このページの本文へ移動

特集:新型コロナに対応した資金調達と債務管理

短期の資金繰りからアフターコロナを見据えた国庫・債務管理まで

新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、政府は2度にわたり補正予算を決定したが、その資金を調達するために奔走したのは理財局の4課だった。省内でも感染リスクが避けられない中で、いかに必要な資金を確保したのかをリポートする。

取材・文 向山 勇

4月から6月までの国庫資金繰り
政府短期証券の発行と国庫全体の資金繰りの見直しで補正予算の支払資金を準備

補正予算は1次、2次合わせ約57兆6,000億円に達した

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府はさまざまな対策を講じている。まず、1月30日にはコロナ対策本部を、2月14日には専門家会議を設置。その後、3月28日は基本的対処方針が決定され、4月30日には、過去最大規模となる約25兆7,000億円の一般会計の1次補正予算を決定した。さらに、6月12日には、1次を上回る約32兆円の2次補正予算を決定し、合計約57兆6,000億円の経済対策が講じられることとなった(図表1.コロナ対策の動き)。

補正予算を執行するには、資金調達が必要になる。政府の予算は、各年度の歳入と歳出を年度を通じてみれば均衡するように決定される。その歳入の財源は主に税収などや国債発行によって賄われているが(図表2.国庫金の受払)、コロナ対策として歳出を増やした分については、国債発行計画を見直して国債を追加発行し、資金調達をする必要があった。

しかし、追加で国債を発行し、資金調達するには時間がかかる。3カ月先の7月以降になる見込みだった。それまでの間は、短期的な資金繰りで乗り切るしかない。更に、コロナ対策として納税の特例猶予なども実施したため、当初想定通りの税収が入ってくることも期待できない。

日々の国庫金の受け払いのための資金繰りは、理財局国庫課が担っている。国庫課では、一般会計だけでなく、特別会計(特会)を含めた国庫全体の資金繰りを通常時から効率的に行っている。具体的には、ある会計では資金に一時的な余裕があるが、ある会計では不足している場合には、会計間で資金の融通を行い、それでも足りない場合には、政府短期証券(FB)を発行したり、特会が借り入れを行ったりしている。

例えば、多額の国債の償還を毎四半期末に行うための資金は、平準的に調達したり、前年度から調達(前倒債の発行)しているが、これらの資金は国債の償還に充てるまでの間、国庫全体の資金繰りに活用されてる。昨年度は、今年度の国債の借り換えに備え、約40兆円の前倒し債を発行しており、これらの資金は、コロナの感染が拡大する前は、特会の資金繰りに融通するなど国庫全体資金繰りに活用されていた。

しかし、補正予算の決定後は、早急に資金が必要となったことから、特別会計(特会)に融通していた資金を返済してもらうことで約40兆円を確保した。

それでも合計約57兆6,000億円の補正予算を賄うには不足するため、平成27年の発行以来、5年ぶりとなる財務省証券を6月に発行して補正予算の支出に対応した。

新型コロナウイルス感染症対策の補正予算の内訳は、資金繰り対策約15兆5,000億円(1次、2次合計)、特別定額給付金約12兆9,000億円(同)、新型コロナウイルス感染症対策予備費11兆5,000億円(同)などとなっている(図表3.令和2年度の1次及び2次の一般会計補正予算の内訳)。新型コロナウイルス感染症対策予備費は、必要な都度、閣議によって使い道を決める資金で、その後の閣議決定により、学生支援給付金、医療機関へのマスク等の配布、個人向け緊急小口資金等の特例措置などに利用された。

国庫内で資金を融通し特会に活用されていた様子がわかるのが、図表4.政府短期証券の引受先別残高の推移だ。

政府短期証券(FB)を発行している会計は幾つかあるが、FBは市中公募発行により資金を調達している。FBの所要額は、110兆円から120兆円の間でほぼ一定に推移しており(その大宗は外国為替資金証券)、公募発行額の圧縮を図るため、国庫内で資金の融通を行っている。令和2年2月ごろまでは国庫内の資金の融通を行っていた部分が40兆円程度に上っていたが、その後は急速に減少しているのがわかる。この部分が補正予算のために特会のFBが増額され、返済された部分だ。

それでも不足が見込まれた分は、財務省証券の発行で賄った。なお、現在FBは、TB(割引短期国債)と併せて、T-Bill(国庫短期証券)として発行されている。1週間当たりのT-Billの発行ロットの推移を見ると(図表5.T-Billの市中発行ロットの推移)、コロナ以前は4.3~4.4兆円程度で比較的安定していたが、6月には、約9.1兆円まで急上昇しているのがわかる。

これらの資金繰りによって、補正予算で支出する資金を国債の発行が増額される7月まで手当てしたことになる。その結果、3月末のFBの残高は74.4兆円だったものが、6月末時点では117.3兆円まで増加している。

前例のない規模の補正予算に支出予定の把握も困難を極める

今回の補正予算は前例のない規模と緊急性の高い内容だったため、資金繰りは困難を極めた。国庫課の担当者は必要な資金額を把握するため、毎週、各省庁にヒアリングやアンケート調査を実施したものの、各省庁の担当者も必要な金額を予測するのが困難だった。そのような中で支出の状況を見ながら、資金手当てを実施しなければならなかったので、考えうるさまざまな手段を活用した。たとえば、特会の資金繰りの調整や、6月までの資金異動のタイミングを前倒しや後ろ倒しにするなどして、国庫内での資金繰りの調整を行った。

このような資金繰りは国庫課のほか、国債企画課、国債業務課、財政投融資総括課の4課で調整して対応している。通常時は毎月1回程度の打ち合わせをして連携しているが、コロナ禍ではすみやかな対応が必要だったため、毎週実施して乗り切った。


7月以降の国債増発
市場ニーズを見極めながら市中発行分で約83兆5,000億円を追加調達

1次、2次の補正予算合わせて約100兆円の国債を増発

2回の補正予算の執行に当たり、当面必要な資金を調達するために短期的な資金繰りをする一方で、財源の確保のため国債を発行する必要があることから、国債発行計画の見直しをおこなった。主に国債発行計画の策定は国債企画課が、入札・発行業務は国債業務課が担っている。

国債の区分には、その発行根拠法別に4つの種類がある(図表6.令和2年度国債発行計画(2次補正後)の概要)。「新規国債」(建設国債と特例国債)は、一般会計予算の歳入となるもの。「復興債」は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行される。財投債は、財政融資資金において運用の財源に充てるために発行される。「借換債」は、満期が到来した普通国債を、60年償還ルールに基づき、借換えるために発行されるもので、国債発行総額の大半を占める。

今回の補正予算に計上された特別定額給付金や持続化給付金などは、一般会計予算から支出され、新規国債によって賄われる。また、企業の資金繰り対策のために日本政策金融公庫等へ貸付けられる財政投融資の追加原資は財投債によって賄われる。そのため、補正予算後の2つの国債の発行額は当初発行額と比較し、新規国債は57.6兆円増、財投債は42.2兆円増で合計約100兆円増となり、過去最大の増加となった(図表7.国債発行額の推移)。

こうした国債の消化方式は3つに分かれる。「市中発行分」は、市場参加者向けに発行される金額で、通常の入札による市中発行額(カレンダーベース市中発行額)が大部分を占める。

「個人向け販売分」は、個人を対象として発行される個人向け国債の発行額。「日銀乗換」は、日銀が保有する国債のうち償還が到来する国債の一部について、現金の償還ではなく、借換債を引き受ける金額だ。

このうち、通常の入札による市中発行額は83.5兆円増加することになったが、市場参加者によって、国債に対するニーズは異なるため、様々なニーズを確認しながら発行計画を策定することが重要になる。

たとえば、生命保険会社は、2025年の国際資本基準(ICS:経済価値ベースのソルベンシー規制)導入を控える中、資産と負債のデュレーション・ギャップを埋める観点から、20年以上の超長期債を好む傾向がある。

一方で銀行などの預金取扱金融機関は、マイナス利回りの中、国債の保有残高を減らしてきたが、足下では日銀の新型コロナ対応オペ等の利用の際に必要となる担保としてのニーズ等が増加している。

こうした市場ニーズを把握した上で国債発行計画を策定しなければ、需給バランスが崩れて金利上昇を招き、発行コストが増加して結果的には国民負担の増加につながってしまう。そこで、国債管理政策の目標として、「国債の確実かつ円滑な発行及び中長期的な調達コストの抑制」を掲げており、国債企画課、国債業務課では、国債市場特別参加者会合、国債投資家懇談会や市場参加者への日々のヒアリング等を通じて、市場のニーズを把握している。

国債の市中金利は、補正後国債発行計画の公表後、7月初めにかけて超長期ゾーンを中心にやや上昇したものの、市場参加者との対話を重ねた上で発行していることもあり、今のところ大幅な金利上昇は避けられており、足下では安定的に推移している(図表8.国債の年限ごとの金利の推移(2020年1月以降))。

担当課のスプリット体制で業務の継続性を確保

コロナ禍にあっても、国債の発行は一度たりとも失敗が許されない。もともと発行にかかわる業務には人手がかかる。たとえば、入札に当たって情報の公表プロセスは数多くあるし、公表までの短時間で数字のダブルチェック等もしなければならない。あるいは、市場参加者からのヒアリングを常に欠かさず、市場ニーズに変化があればすぐに対応しなければならない。その中で感染者が発生すれば、発行業務が滞ってしまう可能性がある。

そこで、国債企画課と国債業務課では、スプリット体制(フロアの分散等)を実施している。これは、職員を5つの部屋に分散して密の状態を回避することで業務の継続性を確保するものだ。

債務管理政策における今後の課題は、追加発行した国債の借り換えだ。今回は、全体としては6カ月の短期国債を中心に追加発行しているため、令和3年度には償還期限が到来することになる。その際に、借換えが必要になるため、改めて市場ニーズを考慮しながら、年限を決めていくことが必要になる。

以上のように、コロナ禍の中においても着実に資金調達をおこなうために、国庫課、国債企画課、国債業務課、財政投融資総括課の4課は日々綿密な議論、調整を行ってきたが、中長期視点に立って国の全般的な資金調達を効率的、効果的に行っていくためには、4課での調整は一層重要になっており、しっかりと議論していく予定だ。