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令和元年の密輸動向及び第32回人事院総裁賞受賞について

関税局調査課 課長補佐 齋藤 博昭

はじめに

財務省・税関では、不正薬物、銃砲等のいわゆる社会悪物品の国内流入阻止を最重要課題の一つとして位置づけ、情報収集・分析・活用の強化、取締・検査機器の増強等、種々の施策を推進し、水際取締りの強化に取り組んでいるところです。先般、「令和元年*1の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況」を公表したので、紹介します。なお、本文中の意見にわたる箇所は、筆者の個人的見解です。

1.不正薬物全体の密輸入動向

不正薬物*2全体の摘発件数は1,046件(前年比20%増)、押収量*3は約3,318kg(前年比約2.2倍)となり、史上初めて3トンを超えました。この様に、我が国への不正薬物の流入は引き続き拡大傾向にあり、極めて深刻な状況となっています。[表1.社会悪物品の摘発実績参照]財務省・税関では、このような大量の不正薬物が日本に向けられていることに対し、警戒を強めているところです。

2.覚醒剤の密輸入動向

覚醒剤の摘発件数は425件(前年比約2.5倍)、押収量は約2,570kg(前年比約2.2倍)と大幅に増加し[表1.社会悪物品の摘発実績参照]、“史上初めて2.5トンを超える”とともに“4年連続1トン超え”となりました。また、覚醒剤の押収量は、不正薬物全体の約8割を占め、我が国への覚醒剤の流入が特に深刻な状況となっています。なお、押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約8,566万回分、末端価格にして約1,542億円に相当します。

密輸形態別では、全体の摘発件数の半数以上を航空機旅客*4が占め、航空機旅客の摘発件数は前年比約2.5倍、押収量は同比約2.6倍と大幅増加となりました。商業貨物*5のうち、特に航空貨物の摘発件数は前年比約8.2倍、押収量は同比約14倍と著しく増加しました。国際郵便物の摘発件数は前年比63%増、押収量は同比約3.7倍と増加し、船員等*6(洋上取引等を含みます。)の押収量は前年比約11万倍と著しく増加しました。[表2.覚醒剤の密輸形態別の摘発件数・押収量の推移参照]

摘発事例1 洋上取引(過去最高の押収量)

令和元年6月、東京税関等は、鳥島南西方沖において洋上取引された覚醒剤約1トンを静岡県賀茂郡南伊豆町の海岸において発見、摘発しました。

摘発事例2 洋上取引(過去3番目の押収量)

令和元年12月、門司税関等は、東シナ海において洋上取引された覚醒剤約587kgを熊本県天草市魚貫(おにき)町の港において発見、摘発しました。

3.大麻の密輸入動向

大麻の摘発件数は241件(前年比11%増)と僅かに増加した一方、押収量は約78kg(前年比50%減)と半減しました。なお、摘発件数については、2年連続で200件超えとなり、平成27年から倍増しました。大麻のうち、大麻草の摘発件数・押収量はともに減少しました。一方で、大麻樹脂等*7は、摘発件数(131件(前年比46%増))、押収量(約17kg(前年比31%増))ともに増加しました。[表1.社会悪物品の摘発実績参照]

4.麻薬の密輸入動向

麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)の摘発件数は209件(前年比7%減)と僅かに減少したものの、押収量は約656kg(前年比約4.1倍)と大幅に増加しました。特に、コカインの摘発件数は52件(前年比10%減)と僅かに減少したものの、押収量は約638kg(前年比約4.2倍)と大幅に増加しました。これは、コカインとしては過去最高となる約400kg、同過去2位となる約178kgの大口事犯を摘発したことが主たる要因と考えられます。[表1.社会悪物品の摘発実績参照]

摘発事例3 海上貨物(コカインで過去最高の押収量)

令和元年10月、神戸税関は、ブラジルから到着した海上コンテナ貨物に隠匿されたコカイン約400kgを発見・摘発しました。

摘発事例4 外国貿易船(コカインで過去2番目の押収量)

令和元年8月、名古屋税関は、三河港(豊橋)に入港した外国貿易船の船底にある海水取入口に隠匿されたコカイン約178kgを発見・摘発しました。

おわりに

以上のとおり、令和元年の税関における密輸事件の摘発実績をみると、大量の不正薬物が日本に向けられていることがうかがわれ、極めて深刻な状況にあります。

財務省・税関としては、このような状況に対応し、国民の安全・安心の確保に向けた更なる厳正な水際取締りを実施してまいります。

第32回人事院総裁賞受賞について

財務省・税関は、摘発事例1として紹介した過去最高の押収量となる覚醒剤密輸入1トン事犯について、関係機関である海上保安庁・厚生労働省地方厚生局麻薬取締部と連名で、令和2年2月12日、第32回人事院総裁賞*8を受賞しました。本事犯は、調査開始から摘発に至るまでの約1年半にも及ぶ長期間の粘り強い調査が実を結んだものであり、過去最大量となる覚醒剤約1トンの密輸入を阻止し、国内治安の維持に大きく貢献したと評価され、本受賞に至ったものです。

以下、本事犯について、概要を紹介させていただきます。

平成29年11月、漁民から海上保安庁に寄せられた不審者情報を基に、海上保安庁は、内偵捜査、防犯カメラ解析等から、覚醒剤密輸入を企図する在日外国人等の関与を突き止め、財務省・税関、厚生労働省地方厚生局麻薬取締部及び警察の関係機関と大規模な合同捜査体制を構築することになりました。合同捜査では、主として、各機関の強みを活かした調査・捜査に従事し、財務省・税関では、東京税関・名古屋税関・門司税関の職員による嫌疑者らの入国に備えた各空港への入国手配を実施するとともに、入国後の尾行等を実施しました。なお、入国後の尾行は、北は北海道から南は沖縄まで広範囲に行われ、正月休みも返上して実施されました。

令和元年5月、嫌疑者らが再び入国したことから尾行を開始したところ、南伊豆町の漁港を下見する等の不審行動が見られたことから、覚醒剤を密輸入する可能性が高いと思料し、海上保安庁らと共に、巡視船艇等を活用した洋上取締体制による徹底した警戒を実施しました。その結果、同年6月2日、嫌疑者らが鳥島南西方沖において船籍不詳の船舶から嫌疑者らが乗船する船舶へ覚醒剤を積み替え、同月3日、静岡県賀茂郡南伊豆町の海岸に陸揚げしたことから、翌4日にかけて嫌疑者7名を覚せい剤取締法(現在の「覚醒剤取締法」。以下同じ。)違反(営利目的共同所持)で逮捕しました。財務省・税関では、同月27日、本件密輸について関税法違反で東京地方検察庁へ告発しました。

なお、東京地方検察庁は、本件について、同年6月24日、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で、同年11月5日、関税法違反で起訴しました。

今後も関係機関と連携を密にし、不正薬物等の流入を阻止し、国内治安の維持に努めて参ります。

写真:人事院総裁賞の代表受賞者(東京税関)

*1)平成31年1月から令和元年12月まで。

*2)覚醒剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物をいいます。

*3)錠剤型薬物を除きます。

*4)航空機旅客には、航空機乗組員を含みます。

*5)商業貨物には、別送品を含みます。

*6)船員等には、洋上取引のほか、船舶旅客を含みます。

*7)大麻樹脂のほか、大麻リキッド・大麻菓子等の大麻製品を含みます。

*8)人事院総裁賞は、多年にわたる不断の努力や国民生活の向上への顕著な功績等により、公務の信頼を高めることに寄与した職員(一般職の国家公務員)又は職域を顕彰するものです。(昭和63年創設、今回32回目)受賞者は、各府省等から推薦された候補の中から、選考委員会が選考を行い、その結果に基づき人事院総裁が決定します。