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日EU経済連携協定 発効から1年を経過して

関税局原産地規則室長 井田 直樹

2020年2月、日EU経済連携協定(EPA)が発効してから1年が経ちました。本稿では、日EU EPAの概要、運用改善に向けた取り組み、また、発効1周年を記念して開催されたセミナーについて記述します。なお、文中、意見等に係る部分は筆者の個人的見解です。

1.日EU EPA発効までの経緯

我が国は、国際貿易の発展を通じた経済成長を目指してきています。そのような中、世界各地で自由貿易に逆行する保護主義が台頭し、また、WTOドーハラウンドが停滞していることを背景として、我が国は、経済連携の強化に向けEPAを締結してきています。このEPAの推進は、アベノミクスの成長戦略の重要な柱の一つとなっています。

我が国は、2002年の日シンガポールEPAを初めとし、これまで数多くのEPAを締結してきています。その中、EUとの経済連携強化に向け、2013年3月にEUとの交渉を開始、5年の年月をかけ2018年に署名、2019年2月に日EU EPAの発効に至りました。シンガポールから数えて、我が国にとって18本目のEPAとなっています。

2.日EU EPAの利用状況

世界でも有数の経済規模を持つEUと日本が、経済連携協定により一つの経済圏となる、これは大きなインパクトがあることでした。両者を合わせると、世界のGDPの約3割、また、世界貿易の約4割を占めることとなります。このEPA締結により、日本経済にも大きなメリットが期待され、日本の実質GDPを約1%押し上げ、雇用を0.5%創出する効果が見込まれました。

日EU EPAの発効後の利用状況を見てみると、我が国が締結したEPAの中で最も利用されていることが分かります。日EU EPAの下、特恵税率(後述します)で我が国に輸入される貨物の額は約1兆円、これは我が国の全EPAの特恵輸入額の実に23%に上ります(2019年2~10月実績)。日EU EPAが我が国経済にどのくらい大きく貢献しているか、この数字からお判りいただけると思います。

図表:主なEPA/FTAの利用割合(データ元:財務省貿易統計)

3.EPAと原産地規則の関係

現行のWTO体制の下では、貿易関係手続に関し、全てのWTO加盟国に対して差別なく同等の取り扱いをすることとなっています。これは「最恵国待遇(MFN:Most Favored Nation)」と呼ばれるもので、どの国に対しても同一の物品には同一の関税率を適用しなければなりません。一方で、EPA締結国間では、EPAに基づき、より低減された関税率(または無税)で輸入することができます。この締結国間の約束に基づく税率を「特恵税率」と呼んでいます。この特恵税率の適用はEPA締結の大きなメリットですが、これは締結国の「原産品」のみに適用されます。何をもって「原産品」とするか、各EPAにはこの原産性にかかる定義、及び特恵税率の適用に必要な手続きを規定した原産地規則章が必ず設けられています。

原産地規則の内容如何によって、自国の産品の対締約国への輸出、また、締約国産品の自国への輸入のしやすさが大きく左右されます。したがって、EPA交渉では、締約国間では、お互いに自国に有利となる原産地規則とすべく厳しい交渉が行われます。

多くのEPAでは、産品が輸出国の原産品であることを示すものとして、輸出国の権限ある発給当局が発給する「原産地証明書」を求めており、我が国では、輸入申告時に税関に提出することが求められています。我が国では、日本商工会議所がこの原産地証明書の発給当局となっており、我が国がこれまで締結したほとんどのEPAでは、この原産地証明書の提出により、原産性を判断し、特恵税率を適用しています。

4.日EU EPAでの原産地規則

この原産性の証明ですが、最近のEPAでは、輸出締約国の当局が発給する原産地証明書に代わり、貿易関係者が(生産者、輸出者、輸入者)自ら原産性を証明する、「自己申告制度」が採用されてきています。原産性を示す疎明資料を輸出国発給当局に提出して原産地証明書を発給してもらう代わりに、疎明資料を基に自らが原産品申告書を作成、輸入国税関に提出するものです。輸入される産品の原産性について、貿易関係者自らが責任を負うこととなりますが、発給当局に申請、証明書を発給してもらう手続きに比べ簡易で短時間、かつ、自らの商業上の都合に合わせてタイムリーに申告書を作成できるというメリットがあります。我が国では、2015年に締結された日豪EPAが第1号で、それ以降はこの「自己申告制度」が主流となっています。これは、我が国の貿易関係者にも普及し、広く用いられています。

日EU EPAにおいては、この自己申告制度(輸出者又は生産者による「輸出者自己申告」、輸入者による「輸入者自己申告」)のみが、原産地証明手続きとして規定されています。

5.日EU EPA発効後の運用改善

日EU EPA発効後、これまでに何も問題がなかったわけではありません。上述の自己申告制度ですが、EUの輸出者による原産品申告書が我が国税関に提出される際に、我が国輸入者が輸出者に対し、より詳細な資料を求め、EUの輸出者から苦情が寄せられるケースが多く発生しました。また、我が国からの輸出については、EUメンバー国間での手続きの統一がなされていない部分があり、EPAに規定された正当な手続きを経ているにも関わらず、輸入国側で特恵税率の適用が認められないケースが見られるようになりました。

このような状況では日EU EPAのメリットが最大限には活かされないとの問題意識から、発効直後から、日本、EU双方の税関当局を中心に協議が続けられ、ハイレベルの議論も行われました。2019年6月には、これらの問題点を解決するために、ベルギー・ブラッセルにおいて関税局高見審議官(当時。現財総研副所長)とEU税制・関税同盟総局ヘンツラー国際業務・総務局長との間で、日EU双方が今後実行すべき方策について合意されました。その後、相当数のメールのやり取りやテレビ会議を経て、合意にしたがって、2019年8月から11月にかけて日本側手続きの簡素化が段階的に実現されました。更に、日本の輸出者からは「不透明」に見えていたEU側の手続きの不統一を是正するため、日EUで共通のガイドラインを作成し、2019年末に公表されました。これらの交渉は、EPA交渉本体と同様に厳しいものとなりましたが、貿易関係者の利便性向上を念頭に、着地点を見出す努力が続けられた結果、日EU双方で合意に至りました。

6.日EU・EPA発効1周年記念セミナー

2020年2月4日及び6日、日EU EPA発効1周年を記念するセミナーが開催されました。日本関税協会、日本通関業連合会、日本貿易関係手続簡易化協会及び駐日EU代表部の共催によるもので、東京では約300人、大阪では200人の日EU貿易関係者が参加しました。参加者募集ではあっという間に定員に達したとのことで、日EU EPAに対する貿易関係者の強い関心がうかがわれました。

セミナーでは、財務省関税局から酒井経済連携室長及び筆者が、EU税制・関税同盟総局からはグラーブ課長、ヘンドリクス担当官が講演を行いました。日EU双方から、日EU EPAが広く活用されている現状、及び運用上の改善の内容につき丁寧な説明がなされました。講演に続く質疑応答では、会場から手続きの詳細にわたる質問が多数寄せられ、壇上では日EU双方の講演者がその場で協議・確認し、回答を行いました。グラーブ課長からは「今後も日本としっかり協力していきたい。不明な点があれば日本税関に照会してほしい」旨の発言もあり、EUへの輸出手続きに関し疑問を持っていた日本の貿易関係者からは、「理解が相当深まった、とても有意義なセミナーだった」との高い評価が聞かれました。

セミナーに続いて開催された記念レセプションでは、高見財総研副所長(関税局審議官としてEUとの交渉を担当:前述)からメッセージが述べられ、出席した日EU政府、貿易関係者とともに発効1周年を歓迎し、友好を深める機会となりました。

(セミナー詳細は「財務省・税関ホームページ・原産地規則ポータル」https://www.customs.go.jp/roo/index.htmをご覧ください)

写真:セミナー全景
写真:左からヘンドリクス担当官、グラーブ課長、筆者、酒井室長

7.今後の日EU EPA

EPAは我が国の経済成長にとって大きな柱であり、政府一丸となって、この利用促進に努めています。その中でも、最も活用されている日EU EPAの円滑な運用は最重要事項と言うことができます。財務省・税関では、運用改善に向け、引き続きEU当局と協議を続けるとともに、我が国の貿易関係者に対する支援も進めています。東京税関にあるEPA・原産地センターでは、EUに対する輸出面での相談を昨年12月から受付けており、相談件数も増えてきています。各地の税関でもEPA手続きに関する照会を受付け、助言を行っています。日EU EPA、その他のEPAに関して、疑問、要望などがあれば、是非ご相談ください。