このページの本文へ移動

新型コロナウイルス感染下の沖縄経済の状況及び今後の中長期的な課題について(下)

沖縄振興開発金融公庫副理事長 渡部 晶

3.沖縄振興振興*12を考える際のいくつかの視点(試論)

沖縄振興にここ4年ほど携わってきた中で、中長期的にこの課題に取り組む際の考えの起点となりそうな論点を私見として順不同で並べてみたい。

〇格差是正の意義~同じ国民である以上、「シビルミニマム」として一定の権利を保障しなくてはならない。国民統合の絆(国家の求心力)を強くするためには不可欠(日本の現行の地方財政制度の究極の目的と同旨*13)。

例えば、国境離島の維持の重要性があげられる。実際、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(平成28年法律第33号)*14が制定されている。

とくに強調したいと思うのは、「子どもの貧困」問題である。子どもの相対的貧困率は、全国16.1%、沖縄は29.9%と突出している*15。沖縄の特殊合計出生率は、1.89(2018年)とせっかく生まれてくる子どもが多いにもかかわらず、貧困にさらされている。この状況改善について粘り強く取り組まねばならない*16。

また、沖縄県は、フロー面でもストック面でも総じてジニ係数が高いことは知られている。ジニ係数で見る限り、沖縄県は格差が大きい県である*17。

〇償いの側面*18~大田實司令官の海軍次官宛ての電文「(中略)沖縄県民斯く戦えり。県民に対し、後世特別の御高配を賜らんことを。」*19

地元紙の琉球新報の連載「沖縄振興を問う」(2020年3月20日より連載)の第2回(同年3月21日)の大見出しは、「揺らぐ『償いの心』」であった。

〇冷静でトータルなかたちでの比較の重要性~47都道府県、福岡、奄美、北海道、ハワイ、シンガポール、台湾、モーリシャス*20‥などときちんと厳密につきつめて比較してみるという取り組みに乏しい。

「全47都道府県幸福度ランキング2020年版」(監修:寺島 実郎,編集:(一財)日本総合研究所、日本ユニシス株式会社総合技術研究所)の総合ランキングは、1つのトータルな観点を提供するものだろう。沖縄県は回を重ねるごとに1位ずつ順位を上げ、2012年版の47位から今回は44位となった。異文化交流の進展などから「文化」の上昇が目立つ。ただし、仕事、生活のランキングは沖縄は47位、教育は46位である。ちなみに総合ランキングで、45位青森県、46位大阪府、47位高知県となっている。

また、最下位の1人あたり県民所得については、全国比7割ということはよく知られている。しかし、中身を隣県の鹿児島県と比較してみると、県民所得を構成する項目のうち企業所得がかなり少ないということがわかる(図表10.平成29年度県民所得の構成)。県民経済計算の中身により立ち入って分析していくことが課題ではないだろうか。

○総花ではないメリハリをつけた振興*21~拙稿「素顔のおきなわ経済」の連載で触れたことがある*22が、沖縄では、いろいろな面で「昭和が生きている」と感じることがある。例えば、「県土の均衡ある発展」というような言葉がよく聞かれる。しかし、沖縄においても人口減少に転じることに鑑みれば、この点は発想の転換が必要ではないだろうか*23。

○本島での地域ごとの分析と対策の必要性*24~沖縄の人口の2割をしめる沖縄市・うるま市の市民所得(企業所得を含む)が顕著に低い(図表11.平成29年度1人当たり市町村民所得(千円)(令和2年9月18日沖縄県公表資料))。この二市は、人口はコンスタントに増加していて、絶対数で見るとかなり増えている。一方、失業率は高め、有効求人倍率が低めである、ということが指摘できる。人口一人当たりでなく就業者一人当たりに直してみると、沖縄市はほぼ県平均、うるま市もやや低いが特に目立たなくなる。就業者でない人びとの存在が大きいようだ。この地域の市民所得の底上げが重要だ。

また、那覇市を含む中南部に人口が集中(面積:636km2 人口:121万人)しており、都市部の人口密度が高いことがあげられる。

少し古い数字で恐縮だが、以下のようになる。

人口密度(単位:人/km2)
54位 那覇市 7,960.73
(62位 立川市 7,397.95)
82位 浦添市 5,875.00
101位 宜野湾市 4,909.44
(110位 福岡市 4,599.58)
(注)人口は2018年10月1日の推計人口。面積は2017年10月1日の国土交通省国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」。

このような状況を考えれば、那覇都市圏について、近隣の九州における福岡都市圏の取り組み*25などを取り入れ、都市圏単位で行政の連携の在り方などをより踏み込んで構想・実施してみることは極めて有意義ではないだろうか。

○沖縄県の財政~沖縄振興策への考察(まずは、事実をきちんと認識することからはじめる必要)

沖縄県の1人当たりの国庫支出金(2017年度)は、東日本大震災関連の岩手県、宮城県、福島県、平成28年(2016年)熊本地震関連の熊本県を除けば、全国1位の26万3283円である。

マクロの地方財政計画で決定された総額が衡平に分配される1人当たりの地方交付税交付金(2017年度)は、24万2924円で、全国で17位。

沖縄によくある言説で、国庫補助金の高率補助のせいで、人間としての生きる権利を保障するための自立と自律の基盤である地方交付税交付金が減らされているという「交付税交付金(善)、国庫補助金(悪)」や、国庫支出金と地方交付税交付金を合算すれば、沖縄は国からそれほど財政移転されていないというものがある。

やや技術的になるが、たしかに、地方交付税の算定項目になっている「道路橋りょう費」の算定にあたり、高率補助が考慮されている*26。沖縄県は、総務省に対し、再三「道路橋りょう費(道路の延長)の投資補正係数の算定における割落としの廃止」の意見を提出してきている。

また、投資事業において、地方債を起債した場合、地方債の返済については地方交付税の配分があることから、地方交付税交付金の額は起債しない場合に比べて増えるが、債券の償還にあてるものであり、沖縄で流布する言説と違い自由度が増すわけではない。地方債(借金)の残高が増えると、財政が硬直化するとみるのが素直な見方だろう。

第4回沖縄県振興審議会の総合部会(2019年10月23日開催)で、県企画部が、「資料4 沖縄振興に関する各種制度等について」を提出して、沖縄振興制度について詳細に解説している*27。

県の上述の資料の検証(平成29年度の普通会計決算の状況)では、「高率補助制度の活用もあり農林・土木費への措置額は高い。他方、地方債発行の抑制により公債費への措置額が小さいことなどから、民生費、衛生費、教育費へも、全国平均を上回る額を措置」(資料9頁)と評価されている。

他方で、沖縄県においては、「沖縄『厚遇』あたらず」言説に沿うようなQ&Aを掲載している*28。

「問8)沖縄に対しては、国庫支出金や地方交付税により他都道府県と比較して過度に大きな支援がなされているのではないですか。」という問いに対して、

「平成29年度普通会計決算(県・市町村分合計)ベースで見てみると、沖縄県の国庫支出金は全国10位、地方交付税交付金も含めた国からの財政移転では全国12位となっています。また、人口一人当たりで比較すると、国庫支出金と地方交付税の合計額は全国5位で、復帰後一度も全国1位にはなったことはありません。※順位は岩手県、宮城県、福島県、熊本県を除く。」と記載している。

ただし、そのホームページを更にクリックしてPDF文書*29を開けると、「国庫支出金を都道府県別に人口一人当たりで比較すると、本県は、全国1位。地方交付税交付金は、全国17位。」ときちんと解説している。

素直にみれば、地方財政計画で決まった地方交付税交付金(総額)を、毎年総務省が地方財政制度審議会の審議も経て、苦心惨憺して全国自治体に衡平に配る1人あたりの順位と、政策的な配慮のある国庫支出金の1人あたりの順位があまりにも食い違っている方が少し奇異ではないか、というように考えるのではないかと思うのだが。

奥まったPDF文書に、沖縄県の実務担当者の良心をみるのは、思い入れがありすぎるだろうか?

いずれにしても、総務省のホームページ上の「財政状況資料集」には掲載されている沖縄県の分の財政に関する様々な情報*30についても、沖縄県のホームページ上の財政に関する資料*31から読み取ることは困難である。

沖縄振興の手厚い財政的な意義について、まずはきちんと県民に知らせる努力を行う必要があると思料する*32。

4.沖縄振興の中長期的な課題のいくつかについての考察

(1)企業の生産性の向上

他の地方でも同様な問題であろうが、上述の県民経済計算の中味を踏まえると、沖縄では企業の稼ぐ力が低いと考えられる。企業の生産性の向上に地道に取り組む*33、ということは極めて重要な課題である。

内閣府沖縄総合事務局では、「働き方改革・生産性向上推進運動」を提唱している*34。

「平成30年度沖縄における生産性向上に向けた労働生産性分析調査」によれば、

・全国と比較すると労働生産性が低い状況が続いている。

・産業別では、県外では付加価値額の大きい製造業のウェイトの低さが労働生産性の低さにつながっているように見受けられる。なお、県内の「宿泊業、飲食サービス業」は全国との差は小さい。県内の主要産業に関しては、全国平均、ならびに九州の類似県平均と比較しても同程度の水準となっている。

・企業規模については、規模の小さい企業の生産性は低い。全国比較では、すべての企業規模で生産性は劣っている。ただ、産業別でみると企業規模に左右されない産業も多い。

・売上原価率は全国平均と比較しても、そこまで高い状況ではない。ただ、設備投資に関しては、全国平均よりも劣っている。といった分析がなされた。

生産性の決定要因は、人的資本、物的資本、インフラ、社会関係資本、知的資本というストックの蓄積だとされる。

沖縄においては、常に「人的資本」の問題が指摘される。全国最下位の大学進学率が典型であるが、高等教育の在り方についての従来にも増して真剣な検討が必要ではないだろうか。

また、経営人材の獲得にも力をいれるべきだろう。内閣府では、地方創生の目玉施策として「プロフェッショナル人材戦略」を展開し、どの道府県もその重要性に鑑みて参加していると思われるが、東京都と沖縄県だけが現在実施していない*35。沖縄県は、補助率100%だった1年目のみの参加であった。

沖縄の企業の多くは、いわゆる「ファミリー企業」で、平均就業者数が少ない。このような零細企業間の競争は激しいが、ほとんどの場合、地域限定型で、分断化された域内市場内のみで競合するので生産性の向上には結びつきにくい*36。

製造業では、非国際化企業を基準にすると、中小企業でも、付加価値額・生産性ともに国際化企業に優位性がある*37。国際的なテロ規制などがあるが、公庫にとっても、沖縄の中小企業の国際化支援の在り方は大きな課題である。当面は、まず、大消費地である東京・関東圏で直接営業活動をする沖縄の中小企業の営業拠点への支援なども検討に値するのではないだろうか。ただし、供給能力から考えれば、あくまでもブランディングによる高付加価値化戦略をとらざるを得ないと考えられる。そのための人材がやはり重要である。

(2)沖縄振興策での手厚い財政措置のより有効な活用

このコロナウィルス感染拡大に起因する不況で、国の財政も大幅に悪化した。振興予算3000億円維持のコミットがあるのは、現状では、現行沖縄振興計画の期間の2021年度までだ*38。せっかくの貴重な財政資金についての有効な使い道をこの機会に再検討すべきである。

上述3のように「県土の均衡ある発展」というよりも、それぞれの地域特性(中南部の都市政策(公共交通など)、他の地域はそれぞれの特色にあった施策(まちおこし))を活かした、「ワイズスペンティング」と評価されるような、質の高い個性ある政策の展開を期待したいところである*39。

(3)国家戦略特区など規制改革手法の活用

「骨太の方針」では、沖縄を「日本経済の牽引役(フロントランナー)」として位置付けている*40。

仲井真知事(当時)が獲得した「国家戦略特区」の指定であったが、一時期活用が低迷して、指定の取り消しが議論された経緯がある*41。

今次発足の菅新内閣では、規制改革が「1丁目1番地」である。この政府の方針を踏まえた、これまで以上の思い切った積極的な取り組みを期待したいところだ。

(4)「自立」ということは何を意味するのか?

冷静に見れば、例えば、日本の都道府県で、財政的に「自立」しているといえるのは、東京都のみである。沖縄県は、自主財源比率は低いほうだが、自治体の財政力でみれば、福岡県以外の九州の各県なみにはなっている。

心理学用語では、「自立」という場合、「安定した依存関係を基礎にしてはじめて自立が成し遂げられるといった側面もある」ことがつとに指摘されている。「身近な人たちとの間に適度な相互依存関係をもつことによって自立が保障されているといった見方」である。このような観点からも、「沖縄の自立」ということの意味を深くとらえ直す時期にあるのではないかと考える*42。

(5)子供の貧困*43

(1)高い出生率についての解釈の紹介

・本川裕氏(「統計探偵」)~沖縄の出生率は戦前は最低レベルであったのが、米国統治下にあったことで、本土の各地が高度の経済成長や家族制度など社会の近代化、あるいは社会保障制度の普及などの影響で急速に出生率を低下させていた頃、沖縄はそうした本土の動きからはいわば「切り離されていた」ため、統計が再開された1975年には一気に全国首位に躍り出た、と分析する*44。

・山田昌弘氏(中央大学教授)~「子育ての期待水準が低い」すなわち、沖縄は、本土で工業化が進んだ高度成長期に、アメリカの占領下にあったため、終身雇用・年功序列で収入が安定・増加したサラリーマン男性(と専業主婦の家族)が一般化しなかった。その結果、「世間並みの生活水準」、特に子育て期待水準が高くならなかった。・・・地元に残る若者の中では、大学に進学しない者が多数派で、子どもの進学費用を準備しなくてもかまわないと考える若者が多くなる。さらに、できちゃった婚、離婚、ひとり親世帯が多く、その結果、周りの人の子育ての期待水準も高くない。それゆえ、子ども数が維持されるのである。つまり、子どもを産んで、経済的に不安定な中で育てることが珍しいことではなく、女性から見て、非正規雇用者など低収入の男性と結婚することや、離婚して親族に頼ることが、恥であるという意識が本土に比べて(それほど)高くない地域だからだと考えられるというのだ*45。

本土と同じでよしとするだけでなく、社会構造の変化の時間的違いも考慮する必要を示唆しているのではないだろうか。

なお、少子化の進行については、沖縄県でも婚姻年齢の高齢化が進んでいる。一方、10代後半から20代前半での妊娠・出産が本土に比べて多く、低所得層における出生率の高さが全体の出生率を高めていることが示唆される。

母子世帯における子どもの数でも沖縄県は本土より多くなっており、若い時期に出産をはじめた母が多子を産んでいる状況で、家計の苦しさとともに、いわゆる貧困の連鎖が懸念される。

こうした「子どもの貧困」の取り組みについては、全体の平均ではなく、貧困層と本土並み世帯の分布で考えた方が適切で、平均の嵩上げではなく、低所得層の嵩上げに注力すべきとの意見もあり、傾聴に値する。

(2)「とても若い政策領域」

日本の子どもの貧困対策は、2013年の「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(2014年施行)からで、まだ7年ほどしかたっておらず、様々な蓄積が足りない政策領域であることに留意する必要がある。

ただし、「乳幼児期の貧困」が、その後の子どもの発達に大きな影響を与えることは、国際的にも、日本でも共通認識となっている。そのため、この乳幼児期の教育とケアの重要性は強調してもしすぎることはない。

「妊娠した時から全員に専門家がかかわり始めるサポートがあるといいと思う。抱っこが下手でもサポートがあれば、なんとかしのいでいける。大丈夫な親子から手放していけばいい。こじれてから支援するよりも、費用対効果としてもずっといいのではないかと思います。」とは、滝川一廣氏(日本の児童精神科医・臨床心理学者。前学習院大学教授。*46)の至言である。

(3)子どもの貧困を多元的にとらえること、教育支援と同時並行での生活基盤保障

「子どもの貧困」とは、生まれ育つ家庭が低所得であることだけでなく、低所得に起因して複合的な困難が発生し、大人に至る成長や教育のプロセスで多くの不利に置かれる状況まで含みこんでいることに留意する必要がある。

教育支援とともに、生活基盤保障(衣食住や生活習慣保障、保護者の労働条件・賃金水準の改善、住宅手当・児童手当等の現金給付政策の充実といった家族全体の生活条件の向上)も重要と感じる。ここで、古くて新しい「社会開発」*47というキーワードが浮上する。

ちなみに「社会の開発」(社会開発)という文言は、昭和47(1972)年に制定された沖縄公庫法第1条(目的)にも「・・沖縄における経済の振興及び社会の開発に資することを目的とする。」と規定されている。21世紀は、あらためてこの「社会の開発」*48に注目すべきではないだろうか。

(4)子どもの貧困対策の責任体制の明確化とシステム化

全国的には、学校をプラットフォーム化する方向性だが、沖縄では難しいのだろうか?基礎的自治体における保健師の重要性は強調してもしきれない。スクールソーシャルワーカーやカウンセラーの安定的な活動を支える体制をいかに作れるか。1人1人の子どもは、ばらつきがあり、それぞれの成長に長く寄り添うことが理想ではある。滝川一廣氏は、「子どもは生まれたときが最もばらつきがある。それが、成長の過程で、精神発達を遂げた大人たちや環境に働きかけ、働きかけられ、認知と関係性をそれぞれ発達させ、その社会と文化を生きることができる存在へと育っていきます。」とする*49。

(5)高等教育への視点

「教育格差~階層・地域・学歴」(松岡亮二著 ちくま新書)*50でも示されているように、日本の教育システムは、高校からは格差を拡大するような制度が構築されているということが現実にはある。そのような中、沖縄での貧困の連鎖を教育により断ち切るにはどのような視点が必要なのだろうか。

濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長は、「大学に進学することで有利な就職ができ、その結果福祉への依存から脱却することができるという観点からすれば、その費用を職業人としての自立に向けた一種の投資と見なすことも可能であるはずです。これは生活保護だけの話ではなく、教育費を社会的に支える仕組み全体に関わる話です。ただ、そのように見なすためには、大学教育自体の職業的レリバンスが高まる必要があります。」と指摘する*51。

沖縄においては、上記のような大学観の転換を前提とした、学生支援を構想できないのだろうか?

また、既存のインフラとして、放送大学のような通信教育の活用も検討課題だろう*52。放送大学受講者数は人口比率でみて本土の倍で、受講年齢層でみると、30代、40代が沖縄県のボリューム・ゾーンとなっており、本土のカルチャー・センター的な高齢者の生涯学習というイメージとは受講層が異なると感じられる。看護助手⇒准看護師⇒看護師という看護職員のヒエラルキーについて本土との賃金格差を見ると、低層の職種ほど本土との賃金格差が広がっていることが確認できる。つまり、放送大学などで学ぶことによって資格を取得することが収入の増加に直結しており、収入増のため、資格取得のための放送大学受講という明確な目的意識が存在するのではないかと考えられる。

また、離島地域における「15の春」問題をはじめとして、地元を離れることなく高等教育を受ける機会の拡充は非常に重要であり、今回のコロナ禍を通じたオンライン授業の本格的試行は、今後の大学教育のあり方を変革する機会にもなりうる。

ただし、理工系に関しては、なによりも就業の場が問題となるため、製造業については状況は変わらない。ICT系についても、スキルの高いエンジニアがリモートワークで高い生産性を上げるというモデルは考えうる(ワーケーション)が、学卒で沖縄で就職して高いスキルを習得できるかが問われる。

Googleのような世界レベルの企業の研究拠点が沖縄にできる、などの条件があれば、長期的には変化の可能性はあると思われ、その意味でOISTの周辺に先進企業の集積を誘致する、あるいは本土大学のサテライト・キャンパスを誘致する等の方策が望ましいだろう。ただし、住居や子弟の教育環境などの生活環境改善の取り組みも必要だろう。

(6)おわりに

「沖縄の挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄」(沖縄振興開発金融公庫 2003年3月*53)(著者:嘉数啓琉球大学名誉教授(おきなわ公庫副理事長(当時)、沖縄県振興審議会委員)の提言の末尾部分を紹介して結びとしたい。

今回、この冊子を読んで、20年前と課題が依然としてほぼ変わっていないことに驚くとともに、島嶼学の提唱者である嘉数氏の構築した分析枠組みの堅牢さに感服した次第である。

「これまでの分析・評価の結果、沖縄で将来にわたって開花すると思われる経済活動分野は、未来志向の観光、健康と食品、スポーツとエンターテイメント、ニッチ地場産業、それにコールセンターやSOHO、中継貿易等のネットワーク型ビジネスである。公的サポートもあって、これらの分野における民間セクターの動きが活発化してきた。むろん、すべてが一直線に進展するとは思われない。特にインターネットに代表されるネットワーク型時代の到来は、スピードと情報の海から『混沌』を読み取る『感性と機敏』さが勝敗を分ける。・・(中略)

地域に根付いたグローバル活動の担い手は、繰り返すようだが、柔軟性に富んだ高度の労働力である。すでに分析した通り、沖縄県の労働市場は、急速な経済構造の変化に人材供給が追い付けない需給のミスマッチが顕在化している。・・

拡大しつつある労働供給のミスマッチは、とりわけ観光関連及び情報関連産業にターゲットを絞った人材育成で解決の糸口がつかめよう。前述のとおり、人材育成機関としての沖縄の大学及び専門学校は、質、量において他府県に後れをとっている*54。一人当たり所得やインフラ整備の分野で格差は確実に縮小してきたものの、大学進学率は過去28年間、一向に改善されていないという驚くべき事実もある。沖縄が付加価値の高い産業へ脱皮するためには、人的資源への投資が最優先課題であるだけでなく、こうした投資こそが、グローバル・ビジネスへの挑戦に必要なパワーを沖縄の将来を担う若者達に獲得させる有効な手だてとなる。

県民が求める真に価値ある生活体系を確立するためのわれわれの選択と、その実現可能性を確実に担保するためには、道路、橋梁及び大型の建造物といった従来の『箱モノ』インフラ整備から、人材育成、研究開発、情報ネットワーク等の『ソフト』インフラ分野への集中的で思い切った資金投入による大胆かつスピーディーな政策転換が求められている。最後に、持続可能な経済発展と完全雇用の確保は、こうした目標達成の手段にすぎないことを明記しておこう。」

この論考にコメント(「ハワイと沖縄」)したスミダ・ケンジ(東西センター前総長(当時))は、民間企業を引き寄せ、やる気を起こさせるような環境の創出への確固たる政治的意思、大学レベルでの沖縄の教育制度の強化、を強調。そして、「沖縄のイメージの改善」(「太陽とビーチ」の強烈なイメージで、ビジネスをするところではないと思われることへの改善)を指摘しているのが印象深い。

マーケティング戦略として、沖縄の独特な優位性と遺産を内外両にらみで印象づけ、沖縄そのものが常に「高い質」というイメージと結びつくような努力をすべき、というのだ。

夢を語るとすれば、現在、整備が進められている櫛状道路を活かしたMICEで、例えば、地勢的重要性を象徴するような、シャングリアダイアローグ、あるいは、ダボス会議などのような安全保障・国家戦略に係るシンポジウムの開催なども構想したいものだ。

(なお、本文の内容については、元となる文書の作成において、おきなわ公庫理事大貫裕二氏に貴重なコメントを多数頂戴したほか、業務統括部や調査部の関係者に多大なご協力を得ている。記して感謝したい。ただし、ありうべき誤りなど文責は筆者にある。)

*12)沖縄振興特別措置法(平成十四年法律第十四号)の目的を規定する同法第1条は、「この法律は、沖縄の置かれた特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興基本方針を策定し、及びこれに基づき策定された沖縄振興計画に基づく事業を推進する等特別の措置を講ずることにより、沖縄の自主性を尊重しつつその総合的かつ計画的な振興を図り、もって沖縄の自立的発展に資するとともに、沖縄の豊かな住民生活の実現に寄与することを目的とする。」としている。ここで、「沖縄の置かれた特殊な諸事情」とは、内閣府のホームページ掲載のパンフレットでは、

・歴史的事情 先の大戦における苛烈な戦禍。その後、四半世紀(27年間)に及ぶ米軍の占領・統治。

・地理的事情 本土から遠隔。広大な海域(東西1,000km、南北400km)に多数(約160)の離島。

・社会的事情 国土面積0.6%の県土に在日米軍専用施設・区域の70.3%が集中。脆弱な地域経済。などとされている。あたりまえではあるが、法に基づく行政を行っているのであるから、この点は現行の沖縄振興策が踏まえている事情であることを冒頭確認しておきたい。https://www8.cao.go.jp/okinawa/pamphlet/shinkou-2020/2020_whole_1.pdf

*13)参照:「日本地方財政史 -- 制度の背景と文脈をとらえる」(小西砂千夫著 有斐閣 2017年5月)

*14)この法律は、我が国の領海、排他的経済水域等を適切に管理する必要性が増大していることに鑑み、有人国境離島地域が有する我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に関する活動の拠点としての機能を維持するため、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別の措置を講じ、もって我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に寄与することを目的とする。

*15)沖縄県子ども生活福祉部「沖縄こども調査」2016年、厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」

*16)第10回県民意識調査(くらしについてのアンケート)結果(2018年実施https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/seido/h30chousa.html重点政策の優先度で、今回の調査ではじめて項目に入れた「子どもの貧困対策の推進」が、「米軍基地問題の解決推進」を抜いて1位となった。

*17)総務省「平成26年全国消費実態調査」。嘉数啓著「沖縄:新たな挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄 世界の目を沖縄へ、沖縄の心を世界へ」(公庫レポートNo128 2013年3月)の図12「全国と沖縄兼のジニ係数の比較 2004年」とその解説(19頁~20頁)

*18)「昭和天皇実録」の1947年9月19日の条は、いわゆる「天皇メッセージ」を明記。
「この日午後、寺崎は対日理事会議長兼連合国最高司令部外交局長ウィリアム・ジョセフ・シーボルトを訪問する。シーボルトは、この時寺崎から聞いた内容を連合軍最高司令官及び米国国務長官に報告する。この報告には、天皇は米国が沖縄及び他の琉球諸島の軍事占領を継続することを希望されており、その占領は米国の利益となり、また日本を保護することにもなるとのお考えである旨、さらに、米国による沖縄等の軍事占領は、日本に主権を残しつつ、長期貸与の形をとるべきであると感じておられる旨、この占領方式であれば、米国が琉球諸島に対する恒久的な意図を何ら持たず、また他の諸国、とりわけソ連と中国が類似の権利を要求し得ないことを日本国民に確信させるであろうとのお考えに基づくものである旨などが記される」井上亮・日本経済新聞編集委員は、「沖縄の切り捨て、軍事基地固定化を冷徹に容認する意見で、『実録』にしてはよくここまで載せたものです」と評する。(「昭和天皇は何と戦っていたのか」(小学館 2016年4月))

「沖縄祖国復帰物語」(桜井 溥著 大蔵省印刷局 2000年10月)によれば、復帰後の最初の沖縄振興開発計画の原案について、以下のような回想が記される。

「いよいよ県の原案の全体像が見えてきた。ところが、唸ってしまった。それは二点ある。第一は前文のところで、『戦後長期にわたって我が国の施政権外におかれた沖縄に対し日本政府は償いを・・』とあった。金銭的な償いというよりは、誠意ある謝罪を求めるという文脈だった。『償い』(原文では強調のため句点が付く)この文字に釘付けになった。・・・結果的に、この『償い』の文字は原案からは消えた。しかし原案の元の案にあったという事実は、いかなる公文書にも残されていなくとも、それは消しがたい厳然たる事実である。沖縄県民の心は、その忘れられることを一番恐れているのだ。」

ただ、この点について、「戦後75年、サンフランシスコ平和条約(いわゆる“屈辱の日”)から68年、復帰後48年となりますが、地方行政の格差是正、例えば都道府県間の格差是正のための制度としてはそもそも地方交付税制度があり、地理的特殊性や米軍基地問題ゆえの特別措置、沖縄の優位性を全国が活用する文脈を除けば、あとは沖縄振興の正当化については、1945年の「後世特別の御高配」と1952年の占領継続への”補償”がどこまで妥当かという議論が生々しくも残されるわけです。しかし、過去の沖縄の犠牲の代償として沖縄振興を求め続けることは、世代交代が進むにつれてそこに国民の理解を得るのが難しくなっていくのではないかと思われます。」との沖縄県出身者からの率直な意見をいただいたことがある。

*19)http://kaigungou.ocvb.or.jp/kaigungou/wp-content/uploads/2020/03/denbun.pdf

*20)モーリシャス(人口:126.5万人(2018年、世銀)、面積:2,040平方キロメートル(ほぼ東京都大))は、インド洋に浮かぶ島国(「インド洋の貴婦人」といわれる)で、独立後、まず、繊維産業の育成に成功。2006年より経済構造調整改革を進めており、従来の伝統的産業である砂糖生産、繊維産業及び観光産業に頼る経済からの脱皮を図るため、IT産業への投資や国際金融センターの設置等を積極的に進めている。また外国直接投資の誘致に力を入れており、投資環境整備に取り組み、近年世銀Doing Businessランキングはアフリカで第一位を維持している。アフリカ諸国を中心とした投資協定の締結も積極的に進め、アフリカへの投資拠点となることを目指している。不幸にも今般の日本船籍の船舶による海洋汚染で日本でも広く知られるようになったモーリシャスは、沖縄県と面積・人口がほぼ同規模である。繊維産業からオーソドックスに工業化を展開してきたモーリシャスの取り組みについてもっと注目したい。

*21)経済発展の鉄則として、賃金が安いときには労働集約的な産業を発展させ、賃金があがれば資本集約的な産業を発展させるという「雁行形態」的発展があるが、沖縄において、このような鉄則に基づいた合理的な産業政策が採られてきたか、が問われる。

*22)「1%経済・沖縄」を下支えしているのは今も公共投資https://mainichi.jp/premier/business/articles/20171221/biz/00m/010/020000c

*23)大木 健一・民間都市開発推進機構都市研究センター研究理事は、以下のように指摘する。
「『国土の均衡ある発展』に代わる新しい国土政策の理念を一言で表現することは難しいが、(中略)次のようになるのではないか。
1.国土全体としての競争力を維持向上させること。
2.国土のどこに居住しても一定の生活サービスを享受できるようにすること。
3.国土を適切に管理すること。
4.地域活性化は地域の責任と選択を基本とすること。」
研究報告「21 世紀の国土政策は何を目指すか――「国土の均衡ある発展」に代わる国土政策の理念を模索する――」(アーバンスタディ 49(特集:地方都市再生)2009年8月 民間都市開発推進機構都市研究センター)http://www.minto.or.jp/print/urbanstudy/pdf/u49_12.pdf

*24)両親が福島県の小高地区出身ということで、自らを東北にルーツを持つものとしていた、作家の故島尾敏雄は、「琉球弧」(島尾にあっては、奄美諸島、沖縄本島を中心にした沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島などをひっくるめたもの)という視点の重要性をつとに強調していた。「私の考えている日本国は琉球弧も東北も共に処を得たそれだ。殊に琉球弧、就中沖縄は一個独自の文化をかたくなに表現しつつ、どことなく風通しがよくて外に開けた世界を予想している・・」(「新編・琉球弧の視点から」(朝日文庫 1992年))という。このような、「琉球弧」の持つ伸びやかで多様な側面や、戦後台湾と切り離された「琉球弧」と、北海道という「フロンティア」がその先にある東北(振興)との対照などについては実に興味深い論点ではあるが、その検討は他日を期したい。
なお、奄美群島が、沖縄に先行して、日本に復帰したことによる、琉球弧「分断」の悲劇については、「国境27度線」(原井一郎他著 海風社 2019年11月)を参照のこと。

*25)参照:福岡地域連携推進協議会(FDC)http://www.fukuoka-dc.jpn.com/
拙稿:月刊コロンブス2020年10月号「読書の時間」:「超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み」(石丸修平著 日本経済新聞出版 2020年2月)

*26)赤井伸郎阪大教授が主催する財政学に関する「公共経済、財政研究者の交流のメイリングリスト」(pubeco)での議論において、平嶋彰英氏から2020年3月25日に「公共事業の特例補助率に係る割落し」について丁寧にご教示いただいた。

*27)https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kikaku/chosei/keikaku/reiwa1/sougou4.html

*28)https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/yokuaru-yosan.html

*29)https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/documents/q8zaiseiitennnohikaku.pdf

*30)https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/jyoukyou_shiryou/h30/index.html

*31)https://www.pref.okinawa.jp/site/somu/zaisei/index.html

*32)大交流時代、繁栄した那覇・首里と密接な交流のあった博多商人のまち(参照:長谷川博史著「大内氏の興亡と西日本社会」(吉川弘文館 2020年7月)であり、現在、日本のフロントランナーといっていい躍動をみせている福岡市は、大橋洋一九州大学教授(当時)の理論的な指導のもと、特に第3セクターの情報公開制度について、「福岡方式」(拡大型情報公開制度)というユニークな制度を採用している。

参考:福岡市ホームページ「情報公開制度について」https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/johokokai/shisei/023.html
沖縄県の行政運営の重要な一翼を担う出資法人について、県民への説明責任を適切に果たすために、この福岡市の情報公開制度の趣旨を踏まえた、例えば、「福岡市の主な出資法人の概要」(令和元年版)のような資料の作成が真剣に検討されることを期待したい。https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/6486/1/R1gaiyou2.pdf

*33)21世紀は、沖縄の飲酒文化が企業の生産性に影響を与えていないか、も健康・長寿問題と併せて、真剣に考慮すべき時期ではないだろうか?

*34)http://www.ogb.go.jp/keisan/tyusyou/16795

*35)https://www.pro-jinzai.go.jp/

*36)前出嘉数啓著「沖縄:新たな挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄 世界の目を沖縄へ、沖縄の心を世界へ」29頁。また、「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」(樋口耕太郎著 光文社新書)も参照のこと。

*37)参照:(株)日本総研・藤波匠著「子供が消えゆく国」(日経プレミアシリーズ)

*38)安倍総理大臣発言(抄)(平成25年12月24日閣議)「沖縄が日本のフロントランナーとして21世紀の成長モデルとなり、日本経済活性化の牽引役となるよう、国家戦略として沖縄振興策を総合的・積極的に進める必要がある。沖縄への投資は未来への投資であり、沖縄振興の取組を強化するため、現行の沖縄振興計画期間(平成24~33年度)においては、沖縄振興予算について、毎年3,000億円台を確保。」

*39)有名な「東アジアの奇跡」(世界銀行 1993年)でも、「質の良い人材の確保とそれを育成する教育制度の存在」が挙げられている。すなわち、沖縄振興を実施する主体の能力が高いかどうかが重要なのだ。参照:黒崎卓・栗田匡相著「ストーリーで学ぶ開発経済学」(有斐閣 2016年3月)

*40)「経済財政運営と改革の基本方針2020 について」24頁https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf

*41)沖縄県 国家戦略特別区域会議https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/okinawaken.html

*42)中央公論2018年10月号の「時評2018 沖縄が象徴する中央・地方関係の難しさ」で、 待鳥聡史京都大学教授は、日本の中央・地方関係が「融合型」であることを念頭に、沖縄問題を踏まえて、今後における「分離型」の検討の可能性についても言及している。極めて鋭い洞察と感服する。ただ、現実には、地方交付税の算定の実際をみても、「融合型」が深く浸透した地方財政制度が確固として構築されていることをあらためて痛感する。参照:「新版 基本から学ぶ地方財政」(小西砂千夫著 学陽書房 2018年)

*43)「子どもの貧困」については、全般的に、「子どもの貧困対策と教育支援」(末冨芳編著 明石書店 2017年)を参照した。貧困の測定については、手法面での改善や深化は着実に進んでいるという(黒崎卓著「貧困の測定方法~よりよい尺度を求めて」(経済セミナー2020年2/3月号))。この問題が深刻な沖縄での積極的な活用が望まれる。

*44)「なぜ、男子は突然、草食化したのか」(日本経済新聞出版 2019年5月)

*45)「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」(光文社新書 2020年5月)

*46)杉山春著「児童虐待から考える」(朝日新書 2017年)。滝川医師の「子どものための精神医学」(医学書院、2017年)は、関係者の必携の1冊。現在、沖縄に転居して、オリブ山病院に奉職し、児童思春期外来を担当。また、心療内科あなはクリニックを那覇市牧志に開設し、夫婦で診療にあたる。

*47)「社会開発(読み)しゃかいかいはつ(英語表記)social development」~ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説「経済開発に対置して国際連合において使われはじめた用語で、「経済開発の進行に伴って、国民生活に及ぼす有害な衝撃を取除き、または緩和するための全国的規模における保健衛生、住宅、労働または雇用問題、教育、社会保障に関する社会的サービスの発展」と定義され、さらに経済開発と社会開発とは楯の両面であるとして両者の不可分の関係が強調された。日本においては人口問題審議会がその「意見書」(1963)で「都市、農村、住宅、交通、保健、医療、公衆衛生、環境衛生、社会福祉、教育などの社会的面での開発」をいい、「経済開発の直接の目的が生産および所得の増大であるのに対し、社会開発は直接人間の能力と福祉の向上をはかろうとするものである」と規定し、「経済開発を実施する条件を整備し、また経済開発の結果発生する摩擦を除去することなどによって経済開発を有効、円滑に進める手段ともなる」としている。単に経済発展に随伴して生じた種々の社会問題に対し事後的な処理ではなく、事前的に予防するとともに国民の能力や健康を増進するという積極面をもつ。」

*48)「社会の開発」~佐藤内閣(1964年11月)の所信表明演説「経済と技術が巨大な歩みをみせ、ともすれば人間の存在が見失われがちな現代社会にあって、人間としての生活の向上発展をはかることが、社会開発であります。経済の成長発展は、社会開発を伴うことによって、国民の福祉と結びつき、真に安定し、調和のとれた社会を作り出すことが可能であります。私は、長期的な展望のもとに、特に住宅、生活環境施設等社会資本の整備、地域開発の促進、社会保障の拡充、教育の振興等の諸施策を講じ、もって、高度の福祉国家の実現を期する考えであります。」

*49)前出杉山春著「児童虐待から考える」(朝日新書)

*50)拙稿:月刊コロンブス2020年2月号「読書の時間」(書評)参照

*51)濱口桂一郎著『新しい労働社会』(岩波新書、2009年)「コラム 教育は消費か投資か?」

*52)沖縄ツーリスト(株)での活用事例あり

*53)沖縄サミットに向けて、ハワイの東西文化センターなどと作成した冊子。

*54)このあと、沖縄高専の設置は2004年に実現。嘉数氏は、「アメリカン大学システム IN OKINAWA」として、米軍基地内で開校しているアメリカン大学の分校を活用した構想を提唱(ブリッジプログラムは、1987年に誕生しており、これの発展形態を志向した)。http://www.oihf.or.jp/stu_on_base/stu_on_base.html

プロフィール

渡部 晶(わたべ あきら)

沖縄振興開発金融公庫副理事長

1963年福島県生まれ。87年京都大学法学部卒、大蔵省(現財務省)に入省。福岡市総務企画局長、財務省地方課長兼財務総合政策研究所副所長、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)などを経て、17年6月から現職。「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラムを掲載中。出身の福島県いわき市の応援大使を務める。

(参考)沖縄関連の拙稿

〇財務省広報誌ファイナンスへの寄稿

・人口減少社会における地域活性化に係る諸機関の連携とそのガバナンスについて(試論)~沖縄公庫の実践例を踏まえて(2019年10月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201910/index.html

・「魅せる沖縄」の今後~沖縄経済の現況を踏まえて(2019年5月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201905/index.html

・沖縄振興開発金融公庫による沖縄振興の取り組みについて(2018年9月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201809/index.html

・沖縄科学技術大学院大学(OIST:Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University)について(2017年9月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201709/index.html

・ライブラリー ~ 浅野 誠 著:『魅せる沖縄 私の沖縄論』(2019年2月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201902/index.html

・ライブラリー~樋口耕太郎著:『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(2020年9月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202009/202009j.pdf

〇毎日デジタル(有料記事)
「素顔の沖縄けいざい」(2017年10月~2018年9月 月1回連載 計12回)
https://mainichi.jp/premier/business/素顔の沖縄けいざい/

〇月刊コロンブス(東方通信社刊)
・2019年3月号「読書の時間」(書評):「未来経済都市沖縄」
・2020年8月号「読書の時間」(書評):「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」

(各ホームページからの引用は、2020年9月25日に確認・引用したものである。)

(注)本稿脱稿後、「地元を生きる 沖縄の共同性の社会学」(岸政彦・打越正行・上原健太郎・上間陽子著 ナカニシヤ出版 2020年10月)に接した。沖縄について社会学的観点からの優れた研究をされてきた方々の重要かつ必読の労作である。いずれの章も重要であるが、本稿との関係では、「第1章 沖縄の階層と共同性」(上原健太郎氏執筆)がこれまでの沖縄経済に関する研究の成果も整理していて必見だろう。また、上原氏は、この章の最後で、安藤由美氏の論考から「都市、階層・構造、家族、ジェンダーといった沖縄内部の差異化・構造化の観点から切り込む研究の圧倒的な不足」との指摘を引用する。拙稿で提起した、「社会開発」の視点の再評価と、問題意識としてつながるものだと思う。