国家公務員共済組合連合会 理事長 松元 崇
選挙と議会は民主主義の基本であり、トップのリーダーシップの原点でもある。今回は、議会制民主主義の母国である英国と大統領制の大国である米国の選挙および議会について見ていくこととしたい。
1.英国の選挙
英国の選挙は、党首をトップとした国盗り物語ととらえればイメージしやすい。勝利を収めた方が、次の選挙までそのトップの下に国を治めることになる。負けた方は、次の選挙に向けた戦略を練り、議会の場などでそれを国民に訴えるが、選挙に勝たない限りは国を治めることはできない*1。その仕組みが、2016年6月に行われたEU離脱を問う国民投票以降、混迷していたが*2、2019年の選挙*3で保守党のジョンソン党首がEU離脱についての自らの意向に従うことを誓約した候補者のみを公認して大勝した結果、本来の姿に戻っている。元駐英国大使の鶴岡公二氏*4によれば、「英国民は機能しない政府を嫌います。与野党が拮抗して物事が決まらない状況は歴史的にも多々ありますが、これは必ず国民に否定されます。(中略)首相が、迅速かつ的確に国民のために任務を全うすることが英国民の政治に対する注文であり、期待であります。それを実現するための制度がイギリスの統治形態であり、小選挙区制であり、首相に絶対権限を与える仕組みです」というのである。
英国の選挙権は、英国の国民だけでなく英国に滞在許可を得ている英連邦加盟国の国民にも認められている*5。ただし選挙権を行使するためには有権者登録が必要である。投票は権利であって義務ではないということである*6。本格的な選挙戦は与野党のマニフェスト公表をもって始まる。マニフェストは、党首が中心となって少数の政策指導者たちによって企画立案される*7。選挙は党営で、選挙戦では与野党の党首が先頭に立った政策論争が行われ、その下、選挙区毎に候補者が各政党支部の運動員と手分けしてひたすら戸別訪問*8に励む形でぶつかり合う。候補者個人の後援会は禁止されており*9、候補者にはほとんどお金がかからない仕組みになっている*10。
英国の党営選挙では、有能な候補者の発掘が重要である。少し古くなるが、貴族階級出身、中流階級で弁護士、労働者階級で肉屋の息子という身分の違う3人が首相を目指して争うことを描いた「ダウニング街10番地」*11という小説が日本でもベスト・セラーになった。英国の首相は、サッチャーが雑貨屋の娘であり、メジャーがサーカス芸人の息子であり、ブレアが大学時代にはロックのボーカリストであり、メイが牧師の一人娘、そしてジョンソン首相は、オスマントルコの内務大臣を祖先に持つジャーナリストというように多彩である。英国の政党の浮沈は、様々な分野からいかに新鮮で優秀な人材をリクルートできるかにかかっているとされている。オックスフォードといった名門大学には、政治家を目指す学生が作っているサークルがあり、現役の政治家がしばしば訪れている。英国では、誰でも政治家を志せるのが当たり前なのである。そして、選挙となると、国政を志す人は、保守党、労働党いずれの場合でも、まずは、党の中央組織が備えている候補者名簿(保守党の場合3200-3300名程度)に登載してもらう。そのうえで、自分が立候補したいと考える選挙区の総務委員会に経歴や政治信条を明記した手紙(一種の願書)を送る。各選挙区の総務委員会は、書面選考で5-6人に絞り込んだ候補者を一堂に集めて所信表明演説をさせ、質疑を行った上で、総務委員全員の投票でその地区の候補者を決める。それは、一種の「予備選挙」であるが、そのようにして選ばれる候補者の大部分は地元出身ではなく、日本で言えば落下傘候補である。そして、そのような候補者の最終決定に大きな影響力を持っているのが党首である。党首は、短期的には、選挙後の組閣をにらんで有能な候補者が当選するように、長期的には、10年程のうちに首相候補になる可能性をもつ候補者を発掘することを念頭に、各選挙区の候補者を公認する。「将来的に可能性を秘めた候補者には勝敗が5分5分の激戦区を割り当て、(中略)勝った場合にはその選挙区でその後も戦いますが、落選した場合には盤石地盤を割り振って当選させ、指導者として養成する」、「そうした議員が入閣し、議会の生業を学び、ゆくゆく大臣となっていく」*12。そのような仕組みの下、英国では常に議員の若返りが図られており40歳前後で下院議員に当選し、60歳台に入ると引退というのが平均的な姿である。60歳を過ぎて閣僚などの功績のあった政治家は、一代限りの貴族に列せられて上院に移る*13。米国のケネディー家やブッシュ家といった世襲名門政治家はいない。親戚関係にまで広げても、世襲議員は9%程度とされている。
2.英国の議会
選挙に勝って国を治めることになった英国の首相の権限は絶大である。日本の消費税に相当する付加価値税の増税なども、政府の判断だけで決められる。日本でなら、10年以上もかかりそうな付加価値税の引き上げが、ある日突然、報道されると翌日から実施される*14。選挙で負けた野党は、政府の政策の非を国民に訴えるが、それが政策変更につながることはまずない*15。英国は、そのような仕組みの下に、2度の世界大戦を戦い、戦後はゆりかごから墓場までという社会保障制度を築き、企業の国有化などを行い、それが行き詰まって企業への電力供給が週3日だけというポンド危機を迎えると、やがてサッチャーが登場して新自由主義の改革を行ってきたのである*16。
英国議会の審議では「言葉の決闘」と言われる激しい論戦が展開される。それは、「継続的な選挙キャンペーン」ともいわれる。審議日程が政府主導で決められることから、審議拒否などをしても、せっかくの「選挙キャンペーン」の機会を放棄するだけのことになるので、野党の審議拒否は見られない。そう聞くと、英国の野党の立場が弱いように思われるかもしれないが、そんなことはない。次の選挙で勝てば、野党が国を治めることになる。野党のシャドー・キャビネットが、そのまま内閣となるのである。英国憲政上、野党第一党は、いつでも与党に替わりうるという意味から「陛下の野党」と呼ばれ、野党党首は開会式に首相と肩を並べて出席する。また、政府に比べて情報収集力が弱い野党を補助し議会活動を活性化する趣旨から、野党にだけ政党助成が行われている(政党助成法、1975年)*17。政府が、審議日程を決めるといっても、議事日程の約3分の1は野党のために組まれるという慣行も確立している。そのような英国議会で行われているのが、本会議中心主義である。毎日行われる本会議の冒頭約1時間が質問時間(クウェスチョン・タイム)となっており、首相以下の閣僚が野党の影の内閣(シャドウ・キャビネット)の「閣僚」と日替わりであらゆる政策に関して対決する。与野党のフロント・ベンチャー(議席に座れる有力議員)からも自由に補充質問が行われ、バック・ベンチャー(後ろの立ち席にいる議員)が野次を飛ばす中で厳しいやりとりが行なわれる*18。その光景が、わが国の予算委員会室ほどの広さしかない本会議場で展開される(ネットでも公開される*19)のである*20。
激しい論戦が与野党による法案の見直しにつながることはないが、英国では法案提出後にも政府に法案修正が認められているので、25%程度の法案については政府修正が行われる。それは、わが国のような与党の事前審査手続きがなく、一般の与党議員の意見が法案に反映されていないことからの仕組みといえる*21。一般の議員は内閣法案が提出されてはじめてその内容を知ることも珍しくないのである*22。
英国議会における法案審議は、本会議における3回の読会(よみかい)と常任委員会*23の審議で行われる。第1読会では形式的に法案提出の紹介が行われ、第2読会で法案の理念や対象範囲に関する質疑が1日程度かけて行われる。その後、常任委員会(Standing Committee、AからHまでの記号で呼ばれる)で逐条審議(質疑)され、その審議報告を受けた第3読会において全般的な質疑の後に採決となる。委員会の審議はしばしば深夜12時過ぎにまで及ぶが、法案に関係のない質問は許されない。日本と異なるのは、本会議や常任委員会の審議に、閣僚の出席が求められないことである。英国の議会が、議員間の議論(Debate)の場と位置付けられているからである*24。審議には、通常、与党側からは担当閣外大臣(副大臣)が、野党側からは影の内閣の副大臣が、それぞれ議員として出席する。
3.米国の選挙
米国の大統領選挙のプロセスは、軍事クーデターにもなぞらえられる。「ひとつずつ州を固め、敵対候補者の支持者を掃討していく。勝てばその州の選挙人は総取りである。(中略)マスコミを使って支持者獲得キャンペーンをする。軍事クーデターがまず放送局を狙うように大統領候補者はテレビ広告をふんだんに使ってプロパガンダを繰り広げる。次に軍事クーデターが銀行をおさえるように大統領候補は資金繰りを続ける。(中略)権力は勝ち取るものなのだ。(中略)このようにして成立した王朝の王は王らしく振る舞うこととなる」*25。トランプ大統領が、前任のオバマ前大統領が主導したパリ協定から離脱し、TPPから離脱し、メキシコ国境での壁の建設に邁進したのも「王らしく振舞」っているというわけである。
そのような米国大統領のカリスマ性*26は、約1年にも及ぶ予備選挙*27、それに続く本選挙という長丁場の国民的行事で得られるものである。その過程で候補者はあらゆる政策的課題についての見識だけでなく自らの関わったスキャンダルなどについても問われ、様々なドラマが展開される。英国の選挙では主に政策が問われるのに対して、米国の大統領選挙では候補者の全人格が問われる。アメリカ国民は、そうした選挙戦を勝ち抜いた「勝者」に敬意を感ずるようになるというわけである。ただし、最近では、格差拡大を背景として米国社会が分断(ポーラライゼーション)される傾向が顕著になってきており、全国民が大統領に敬意を感じるというのは、過去のことになりつつあるようにも見受けられる*28。
米国大統領選挙で重要なのが候補者同士のディベートである。「夏の党大会終了後の本選挙中、秋口に数回に分けて行われ、全国にテレビ中継される。天下分け目の最重要イベントであり、侯補者の選挙直前の支持率に大きな影響を及ぼす。(中略)国民は大統領に政策の専門家であることを求めてはいない。どんな国家的危機にでも対処できる精神的タフさを備えているか、国民をまとめあげる象徴的リーダーとして尊敬に値するかなどの人物評価の比重が重い。(中略)いかに効果的に聴衆に訴え、相手の心を掴むことができるかがポイントで、早口や大袈裟なジェスチャーで相手を言い負かす敵意剥き出しの「弁論の鬼」スタイルや、難しい知識を詰め込む情報量優先スタイルは敬遠されるようになった」という*29。ただ、最近では、相手を攻撃し、自分に不利な報道はフェイク・ニュースだと言ってまともに反論しない、トランプ大統領のスタイルが登場している。
米国の選挙権も、英国と同様に選挙人登録をしないと与えられない*30。英国の植民地から独立し、今日も多くの移民を受け入れている米国には、今日でも戸籍は存在しないからである。米国の選挙戦の主な活動は、電話でのローラー作戦とビラ配り、そして手紙攻撃の三本立てである。宣伝カーから候補者名を連呼する風景は見られない。それは、アメリカ人が騒音や耳障りな音に不快感を示すためだとされているが、その代わりに使われるのが、様々なグッズである。候補者の名前を書いたバッジや車のバンパーステッカー、更にはヤードサインと呼ばれる看板が使われる。そのような大統領選挙にお金がかかることは当たり前とされている。米国の所得税の申告書を見ると、冒頭の住所氏名の欄のすぐ下に「あなたは大統領選挙ファンドに3ドル当てられることを望みますか」とのチェックボックスがある*31。2億人がチェックすれば6億ドル(約600億円)が大統領選挙に当てられる仕組みである。とはいえ、実際の選挙にはもっとお金がかかる。党が主催する予備選挙に公的なお金が入ってくることもない。候補者の資金担当の選挙参謀(ファンド・マネージャー)は、あらゆる知恵を絞って支持者から資金集めを試みる。その金がいかがわしいものでない限り、多くの資金が集まることは、その候補者への支持が多いことに他ならないと認識される。選挙資金が続かない候補者は予備選挙で脱落することになる。2016年の大統領選挙では、クリントン陣営が11億9000万ドル、トランプ陣営が6億4000万ドルを支出したとされている。
政治にお金がかかることは、システムがそうなっている以上、やむ得ないというのが多くの米国人の感覚である*32。金がかかることをいたずらに批判するのは、一般国民の間に政治家は特殊な人々だとの認識を広げて政治を国民から遠ざけてしまうとも意識されている*33。要は、志の高い有能な若者が政治を志すことの妨げとならない限りは問題ないのであり、米国では、現在のシステムの下に、普通の人が政治家を目指すことが当たり前に行われているのである。
4.米国の議会
米国の議会は英国と同様に議員同士の議論の場である。議会に大統領が登場するのは、一般教書演説の時くらいで、閣僚も一般の公聴人と同じ資格で呼ばれるだけである。政府の法案提出は認められておらず、各議員間のやり取り(数多くの修正案の提出)の中で、多くの立法作業が行われている。
議会で力があるのは、各常任委員会の委員長である。委員長の権限が強いことから、米国は「委員会政府」などと言われることもある。政策立案を補助する公設秘書も、その多くが委員長職に付けられている*34。委員長職は全て多数派が占めるため、選挙で多数派を占めることは極めて重要である。委員会の議事運営はすべて多数派の委員長の判断になっており、少数派の抵抗の手段としては上院においてフィリバスター*35が認められているだけである。
各議員は初当選すると、権限のあまりない委員会に配属され、そこで先輩議員の行動様式を学び、当選回数を重ねた段階で、より威信の高い委員会に移るか、あるいは最初の委員会で委員長などの幹部ポストにつくのが一般的である。議員のキャリア・パスの最終目標は、議会全体の運営に実権を持つ院内総務や議長である。米国の議員は、議員のままでは閣僚になれないことから大臣病といった現象は見られない。
委員長の権限が強力だと言っても、議員の独立性は強い。議員は「並外れたボランティア精神と政治信念」を持った者の集まり*36というのが米国民の感覚である。「バプティスト系キリスト教徒で信仰心の篤い者は、アメリカの教育に宗教的道徳心を植え付けるために南部から、労働組合のリーダーは労働者への扶助と賃上げを目的に、シカゴから乗り込んでくる(シカゴ.マシーンという)。金銭的な意味では、議員になることはさして魅力的とはいえない。選挙には金がかかるし、弁護士や金融関係など高収入の専門職に就いている者であれば、給与も大幅に下がる。特定の専門知識と人徳・リーダーシップを買われ、全米各地域の代表者として選出される議員は、並外れたボランティア精神と政治信念がなければ勤まらない*37」。そのような米国議員の実態は、「アメリカ政治の現場から」に紹介されているイリノイ州選出の議員の秘書の話からうかがうことが出来る。「私がアメリカ議会で叩き込まれたアメリカ政治の第一条は、『所属政党に惑わされるな』であった。(中略)『お前は委員会のスタッフでも政党職員でもなく、イリノイ州第9選挙区に仕えているんだ。選挙民が白といったら黒でも白なんだ。選挙民のバックグラウンドと利害だけを見つめろ*38』そう指導された。たしかにボスは、民主党の議員であるよりも、イリノイ州選出のユダヤ系であることを意識する場面の方が格段に多かった」というのである。
そのような議員の集まりである米国議会では、与野党を問わず有力議員を対象に、様々なロビー活動が行われている。最近のロビー活動で目立つのは、GAFAなどのIT企業で、2017年には、アマゾン、アルファベット、フェースブック、アップルがロビー活動に5000万ドル(60億円)を使ったとされている*39。議員がボランティア精神で働くということからすれば、大きなお金は使わない有力なロビー団体も存在する。有名なのは、選挙に強い影響力を持つ全米ライフル協会である。
5.英国と米国の危機対応における
リーダーシップ
米国憲法上、大統領の権限の上限は明確にされていない。戦争や恐慌になれば、強まるのが一般である。国際的な危機となると、米国の大統領には米国民の自意識からくるカリスマが生まれてくるとされている。猪口孝教授(「アメリカ大統領の正義」)によると、「アメリカの歴史の教科書をひもとくと、そこには現代世界がアメリカを軸に展開してきたことが明快に記述されており、これらはナショナルポリシーであると同時に多くのアメリカ人のなかで確信となっている。これはアメリカという国家のメンタリティを理解する上で重要なポイントである。(中略)アメリカは人民主権のチャンピオンとして世界に君臨した。やがて人民主権を唱えるだけで、世界のどこにでも介入(人道的介入)する権利が与えられると主張しはじめた。ここで言うアメリカとはアメリカ連邦政府だけでなく、個人、非政府組織、超国家組織など、すべてを含むと考えて欲しい。それは人民主権の志向の強い社会ではごく自然なことだった」というわけである。
ただ、そのようなカリスマを持つ米国の大統領であるが、危機対応に失敗したとなれば、たちまち国民の支持を失ってしまうこともあり得る*40。セルジオ・ファブリーニ教授(「政治制度論」芦書房、白鳥令編、1999)によれば、アメリカの大統領は、議院内閣制の英国の首相と比べて危機状況への対処に明らかな利点をもっている。しかしながら、それは、危機が短く爆発的である場合であって、危機が長引くと、権力分立のシステムは、完全な麻痺状態を作り出し得る。それに対して、議院内閣制の英国においては、首相は先ず内閣を納得させなければならず、また自分の政党も納得させなければならない。しかし、その二重の説得に成功すれば、首相は執行機関および立法機関からの制度的な支持を受けて、自らの政策を断固として執行することができるのだという。ファブリーニ教授の説によるならば、コロナウィルスへの対応が長期戦になっていけば、トランプ大統領よりもジョンソン首相の方が優位な立場になっていくということになる。コロナウィルス後の世界のリーダーシップを考えていくにあたって留意しておくべきポイントであろう。
*1)それは、戦前、「憲政の常道」として目指された姿であった(「歴代首相物語」新書館、2003)。明治時代の日本が、英国にならって議院内閣制を導入したからである。その変質は、戦後の米国流の仕組みの導入によるものであった(「国会学入門」大山礼子、三省堂、2003)。
*2)メイ内閣では、EU離脱協定が3度にわたって議会で否決された。
*3)英国の総選挙は、かつて日本と同様に議会解散によって行われていたが、2011年、キャメロン首相が5年ごとの固定制とした。ただし、下院の3分の2が合意すれば前倒しできることとなっており、2019年の選挙はその規定に従って行われた。
*4)「英国の政治制度から日本の民主主義を考える」鶴岡公二、RIETI特別BBLセミナー、2020.3.19
*5)香港の住民に英国市民権を与えることを検討するとされた(2020.6.3、Times)のも、この仕組みの延長線上に理解することが出来よう。
*6)20代の国民の3分の1は有権者登録をしていない(2018年)。他方で、有権者登録をした者の投票率は7割弱と相当に高い。
*7)個々の候補者の選挙公約は無い。2001年6月7日の総選挙においては、総選挙発表(5月8日)の2日後に保守党が、8日後に労働党がマニフェストを公表した。
*8)我が国で戸別訪問が禁止されたのは、大正14年の普通選挙導入に際して、貧しいものに選挙権を与えると買収が横行するとして「べからず選挙」(選挙運動期間の制限などが導入された)になったからとされている。
*9)英国でも議員は毎週末ごとに選挙区に帰って政党支部等で選挙民からの陳情を受けるが、それは政党支部の活動としてである。議院歳費は、我が国の半分以下の900万円程度である(読売新聞、2002年1月16日)。
*10)候補者が納める供託金(500ポンド、約7万円)は、5%以上の得票で返金される。
*11)ジェフェリー・アーチャー、新潮文庫、1985
*12)前掲、鶴岡公二
*13)首相の助言の下、女王が叙爵して任命する。戦前の日本も同様の制度で、日銀総裁から大蔵大臣に就任した高橋是清も、当初、男爵に叙爵して貴族院議員に任命された。
*14)キャメロン首相は、財政再建のために付加価値税の20%への引き上げをはじめとする様々な増税を行った。その政策は経済の好調をもたらしたが格差が拡大したことからメイ首相の登場になったとされている(前掲、鶴岡氏の講演)。
*15)「どのようにお金を使うかは、政府が決める」(「英国大蔵省から見た日本」木原誠二、文春新書)。
*16)拙稿「英国の財政制度(後編)」ファイナンス2001.4、p93
*17)年間3億7000万円程度(わが国の政党交付金は、315億円程度)
*18)戦前は、日本も本会議中心主義で、本会議で激しいやり取りが行われていた。
*19)https://www.bbc.co.uk/tv/bbcparliament
*20)英国の議会で定足数の縛りは行われていない。下院の本会議には、一応40名(下院議員の数は650名)の定足数があるが、1971年以降問われなくなっている。
*21)政府と一般の議員との意思疎通の場としては、保守党の1922年委員会がある(労働党も同様の場を持っている)が、事前審査の機能は与えられていない。
*22)2003年のイラク派兵に関しては、与党労働党内から相当の造反が出た。
*23)常任委員会は、本会議の時間不足を補うために便宜上設けられたもので、本会議のミニチュア版と言われている。「常任」といいながら、そのメンバーは法案ごとに入れ替わる(「比較議会政治論」大山礼子、岩波書店、2003)。行政府の活動を審査する省庁別特別委員会において、1977年以降、政府が公表した法律草案の立法前審査制度が導入されたが、あまり活用されていない(「英国下院の省別特別委員会」奥村牧人、国立国会図書館レファレンス(718)、2010.11)。
*24)このような英国方式に対して、半円形の大きな議場(アリーナ)の閣僚席に大臣が閣僚として出席して、「政府」対「議員」の議論を行うのが大陸方式である。米国の議場は大陸型だが閣僚席はない。
*25)「アメリカ大統領の正義」猪口孝、NTT出版、2000
*26)かつての米国大統領にそのようなカリスマ性はなく、偉大な人間は大統領に選ばれないとも言われていた(「政治制度論―議院内閣制と大統領制」白鳥令編、芦書房、1999)。
*27)米国の予備選挙は、大統領選挙だけでなく上下両院の議会議員選挙、さらには州議会や市町村議会選挙でも行われている(「政治改革」山口二郎、岩波書店、1993)。
*28)大統領に就任すると、全国国民の統合を訴えるのが、これまでの例であったが、トランプ大統領は、大統領就任後も民主党攻撃を続けている。
*29)「アメリカ政治の現場から」渡辺将人、文春新書、2001
*30)それは、多くの黒人に投票権を与えない仕組みとして機能しているともされる。
*31)申告書の説明は、“This fund helps pay for Presidential election campaigns. The fund reduces candidates’ dependence on large contributions from individuals and groups and places candidates on an equal financial footing in the general election.”となっている。
*32)お金がかかるシステムの下、議員の資金集めパーティーも盛んである。パーティー券の相場は、上院議員で500-1000ドル、下院議員で300-500ドル、有力議員で3000-5000ドル(「ロビイスト」小尾敏夫、講談社現代新書、1991)。
*33)わが国では、「ソフトマネー」(中略)が米国の政治資金制度の抜け穴で2000年の大統領選で5億ドル(約660億円)に達した(中略)企業や労組などから政党に無制限に流れている(20002.2.14、朝日新聞)」といったように批判的に報道されている。なお、主要国の中では、フランスが80年代の終わりに企業献金を全面禁止し個人献金だけにしたが、その結果は知名度のない政治家に資金が集まらなくなって、むしろ汚職まがいのことが増えたとの指摘もある(山本一太、2002.5.12サンデー・プロジェクト)。
*34)委員長職に付けられていない議会各委員会のスタッフは、民主・共和両党の政党別に雇い入れられて、各党の議員の法案提出(一名でもできる)をサポートしている。
*35)延々と討論を続けること。米国流の牛歩戦術。
*36)議員が恒久的職業と考えられていないことから、アメリカ連邦議員名鑑の議員プロフィールには、「職業」Occupationという欄がある(「アメリカ政治の現場から」)。
*37)そのような米国議会で尊敬された日系人議員が、ダニエル・K・イノウエ上院議員であった。ハワイ出身の同議員は、第2次世界大戦中、日系人部隊として欧州戦線で数々の戦功をあげた。上院議員を約50年務め、大統領に万が一のことがあった場合の大統領職承継順位第3位(第2位は副大統領)にまでなり、死去に際しては連邦議会中央の大広間で追悼式が行われた。ハワイ・ワイキキ国際空港の正式名称は、ダニエル・K・イノウエ国際空港である。
*38)各議員は外交、内政の項目別にイシュー・ポジション(所属政党とは無関係に作成される所信)を明確に打ち出し、パンフレットやウェブサイトで公表している。
*39)2019年には、アマゾンが1679万ドル(約18億円)で民間企業最多だった(日本経済新聞、2020.5.26)。
*40)世界大恐慌の際、第一次大戦の元将兵や家族が退役軍人ボーナスを求めて全米からワシントンに詰めかけたのを軍隊を出動して解散させたフーバー大統領は、翌年の大統領選挙でルーズベルト候補に大敗した(毎日新聞「余禄」2020.6.6)。