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国税不服審判所の50年~ 半世紀 変わらぬ使命 これからも ~

国税不服審判所管理室長 渡辺 隆

1.はじめに

国税不服審判所は、裁決権を執行系統である国税局等から分離し、独立して裁決を行う機関として、昭和45年5月1日に設立され、本年5月1日に満50年を迎えた。その使命は、一貫して、税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資するところにある。幸いなことに、今日では、納税者の正当な権利救済機関として内外から高い信頼と評価を得ているものと認識している。

本稿では、国税不服審判所の組織と取組について紹介する。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見である。

2.国税不服審判所の任務と組織

国税不服審判所は、税務行政部内における公正な第三者的機関として、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行う機関である(国税通則法第78条第1項)。

国税不服審判所は全国を管轄する一つの組織であるが、審査請求人の便宜と審査請求の効率的な処理に資することを目的として、全国に12か所の支部と7つの支所が設置されている。国税不服審判所の定員は471名であり、支部の規模に応じた配置をしている(図表1.組織図参照)。

国税不服審判所の前身は、昭和24年のシャウプ勧告に基づき、課税処分に対する「異議処理機構」として昭和25年に国税庁及び国税局の附属機関として設置された「協議団」である。協議団は、納税者の不服に対して税務署等の執行機関とは別の第三者的、客観的立場で公平に審理に当たるという、当時の不服審査制度にはなかった全く新しい考え方を導入したものであり、その後20年間にわたり納税者の正当な権利の救済を通じ、我が国の申告納税制度の定着とその発展に大きく貢献してきたと評価されている。

しかしながら、「協議団は国税局長の下にあり、自ら裁決権を有しないことから、直税部、調査部等のいわゆる主管部の意見に押され、納税者に納得のいく裁決がなされない。また、国税局長の下にある協議団としては、当然、国税庁長官の通達に拘束される。」という批判もあった。

このような批判に応えて、税制調査会では、協議団に代わるべき新しい審理・裁決機構について検討が行われ、自ら裁決権を有する国税不服審判所を国税庁の附属機関(昭和59年には国家行政組織法等の改正により「特別の機関」となる。)として設けることを答申した。

これを受けて国会に提出された「国税通則法の一部を改正する法律案」が第63回国会で可決・成立し、他の行政分野に類例を見ない執行機関から独立した不服申立処理機関としての国税不服審判所が昭和45年5月1日に発足した。

国の行政組織の中には「特別の機関」として様々なものがあり、国税不服審判所は検察庁、海難審判所とともに、司法機能と関係する機能もしくは準司法機能またはこれと関係する機能を有するために高度の独立性を有している機関として位置付けられている。

図表1.組織図

3.国税に関する不服申立手続

続いて、国税に関する不服申立制度の概要について説明する(図表2参照)。

納税者が更正処分や滞納処分など国税に関する法律に基づく処分を受け、その処分に不服がある場合には、処分の通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内に、処分庁である税務署長等に対する再調査の請求又は国税不服審判所長に対する審査請求を選択して行うことが可能である。

再調査の請求が選択された場合、税務署長等は処分が正しかったかどうかを見直し、その判断を行い(再調査決定)、納税者に通知する。納税者は、その決定後の処分になお不服があるときは、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる。この場合、再調査決定書の送達を受けた日の翌日から起算して1か月以内に行わなければならない。

審査請求書が提出されると、国税不服審判所では、処分が適正であったかどうかを判断するため調査・審理を行い、その結果(裁決)を裁決書謄本により審査請求人と処分をした税務署長等に通知する。

なお、税務署長等が行った処分より審査請求人にとって不利益に変更することはできないこととされている。

裁決を受けた審査請求人がその裁決後の原処分の内容になお不服がある場合には、裁決があったことを知った日の翌日から6か月以内に裁判所に訴訟を提起することができる。また、審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がない場合は、裁決を経ないで裁判所に訴訟を提起することができる。

図表2.国税に関する不服申立制度の概要図

4.国税不服審判所の特色

(1)国税不服審判所長の裁決権

国税不服審判所長が「裁決権」を有していること、これが前身の協議団との最大の相違点である。

裁決は、関係行政庁を拘束する行政部内の最終判断であり、原処分庁は裁決に不服があったとしても、裁決の取消しを求めて裁判所に出訴することはできない。原処分を取り消し、又は変更する裁決があれば、裁決自体の効力により、違法又は不当とされた原処分は当然に取り消され、又は変更される。

また、裁決は関係行政庁を拘束することから、原処分庁その他の関係行政庁は、裁決で示された判断と抵触する再度の処分等を行うことは許されない。

(2)国税庁長官通達との関係

国税不服審判所長は、国税庁長官通達に示された法令解釈に拘束されることなく裁決を行うことができる。国税通則法第99条は、このことを明らかにするとともに、行政の統一性の観点から執行機関(国税庁長官)と裁決機関(国税不服審判所長)の意見を調整する手続について規定している。

図表3.国税不服審判所における審査請求手続(一般的な審理の流れ)

(3)国税不服審判所における審理

ア.審理の主体

審査請求は国税不服審判所長宛てに行われ、これに対して国税不服審判所長が裁決を行うが、公正性を担保するため、調査・審理と議決までは合議体に委ねられ、裁決はその合議体の議決に基づき行われる。

合議体は通常2名の国税審判官と1名の国税副審判官で構成され、合議に当たってはそれぞれ独立した立場で十分に意見を出し合い、審議を尽くした上で議決を行う。

更に、国税不服審判所長並びに大規模支部である東京支部及び大阪支部の首席国税審判官には、発足以来現在まで裁判官又は検察官出身者が就任し、東京支部、大阪支部等の都市部の支部には裁判官又は検察官出身の国税審判官が配置されているほか、弁護士や税理士、公認会計士などの職にあった民間の専門家も、調査・審理を担当する国税審判官に特定任期付職員として採用している。現在、合議体を構成する国税審判官の約100名のうち半数程度がこうした民間の専門家出身となっている。

イ.審理の方法の特色

国税不服審判所は、専門家による簡易迅速な権利救済手続であることから、事件の審理を行うため、職権による調査権限を有している。

審理の範囲について、国税不服審判所は、原処分によって確定された税額が処分時に客観的に認められる正当な税額を上回るか否かを判断するために必要な事項の全てに及ぶとする「総額主義」を前提としつつも、昭和45年の国税通則法改正法案採決時の参議院大蔵委員会の附帯決議を踏まえ、その事務運営においては、争点主義的運営を標榜し、審査請求人及び原処分庁双方の主張により明らかとなった争点に主眼を置いた審理(調査)を行っている(一般的な審理の流れは図表3参照)。

参議院大蔵委員会附帯決議(昭和45年3月24日)《抜粋》

「政府は、国税不服審判所の運営に当たっては、その使命が納税者の権利救済にあることに則り、総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。」

5.審査請求の状況

(1)発生の状況

国税不服審判所が発足した昭和45年5月から平成30年度までの審査請求事件の発生件数は、265,989件となっている。

昭和45年5月から昭和46年3月まで(昭和45年度)の発生件数は4,866件であったが、昭和49年度には、1万件に及ぶサラリーマン減税関係事案が発生したため、発生件数が大幅に増加し、昭和50年度には発足以来最高の14,553件まで増加した。

その後、サラリーマン減税関係事案の大幅な減少もあり発生件数は徐々に減少し、平成26年度には2,030件と発足以来最低の件数まで減少したが、平成28年4月の国税通則法の改正に伴い、直接審査請求することができるようになった影響で増加に転じ、平成30年度には3,104件と、6年ぶりに3,000件台となった(直近10年の発生状況は図表4.最近の審査請求の発生状況参照)。

(2)処理の状況

国税不服審判所が発足した昭和45年5月から平成30年度までの審査請求事件の処理件数は、268,865件(協議団から引き継いだ事件の処理を含む。)となっている。

発足当初の昭和45、46年度は、発足に伴う体制整備などに日時を要したものの、これまでおおむね発生件数に見合う程度の件数を処理している。

発足以来の処理件数を処理区分別に見てみると、納税者の主張が何らかの形で認められた全部又は一部の「認容」が29,780件(構成割合11.1%)、納税者の主張が認められなかった「棄却」が197,528件(同73.5%)、審査請求が不適法であった「却下」が21,364件(同7.9%)、審査請求を取り下げられたものが20,193件(同7.5%)となっている。

なお、年度ごとの全部又は一部認容の処理全体に占める割合(いわゆる「認容割合」)は、発足当初約45%であったがその後減少し、平成元年度以降は、おおむね10%前後で推移している(直近10年の処理状況は図表5.最近の審査請求の処理状況参照)。

(3)裁決事例の公表

国税不服審判所は、先例となるような裁決やいわゆる取消裁決を四半期ごとに国税不服審判所ホームページにおいて公表している。公表に際しては、裁決事例ごとに参考裁判例を付記するなどして利便性の向上に努めている。

6.おわりに

国税不服審判所では、経済活動の国際化や広域化、ICT化の進展など、国税不服審判所を取り巻く社会や環境の変化を踏まえ、これまで、様々な取組を行ってきたところである。この50周年という節目の年に、第20代の国税不服審判所長として東亜由美所長をこの4月に迎え、東所長の下、今後も、国民からの更なる信頼と評価が得られるよう、これまでに築かれた良き伝統を守りながら、「半世紀 変わらぬ使命 これからも」(国税不服審判所設立50周年に係るキャッチフレーズ)、より一層適正かつ迅速な裁決の実現を目指して、努力と工夫を重ねていく所存である。

これまでの取組状況や設立50周年記念行事・特集記事などについて、順次国税不服審判所ホームページ(https://www.kfs.go.jp)に掲載するので、ご覧いただきたい。

写真:Web会議システムによる打合せの様子(写真左:東所長)