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コラム 海外経済の潮流128

中国の輸出構造の変化

大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 広田 太志

中国にとって最大の輸出相手国は米国であった。しかし、足下では、その傾向に変化がみられる。その変化のきっかけとなったのが、いわゆる米中貿易摩擦である。米国・トランプ大統領は、中国が貿易により米国から不当に利益を得ているとして、2018年中に3段階に分け、総額2,500億ドル相当の中国製品に対して追加関税を発動した。その翌年、2019年9月にも、米国は1,200億ドル相当の中国製品に対して追加関税を発動した。中国も、報復措置として米国製品に対して追加関税を発動してきた。その後、2019年12月、両国政府は「第1段階の合意」に達し(正式署名は2020年1月)、19年9月に米国が発動した追加関税は半減(15%→7.5%)・同年12月に発動予定であった追加関税は発動見送りとなり、加えて中国は米国からの輸入増大を約束するなど、一定の進展がみられた。しかしながら、未だ根本的な解決には至っていない。

このように、中国は、最大の輸出先であった米国において高い関税が課されることとなり、米国向けの輸出コストが増大した。ではこの間、中国は、高コストを覚悟で米国への輸出を継続していたのだろうか。そこで、対米輸出額を年次ベースでみると、貿易摩擦が始まった2018年を境に減少していることがわかる(図1 中国の対米輸出額(年次))。さらに、月次ベースでみても、2018年末以降、対米輸出の減少は顕著である(図2 中国の対米輸出額(月次))。しかしながら、貿易摩擦以降も、中国の輸出総額は増加を維持しており(2018年:+9.9%、2019年:+0.5%)、対米輸出が減少した分、その他の国・地域への輸出額が増加している。

ここで、中国の輸出の国別シェアをみると、2017年及び2018年は1位米国・2位EU・3位ASEANであったものが、2019年には1位EU・2位米国・3位ASEANとなり、米国とEUの順位が逆転した(図3 中国の輸出の国別シェア)。さらに、月次ベースでみると、対EU輸出額だけでなく、対ASEAN輸出額も、対米輸出額を追い越している月がある(図4 中国の国・地域別輸出額)。これは、米中貿易摩擦が始まって以降の特徴的な動きであり、ASEANは中国の単なる「輸出先」としてだけではなく、「米国向け輸出の迂回地点」として機能しているともいわれる。

そこで、米国の輸入総額におけるASEANのシェアをみると、2019年以降、上昇している(図5 中国の輸出に占める米国・ASEANの割合および米国の輸入に占めるASEANの割合)。さらに、それと時期を同じくして中国の輸出総額におけるASEANのシェアが上昇・米国のシェアが減少していることがわかる(同)。2018年7月から米国による追加関税が課され始めたことを踏まえると、追加関税の回避のため、「中国→ASEAN→米国」とモノが動くようになった可能性がある。つまり、中国の対ASEAN輸出が増加しているとはいえ、その一部は最終的には米国へ輸出されているとみられ、米国の経済状況が中国の輸出に与える影響は依然大きいと考えられる。なお、中国の対ASEAN輸出伸び率を国別にみると、全体的に伸び率は高いものの、2018年後半以降、ベトナム向けが特に伸びている(図6 中国の対ASEAN輸出伸び率(国別))。さらに、米国の対ASEAN輸入を国別にみても、対ベトナム輸入が堅調に伸びており(図7 米国の対ASEAN輸入伸び率(国別))、ベトナムが迂回地として活用されていることを示唆している。

以上のように、米中貿易摩擦を機に、中国の輸出構造が変化しつつあることがわかった。しかしながら、足元で世界経済に多大な影響をもたらしているのは、新型コロナウイルスである。2020年第1四半期(1-3月)は、中国における都市封鎖や感染の世界的拡大を受け、中国の輸出は前年同期比▲13.3%・輸入は同▲2.9%となった。また、4月の輸出は前年同月比+3.5%・輸入は同▲14.2%となり、輸出が予想外の増加となった。マスクを含む繊維製品(同+49.4%)や、パソコン関連(同+49.9%)の増加が4月の輸出を牽引した。

以上のように、米中貿易摩擦や新型コロナウイルスが中国の貿易の重石となる中、米中の「第1段階の合意」の履行可能性などが注目されている。中国の貿易を取り巻く状況に不透明感が増す中、今後の動向について引き続き注視が必要である。

(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である