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特集:新型コロナウイルス感染症にも素早く対応 民間金融機関と協調して企業を支援する政策金融

民間金融機関だけでは十分な対応が難しい分野で投融資を行う政策金融。アジア通貨危機やリーマンショックなど、過去の危機においても企業の資金繰りを支えてきた。今回の新型コロナウイルス感染症でも数多くの支援策を打ち出している。

取材・文 向山勇

(取材協力)政策金融課課長補佐 菊池淳/村上雄一/清木美帆/田嶋一基

図表1●政策金融機関と民間金融機関の貸出の伸び率

政策金融の役割 民間金融だけでは難しい分野で投融資を実施して政策を実現

政策金融と補助金は3つの点で異なる

政策金融は、政策的必要性が高いものの、リスクの適切な評価が難しい、あるいは高いリスクを許容する必要があるなど、民間金融機関のみでは十分な対応が困難な分野において民間金融を補完する投融資を行ない、政策目的を達成することを目的としている。

では、政策金融と補助金はどこが異なるのか。一つ目は、政府の信用力を活用して収益事業(企業)に投融資し、そのリスクに見合ったリターン(成長)を求めること。二つ目は、企業にとっては投融資を受けることがゴールではなく、その資金を活用して事業を行ない、収益を上げ、投融資の償還を行うことがゴールとなること。三つ目は、国民負担となる税金の利用を極力抑え、市場経済の力を活用し、政策目的の達成を目指すことだ。

政策金融の実行は、政府系金融機関が担っているが、平成20年の政策金融改革により、政府系金融機関の在り方が見直され、現在は5つの機関が活動をしている(図表2.政府系金融機関の概要)。例えば、日本政策金融公庫(日本公庫)は、国際的な金融不安や経済収縮、地震・台風などの被害が発生した場合には、セーフティネット関連融資を実行することで、危機時のセーフティネット機能を果たしている他、企業のライフステージに応じた支援として、創業期には、新規開業資金、女性若者/シニア起業家支援資金、成長期には新事業育成資金、海外展開・事業再編資金などの制度を用意している。

平成元年以降に日本公庫との取引を経て、その後に株式公開を果たした企業は、724社に達し、東京証券取引所のマザーズ、ジャスダックに上場している企業の約4分の1に日本政策金融公庫との取引履歴があることから、政府系金融機関による創業・成長期の企業への支援が一定の成果を生んでいると考えられる。

また、政策金融の推進にあたって、地域における金融機能の高度化や成長資金の供給促進を図り、企業・経済の持続的成長等に貢献する観点から政策金融と民間金融との連携・協調を促進することが重要である。

このため、財務省としても、全国の財務局を通じて地域金融機関から日本公庫との連携事例を収集の上、同省HPで公表したり、民間金融機関と関係省庁で政策金融に関する意見交換会を開催する等の取組みを行っている。

図表2●政府系金融機関の概要

20年1月末から新型コロナウイルス感染症に対応

日本公庫が特別貸付を創設。当初3年間の実質無利子化も実施へ

日本公庫と政投銀が1月末に相談窓口を設置

新型コロナウイルス感染症の拡大における政策金融の取組みは1月末から始まっている。1月29日には日本公庫が、1月30日には日本政策投資銀行(政投銀)が経営相談窓口を設置した。その後、2月13日には政府が緊急対応策を決定・公表し、中小企業等の資金繰り支援として、日本公庫等に緊急貸付・保証枠5,000億円を確保、3月10日には緊急対応策第二弾として、さらなる資金繰り支援の拡充措置を行った。

その中でも特徴的なのは日本公庫が中小企業・小規模事業者向けに創設した「新型コロナウイルス感染症特別貸付」だ。

新型コロナウイルス感染症特別貸付を利用できるのは、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的に業況が悪化している事業者で次の(1)または(2)のいずれかに該当し、かつ中長期的に業況が回復し、発展することが見込まれる場合。

(1)最近1カ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少している。

(2)業歴3カ月以上1年1カ月未満の場合等は、最近1カ月の売上高が次のいずれかと比較して5%以上減少している場合。(A)過去3カ月(最近1ヵ月を含む)の平均売上高、(B)令和元年12月の売上高、(C)令和元年10月から12月の平均売上高。

融資限度額は国民生活事業(国民事業)が8,000万円で中小企業事業(中小事業)が6億円。すでに日本公庫から融資を受けている場合でも別枠で利用可能。また、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が15年以内で元本据置期間はいずれも最大5年と、通常の融資よりも長く設定されている。

利率は、国民事業が4,000万円以下の部分について当初3年間が「基準利率―0.9%」、3年経過後は「基準利率」となる。4,000万円を超える部分は「基準利率」が適用される。中小事業は2億円以内の部分が当初3年間は「基準利率―0.9%」、3年経過後は「基準利率」となる。2億円を超える部分は「基準利率」が適用される。

また、「特別利子補給制度」を併用すれば、実質無利子で融資が受けられる。実質無利子となるのは、借入後当初3年間で限度額は国民事業4,000万円、中小事業2億円。対象となるのは、小規模事業者で個人は要件なし、法人は売上高▲15%以上、中小企業者は個人・法人ともに売上高▲20%以上となっている。実質無利子化は、東日本大震災の際に一部で行われたものの、それ以外ではほとんど例がない極めて異例の対応だ。

政府はさらなる措置として、4月20日に緊急経済対策を決定し、それまでの金融措置(1.6兆円規模)に加え、中小・小規模事業者向けに38兆円規模、中堅・大企業向けに5兆円規模、海外展開向けに1兆円規模の追加を行い、総額45兆円規模と、質量ともに万全の金融措置を講じることとなった。

当該対策によって、既往債務をより有利な条件であるコロナ特別貸付へ借り換えることを可能とし、また、民間金融機関による無利子・無担保の融資(限度額4,000万円)が可能となった。

民間金融機関との連携に係る取組みとしては、日本公庫に申し込みが集中して、実行に時間がかかるのを避けるため、民間金融機関が日本公庫の融資制度の説明等を実施したり、融資が実行されるまでのつなぎ融資を提供するなどの対応も行っている。

なお、日本公庫では衛生環境激変対策特別貸付、セーフティネット貸付なども行っている。衛生環境激変対策特別貸付は感染症等の発生による衛生環境の著しい変化を原因として一時的に業況が悪化し、資金繰りが厳しくなった旅館業、飲食業などを対象としたもの。通常の融資に加えて別枠で旅館業は3,000万円、飲食業などは1,000万円が利用できる。

セーフティネット貸付は、社会的、経済的環境の変化などにより、一時的に売上が減少するなど業況が悪化した中小企業者向けの融資。融資限度額は中小事業が7.2億円、国民事業が4,800万円となっている。

図表3●新型コロナウイルス感染症に関する政策金融での取組み

図表4●新型コロナウイルス感染症に関する主な制度拡充

図表5●新型コロナウイルス感染症特別貸付の実質無利子化

総理指示により2次補正予算も編成

無利子貸付の限度額を拡充。資本性資金による資金繰り支援も

資本性資金の提供で民間金融機関からの融資を促す

5月14日の新型コロナウイルス感染症対策本部(第34回)における総理指示により、2次補正予算が編成されることとなった。その内容は、これまでの支援の拡充等と資本性資金による支援に分かれる。

これまでの支援の拡充等では、日本公庫等・商工中金の実質無利子・無担保融資の規模を15兆円規模から47兆円規模へ拡充、民間金融機関の無利子・無担保融資の規模を約24兆円から約53兆円に拡充した。また、政投銀・商工中金による中堅・大企業向け融資(シニア)の規模を約5兆円から約10兆円に拡充した。

一方、資本性資金による支援では、政投銀・商工中金(中堅・大企業向け)、日本公庫等・商工中金(中小・小規模向け)の資本性劣後ローンが6兆円規模、政投銀の「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」の強化で4,000億円の投資枠が確保された。

まず、中小・小規模向け資本性劣後ローンでは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業等に対して、日本公庫及び商工中金(危機対応業務)等が、資本性劣後ローンを貸し出す。企業にとって融資は「負債」となるが、資本性劣後ローンは、長期間元本返済がなく、金融機関が資産査定を行ううえで、「自己資本」とみなすことができる。このことは、金融庁において、資本性借入金の取扱いとして明確化している。これにより、企業は民間金融機関や投資家からの投融資を受けやすくなる。資本性劣後ローンの貸付限度は、中小事業(商工中金も同様)が7.2億円、国民事業が7,200万円。新型コロナ特別貸付及びセーフティネット貸付等とは別枠で利用できる。

また条件面では、従来の資本性ローンよりも条件が緩和されている。たとえば、東日本大震災復興特別貸付では、利率が赤字時0.4%、黒字時3.6%だったが、今般は当初3年間が0.5%、4年目以降は赤字時0.5%、黒字時2.6%~2.95%となっている。また、貸付期間は10年のみだったが、5年1カ月、10年、20年から選択が可能。さらに、想定よりも早く事業が回復した場合には、5年超経過すれば期限前弁済も可能になった。

図表6●日本政策金融公庫等・商工中金による中小・小規模向け資本性劣後ローンのスキーム

図表7●中小・小規模向け資本性ローン(日本公庫等・危機対応業務)の貸付け条件

企業からの融資期待に応え政投銀が資本性劣後ローンを提供

一方、中堅・大企業向け危機対応業務では、政投銀・商工中金が、日本公庫によるツーステップローン等を通じて危機対応融資を行い、中堅・大企業の資金繰りを支援する(図表8 政投銀・商工中金による中堅・大企業向け危機対応業務のスキーム)。2次補正予算では、今後のさらなる状況の悪化に備えるため、一定の資本性が認められる資本性劣後ローンを危機対応業務のメニューに追加した。

条件面では従来の資本性劣後ローンよりも緩和されている。たとえば、東日本大震災時の制度では、貸付限度額が20億円だったが、今般の制度では上限はない。利率に関しても今般の制度では中堅企業向けに当初3年間▲0.5%の利下げが行われる。信用力の高い大企業と比較して中堅企業は利率が高めになることに配慮したものだ。また、貸付期間も事業者のニーズに応じて柔軟に設定される。

5月末時点の分析によると政投銀に対する融資期待額は3兆円超に達している。これを産業別に見ると、新型コロナウイルスの影響を直接的に受けている航空産業や大手民間鉄道会社等を含む運輸・交通が件数・金額面で多くを占めており、件数面では、地方企業からの支援要請も多い。また、地域別では、件数・金額ともに資金ニーズは首都圏・関西圏に集中している。

融資期間別にみると、各社とも足元の資金繰り対策として、短期(期間5年未満)の資金ニーズが一定割合を占めている一方で、今般の危機は長期化する恐れもあることから、十分な備えを確保するべく、期間10年超の長期の資金ニーズも多く寄せられている。

図表8●政投銀・商工中金による中堅・大企業向け危機対応業務のスキーム

図表9●中堅・大企業向け資本性劣後ローン(危機対応業務)の貸付け条件

政投銀の特定投資業務を5年延長

新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンドへの追加出資で成長資金市場を下支え

民間金融機関や事業者の資金を成長企業に呼び込む

日本経済の部門別の資金過不足を見た場合、企業部門は資金余剰となっている。企業は、資金不足を金融機関や市場からの資金調達で補いながら経営をするのが一般的だ。80年代から90年代前半はその状態にあったが、その後、資金が余り気味になり、2000年代以降は資金余剰となっている。その結果、企業の現金・預金等は18年時点で240.5兆円、内部留保は463.1兆円に達している。一方で家計部門は1980年代以降、一貫して貯蓄超過状態にある。

これらの資金を成長分野に投資し、企業の活性化、日本経済の活性化を図ることが大きな課題となっている。実際に日本企業のROA(総資産収益率)やROE(総資本収益率)は、欧米企業と比較すると未だに低い水準にある。また、欧米企業と比較して、日本企業はROEのバラつきが少なく、低リスク・低リターンの傾向にあり、日本企業の新陳代謝が進んでいない可能性がある。

そこで、企業の新陳代謝を国際比較してみると、日本では創業2年以内のスタートアップ企業の割合が5.9%に留まり、フランスの22.8%、英国の22.4%、米国の20.5%など諸外国と比較して低い水準にある。一方で設立から10年以上の古い企業が全体の7割超を占めている。また、日本企業は開業率や廃業率も低く、生産性の低い企業が市場に留まることで、日本企業の収益力の低下要因となっている可能性がある。

これまで日本では企業部門への資金供給は、多くが融資などの貸出金が占め、18年度の1年間で見ても新規貸出が55兆円であるのに対し、株式は非公開株式、公開株式を合わせて8兆円に満たない。

こうした日本企業の収益力を底上げするためには、日銀の金融政策などを背景に既に潤沢に供給されているリスクの低い既存事業・企業に対するデット・ファイナンス(融資)だけではなく、新事業開拓や異業種連携によるオープンイノベーションなど、リスクは高いものの高い収益性が見込まれる新たな市場や事業に対する質の高い成長資金となるリスクマネー供給(エクイティ・メザニン等)を行う必要がある。

そんな中で政投銀は、リスクマネー供給を促進し、企業の競争力強化や地域活性化に資する成長資金市場を発展させるため、平成27年6月に特定投資業務をスタートさせた。成長資金の供給を時限的・集中的に強化することを目指して創設されたもので、令和2年3月末までに、100件7,171億円の投融資を決定。これにより誘発された民間の投融資額(呼び水効果)は約4兆円に達している。

業務開始から約5年が経過し、累積損益は124億円の黒字になっており、今後、投資回収などによりさらなる収益の上積みが期待できる。こうした取組みもあり、成長資金市場は拡大基調であるものの、諸外国と比較すればいまだ投資規模は小さく、特にスタートアップ分野では差が大きい。

民間銀行等は、自己資本規制やノウハウ不足、調達構造等の問題により、リスクマネーの供給を増やすには一定の制約が存在する上に、民間が投資しやすいマーケット・プラクティスが確立されている領域や市場の厚みが限られている。

また、投資案件の規模や収益性の観点から民間ファンドの活動は大都市圏中心となっており、地域において新たな事業と市場を創り出す成長資金の担い手が不足している。

今後も中長期の成長とイノベーションを促進し、積極的なリスクテイクを行うエクイティ・カルチャーを醸成するためには、成長資金の成功事例を積み重ねていくことが必要であり、民間の投資領域が限定的であることや地域における成長資金が不足していることなどを踏まえ、政投銀法改正によって本業務を5年間延長することが決まった。今後は、民間による投資領域拡大のために、先端技術の事業化や新産業創造、航空宇宙分野等の民間投資家になじみの薄い分野に投資を行い、民間が投資しやすい環境を作ることが期待される。さらに、地域金融機関との共同ファンドを横展開し、金融機関へのノウハウ共有や人材育成支援を推進することや、地域発のイノベーションや事業承継を契機とした経営革新など地域の新たな取組みへの後押しとなることなども期待される。

また、特定投資業務が延長されたことで、新型コロナウイルス感染症により生じる新たな社会ニーズや事業をより中長期的な目線で支援することが可能となったため、「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」に追加出資を行い、成長資金市場を下支えする十分な投資規模を確保することとした。

このファンドでは、感染症の影響を受けている企業の新事業開拓や異業種連携などを対象に資本性資金等を供給することによって、サプライチェーンの再配置や5G投資、観光リノベーション投資などポストコロナ時代に対応した投資なども促進し、迅速かつ着実に回復・成長を目指すことを目的としている。

図表10●デットとエクイティの比較

図表11●「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド」の拡充のスキーム

特定投資業務の事例紹介

劣後ローンを活用した企業が新型コロナウイルス関連分野でも活躍

岩手県盛岡市に本社を置くセルスペクト(株)は、血中成分の検出・測定による医療診断機器の研究・開発を行うベンチャー企業。日本政策投資銀行は、2019年3月、セルスペクト(株)の新規事業展開支援及び連携を目的に、岩手県の地場企業等が出資するのと合わせ、(株)岩手銀行と設立したいわて飛躍応援ファンドより劣後ローンを供給した。本年4月、同社は、新型コロナウイルス感染者の血液中に含まれる抗体を測定するキットを開発したと発表している。

図表12●特定投資業務の資金供給例