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シリーズ日本経済を考える 100

日本の消費の異時点間代替弾力性(IES)についての一考察*

財務省財務総合政策研究所主任研究官 八木橋 毅司
財務省財務総合政策研究所客員研究員 片野 幹

1.序説

経済学において、消費・貯蓄行動を分析する際に大きな役割を果たす指標の1つに、「消費の異時点間代替弾力性」あるいはIntertemporal Elasticity of Substitution(IES)と呼ばれるものがある。これは、異なる時点間において消費価格が変化した場合に、家計のライフサイクルを通じた消費がどれほど影響を受けるかを表す指標であり、より具体的には金利(=現在と将来の消費の相対価格)が1%上昇した場合に消費の成長率が何%上昇するかという反応度合いのことである。

ミルトン・フリードマンが提唱した恒常所得仮説(Friedman, 1957)によれば、人々が選択する毎期の消費水準は、概ね生涯を通じて得られる総所得の水準またはその水準の期間平均により決定される。この文脈において金利変動が果たす役割は、将来時点におけるキャッシュフローの変動を通じて生涯に得る所得の総額に影響を及ぼすこと(=所得効果)、将来消費の割引現在価値を変化させることで現在と将来の消費額の最適配分に影響を及ぼすこと(=代替効果)の2つである。これらのうち、IESは後者の大きさを数値化したものであると言える。

一般に、IESの値が大きければ大きいほど、需要・供給ショックが経済全体にもたらす波及効果は大きくなると考えられる。すなわち、人々は金利が上昇すれば、現在の消費をより一層控え、その分を貯蓄に回す。そうした消費行動の変化は、市場メカニズムを通じて、労働や企業設備投資の均衡値にも変化をもたらすこととなる。そのため、IESの値の大きさをどう仮定するかは、金融財政当局のマクロ政策の有効性に係る分析にも影響することがわかる。

こうした学術的および実務的な重要性に則して、過去半世紀にわたり多くの識者がIESを推計してきたが、その推計値は対象となる国または時期、さらには推計アプローチなどによって大きく異なり、コンセンサスを得るには至っていない。

本稿の目的は、(1)IESの推計に関して学術的に判明していることを整理した上で、(2)日本におけるIESの推計値について数多くの先行研究をもとにサーベイすることである。特に、(2)については、日本の推計値が他国の推計値と比べて特段大きいのか、採択するサンプル期間によって同一国の推計値が異なるかの2点に注目した。これまで、日本におけるIESの推計値を横断的に検証した研究は筆者の知る限り存在しないことから、本稿は学術および実務両面におけるニーズを一定程度満たすものと思われる。

本稿の構成は、以下の通りである。まず、第2節ではIESの理論・実証面についての整理を行い、続く第3節では日本のIESの推計値についてのサーベイを行う。そして第4節を結語とする。

2.IESについて

2.1 基礎知識

以下、IESの基本的な構造について、Yagihashi and Du(2020)で提示されているモデルフレームワークを用いて簡単に説明する*1。まず、前提として、モデルにおける家計は無限期間生き、合理的に意思決定を行うと仮定する*2。次に、家計の効用は消費Cと余暇Lによってのみ生じ*3、時間を通じて分離可能(time-separable)であり*4、将来についての不確実性は存在しないものと仮定する*5。また、家計はこの効用関数を最大化する上で予算・時間制約式に直面するため、これらを考慮すると、以下の線形化されたオイラー方程式を導出することができる(詳細は本稿末尾の「補論」を参照)。ここで、添え字iは個別の家計を、tは時点をそれぞれ表しており、Iは観測総数を表す。

(1)[数式]r:金融資産の収益率、χ:消費と余暇の代替可能性を示すパラメター

この(1)式に出てくるパラメターθこそが推計対象となるIESである*6。この値が大きければ大きいほど、金利の変化に対して消費の変化が大きくなる(あるいはより弾力的である)ことが(1)式から見て取れる。一方、θがゼロに近づけば近づくほど、家計消費の金利への反応は鈍くなり(=代替効果の減少)、相対的に金利の所得効果が増すことが分かる。

ここで、留意点が2つある。まず、補論(A2)式で定式化する効用関数によると、消費の決定は余暇の限界効用に直接影響を与える。具体的には、θ<1が成立すると、消費の上昇は余暇の限界効用を押し下げる*7。その結果、賃金が不変のままだとしても、労働供給が消費と余暇の代替効果を通じて促進され、一般均衡における労働および賃金の値に影響を与える。

次に、(1)式によると、θ>0の条件のもとで金利上昇は消費の成長率上昇を引き起こすが、これは本質的には現在の消費を貯蓄に回し、将来の消費へと先延ばすことであり、同時に貯蓄(=企業への資金供給)が時間を経るにつれ消費され、減少していくことを意味する。貯蓄=投資が成立する閉鎖経済において、当期貯蓄の異時点比での増加は、当期および将来投資の均衡値にも影響を与える*8。以上のことから、θ値の大小が家計の消費・貯蓄・労働供給に直接的な影響を及ぼすだけでなく、経済全体の賃金や投資にも間接的な影響を及ぼすことが分かる。

2.2 先行研究

Havranek et al.(2015)によれば、IESの推計を取り扱った学術論文は、2012年時点で1,500本を超え、近年においてもそのペースが落ちていないことから、当該トピックに対する学術的関心は依然として高いことが分かる。IESの導出方法に関するサーベイは優れた公刊済論文が複数存在するので詳細は割愛するが*9、従前行われてきたIESの導出方法を大まかにまとめるならば、(1)式と同様なオイラー方程式を導出した上でIESの値を求めるものがほとんどを占める。データについては、当初はマクロデータを使うものが主流であったが、近年ではマクロデータによる推計は集計バイアス(aggregation bias)を伴うことが広く認識されてきたこともあり*10、ミクロデータを使う研究が徐々に増えつつある。推計手法については、一般化モーメント法(GMM:Generalized Method of Moment)を用いるものが大半を占める。ただし、Yogo(2004)が指摘する様に、GMMで頻繁に使われる操作変数には内生変数との相関が弱いものが散見されるため、同手法を用いた推計結果について疑問を呈する研究者もいる。

既存研究におけるIESの推計値の多くは、0~2の間に収まるものが多い。Havranek et al.(2015)のメタ研究におけるサンプルの平均値は0.5であるが、推計値の中には負の値をとるものや10以上の極端な値をとるものも少なからず存在する。同研究によると、推計値の大小に最も大きな影響を与える要因の一つが対象国の一人当たりGDPであり、この数値が大きい国ほどIESの値も高く推計される傾向が指摘されている。さらには、消費の定義、対象期間の長さ、耐久財の取り扱いまたはデータ頻度といった推計アプローチの選択が結果を大きく左右することも様々な研究を通じて明らかとなっている。なお、Havranek et al.(2015)における日本の推計値の平均は0.89となっているが、これは他国と比べても突出して高い(後述)。

実務面では、中央銀行、官公庁、国際機関といったマクロ経済分析を行なっている機関においてIESに対する関心が高い。その理由は、Havranek et al.(2015)でも触れられているように、IESの値をどう較正(calibration)するかがモデルを使ったシミュレーションの結果に大きく影響することが広く認識されているためである。Yagihashi(2020)によると、現在実務で活用されているDSGEモデルの7割近くがIESを1と仮定しており、残るモデルのほとんどが1未満の値を較正値として採用している*11。

IES推計の課題として、IESのコンセプト自体がいわゆるマクロ経済学およびミクロ経済学といった学術分類上の境界に位置することや、推計アプローチが多岐に渡ることから、その推計値について研究者間のコンセンサスが醸成されにくいという点があげられる。前述の集計バイアスに起因してマクロ的手法はミクロ的手法を用いた推計値よりも低い値となることが多いことや、様々な研究アプローチ間のバランスを取るといった観点からも*12、今後はミクロデータを用いた推計が引き続き増えていくことが期待される。また、IESは家計構成員の消費・貯蓄行動と直結していることから、近年発展の著しい行動経済学のさらなる活用が今後期待される*13。

3.分析結果

本節では日本のIESの推計に焦点を絞り、その特性をいくつかの側面から概観し、日本のIESの推計値の相対的な位置づけや、日本のIESの水準が時代とともにどのように遷移しているかについて確認する。

3.1 サンプルの抽出

サンプルは、Havranek et al.(2015)で扱われている先行研究のうち日本のIESを推計した論文20本と筆者により採択した論文5本を合わせた計25本の論文とする。後者については、インターネットや既存研究の参考文献などを通じて収集したものからなる。

3.2 基礎情報

まず、サンプルの公刊年に注目すると、1990年代が8本、2000年代が9本、2010年代が8本と均等に分布している。1本を除く全てが査読付き論文として公刊されており、ほぼ全ての論文が英語で執筆されている。論文ごとの推計値の数については、約半数が1つまたは2つの値を推計していた*14。推計にあたっては、Cashin and Unayama(2016a, b)を除く全ての論文がマクロデータを用いている。

今回、IESの推計値の平均を算出するにあたっては、Havranek et al.(2015)同様、絶対値で10以上の値を非現実的であるとみなして捨象する。表1.抽出サンプルは、IESの推計値を調査対象となる論文ごとにまとめたものである。表中に「ベース」とあるものは、論文が最も重要だとみなす値(複数可)の単純平均である。一方、「全推計値」については、言葉の示す通り日本に関する全ての推計値の単純平均を算出した。

表から明らかな通り、推計値のほとんどは正値であるため、前述の理論と整合的な結果となっている。全推計値の単純平均は1.38であり、Havranek et al.(2015)が算出する平均値(0.89)を若干上回る。さらにベース値に対象を絞ると単純平均は1.69へと上昇する。

3.3 他国との比較

ある国のIESの推計値が他国と異なることには複数の要因が考えられる。そのうち有力なものは、金融市場が未整備であることや、家計の多くが借り入れ制約に直面していることなどから、IESの値が低く抑えられる場合である(Jappelli and Pagano, 1989;Campbell and Mankiw, 1991)。また、社会保障が他国と比べて手薄である場合、負債を持つことに対する社会的なマイナスイメージが強い場合なども、IESの推計値が他国より低くなる要因になると考えられる。

今回取り上げた論文のうち、日本と日本以外の国のIESの値を同時に推計しているものが複数あった。ここでは、それらのうち、欧米主要国である米国、イギリス、カナダおよびフランスの4カ国を網羅する8論文を取り上げて、同一論文内での各国のIESの推計値を比較する*15。このように同一論文の推計値を用いて国際比較をすることにより、採択される推計アプローチの違いによって生じる推計値の差をコントロールした上で、各国のIESの推計値が異なる要因を考察することが可能となる。なお、それぞれの論文における各国のIES値には前述の「ベース値」を採用した。

表2.IES推計値の各国比較:集計分は8論文の推計値の平均を国ごとに算出している。日本のIES推計値は米国に次いで2番目に高く(1.42)、一見すると表下段のHavranek et al.(2015)の結果と整合的であるとの印象を受ける。ただし、IESの水準は個別論文のアプローチの違いによって大きく異なることに注意が必要である。そこで、図1.IES推計値の各国比較:論文別において論文ごとに各国のIESの推計値を図示した。米国は依然高い推計値を示しているが(8論文中4本にて最高値)、残る4カ国については推計値および順位ともに安定しないことがわかる。日本のIESの値およびその順位については、Bosca et al.(2006)において突出して高い値を見せているが(6.49)、他の論文においては5か国中3~5位であるため、日本が他国比で突出して高いというHavranek et al.(2015)で示唆されるようなことは必ずしも断言できないことが分かる*16。

3.4 期間ごとの比較

前項では日本のIESの推計値の相対的な位置づけを確認したが、本項では上記のような考えにもとづき、日本のIES推計値自体がどう遷移してきたかについて確認する。そもそも、マクロ経済学では、IESは時間を通じて不変である(=ディープパラメター)とみなされることが多い。しかし、現実には時間とともに家計の選好や社会状況が変化することでIESの水準が変化することも考えられる。また、仮に食料品など個々の消費対象物に対する家計の選好が変わらなかったとしても、耐久財、非耐久財又はサービスといった消費項目の構成比が世相を反映して変わることでも、IESの値は変わりうる。さらには、家計が習慣を形成する(habit formation)場合、景気変動が消費の限界効用に影響を及ぼし、結果的にIESの推計値が不安定になることも考えられる。

本稿サンプルのうち、Ho(2004)とYamamoto(2013)は、それぞれ日本におけるIES推計値の期間ごとの比較を試みている。Ho(2004)は、主要なマクロ変数の時系列的特性が1980年を境に大きく異なっていることに着目し、1961Q1-1980Q4と1981Q1-1999Q4の2期間についてIES推計を行なっている(表3.日本におけるIES推計値の時系列比較:論文別左部)。同研究によれば、推計値は前半期から後半期にかけて微増しており(0.66→1.08)、そのことが主な発見の一つとして言及されている。一方、Yamamoto(2013)は、日本版金融ビッグバンが1996~2001年にかけて起きたことに着目し、1980Q1-1997Q2および1997Q3-2007Q4の2期間についてのIESの推計を行なっている(表3.日本におけるIES推計値の時系列比較:論文別右部)。同表から、推計値が前期から後期にかけて明確に増加していることが分かる(0.31→3.57)。これについて、著者は「フリー・フェア・グローバル」を掲げる金融ビッグバンの実現により家計が金融資産を能動的に運用できるようになったためと解釈している*17。

IESの推計値について、同様の中長期にわたる上昇トレンドが他の先行研究にも見られるのかを確かめるため、本稿では以下の検証を行った。まず、サンプル期間を79年以前、80~96年、97年以降に3分割し、次に残る23論文中で採用されたデータが各期間を推計対象に含むか否かで割り当てを行い、最後に各々の期間についてのIESの平均値を算出した(表4.日本におけるIES推計値の時系列比較:集計分)*18。その結果、IESは79年以前から80~96年にかけて一旦減少し(2.32→1.77)、その後80~96年から97年以降にかけて微増している(1.77→1.85)。すなわちHo(2004)の指摘する1980年を境にした増加は確認できなかったものの、Yamamoto(2013)の主張する金融ビッグバン後の増加とは一応整合的な結果となっている。ただし、サンプルの標準偏差が3期間とも2以上と比較的大きいため、解釈には十分な注意が必要である*19。

また、図2.日本におけるIES推計値の時系列比較:度数分布においては、表4.日本におけるIES推計値の時系列比較:集計分の結果のもととなる各推計値の度数分布を表示している。比較的重複の少ない1979年以前のサンプル(左図)と97年以後のサンプル(右図)を比較すると、後者において0以下と2以上の外れ値と考えられる推計値が減少していることが分かる。こうした外れ値の減少は、第2節でも触れた推計手法の発展がその1つの要因と考えられるが、より詳細な要因分析が今後も求められる。総括すると、IES値の変化については近年若干の増加傾向は見られるが、それを裏付けるためにはさらなる学術研究および発見の積み上げが必要だと言える。

4.結語

本稿は消費の異時点間代替弾力性(IES)についての概念整理を行った上で、日本における推計値を公刊済の25論文を使ってサーベイした。その結果、(1)日本のIESは他国比で格別高いとは言えないこと、(2)近年若干の上昇傾向が見られることの2点が判明した。(2)はYamamoto(2013)の発見と整合的だが、(1)はHavranek et al.(2015)とは異なる結果となった。いずれの点についても、当該トピックに関するさらなる研究を通じて知見が深まっていくことが今後期待される。

補論.IESの導出過程について

まず、家計の生涯効用の最大化は以下のように定式化できる。

[数式](A1)

β:主観的割引率を表すパラメター*20

次に、時点tにおける効用を以下のように定義する。

[数式](A2)

θ:IESパラメター、χ:消費と余暇の代替可能性を示すパラメター

家計が目的関数である(A1)式を最大化する上で、予算制約式は以下の通りとなる。

[数式](A3)

[数式](A4)

Dt:金融資産 γt:金融資産の収益率、

IncAft,t:税引後家計所得、wt:時間あたり賃金

以上を受けて、家計の最適消費についての一階条件を求めると、次のオイラー方程式を得る。

[数式](A5)

最後に、(A5)式を線形化すると本文(1)式が導出される。

*本稿の内容は全て筆者らの個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。

*1)なお、詳細な数式展開は補論(A1)~(A5)式を参照。

*2)今回用いる仮定の多くはいわゆるRamsey-Cass-Koopmansモデル(Ramsey, 1928;Cass, 1965, Koopmans, 1965)の設定に則ったもので、ケインズ以後のマクロ経済学の発展において中心的な役割を果たしてきた。

*3)Yagihashi and Du(2020)では、余暇の効用関数における取り扱いを家計構成員によって区別するアプローチ(Browning, 2000などを参照)も検討しているが、ここでは簡便化のため捨象する。

*4)これに伴い、時点をまたぐ習慣形成(habit formation)や耐久財消費は捨象する。

*5)これに伴い、再帰的効用関数(Epstein and Zin, 1989, 1991などを参照)は捨象する。

*6)ただし、ここで言うIESは厳密には余暇一定のもとでの消費の異時点間代替弾力性を指している。余暇が変化するケースについてはYagihashi and Du(2020)を参照。

*7)本稿補論で詳述するモデルのように、消費と余暇の相互依存性を想定すると消費の変化が所得の変化に過度に感応する問題(excess sensitivity)を緩和できることが知られている。詳細はHeckman(1974)などを参照。

*8)ただし、金利の上昇は一方で当期消費の減少を通じて総需要を抑制する方向に働くため、所得効果を含めた経済全体としての当期投資および貯蓄は減少する点に留意が必要である。IESの値の大小と消費・投資(貯蓄)の標準的マクロモデルにおける短期におけるダイナミクスについてはHavranek et al.(2015)の図1.IES推計値の各国比較:論文別(p.101)を参照。

*9)Attanasio and Weber(2010), Thimme(2017)などを参照。

*10)Attanasio and Weber(1993, 1995)などを参照。

*11)なお日本の公的機関において開発されたDSGEモデルとしてはFueki et al.(2016,日銀), Matsumae and Hasumi(2016,内閣府)が存在するが、いずれもIESの値を1と仮定している。

*12)Havranek et al.(2015)の集計では、ミクロデータを使った推計は論文全体の18.7%である。

*13)伝統的に既存研究の中で取り扱われてきたのは双曲割引(hyperbolic discounting)や自己コントロール問題の消費・貯蓄行動への応用で、前者の代表例としてChoi et al.(2006)、後者の代表例としてGul and Pesendorfer(2004)などが挙げられる(詳しくはAttanasio and Weber (2010)の5.2.2節(p.737)で紹介されている諸研究を参照)。また近年ではマクロ経済学者の中から家計行動の近視眼性(cognitive myopia)の問題を行動経済学のツールを使って分析する研究(マクロ行動経済学、behavioral macroeconomics)が盛んになりつつある。代表例としてはAngeletos and Huo(2018), Epper et al.(2020), Gabaix and Laibson (2017), Ilut and Valchev (2017), Woodford (2019)が挙げられる。

*14)単純平均で見ると1論文あたり4.8の推計値となるが、これは一部の論文が平均を大きく引き上げていることによる。

*15)比較対象国を選出するに際してはHavranek et al.(2015)において比較的サンプル数が多く存在するかどうかも考慮した。

*16)なお推計値を大きい順に並べた上で、国ごとの順位の平均値をとると米国(1.6位)→カナダ(3.1位)→日本、英国(3.3位)→フランス(3.8位)となる。

*17)これら2論文に加え、Cashin and Unayama(2016b,a)はほぼ同一の手法を使って1992-2002年、2008-2015年のサンプル期間におけるIESをそれぞれの論文において推計している。ベースライン推計値は1992-2002年で0.21、2008-2015年で0.52となっておりYamamoto(2013)と同様に金融ビッグバン後で推計値の上昇が確認できる。

*18)例えば1975~1985年をサンプル期間とする推計値は「79年以前」と「80~96年」の2期間にわたって平均値が採用されることとなる。なお2年未満の期間が設定期間に含まれる場合は対象外とした。

*19)なお、別の検証方法としてサンプル期間の平均年に着目し論文を期間ごとに割り振る方法が考えられる。ただその場合、1996年以後を平均年とする論文が3つに限定されてしまうため(うち1論文は平均年がボーダーライン上の1997年)今回は採用しなかった。

*20)高齢化の影響などを考慮する場合は、当パラメターを変数とみなすアプローチも考えられるが(Attanasio and Weber, 2010)、ここでは簡便化のため捨象する。

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※本文中記載のできない数式については、掲載を割愛させていただいております。