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コラム 経済トレンド74

中小企業の労働生産性について

前大臣官房総合政策課 調査員 関 祥吾/村田 亮
大臣官房総合政策課 調査員 石神 哲人/志水 真人

本稿では、企業規模の観点から、日本企業の労働生産性を高めるために資本装備率を上昇させることの必要性を議論する。

労働生産性の概況

・生産年齢人口の減少が進む中で、所得水準を維持するためには、就労者一人当たりの付加価値生産(労働生産性)を上昇させていくことが必要とされる(図表1.国内人口の推移)。

・OECDデータに基づく日本の一人当たりGDPは2018年データで21位であり(図表2.就労者一人当たりの労働生産性)、先進国の中で労働生産性の水準は低いといえる。

・国内の規模別企業数を見ると、中小規模の企業の割合が高い(図表3.企業規模別企業数)。近年では、国内企業の大部分を占める中小企業の労働生産性の低さが、国全体の労働生産性の低迷につながっているという指摘もなされている。

中小企業と大企業の比較

・中小企業と大企業の労働生産性を時系列でみると、大企業はリーマン・ショック直後に大きく落ち込んだが、その後は緩やかな上昇傾向にある。一方、中小企業は長らく横ばい傾向で大きな変動はなく、足もとで大企業との労働生産性の水準の格差は拡大している(図表4.従業員一人当たり付加価値額の推移)。

・業種別の時間当たり労働生産性(企業活動基本調査データ)を見ると、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業では企業規模による差が比較的小さいものの、全ての業種で中小企業の水準が低い(図表5.時間当たり労働生産性)。

・零細企業を含む時間当たり労働生産性(中小企業実態基本調査データ)の水準は、企業活動基本調査データよりも低く、零細企業の労働生産性がさらに低いことを示している(図表6.時間当たり労働生産性(零細含む中小企業))。

企業規模と労働生産性の関係

・労働生産性は「売上高付加価値率」と「一人当たり売上高」に分解することができ、一人当たり売上高は「資本装備率」(一人当たり有形固定資産額)と「有形固定資産回転率」の積で表すことができる(図表7.労働生産性、一人当たり売上高の分解式)。

・前述のように、企業規模が大きいほど労働生産性が高いが(図表8.資本金別労働生産性)、企業規模が大きいほど一人当たり売上高が大きく(図表9.資本金別一人当たり売上高)、さらに、製造業においては企業規模が大きいほど資本装備率が高い(図表10.資本金別資本装備率)。したがって、製造業においては、資本装備率の高さが大規模な企業の労働生産性の高さに貢献していると考えられる。

・他方、サービス業では企業規模が大きいほど資本装備率が高いという関係は観察されず、企業規模を問わず、労働集約的で労働生産性が高くない状態にあると考えられる。

労働生産性の向上にむけて

・規模の大きな製造業における労働生産性の高さが、資本装備率の高さによるものであることを踏まえると、中小企業において、資本装備率を高めることが労働生産性の向上につながると考えられる。

・しかし、足もとでの大企業と中小企業の資本装備率の格差は横ばいで推移している(図表11.企業規模別資本装備率の推移)。中小企業において、資本装備率を高めることができない理由としては、設備投資を行う経営体力が不足している可能性や、機械化や新たな生産設備導入に伴う雇用調整が容易でないこと等が考えられる。

・これらを解決する手段の一つとしては、M&Aが挙げられるだろう。2018年の中小企業白書によると、M&A実施後の具体的効果として、「売上・利益の増加」や「間接部門の合理化」等が挙げられている(図表12.M&A実施の具体的効果)。収入増加と費用圧縮によって、経営体力が高まり設備投資を行いやすくなるほか、規模の拡大により内部での雇用調整も行いやすくなると考えられる。

・実際に、2010年度に企業再編行動を実施した中小企業は、実施しなかった中小企業よりも労働生産性を向上させている(図表13.再編実施・非実施企業の労働生産性)。すべての企業にとって統廃合が最適解であるとは限らないものの、中小企業の再編は労働生産性の停滞の改善に一定程度効果があると考えられる。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

(出典)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」、厚生労働省「人口動態調査」、日本生産性本部、OECD、経済産業省「企業活動基本調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、中小企業庁「中小企業実態基本調査」、総務省・経済産業省「平成24年、28年経済センサス-活動調査」、財務省「法人企業統計」、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)、中小企業庁「中小企業白書」