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コラム 経済トレンド72

シェアリングエコノミーの拡大がもたらす経済への影響

大臣官房総合政策課 大平 翼/野﨑 宇一朗

本稿では、昨今、急速に拡大しているシェアリングエコノミーが経済に与える影響について考察していく。

シェアリングエコノミーの市場規模

・シェアリングエコノミーとは、「個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む。)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」(注)と定義されている。

・近年のICTの発展により、商品の利用状況の継続的な把握や、商品・サービスを保有する個人と利用したい個人をマッチングすることが可能になったことなどを背景に、市場が急速に拡大している。

・取引金額ベースでみた2018年度の市場規模は1兆8,874億円となっており(図表1 シェアリングエコノミーの市場規模)、シェアリングエコノミーの市場規模は今後も拡大が予想されている。知名度の低さ等シェアリングエコノミーが抱える課題(図表2 シェアリングエコノミー市場の課題解決シナリオの考え方)を解決することができれば、2030年度には10兆円を超える規模まで成長することが期待されている。

シェアリングエコノミーに対する市場の評価

・シェアリングエコノミーが抱える課題として、認知度の低さがあるが、スマートフォンやSNSの普及により認知度は年々増加しており、2019年調査では、4人に1人が認知している(図表3 シェアリングエコノミーの認知度についてのアンケート)。

・シェアリングエコノミーの利用者としての利用意向についてのアンケート結果では、若者世代を中心に利用意向は強く、さらに前向きな意見は全世代で増加傾向にある(図表4 シェアリングエコノミーの利用者として利用意向についてのアンケート)。また、モノをシェアする上で課題となる、中古やリサイクル品への抵抗感についても若者世代を中心に抵抗はないとの回答割合は高く、さらにほぼ全ての世代で許容する傾向が強まっている(図表5 中古やリサイクル品の利用についてのアンケート)。

・消費者庁の調査では、「モノを持たない暮らしに憧れるか」との質問に対し、当てはまるとの回答が過半数を超えており、シェアリングサービスが受け入れられやすい環境が整ってきている。(図表6 モノの所有についてのアンケート)

シェアリングエコノミーの経済への影響

・シェアリングエコノミーは以下の観点から経済活動を拡大する効果があると考えられる。(図表7 シェアリングエコノミーの経済活動を拡大する効果イメージ)

(1)供給不足が解消されることによる消費の拡大効果

例:長期休暇やイベント等一時的な需要の増大がある宿泊業において、宿泊施設で吸収しきれない需要を民泊サービスがカバー(図表8 民泊サービスの市場規模の推移)

(2)これまで製品・サービスを利用したい意欲はあるものの、価格や、手続き等が障壁となり、購入まで至っていなかった消費者の需要を取り込む効果

例:ハイシーズンにおける宿泊料金の高騰で旅行を躊躇していた消費者が、安価な民泊サービスを利用

自動車を利用したいが、購入には至ってはいなかった潜在的利用者によるカーシェアリングの拡大(図表9 カーシェアリングの車両台数と会員数の推移)

(3)シェアリングプラットフォームを提供する事業者や、利用者に対して、新たな製品・サービスを提供するビジネスの拡大効果

例:民泊提供者と利用者間の鍵の受け渡しを仲介するサービス、シェアリングエコノミー専用の賠償責任保険の販売

シェアリングエコノミーの既存産業への影響と課題

・一方で、シェアリングエコノミーの拡大による新市場の創出・拡大に伴い、既存産業へ負の影響が生じる可能性がある点には留意が必要。特に、モノを所有せず、必要な時にのみ利用する習慣が一般化していけば、主に耐久財への需要が減少することが指摘されている。例えば、PwCによる試算(図表10 世界の新車販売台数の予測)によれば、カーシェアリングの普及に伴う自動車保有者の減少は、2040年の世界の新車販売台数を2千万台程度押し下げるとされている。

・また、既存のサービス産業に対する影響も指摘されており、民泊の普及がホテル業界に与える影響について、米Airbnbの掲載部屋数の増加が、特に低価格帯のホテルの収入に対して、負の影響を与えたという研究もある。(図表11 米Airbnbの掲載部屋数が10%増加した場合のホテル収入への影響)

・このように、シェアリングエコノミーの拡大は、供給不足の解消や、潜在需要の掘り起こしによる消費の拡大といったプラスの影響をもたらすと同時に、破壊的イノベーションとしての側面を持っている。

・今後もシェアリングエコノミーの拡大継続が予想される中で、経済へのプラスの効果を大きくしていくためには、既存産業の事業者とシェアリングサービス事業者の双方が、こうした経済構造の変化を受け入れながら、新たなサービスを提供し、新たな需要を生み出すかを模索していくことが重要である。