたし、予算の総額も抑えられた」と市長から評価をしていただけた。令和3年度の予算編成も引き続き、包括予算制度により実施しているところである。

●令和3年度から、海津市未来創生予算枠の新設

海津市の財政状況はあまり良くない(ちなみに、近隣の地域の市町村も、大垣市や輪之内町という企業が比較的多く立地しているところを除いてあまり財政が良くない)が、とはいえ新たな移住・定住者を増やすためには、関連する施策に適切に予算を配分しなければならない。その問題意識から、令和3年度予算編成より、各部局の予算枠とは別に、「海津市未来創生予算枠」として1,500万円の予算枠を設定し、(1)関係人口の増加、(2)移住・定住人口の増加に資する施策については、この予算枠に含めることも可能とした(財政係でなく、企画担当係が案件の採択を行う)。

その財源は、当方の努力(後述)もあり近年好調に増加しているふるさと応援寄付金(以下、ふるさと納税)による歳入の増加を充てることとした。【グラフ6】これまで、海津市では、ふるさと納税で集めたお金を海津市ふるさと応援基金に積み立てていたが、集めたお金を基金で積み立てているだけでは意味がない。お金は使って初めて意味がある。具体的な施策としては、定住奨励金の増額と住宅金融支援機構との提携(後述)等をこの予算枠で実現しようとしている。

3.海津市の課題と具体的な取組み事項(地方創生関連)

●海津市の課題

市長以下、海津市のどの人に会っても、海津市の課題は人口減少と少子高齢化だと言う。

海津市の人口は、国勢調査ベースで平成7年の41,694人がピークでその後減少に転じ、平成27年では35,206人となっており、本年度の国勢調査ではさらに減少が進む見込みとなっている。高齢化率は、平成27年時点で29.1%であり、合計特殊出生率は、平成30年度に全国(1.43)よりも圧倒的に低い0.90となっている。都市部と比べて、地方は出生率が高いと漠然と考えていたので、この数値には驚かされた。15年前の合併当時は、1年に400人ほど子供が産まれていたようだが、今は120人前後となっており、短い期間に少子化が急激に進んでいることがわかる。

人口減少と少子高齢化は、経済問題や社会問題が絡む大変に根深い問題で、一足飛びの解決はできない。そして、大庫直樹さん(ルートエフ(株))が主張しているように、地方創生とは人口問題というよりも経済問題である。市長等と相談し、まずは移住・定住人口に焦点をあてるよりも、その前段階とも言える関係人口の創出に力を入れることとした。関係人口は、移住・定住した「移住・定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々をさす言葉である。海津市は、東海地方でもあまり知名度が高くなく、ましてやそれ以外の地域の出身者には、ほぼ無名である(自分も、海津市に赴任が決まったと言われたとき、おもわず「それ何県ですか?」と聞いてしまった)。まずは、関係人口を増やし、海津市のファンを増やし、市外から海津市にカネを落としてもらおうということになった。

●ふるさと納税

まずは、関係人口増加策の1つとして、ふるさと納税を通じて海津市にかかわってくれる人を増やすことに取り組んだ。八幡浜市に赴任していた今岡さん(H22本省)や、亀岡市に赴任していた仲山さん(H23本省)からも、色々とアドバイスをいただいた。

先に示したグラフ6が海津市へのふるさと納税額の推移だが、これまであまり積極的に取り組んでこなかったため、平成25、26年度はわずか4万円、169万円であった。自分が赴任する直前の平成30年度から力を入れだし、その年は1,709万円まで伸びたところであった。それを、令和元年度には2,656万円、令和2年度には10月14日時点で5,260万円にまで伸ばすことができた。やったことは、大変にシンプルでどこの自治体でもできるのではないかと思う。

(1)ふるさと納税の窓口の増加

ふるさと納税は、「ふるさとチョイス」や「楽天ふるさと納税」「ふるまる」「ふるなび」等々の様々なホームページからすることができるが、自分が赴任するまで、海津市は「ふるさとチョイス」からしか、ふるさと納税の申し込みができなかった。

ふるさと納税の最大手のホームページの1つのため、それだけあればいいと思っていたようだが、それは明確な間違いである。楽天が一番典型的だが、楽天ユーザーは「楽天ふるさと納税」からしかふるさと納税をしない(自分も楽天ユーザーなのでよくわかる)。なぜかというと、そうでないと楽天ポイントが付かないからである。他のサイトも似たようなポイントを実施しているので、それぞれのサイトに別々のポイントユーザーが住んでいる。そのため、ふるさと納税を増やすためには、兎に角窓口を増やさねばならないのだ。そのため、自分の赴任後早急に窓口を増加させ、現在では5つのサイトから可能となっている(今事務年度にも、さらに2つ追加予定)。

(2)主力返礼品(ルアー)の増

平成30年度にふるさと納税の額が、前年度の464万円から1,709万円に増えたのは、ひとえに返礼品として、この年から始めたバス釣りのルアー(疑似餌)がヒットしたからであった。(1,709万円のうちルアー1,194万円)海津市を流れる大江川は、お隣の養老町の五三川と並び、東海地方でも有数のバス釣りスポットである(関西の琵琶湖、関東の河口湖的なイメージ)。たまたま、現在の企画財政課長の趣味がバス釣りで、そこから生まれたアイディアであった。せっかくの人気返礼品なので、それを伸ばさない手はない。ルアーの返礼品の数を令和2年度には、これまでよりも増やしてもらうことができた。

(3)主力返礼品以外の新返礼品の開拓

とは言え、ルアーの一本足打法では、仮にルアーが出せなくなったというときに、ふるさと納税額が激減する虞がある。そのため、返礼品の種類を増やし、ふるさと納税額を安定化させることにも努めた。具体的には、餃子やスイーツ、飲料水等である。これらの店に、ふるさと納税に返礼品を出すようお願いに当方と担当職員で回った。また、ふるさと納税の事業者を集めて、「ふるさと納税の事業者は、ある意味海津市の代表です!」ということを当方から説明した。地道な努力もあり、返礼品は、平成30年度の約80件から現在は、142件まで増えた。

また、既存の返礼品(コメやウナギ)についても、「○○ヵ月連続配送」とすることで、寄附の単価を上げることができた。

ふるさと納税は、議論の分かれる施策であるとは認識しているが、実際に地方でふるさと納税を増やす取組みをした身としては、地方創生の観点からは大変有用な施策であると思っている。

神戸大学の保田隆明准教授も指摘しているが、返礼品提供事業者は、中小事業者であることが多く、自前のインターネットでの販売チャンネルを持たないことが多いが、ふるさと納税ではそれがお手軽に実施できる(特に事業者の手間がかからずに、「ふるさとチョイス」や「楽天のふるさと納税」等のページに載せることができる)ため、それらの事業者にネット通販の疑似体験や足がかりを提供している(保田2019)。つまりは、これまでになかった都市→地方の中小事業者への新しいカネの流れを創出しており、それを拡大させる可能性がある。

また、地元の事業者への説明会では、事業者の方々に「我々は(ふるさと納税において)海津市に貢献している。海津市の代表だ。」という意識の芽生えを感じた。この郷土愛もしくは、シビックプライドが生まれることが、何よりも地方創生において大事であり、そのきっかけとなるのではないだろうか。

●市主催のバス釣りイベント実施

「地方創生は、上から押し付けられるものでも、周りの市町村を真似するものでもなく、その地方に住む人が、他の地方と違う魅力をしっかりと認識して進めていくべき」と片山善博元総務大臣がその著書で語っていたが、当方もそれには全く同感で、「海津市に既にあるモノ・コトに磨きをかけてヒトを呼ぼう」と決めて海津市に赴任してきた。(余談だが、「海津市を音楽の街にしてくれ」とか「海津市を芸術の一大拠点に」と要望される高齢の市民の方が時々やってくる。「海津市には音楽や芸術で有名な人が過去にも現在にもいないし、住民が特に音楽や芸術好きでもないのに」と思い、その提案の理由を聞くと、「いや、俺音楽好きだし・・・」とかそういう荒唐無稽な答えが返ってきたりする。今から音楽や芸術の街と打ち出しても、定着するまでに相当の期間がかかるだろうし、そもそも定着しないかもしれない。定着する前に、海津市が消滅している可能性のほうが高い。)

町を歩きまわり、色々と情報を収集したところ、前述のとおり海津市は東海地方有数のバスフィッシングスポットとうことに行き当たった。ところが、バスは特定外来生物ということもあり、海津市には、これまでバス釣りで町おこしをしようという発想がなかった。

自分も、バス釣りで町おこしをするのは、なかなか厳しそうだと当初考えた。「池の水全部抜く(テレビ東京)」という特定外来種の駆除をテーマにした番組が流行っており、特定外来種は活用するものではなく駆除が世の流れである。しかし、いくら探しても海津市に外から人を呼べる既存のコンテンツがバス釣り以外に見当たらなかった。そして、岐阜県の条例や海津市の条例を調べても、バス釣り自体は規制されていなかった(規制している自治体もある)。「音楽や芸術といったクリーンでお行儀のいいことで町おこしをするのは、海津市には難しい。後発の海津市は、少しグレーでニッチなゾーンを攻めるしかない・・・」と泣く泣く覚悟を決め、おそらく全国の市役所で初めての、釣りあげたバスの大きさを競う「バス釣り大会」の実施案を市長に説明し了承を得た。タイトルは、「第1回海津市バス釣り王決定戦」とした。【図4.第1回海津市バス釣り王決定戦パンフレット】

年度途中に決めたため、予算も何もなかった。そこで、ふるさと納税に返礼品を出してくださっているバス釣り業者さんに大会の商品を無償で提供していただき、大会自体もインスタグラムを活用して、特に費用がかからないように工夫した。昨年度に実施した第1回の参加者は32人(投稿数:137)で、本年度の第2回には、47人(投稿数:193)に増えた。第2回の表彰式で、入賞者のなかに、バス釣り好きが昂じて海津市に移住してきたという人がいたことには驚いた。この大会のために立ち上げた、海津市バス釣り専用インスタグラムアカウントのフォロワー数は、954人(令和2年10月14日現在)だが、参加者が思ったより伸びないことを現在課題ととらえている。来年度実施予定の3回目には、バス釣り関係のyoutuber等のインフルエンサーにも協力していただき、より多くの参加者を募りたいと考えている。

●移住・定住施策やら企画立案中のこと

まだ企画立案の段階だが、本事務年度では、移住・定住施策にも取り組んでいる。令和3年度予算に入れ込む予定で既に進めている施策としては、既存の制度である海津市への定住奨励金の支給額を最大18万円から最低25万円まで引き上げることである。この支給額を引き上げることにより、住宅金融支援機構と提携し「フラット35地域活性化型」を利用できるようになり、フラット35を利用し住居を建てる移住者の住宅ローン金利が一定期間低減される。他にも、農業を目的に移住する人の増加策や、農業の6次産業化等について職員と議論をしているが、なかなか農業関係の規制が多いことや、また自分に農業関係の知識が乏しいことから難儀しているところである。6次産業化については、東京都の清瀬市のはちみつプロジェクト(なんと市役所の庁舎の上で市役所職員が養蜂して、はちみつを作って販売している)から刺激を受け、海津市の特産のトマトを使用したケチャップを市役所で作れないかと試行錯誤している。いいケチャップができれば、道の駅やふるさと納税で販売を開始したい。

●地方創生のまとめ

上述の施策はあくまでそれなりに上手くいっているor上手くいきそうな施策をまとめたものであり、上手くいかなかったプロジェクトやなかなか進まないプロジェクトも多々ある。そんな中で、当方が何よりも実感したことは、「(地方創生担当部長である自己の存在の否定となってしまうが)地方創生は、国や都道府県、市町村だけでは達成は不可能であり、地域に住んでいる人が中心となって頑張るしかない」ということである。バス釣りの事例では、これは市のアイディアも大事だったが、振り返ってみると、地元のバス釣り事業者さんの努力がとても大きいし、他の成功事例をみても、役所よりもむしろ、NPOや地元企業等のコミュニティと、そのコミュニティの熱い思いに基づくアクションが活性化に繋がっている(一例を挙げると、同じ岐阜県の郡上市は、市役所だけでなく、複数のNPO法人等の市民コミュニティが町おこしを頑張っており、中でもHUB GUJOはイケてるサテライトオフィスを運営し、様々なイケてる人を引き寄せている)。

海津市民の方々は、行政への期待感がとても高い。その裏返しかもしれないが、自分たちで何とかしようという思いは少なく、市の活性化についても市役所が何とかしろというスタンスの人がとても多い。だが、市役所の職員も日々の業務に忙しく、なかなか新しいことを考える時間が少ない。市民の方々が思うほど、役所には余裕がないのだ。今後の海津市の発展は、海津市民の意識改革にかかっているのではないかという思いを日々強くしている。

4.さいごに(財務省再生プロジェクトと絡んで、地方から財務省への提言)

かなり長くなってしまったので、もしここまで読んでくれた人がいるなら大変ありがたい。

最後に、財務省再生プロジェクトの観点から、1点提案をしたい。上述のように、当方は市役所という基礎自治体に赴任し、国で働いていた時よりも自分の裁量でできることが多く、大変充実している。

国で働くと、社会的に影響の大きな仕事に携わることができるが、手触り感のある仕事はなかなか難しいと思う。それは構造的に仕方がない。一方、市町村の業務は、規模こそ小さくても手触り感に溢れている。国の業務に疲れた職員が、地方で英気を養うこともできるし良いこと尽くめである。個人的には、シティマネージャー制度だけでなく、財務省も若手補佐や係長の通常の人事ローテとして、基礎自治体である市町村の財政部長もしくは企画部長として赴任するルートを増やしてはどうかと思う。特に財政部長のポストは、地方自治体の予算編成を体験できるのでなかなか得難い経験だと思う。地方交付税は大変に複雑な制度であるが、その制度にも詳しくなれる。もちろん、いいことばかりではなく、辛い面もあるがそれも含めていい経験だと思う。(秘書課の偉い方々どうでしょうか)

(参考資料)
豊明市HP(URL:https://www.city.toyoake.lg.jp/
特定非営利法人HUBGUJO (URL:https://hubgujo.com
保田隆明、久保雄一郎「ふるさと納税における返礼品提供事業者の属性分析」(2019, Venture review no.33, 日本ベンチャー学会)
大庫直樹「ILO産業分析の枠組み 人口問題を経済問題に」(2020/5/28,地方行政,時事通信社)