このページの本文へ移動

特集:令和2年度農林水産関係予算について

主計局主計官 中澤 正彦

1.2年度農林水産関係予算の基本的考え方

農林水産物に対しては国内外に旺盛な消費者のニーズがある。例えば、人口減少下にある日本においても、今後、国内の一人当たりの食料支出は増加し、その結果、日本全体の食料支出総額は微減にとどまる見込みである。また、世界の飲食料の市場規模も人口・所得の増加を背景に、拡大することが見込まれている(資料1:国内の食料支出総額、1人当たり支出の推計、資料2:世界の飲食料市場規模参照)。

一方、主食である米の需要量に着目すると、人口構成の高齢化や食卓がより豊かになってきたことを背景に、年10万トン程度減少してきている(資料3:主食用米の需要量の推移参照)。そして、農林水産関係予算においては、主食用米の需要減少に対応するための予算が大きな位置を占めている*1。

このような状況を背景に、「令和2年度予算の編成等に関する建議」(令和元年11月25日財政制度等審議会)では、農林水産関係予算について「国内外の環境変化に対応した効果的・効率的なものとなるようメリハリ付けを強化しつつ、将来世代に負担を先送りしないようにすること」と指摘されている。そこで、この建議の指摘を基本方針として予算編成作業に取り組み、令和2年度の農林水産関係予算は総額2兆3,109億円と対前年度比+1億円(+0.0%)となった。

令和2年度予算の主な内容としては、まず、主食用米が過剰に市場に出回らないよう飼料用米等への作付け誘導がなされているが、この原資となる水田活用の直接支払交付金において、飼料用米支援を見直し削減した。その上で、農業の成長産業化に向け、農業者が国内外の消費者ニーズに合った作物を生産し、所得向上を図ることができるよう、(1)農林水産物・食品の輸出環境整備、(2)高収益作物の生産支援、(3)新規就農者の確保、といった取組を進めるものとしている。あわせて、引き続き水産改革に取り組むとともに、CSF(豚熱)・ASF(アフリカ豚熱)などの家畜疫病への対応強化を実施することとしている。

まず、輸出環境整備については、TPP11、日EU・EPA及び日米貿易協定を踏まえ、我が国は本格的な国際競争環境への対応が必要となる。そのような中、真に競争力の強化に資するよう食品安全基準の相違など輸出特有の競争上の障害を乗り越え、日本産品の強みを活かして国内外の消費者ニーズに農業従事者が対応できるような環境整備に予算を重点化している。

次に、高収益作物の生産支援については、先述した水田活用の直接支払交付金において、野菜・果樹など高収益作物への転換を支援している。また、農業農村整備事業においても、水田の畑地化・汎用化による高収益作物への転換支援を拡充・重点化している。

また、水産改革については、漁業法改正を踏まえ、水産業を魅力ある産業とすべく、水産資源の資源調査を行い、科学的な評価を行ったうえで、IQ(漁獲量の個別割当)方式による厳格な水産資源の管理に積極的に取り組むための、資源調査・資源評価を行う体制・環境を整備するとともに、そのような資源管理に積極的に取り組む漁業者の減収を補填する漁業経営安定対策を強化している。

そして、CSF・ASFなどの家畜疾病への対応強化については、CSFの国内における発生範囲の拡大や、ASFの国内への侵入リスクが高まっている状況を踏まえ、発生予防・まん延防止のための取組や水際検疫体制を強化している。

資料4:農林水産関係予算の推移

2.主な施策の概要

以下、2年度予算の主な施策の概要を紹介する。

(1)農林水産物・食品の政府一体となった輸出力強化

「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」に基づいて創設される政府の司令塔組織(農林水産物・食品輸出本部)の下で、輸出手続の迅速化、GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)に基づくグローバル産地づくりの強化、輸出向けHACCP等対応施設の整備等を支援することにより、農林水産物・食品の輸出を促進する。

・司令塔組織の創設11.6億円(新規)

・輸出に取り組む事業者への支援強化3.2億円(新規)

・生産段階での食品安全確保への強化10.4億円(+6.1億円)

・輸出向けHACCP等対応施設整備14.7億円(新規)

・グローバル産地づくりの強化4.7億円(+2.9億円)

(2)消費者ニーズに合った作物の生産支援

ア.農業者が国内外の消費者ニーズに合った作物を生産し、所得向上を図ることができるよう、水田活用の直接支払交付金による飼料用米支援を見直し、野菜・果樹などの高収益作物への転換支援へのシフトを進めつつ、野菜・果樹生産への先進技術導入等による生産性向上の取組を支援する。

・水田活用の直接支払交付金3,050.0億円(▲165.0億円)

・持続的生産強化対策事業補助金のうち果樹、野菜・施設園芸支援対策67.6億円(+2.1億円)

イ.消費者ニーズを踏まえた経営判断をより一層支援するため、米・麦・大豆等を対象としたナラシなど既存の縦割り的な収入補填の制度から、品目横断的な収入保険への移行を推進する。

・畑作物の直接支払交付金【所要額】2,163.2億円(+164.8億円)

・収入減少影響緩和交付金【所要額】644.6億円(▲95.7億円)

・収入保険制度の実施211.0億円(+4.9億円)

ウ.スマート農業の社会実装を進めるため、AIやIoTなど先端技術の生産現場での導入・実証に加え、得られたデータの活用や教育の推進など環境整備の取組を支援する。

・スマート農業総合推進対策事業15.0億円(+10.0億円)

エ.農業農村整備事業において、野菜・果樹など高収益作物の生産に取り組む地区を優先採択する仕組みを導入した上で、高収益作物に転換するための水田の畑地化・汎用化などの推進を支援する。

・農業農村整備事業3,264.4億円(+4.1億円)

(3)新規就農者の確保と担い手への農地集積・集約化

ア.次世代を担う人材を育成・確保するため、新規就農者の確保に向けた取組を引き続き支援するとともに、新たに就職氷河期世代や都市の生活困窮者を含めた潜在的な就農希望者に対し、就農検討段階から定着段階までの総合的な支援を創設する。

・農業人材力強化総合支援事業212.5億円(+2.5億円)

・潜在的就農希望者の就農定着支援5.0億円(新規)

イ.担い手への農地集積・集約化を加速するため、人・農地プランの実質化を推進する。

・人・農地プランの実質化の推進5.0億円(+2.4億円)

(4)水産改革を推進する新たな資源管理と成長産業化

水産資源の回復・維持を通して「稼げる漁業」を実現するため、資源調査体制を見直し、先進的な水産資源の評価・管理方法を導入するとともに、資源管理に積極的に取り組む漁業者の減収を補填する漁業経営安定対策(積立ぷらす)に所要額を計上し、資源管理を後押しする。

・新たな資源管理システムの実施319.7億円(+68.8億円)

(5)CSF・ASFなど家畜疾病への対応強化

CSF・ASFなどの家畜疾病の発生予防・まん延防止のため、農場における衛生管理水準の向上を図る取組や野生イノシシの感染状況の検査の促進等を行うとともに、「家畜伝染病予防法」に基づく、と殺された家畜に対する手当金や都道府県が実施する検査・消毒等に要する経費を計上している。また、検疫探知犬の大幅増頭など水際検疫体制を強化する。

・消費・安全対策交付金30.2億円(+10.0億円)

・家畜伝染病予防費85.9億円(+53.2億円)

・水際検疫の強化9.7億円(+5.4億円)

*1)令和元年度予算において、水田活用の直接支払交付金3,215億円、備蓄米買入費(所要額)522億円、備蓄米管理費(所要額)275億円など。